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リアクション
こうして一行は清泉と白銀と別れ、モルフィーの進む先、洞窟の深部へと向かって行った。
洞窟内には一定の間隔でモンスターの声が響いている。
「この声……牽制のつもりか?」
樹月 刀真(きづき・とうま)が眉をよせていると、その腕にパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が絡みつく。
「……どきどきしてきちゃった」
樹月が彼女の頭を軽くなでてやると、恥ずかしそうに「えへへ」と頬を染めてモジモジしている。
「なんだか……暑いね!」
「かなり湿度が高いんだ。服の下に汗をかいてきてる」
「……そうじゃなくて」
彼らを微笑ましく見て居た美緒だが、再び聞こえてきた唸り声にまた気を張り詰めさせた。
「音が……段々大きくなってきましたわ」
「ええ美緒、そろそろ近いのでしょう。気を付けて」
「殺し甲斐、あるかしら」
美緒に続いて前列に立つのはミルゼア・フィシス(みるぜあ・ふぃしす)。
強敵を求めてパートナーのリディル・シンクレア(りでぃる・しんくれあ)、巫剣 舞狐(みつるぎ・まいこ)、ルクレシア・フラムスティード(るくれしあ・ふらむすてぃーど)と共にやってきたのだ。
同じくモンスター討伐を目当てにやってきたものがいる。
「ほんまワクワクするで。精々楽しませて貰うかの」
綿貫 聡美(わたぬき・さとみ)は根っからの戦闘狂であり、至極機嫌良さそうにしながらヌンチャクの両の棒を引き、気合いを入れる。
そんなぴりぴり張りつめた空気を破ったのはルクレシアの気の抜けた声だった。
「しかしモルフィーは綺麗じゃのう。それに某と同じ青色じゃ。おや、ここにも違う生き物がいるのう」
足元を見ると、白いイモリの様な生き物が何匹か地面を張っている。
「変な生き物じゃな、面白いのう」
目を輝かせているルクレシアを見て、巫剣は小さく「シア義姉様」とため息をつく。
「ミル義姉様……いえ、ミルゼア殿。ルクレシア殿は私が。ミルゼア殿とリディル殿は存分にお暴れ下さいませ」
会話に振り向いた美緒に向かって、リディルは眉一つ動かさず落ち着いたトーンで告げる。
「美緒様、何奴かの気配が」
「え?」
「美緒!あそこを!」
赤いフラッフィーモルフォに照らされた冬山が指差した先は、他の生徒には暗闇で見えない。
「あれがモンスターなんですの?まるでカエルみたいな……?あれは……一体なに?」
ダークビジョンを使うエオリアが彼女の横で口早に話す。
「冬山さん、あの背中の無数に出っ張った部分、見えますか?」
「ええ、コブ?イボのようにも見えますけれど……動いている所を見ると何かが入っているんでしょうか?」
「何と醜悪な……皆さん体勢を整え――」
エオリアが声を張った瞬間だった。
暗闇の先のモンスターの背中の塊がブチュンと厭な音を立てて割れると、中からぞわぞわと何かが這い出してきたのだ。
「何か出てきますわ!」
冬山が周囲に注意するが一歩遅かった。
「きゃあああ!!」
「いやあああ気持ち悪い!」
「何かが足元から這い上がってくる!」
生徒らの足元には無数のヒルやナメクジに似た蟲が這いまわり、彼らを彼らの身体を昇りはじめていたのだ。
ビキニルックという薄布しか纏わないセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の下にも容赦なく蟲達は現れる。
「あたしの足に触ろうなんて十億光年早いわよ!」
セレンフィリティの音波銃の早打ちで足元には蟲の死骸がうず高く積って行く。
「この暗闇じゃ、あたしのせっかくのナイスバディも見られなくて残念なんて思ってたけれど」
彼女に続くのはパートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だ。
「この光景は余り見えない方が嬉しいわね」
手にしたランスを地面スレスレから掬いあげるように振り上げると、零れ落ちた蟲達にセレンフィリティの音波銃が撃ち込まれた。
その近くでは佐野 和輝がアニスを背負いながら反対側へ走っている。
「和輝!あそこ!!」
背負ったアニスに指示されて向かった先に、スキルの歌を歌っていたはずのヴァーナーが蟲に襲われているのが見える。
佐野は一足飛びにヴァーナーの元へジャンプすると、ヴァーナーを抱え上げ既に足に群がっていた蟲を振り落とした。
その間にアニスは氷術を発動をさせ、地面の蟲達を凍らせていく。
「あ、ありがとう!」
佐野がヴァーナーに返事をしようと口を開くとアニスが遮る大きさで叫ぶ。
「和輝!あっちにも!」
「チッ!キリがない!!」
佐野の足元に目をやると、先程ルクレシアが見て居た白いイモリのような生き物達に、蟲の集団があっという間に群がり、モンスターの居る洞穴に向かって獲物を運んで行く。
残った蟲達がターゲットを佐野に変えようとした時、真空波の波動が駆け抜け一瞬にして蹴散らされる。冬山だった。
「コイツら集まるとまずいぞ。どうする!?」
「ええ、このままじゃ埒が明きませんわ!美緒!私はここに残こりますわ、美緒達は先に!!」
冬山の声にセレンフィリティも同意する。
「私達も残るわ!」
冬山の横で、佐野が「俺達も」と目配せする。
セレンフィリティは声を張り上げた。
「いい?ここじゃ大人数でいるのは逆に危ないわ。光源が少ないからお互いの攻撃が当たりやすいのよ。散らなくちゃだめ。」
「皆、モルフォ達と一緒にバラバラになれ!!」
続いて佐野の声に、生徒達はそれぞれ近くに居たフラッフィーモルフォに付いて走り出す。
集団で襲われれば危険だが、スピード自体はフラッフィーモルフォやに追い付く事が敵わないらしい。
生徒達は這い寄る蟲達を上手くかわしながら、先にある三つの洞穴へ進んで行く。
エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は目の前を飛びまわる紫のフラッフィーモルフォに唇を歪ませた。
「……私を何処かへ連れて行きたいのですね」
エッツェルの言葉を確認すると、紫のフラッフィーモルフォは先にあるうちの一つの洞穴に向かって飛んで行く。
「いいでしょう」
エッツェルがそれに付いて走りだそうとすると、横で黒いスカートを翻った。
「僕も付いてっていいかな?」
「君は?」
「ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)だよ。ぼーいずめいどさんとは僕の事です!」
「私は構いませんが……?」
「お宝とか出てこないかなーとか、なぁんてね!」
「…………」
「……冗談だってばぁ!」
「ふふ、あの紫の光が私達を何処へ導いてくれるのか。……お宝か、モンスターか……はたまた別の何かか……楽しみですねぇ」
殆どの生徒がわき目もふらずに走り、洞穴の奥へ消えて行った頃、
白石忍は逃げ遅れ蟲に囲まれてしまっていた。
視界が不安定な為に離れてしまったパートナーのリョージュを探していた際に蟲に襲われたのだ。
不意を突かれた状態の上、得意の銃の攻撃では無数の蟲を一度に片づける事が出来ず、一匹また一匹と、蟲達は彼女の黒い影が彼女の白く美しい足を侵してゆく。
そのお陰……と言っては何だがリョージュも彼女を発見する事が出来たが、足場の悪い洞窟内だ。どんなに走っても直ぐにはここへ来られそうもない。
「どうしよう、どうしよう!」
「忍!落ち着け!」
リョージュの声は届かない。焦る気持ちが判断を鈍らせ、もはや彼女は平静を保てる状態ではなく。
遂に一匹が胸の上を這った瞬間、白石は目をつぶり大きな悲鳴を上げた。
「いやああ!こないでえ!」
「こっちです!!」
頭の上から降ってくる声にハッとして見上げると、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)と
マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)がオレンジ色のフラッフィーモルフォの光を頼りに空飛ぶ箒に跨り猛スピードで白石の元へ飛んできた。
「手を伸ばして!!」
リースの声に白石が精一杯腕を伸ばすと、マーガレットがその手を取り速度を落とさないまま箒でとびさってゆく。
その様子を見ながら、リョージュは安堵し、息を吐いて……
気付いた。
「ちょっ……待てよ!俺を置いて行くなぁ!!」