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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~
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リアクション

 
 第2章 どんぶらこ。

「えっと……何か、海の家がどうとかって言ってたのよね……」
「お、きたきた。下僕がナンパされるのを心配したかぁ?」
「…………!」
 海の家の中を覗いてみると、フリードリヒが調子良く手を上げた。膝丈の水着の彼のひきしまった体に、ファーシーはつい平常心を失って回れ右をしたくなる。
 しないけど。
「ち、違うわよ、わたしは……」
 舞さんに誘われて、と言う前に、すぽりと持っていた浮輪を被せられる。ティエリーティア用なので少し小さめだが、彼女にはちょうどいいサイズだ。
「!」
 驚いているうちにおでこに軽くキスをされ、ファーシーの肩が小さく跳ねる。
「な、なななななな……」
「ご挨拶♪」
 赤くなって目を丸くする彼女の髪に触れ、フリードリヒは笑う。下僕のはずなのに、すっかり彼のペースである。
「あっ、ファーシーさんだー!」
 そこで、ティエリーティアが海の家から出てきて駆け寄ってきた。邪魔な浮輪から手を離したファーシーに抱きつき、ほっぺにちゅー、と挨拶する。
「海ですよー、海! いい天気になってよかったですねー」
「おい、いーかげんに離れろよー?」
 いつまでもくっついているティエリーティアのほっぺを、フリードリヒがむにむにとつまむ。ティエリーティアの実性別は実性別。薄ピンク色のイルミンスール女子用水着を着ていようが実性別は実性別。ちなみに、色に加えて裾は長めで、中にはショートパンツを履いている。
「い、いたいですようフリッツー」
「どうもこんにちは、ファーシーさん」
 ティエリーティアの後から、水着に着替えた志位 大地(しい・だいち)シーラ・カンス(しーら・かんす)薄青 諒(うすあお・まこと)(♂)が出てくる。諒はTシャツを横で縛ってヘソを出し、ショートパンツを履いていた。とても可愛らしい。そう、とても可愛らしいボーイッシュな「少女」に見える。
 本人は男らしいと思っているらしいのだが――
「ファーシーさん、ピノちゃんは一緒じゃないんですか〜?」
「ピノちゃん?」
 あら? というように尋ねてきたシーラに、ファーシーはそういえば、と目を瞬いた。
「誘えばよかったかな。あれ? 何で忘れちゃったんだろう」
 ナンパ云々でいっぱいいっぱいだったからだと思われる。そこで、大地がファーシーに言った。
「ピノさんなら、ケイラさんと一緒に来ると思いますよ。ラスさんを海に誘うと言っていましたから」
「ラスを?」
 それを聞いて、ファーシーは小さく首を傾げる。
「海に来るようなタイプには見えないけど……」

「……海?」
 ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)の電話を受けたラス・リージュン(らす・りーじゅん)は、かなりのローテンションでただ一言、そう言った。
「何でこのくそ暑い中、海になんか……部屋にいた方が全然マシだ」
 どこのひきこもりだ。
『暑いから行くんだよ! 水に入れば涼しくなるよ』
「…………」
 ラスはしばし黙っていたが、少しは行く気になったのか端的に訊く。
「海って……、どこの」
『パラミタ内海だよ。いろんな所で宣伝してる』
「……却下」
『えええぇ!?』
「遠すぎるだろ。空京から地球に降りた方がまだ近い。……あ、ちょっと待て」
 ぴんぽーん、とチャイムが鳴り、彼は玄関に移動する。ドアを開けた先にいたのは――
 正に、今話していたケイラだった。
「大丈夫だよ。今日は軍用バイクで来たし、ラスさんはただ座ってればいいから」
「軍用バイク……?」
 それでわざわざ、イルミンくんだりから迎えに来たのか、とラスは呆れた。まっすぐ海に行けば近いのに。
「あたしは行くよ! せっかくケイラちゃんが誘いに来てくれたんだから。プールしか行ったことないしね!」
 ピノ・リージュン(ぴの・りーじゅん)が奥から来て2人に言う。話を聞いていたらしく、しっかりとビニールバッグを持っていた。準備万端のようだ。麦藁帽子まで被っている。
「でも、内海だぞ? 確か、あそこにはでかい生物も来るって……」
 ピノに視線を落とし、そこでぴたと言葉を止める。じーっ、と、ピノが自分を見上げていた。
 じーーーーーーー……
「…………」
 ピノが内海に行く。海には巨大生物や魔物が出る(予定)なわけで――
「ほら、行くよー」
 そんなことを考えていたら、ケイラがラスの腕を取って引っ張った。断られても、無理矢理連れていく気らしい。
「分かった! 分かったから離せ。今、準備するから!」

              ◇◇◇◇◇◇

「夏ですねー」
 太陽が燦々と降り注ぐ中で舞が言う。
「プライベートビーチでのんびりするのも素敵ですけど、たくさん人がいる海岸もいいですよね。賑やかで」
 海開きということもあり、浜には沢山の人が出ていた。巨大生物の触れ込みなどもあったが今のところ浜にいるのは魅華星の屍龍だけでおだやかだ。
「海辺の砂って、こんなに熱いのね。なんか、びっくりしちゃった」
 加えて、思った以上に歩きにくい。それが、初めて浜を歩くファーシーの感想だった。サンダルを履いていても、足の裏の温度センサーがこれまでで一番の熱さを伝えてくる。素足で歩いたら、どれだけの熱を感じるのだろう。
「熱いなら海に入れば? 水着にも着替えたんだしさ」
 前を行くブリジットが先んじて海に入り、身体を半分ほどつけたところでほら、と誘う。
「え、うん……」
 しかしそこで、彼女は海原を見て何かためらった。それから靴を脱いで、ぴちゃ、と海水に足をつける。
「浅瀬くらいなら、いいかな……」
 それを聞いて、舞は「あ」と何か得心したような表情になる。
「ファーシーさん、泳げないんですねぇ」
「うん、この前プールの授業があったんだけど、うまくできなかったの」
「まさか、溺れたんですか?」
 それまで黙っていたアクアが口を出す。ファーシーは、ふるふると首を振った。
「溺れる前に、足がついたから」
 彼女の話に、ティエリーティアは安心したような笑みを浮かべた。
「ファーシーさん、何ともなかったんですね! 良かったです〜」
 こちらもまた、足首を濡らすくらいにしか海に入っていない。膝より上まで波が来たら慌てたように避けていたし、それが何かを守っているようで、もしかして泳げないのだろうか。今のの言葉の中には、泳げない者同士の共感みたいなものが混じっている気もする。
 実際は気のせいだ。ティエリーティアを女子と思い込んでいる故に脳内補正がかかったようだ。
 まあ、波が苦手なら、近くで嫌な思いをさせることもないだろう。
「ティエルさん、どこか景色の良いところにでも行って、ゆっくり眺めませんか?」
「景色ですか〜?」
 愛しさと優しさを込めてにっこり笑うと、ティエリーティアもふんわりとした笑顔を浮かべた。
「はい〜、行きましょう〜」
 大地の手を取って、嬉しそうにしてファーシー達に声を掛ける。
「ファーシーさん、また後で〜」
 そして、2人は波打ち際から離れていった。