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第四章 バトル

「ほらほら、暴れないでくださいですわ!」
 リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)は捕まえたニワトリに優しく語りかけながら、しっかりと首をわしづかみする。
 そのうち暴れていたニワトリがようやく大人しくなり、一安心するリリィ。
 すると、リリィが黒い影に覆われ、耳を塞ぎたくなるような「コケェーー!!」というニワトリの大きな叫び声が背後から聞こえてきた。
「え、なに……?」
 リリィが振り返ると、背後で巨大なニワトリが殺気に満ちた鋭い眼光で睨みつけていた。
 リリィの頭はすぐに逃げろと告げている。なのに、足は思うように動かない。恐怖で足を地に張り付いているようだった。
 巨大なニワトリが両羽を広げて襲いかかろうとする。
 ――その時、銃声が鳴り響いた。
「予想通りじゃけん」
 剣崎 士狼(けんざき・しろう)が銃を構えて巨大なニワトリとリリィの間に割って入ってきた。
 走り回っていた生徒と違い、作業を開始してすぐに休んでいた士狼は、まだまだ体力に余裕があった。
「アザレア!」
「は、はい」
 士狼はアザレア・パルテノン(あざれあ・ぱるてのん)から光学兵器の日本刀を受け取る。
「出てくれなかったら、どうしようと思っておいたけんの」
「これで、アザレアに後で怒らずに済むな。……避難誘導はワタシがやろう。士狼はちゃんとそいつを足止めしておくのだぞ」
「わかっちょる」
 士狼は避難誘導を郭嘉 奉考(かくか・ほうこう)に任せて、一人巨大なニワトリと対峙する。
 そんな士狼の背後では尻餅をつくリリィ。ふいにリリィが首を締め付けられた。
「あたし達も一端避難するよ!」
 リリィが首を回して振り返ると、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が襟を掴んでいた。
「どこつかんで――ぐはっ!?」
 「全速全開!」で走っていくミルディアの手には、ぐったりとしたニワトリを持った、顔真っ青のリリィが引きずられていた。

 巨大なニワトリが現れたことで急に好戦的になったニワトリ達。
 今までほとんど逃げることに専念していたニワトリは、容赦なく生徒達に襲いかかる。
「きゃっ!?」
「メイ!」
 逃げていた朱桜 雨泉(すおう・めい)は石に躓いて転んだ。
 慌てて駆け寄ろうとする、翠門 静玖(みかな・しずひさ)。だが、距離がありすぎて間に合わない。
 ニワトリが鋭いくちばしで雨泉に飛びかかる。
 そこへ、風羽 斐(かざはね・あやる)が身を挺して娘の雨泉を庇った。
「くっ――」
「ちぃ、あっち行きやがれ!!」
 静玖がニワトリ達を追い払うと、斐が膝を着いた。
「お父様!」
「大丈夫か、オッサン!」
「ああ、これくらい大した怪我ではない。それより急いで避難するぞ」
 斐がふらふらと歩き出す。
 その背中をみた静玖が、斐の横へと近づいた。
「……肩を貸す」
 斐は戸惑ったが、結局静玖の肩に手を回す。
「助かる」
 三人は周囲を警戒しながらその場を離れた。

「こいつしぶといけんの!」
 耐久力がある巨大なニワトリに苦戦させられる、士狼。
「ちょっと手助けが欲しいの……」
 にじみ出た額の汗をふき取りながら士狼が言葉を漏らす。すると、どこからともなく声が聞えてくる。
「キピーン☆ 話は全て盗み聞きさせてもらいました!」 
 士狼が周囲を見渡していると、突然近くの地面から魔法少女ろざりぃぬ(九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず))が飛び出してきた。
 魔法少女ろざりぃぬは空中で三回転くらい決めて地面に着地すると、ポーズを決めた。 

「その願い、この魔法少女ろざりぃぬがシュシュッと叶えてあげましょう!」

 バッチリ決まった魔法少女ろざりぃぬ。
 すると、士狼は素朴な疑問をぶつけよる。
「あんた、もしかして罠にはまって――」
「いいえ! 私は決して落とし穴には落ちてませんから!」
「俺はまだ何も――」
「ノープロブレム!」
「やっぱりあんた――」
「無問題!」
 士狼は強引に完全に押し切られ、質問するのを諦めた。
「ではでは、ここは私に任せてもらいましょう」
 魔法少女ろざりぃぬは士狼の前にでると、代わりに巨大なニワトリと対峙する。
 魔法少女ろざりぃぬと巨大なニワトリの視線が交差し、稲妻が走る。
 睨み合った一人と一羽はお互いに構えたまま、相手の様子を窺う。
 そして、緊迫の中。先にしびれを切らした巨大なニワトリが、魔法少女ろざりぃぬに向かって走り出した。
「マジカル☆――」
 魔法少女ろざりぃぬは杖を握りしめ、ギリギリまで溜める。
 巨大なニワトリが相手を目の前にして腕を振り上げた。そして――魔法少女ろざりぃぬが杖を捨てた。

「スープレックスゥゥゥ――!!」

 背後に回り込み、巨大なニワトリの腰に手を回した魔法少女ろざりぃぬは、腹を摘まむようにして掴むと、気合と共に巨大なニワトリを持ち上げ、勢いよくブリッジを決める。
 地面を揺るがす衝撃と共に、巨大なニワトリの真っ赤なとさかが折れ、頭を「☆☆☆」が舞っていた。
 巨大なニワトリがやられたことで、足の速いニワトリ達は慌ててどこか遠くへと逃げ出していった。
 魔法少女ろざりぃぬは痙攣する巨大なニワトリに背を向け、キラッと可愛らしくポーズを決めてみる。
「魔法少女ろざりぃぬにお任せだよ☆」

 生徒達は無事にニワトリを確保した。