波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

リアクション公開中!

四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~
四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~ 四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~ 四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~ 四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~ 四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

リアクション

 
 第13章 初めての海体験。

 ――小さい頃から幽閉されていたし、海なんて初耳です! どんなところなんでしょうっ??

「うわあ、海って……こんな所なんですねぇー……」
 パラミタ内海を訪れた佐野 輝乃(さの・てるの)は、見渡す限りに広がる海と砂浜、そして半裸な客達のただ中に立って感嘆の声を上げた。広告を見た彼女は、見たことも行ったこともない海というものに1回来てみたくなったのだ。
「というか、砂! 砂熱いですっ!」
 周りが裸足に近い格好だから倣ってみたが、熱い。これはもう、予備知識なしに海に来た者が受ける洗礼みたいなものだろう。
「靴のまま入っていいんでしょうか……。皆さんの着ている下着みたいなものはなんでしょう?」
 頭の上にクエスチョンマークを浮かべつつ、輝乃は期待いっぱいに海を歩き出した。

 その頃。
「まあ、たまには外に出るのもいいか……」
 犬養 進一(いぬかい・しんいち)は、浮輪を装備して楽しそうに前を歩くトゥトゥ・アンクアメン(とぅとぅ・あんくあめん)の後を歩きながらそう独りごちた。文化人類学を研究している学者である進一は、普段は自室に篭っていることが多い。だが、トゥトゥのおねだりに負けて一緒に海に来ていた。
「ん? あれは……」
 海の家の近くに、小さなスペースが設けられていた。ビーチパラソルの下に文化系っぽい優男と身体の大部分をガラクタ金属で構成されてるかのような老人型機晶姫が座り、大きなシートに大量のガラクタを並べている。ガラクタにはそれぞれ値札らしきものがついていて、どうやら売りに出しているらしい。誰も立ち止まらず、老人型機晶姫は若干臍をかんでいるようだった。優男は初めから期待していないのか、マイペースに読書をしている。
「ふむ……」
 少しばかり、興味が出た。
 しかしトゥトゥは遊ぶ気まんまんだし、英霊とはいえ見た目と性格はお子様な彼を独りで海に入れるのは不安がある。
 そう思っていたところ、進一は黒髪の少女が私服のまま歩いているのを見て目を止めた。海に慣れていないのかきょろきょろしているが、瞳が好奇心でいっぱいだ。
「やあ、そこの君」
 声を掛けると、少女――輝乃は立ち止まった。
「なんですかー?」
「この子と遊んでやってくれないかな?」
「いいですよー。あたしもお友達できたらいいなーって思ってたんです!」
 トゥトゥの肩に手を置いてお願いすると、輝乃は嬉しそうに笑ってOKしてくれた。
「余と遊んでくれるのか? うむ、ではよろしく頼むぞ!」
 新しい遊び相手が見つかり、トゥトゥは無邪気に喜んだ。
「ところでそなた、水着はどうしたのだ?」
「え、水着ってなんですか?」
 皆が着ているもので海ではあれを着るのだ、とトゥトゥが簡単に説明する。
「そうなんですかー。ってそんなの持ってないですよ!?」
 きょとんとしていた輝乃は、それからびっくりして、どうしましょうと慌てる。その彼女に、進一は安心させるように言う。
「大丈夫だよ。別に水着じゃなくても海は楽しめる。ほら、普通の服の人もいるだろう?」
「普通の……あっ! そうですね! 良かったーっ!」
 そうして、輝乃はトゥトゥと一緒に歩き出した。彼女は海の家に興味を持ったらしい。
「あのお店はなんでしょうっ? イカさんとか焼きそば売っていらっしゃいます!」

              ◇◇◇◇◇◇

村長、そろそろ畳みませんか? 僕としては、日が暮れる前には帰りたいんですが……」
「いや、商品が1つも売れていないのに帰るわけにはいかん!」
「骨董市じゃないんですから……海でこういう類のものが売れるとは思えないのですが。それに僕達、存在感があまり無いような……」
「その点は、2軍だから仕方ないのう」
「2軍って何ですか……」
「面白いものを売ってるな。ちょっと見せてくれ」
 そこで進一が2人の前にしゃがんで声を掛けた。村長と優男――ソルダ・ラドレクト――の前には、古ぼけた銅鏡――決して銅板ではない――や柄に装飾のある石刀、怪しげな壺や像などが並んでいる。
 何か掘り出し物はないかと商品を眺めやり、進一はその中から鈍色の盆らしきものを手に取った。一見ただの皿に見えるが、底に見たこともない奇怪な文様が浮き彫りにされている。
「これは何だ? なにかの呪いの道具か? どうやって使うのだ?」
「ああ、それは……」
 オトス村の売り物の多くは、サルヴィン川から流れてきた『落とし物』や川底に沈んでいた何処かの不用品や遺物が多い。何かを見つける度に村長が小遣いを渡すので、子供達もはりきって『落とし物』を探す。この盆とそして石刀は、子供達とソルダが『川の底から落とし物を探す』という名目で川遊びをしている時に見つけたものだ。そしてソルダは、この2つを文献で見た覚えがあった。
「既に古びてしまった村の神具ですよ。この盆に水を入れて、その村の長がこの石刀で儀式を行うと村の未来が見えたそうです。悪いことが起こる前だけ反応があったようですよ。真偽は定かではありませんが」
「それを、何故ばらばらで売っているんだ?」
 しかも、割と貴重な物のような気がするが。
「こういった言い伝えは幾らでもありますからね。最近はあまり重要視されませんし、悪いことだけ分かるという品は中々同業者も欲しがりません。かくいう僕達も、あまり手元には置いておきたくありません」
「不吉じゃからな!」
 ――商売人にあるまじき発言である。
「ならばせめて、ばらばらにして日用品にでも飾り物にでも使ってもらえれば、と」
「興味があるなら2つ共どうじゃ? セット販売じゃ!」
「セット販売……ということは、安くなるのだな?」
「そういうことじゃな!」
 そうして、村長は2つを合わせて2割引にした値段を提案した。
「2割か……でも、不吉なんだろう? もうひとこえだ」
「もうひとこえ……むむ……」
 村長は渋い表情になって腕を組んだ。唸りながら考え、やがて――
「3割引きならどうじゃ!」
「3割……、ここに傷があるからなぁ……」
「む……3.5割じゃ! それ以上はまけられん!」
「よし、では買おう」

              ◇◇◇◇◇◇

「ヒトデみつけた!」
「きゃっ?」
 進一が村長と値切り交渉をしていた頃、トゥトゥは海で楽しく過ごしていた。浅い所にいたヒトデを、輝乃にポーンと放ってみる。キャッチした彼女は、目を丸くしていた。
「び、びっくりしました……。こんな形の生き物がいるんですねぇー……。そっちでは水の中に潜ってますね! トゥトゥさんは潜らないんですか?」
 浮輪をきっちり確保して遊んでいたトゥトゥは、輝乃に聞かれてちょっと慌てた。カナヅチではないが、浮輪がないと不安である。
「べ、べつに泳げないわけではないぞ! その……3000年ぶりだから」
「はぁ……3000年……」
 輝乃は感心したように驚いたようにトゥトゥを見つめてから海水へ挑戦してみる。
「それじゃああたしも海に入ってみますよっ! 溺れないですよね……?」
 少しずつ中に入って、腰あたりまで浸かった時。
「おおおお、なんだあのでっかいの!?」
 トゥトゥが興奮した声を出した。彼の視線を追うと、そこでは巨大なタコが足をうねうねさせながら泳いでいた。
「えっ、あっちには巨大生物!?」
 浜や海中の巨大生物に釣られて遊びに来たのか、とりあえず人を襲うつもりはなさそうだ。仲間が1体たこ焼きの具になったと知ったら怒るかもしれないが……とりあえず、今はつるりとした頭部から音符をいくつも飛ばしている。
「あれでたこ焼き作ったらいくつできるんでしょうね? 目移りしますねぇー……。彼方さんもこれればよかったのに……」
 輝乃のパートナー、彼方は実家に一時帰省中だ。
「あっちでは、巨大な砂のお城を作っていますねっ!」
「おおお! 人が入れそうなほどでかいのだ! あの巨大生物にも触ってみたいのだよ!」
 建築中の砂の城に気付くと、2人はそちらに向かって走り出した。

              ◇◇◇◇◇◇

「きゃー、マナさま可愛いです! 通常サイズでもおかわりできますかわいいです!」
 シャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)が相変わらずデジタルビデオカメラを構える中、マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)はいつものサイズに戻ってぺたぺたと細かい部分を作っていた。クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)も手伝いながら満足そうだ。
「10メートル超のお城になりましたね。海の家を余裕で上回るインパクトです!」
「うむ、あと少しで完成なのだ!」
 そこに、バーベキューパーティーでお腹いっぱいになった詩歌も来てお城を見上げる。
「おっきいお城だねー、私も手伝いたいなー」
「どうぞどうぞ、一緒に仕上げをしましょう!」
 完成が近付くと共に、砂のお城には人集りが出来てくる。砂をかきあつめた為に周辺数メートルは何だか陥没していたが皆は気にしない。
「では、最後にマナさん、大きくなってお城と並んでみてください! 中々に壮観な光景ですよ!」
「そうか? では……」
 マナは瞬く間に巨大マナ様に成長した。そこに、巨大生物を見てまわっていた葦原 めい(あしわら・めい)八薙 かりん(やなぎ・かりん)もやってくる。
「うわあ、巨大なウサちゃんだね! 乗ってみたいなあ……」
 普段はキラーラビットに乗っているめいは、もふもふの巨大マナ様に興味津々だ。うさぎにしては耳が短いが、もっふもっふなその姿はウサギに近いものがあるかもしれない。
「乗るのだ? 私はかまわんぞ!」
「やった!!」
 動くのなら補助も必要だが、マナ様は移動する気も無さそうなので1人でもふ毛の上に乗ってみる。てっぺんまでのぼったところで、先程興味を示していたトゥトゥたちもやってくる。トゥトゥはマナ様によじのぼり、持っていた焼きそばのパックを差し出した。
「やきそば食べるか? みらくるレシピで作った魔法のやきそばらしいぞ!」
「うむ、いただくのだ!」
 何だか、砂のお城よりも巨大マナ様の方が人気がある気がするが……
 多分、気のせいだろう。
 そして、マナ様から降りたトゥトゥはきょろきょろとし始めた。何かを感じ取ったらしい。
「きゅぴーん! この感じ……スイカの気配!!」