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リアクション
エスニック・アンド・デザート
レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は、可愛さと渋さのマッチした抹茶ラテの和風制服を着ると、同色のリボンをきゅっと縛った。
「半分仕事半分趣味とはいえ、パーティですしねぇ。ベテランバイトとしてはしっかりしないとねぇ」
対照的に、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)は可愛らしいピンクのワンピースのストロベリー・ラテの制服である。
「レティったらのんびりりしすぎよ。
人も大勢来るのだろうし、洗い物に接客に、トレイの上げ下げもてきぱきこなさなくっちゃ!」
試食の食器もいくらかたまってきている。ミスティは手際よく食器を洗ってゆく。レティシアがおっとりとフキンを取って、丁寧に拭き始めた。
「食器のきれいさも、評価のうちですからねぇ」
そこへ新メニュー開発と、張り切ってやってきた健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)が、厨房に入ってくるなり叫ぶ。
「こんなお店を埋もれさせておくのは勿体ない!」
レティシアが食器を拭く手を止め、うんうん、とうなずく。
「そう、そうなのですよねぇ」
「レティ、手を止めないでも話はできるわ。よし! 食器は洗い終わった!
なにを作られるんですか?」
ミスティがさっと勇刃に向き直る。勇刃は目を輝かせて
「パラミタの人達はもんじゃをあんまり食べたことがないと思うんで、もんじゃにしようと思うんだ。
オードソックスな豚肉焼きそば味とちょっと斬新なピザ味にしようと思ってね」
「そうすると……材料をあるていどまずそろえないとですねぇ」
と、レティシア。天鐘 咲夜(あまがね・さきや)が、元気に答える。
「私は豚肉焼きそばの方を料理します!
ええっと、材料は焼きそば、豚肉、キャベツとニンジンですね」
紅守 友見(くれす・ともみ)が、可愛い顔に真剣な表情を浮かべて答えた。
「ピザ味のもんじゃを料理させていただきますね。……フランス料理が得意なんですが。
こちらは、材料はベーコン、玉ねぎ、チーズ、ピーマンですね」
「私は料理はしないけど、飛べるから、スピードが速いよ!
食材運びとか、汗拭きとか、サポートは何でもするから、遠慮なく教えてね!」
冠 誼美(かんむり・よしみ)が翼を羽ばたかせて元気良く返事をした。勇刃がうなずく。
「俺はヒートマチェットで材料を切るよ。調理する時間も節約できるはずだ。
レティシアさん、ミスティさんもよろしくな。
咲夜、誼美ちゃん、友見も頼んだぜ」
みなが笑顔でうなずいた。誼美は材料について、ちょうど入ってきたフィリップ君にたずねた。
「ええと、材料なんですけど……小麦粉と、焼きそばの麺と、豚肉と……」
「あ、うちには焼きそばの麺がないですね。豚肉もあまり在庫がないかもしれません」
「じゃあ、スピードを生かして買出しに言ってくるねっ! お兄ちゃん少しまってて」
誼美は言うなりきびすを返して、店から飛び出していく。
「ある分の食材運びはあちきにお任せくださいねぇ。……ええと……まず小麦粉、小麦粉とぉ」
「できたものをそれでは私が運ばせていただきますね。
ほかにも補佐があれば、遠慮なくおっしゃってください」
レティがおっとりと言い、ミスティは完成までの間に、と厨房内の移動に邪魔になりそうなものを片付け始めた。ピザもんじゃの材料は揃っていたので、勇刃がピーマンやベーコンなどを次々切ってゆき、まずは咲夜が補佐で友見が作り始めた。
「こんな風に楽しく料理を作るのは、本当に久しぶりですね」
プレートで食材を焼きながら、どこか夢見るような表情を浮かべる。
「あ、いけません、料理に集中しなくちゃ!
って、あああ、流れちゃう」
「これはね、こうしてこうして……」
「あ、なるほど、土手を作るんですか! ありがとうございます、咲夜さん、勉強になりました!」
出来上がったものを、ミスティはてきぱきとトレイに置かれた小皿に分けてゆき、ミスティがトレイを手に、試食コーナーへと持ってゆく。そこへ誼美が帰ってきた。
「ただいまぁ! 買ってきたよー!!」
「お疲れさん。んじゃまず豚肉をヒートマチェットで切ろう。
確実に火を通したい食材には、これは便利だぜ」
手早く咲夜が食材を炒めて、香りがたってきたところで、それらを寄せてドーナツ状の土手を作り、生地を流し込む。
「ね、友美さん、こんな風に真ん中でドーナツ状の土手を作れば簡単になると思いますよ。
これで生地の縁がパリパリになったら出来上がりです!」
「こういうことなんですね」
試食テーブルに、レティが料理を運んでゆき、ミスティはにこやかに手際よく、食べ終わった皿をトレイにきれいに積み重ねてゆく。
「はーい、こちらが豚肉やきそばのもんじゃですねぇ」
「わー、これも美味しい! 生地にもソースの味がついてるのね」
ななながうれしそうに食べている。
「……なぜもんじゃっていう名前なのかしら……」
イングリットは食べながら、名前の由来に興味を抱いた様子だった。
試食テーブルの隣、たいむちゃんの席と通路を隔てた位置にいた火村 加夜(ひむら・かや)は、たいむちゃんをイメージした衣装をつけてきていた。
「たいむちゃん可愛いなって思ったので、お揃いの衣装を手作りしたんですよ。
照れ屋の店長さんに会いによく来るんです。
隠れちゃうのでいつもカウンターに座って話しかけてますけど」
「あら、どうもありがとう」
たいむちゃんはにこにこと笑いかけた。加夜は半分ほど飲んだ自分の野菜ジュースを示して、
「私のおすすめは野菜ジュースです。体にもいいですしね。
野菜ジュースといっても奥が深いんですよ。
好みの割合に変更してもらうんです。
私の場合は野菜ジュースのセロリ少な目にんじん多目で」
「オーダーメイドの野菜ジュースなのね。
ヘルシーでいいと思うわ」
「あ、でしたらご馳走しますから、一杯いかがですか?」
「ありがとう。いただくわ」
従業員控え室で、レティと同じく抹茶ラテの和風制服を選んだ本宇治 華音(もとうじ・かおん)は髪に結んだリボンを鏡の前できゅっと縛りなおし、気持ちを引き締めた。
「さあ、がんばろう!」
加夜が店内に出てきた華音を呼び止める。
「ええと、野菜ジュースのオーダーをお願いします。
配合はね……」
「はいっ! かしこまりました」
華音は伝票に丁寧にジュースのレシピを書き留める。
「少々お待ちくださいませ」
厨房に戻り、フィリップ君にオーダーを伝える。
「なるほど、ニンジン多目、セロリ少な目、と……少しまってね」
「はいっ!」
出来上がったジュースをたいむちゃんの元へと運ぶ。たいむちゃんはニコニコとジュースを受け取って、美味しそうに飲み始めた。加夜のジュースが空になっていたので、華音はトレイにグラスを引き取り、下げた。
(記念パーティでもあり、今日ののカフェのイメージによってこれからが決まるんだわ。
できる限りがんばろう!)
気を引き締め、華音は隣のテーブルのあいたグラスを下げにきびきびと歩いていった。
「なになに、カフェの新メニュー開発者募集?」
受け取ったチラシを見て、黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)が声を上げた。
「なになに? 見せて見せて!!」
「カフェ? 新装開店なの?」
「店員さんの募集?」
一緒に散策に来ていたリゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)、ミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)、ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)もにぎやかに歓声を上げながらチラシを覗き込む。
ミリーナが、ちょっと困った顔をする。
「新メニューを開発する……がんばるが、私は料理が苦手なのだ……
……ちょっとそこの本屋さんへ寄ってくる」
「あ、ちょっと、ミリーナ待って。作るのは私と竜斗さんが……」
ユリナが呼び止めるも、すでにミリーナの姿はない。ルヴィの愛称を持つリゼルヴィアが、
「新メニューね。
ボクが実際に食べてみたいものなんだけど、おっきなパフェがいいと思うな!」
「パフェか、いいな」
「どういうものがいいかしらね」
3人であれこれ言っているところへ、ミリーナが分厚い料理の本を抱えて戻ってきた。
「お待たせした」
「じゃ、行こっか」
ユリナが優しく声をかけた。ミリーナはみなの後をついて歩きながら、不安な表情を隠せない。
カフェに入って、竜斗は目を丸くした。
「外からは想像もつかないほどすごい店内だな」
ユリナとリゼルヴィアはステキ、おしゃれだわ〜などと、歓声を上げている。ミリーナは瀟洒な店内を眺め回し、ひっそりと思った。
(こ……こんなおしゃれな店なのか。 ……とにかく誰にも迷惑をかけないようにせねば……)
「と、いうわけで、デラックスたま☆るパフェは、まず、コーンフレークとホイップクリームを順番に入れるよ。
それで、いちごとか、オレンジとか、メロンとかのフルーツと、アイス、チョコレートとか乗せたら完成!」
リゼルヴィアが顔を輝かせて、道々考えてきたパフェのイメージを説明する。
ミリーナが料理書を抱えたまま、フィリップ君に食材の場所を聞き、いそいそとパフェの材料をそろえ、調理台に乗せた。ユリナがクリームとコーンフレークスを順良く重ねてゆく。そこにストロベリー、チョコ、バニラアイスを載せ、生クリームを絞って、フルーツ、板状の薄いチョコをデコレーション。それを見ながら竜斗が同じように、もうひとつの器に同じパフェを作ってゆく。
ポップなイメージのオレンジジュースの制服に着替えた柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)は、胸元に白いリボンを結んだメロンソーダの制服姿で更衣室から出てきた柚木 郁(ゆのき・いく)を、とろけるような眼差しで見つめた。
「可愛いよ、郁〜〜〜。
やっぱり郁には、メロンソーダの制服がよく似合ってる!!」
「いく、てんいんさんがんばるんだよっ♪ えへへ、にあうかなぁ?」
「うわーっ! か、可愛いっ!!」
貴瀬は思わず郁を抱きしめる。郁が照れて俯きながら言う。
「おにいちゃん、だきゅーしたら、おしごとできないよー」
大人びたアイスコーヒーの制服に身を包んだ柚木 瀬伊(ゆのき・せい)は、ため息をついた。
(全く……貴瀬の思いつきときたら……確かにカフェが大変なのはわかる。
そして無論、手を貸さなくもないが……とにかく、いきなりすぎる。
しかも応募理由がが、キュートな制服姿の郁が可愛いから……だと?)
そして口に出してはこういった。
「……全く、郁一人で従業員の手伝いなど、できるはずが無いだろう。
郁、俺から離れずにお手伝いをすること。 約束できるな?」
「うんっ! 瀬伊おにいちゃんといっしょに、のみものをはこんだりするんだね?」
「瀬伊は昔から考えが過多すぎるんだよ。
こういうのはみんなで一緒に楽しんだもの勝ちなんだよ?」
「……正直、接客業はあまり向かないが、郁の補佐として動くか」
「おきゃくさまには、にぱーってえがおでごあいさつして
それからそれから……ええっと、ボク、がんばる」
額にしわを寄せて、真剣な表情の郁を見て、貴瀬は夏の炎天下のアイスクリームのような表情を浮かべる。
「うんうん、えらいぞ〜〜郁!!!
カフェの存亡もかかってるみたいだし頑張るんだよ……瀬伊が」
「……貴瀬」
「さあさあ、まずは制服姿の記念撮影をしようね。仕事はそれからだ」
閑話休題。
試食用のパフェが完成した。みなで分けながら食べるという形式が良いだろうということで、ミリーネは試食用にガラスの小皿を人数分トレイに乗せる。そこへ瀬伊に引率されて入ってきた郁が目を輝かせた。
「うわぁ、おっきなぱふぇだ!」
「郁は小皿のお盆を持っていってな」
「はいっ!」
きりりと返事をする郁。試食テーブルに大きなパフェが運ばれ、皆はわいわいと楽しげに小皿にパフェをとりわけ始めた。
「あ、あたしいちごがいいっ」
なななが叫ぶ。雅羅は苦笑してイチゴを取り分ける。
「はいはい、入れましたよ」
「アイスクリームとコーンフレークって、相性がいいんですのね」
イングリッドがスプーンを口に運びながら言う。アイシャもニコニコしながら食べている。
「いろんなデザートが、一品にはいっているものなのですね」
郁はたいむちゃんのそばによって行き、もじもじしている。
「どうしたの? 可愛い店員さん?」
たいむちゃんが尋ねる。
「あのね、たいむちゃん……だきゅーってしてもいい?」
「いいわよ、さあどうぞ」
たいむちゃんは郁をひざに抱き上げる。
そのとき、通路でどたっと音がした。貴瀬があまりの可愛さにノックアウトされたのだった。
「……失礼しました」
瀬伊はたいむちゃんにバイバイ、と手を振る郁を従え、貴瀬の襟首をつかむと厨房へと下がっていったのであった。
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