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INTO THE CAVE ~闇に潜む魔物と生きた宝石~

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INTO THE CAVE ~闇に潜む魔物と生きた宝石~

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【第三章】

 その頃、紫のフラッフィーモルフォに導かれたエッツェル・アザトースとユーリ・ユリンは意外な場所へたどり着いていた。
「なんだこりゃ。なんかの……研究室?」
「そのようですねぇ」
 たった二畳分程度の空洞だが、うず高く積まれた紙束と科学実験の器具のようなものに、素人目にも明らかに「誰かが何かを研究していた」という事実は分かる。
「残念。お宝じゃないのかぁ……」
 ユーリがしょぼくれながら本の様に一冊にまとめられた紙束をパラパラとめくると、ひとつの図解に目がとまった。
「これ、さっきの蟲じゃない?でもなんか変だな。生き物を調べたってゆーより何か記述が詳しすぎるってゆーか」
「ほぅ。これは面白い事になりましたね」
「え、君何か気付いたの?」
 ユーリに頷くと、エッツェルは先程蟲に襲われた洞穴を目指して足早に歩き出した。



「はあ……はあ……」
 幾つもの荒い息が洞穴内に響いている。
 生徒達は満身創痍の体で、地面に倒れ込んでいた。
 ルカルカとアコに支えられ、ここまで来る間に意識のしっかりしてきた美緒は惨状を見回し、恐る恐る尋ねる。
「……一体何が起こったんですの」
「あの時……モンスターの舌が、何本にも増えて……そして急に皆を襲い始めたのよ」
 ルカルカにミルゼアが続ける。
「反撃しようとしたけど、スピードが違いすぎて手も足も出なかった。私も、パートナー達も皆やられてしまって……」
「でも皆様無事でらっしゃるじゃないですか……」
 元気づける様に無理に笑顔を作ろうとする美緒に、ラナの声が響く。
「美緒……」
「俺達を逃がすために騎沙良と如月が囮になったんだ。ヴァーナーは泉を守って……」
「そんな!」
 美緒が言葉を失っていると、横から小さな嗚咽が聞こえた。漆髪が肩を震わせて泣いている。
「私の所為だ……私が捕まらなかったからあんな事にならなかったのに」
「違います、元はと言えばわたくしが。わたくしが皆様をこんな所へ連れてこなければ……」
 美緒の横にモルフィーが擦りより、寄り添う。

「皆さん!!」
 重い空気を打破したのは意外にも、火村の声だった。
「誰かの所為とかそういうのは今はやめましょう。ここで泣いても、後悔していてもだめなんです!」
「そうやな、火村ちゃんの言う通りや。このままやったらあかんで」
 綿貫の助けを借りて火村は続ける。
「騎沙良さん達も今ならまだ無事かもしれない、でもここでこうしていたら助けに行く事も出来ないんです。兎に角立ち上がって洞窟の外に知らせに行きましょう。」
 瞳に闘志の炎が灯ってくる。
 怪我した身体を庇いながら、ゆっくり立ち上がると洞穴に居なかったものの声が聞こえてきた。
「知らせに行くよりも戦いましょう!」



「みんなー!無事だったんだね!」
 景気良く両手を振って走ってきたユーリの目に飛び込んできたのは、黄色のフラッフィーモルフォと共に蟲と闘った洞穴に残っていた五人の姿だった。
「いいもの見つけてさ。 役立たないかって慌てて戻ってきたんだけど、大丈夫みたいだね」
 既に大量に発生していた蟲を一匹残らず倒し終えた所のようで、辺りには魔法と銃撃の煙が立ち込めている。
「いいものって何かしら?」
 セレンフィリティが上から見下ろすと、ユーリが待ってましたといわんばかりに手に持っていた本を振り上げた。
「じゃーん!モンスターの設計図―!!」
「設計図?どういう事なんだ」
 佐野がアニスを背負い直しながら、エッツェルを見ると彼は首を傾げる。
「さて、どこから話しましょうか……。」
 そうしてその場にいる全員が聞く準備を、整えたと判断すると、エッツェルは静かに話しだした。
「私と同じ、イルミンスールの、しかし過去に居た生徒の話です。
 家族、友人、恋人に囲まれた何不自由無い生活、成績も体力的にも問題は無い……
 彼はそんなごく普通の、特記する所が全くないような極めて平凡な生徒だった。
 そんな彼があるバカンスに、自分の国へ里帰りをし……
 そして帰ってきた時には――全くの別人に変わり果てて居た。」
「それは一体……」
「少し間違えましたね。言い方を変えるなら徐々に別人へと崩壊して行った、というのが正しいでしょうか。
 学校へ戻ってきた彼は自室に籠りきりになり、何かの研究に没頭し始めた。
 その一つが生物を使ったキメラ合成。動物の一部を切り取り、他の生物と繋ぎ合せ、筋肉を不自然に肥大させ……新たな生物を作り出そうとする、神への一歩を踏み出す禁忌の研究。
 その異常な研究も、初めは全く気付く者もいなかったようです。
 何せ彼の友人が一人、また一人と文字通り消えて行ったのですからね」
「……まさか人を?」
「彼がどうにかしたか、は定かではありませんよ、でも生徒が次々行方不明になったのは事実だったようです。
 学校が彼に疑いの目を向け始めた頃、彼の部屋から夜な夜な得体のしれないうめき声と、臭気が立ち込めるようになり、
ある日遂に教師達はそこへ踏み込んだ。そして……彼の放校を決めた」
「そいつがあの化け物を作った、って事なのね」
 エッツェルは首を振る。
「何処までまた聞きなのかも分からない都市伝説レベルの話ですから私もそれが正しいとは言い切れません。
 何せ私が聞いた中でも、放校後の彼の行方すら病院にぶち込まれたとか、警察に引き渡されたとか、自分の作った化け物に食われた、と色々なパターンがありますから。」
 彼の言葉に、ユーリは納得がいかないのか手に持っていた本を指でつついた。
「でもこの設計図は……」
「彼居たのか、彼が作ったのかは分からない。しかしそれを見る限りは」
「人が作った事には間違いないんだね」
「そう、人に作られた自我すら持たない哀れなフランケンシュタイン。それがあのモンスターの正体です」