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新年交流会に出すおせち料理を考案せよ!

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新年交流会に出すおせち料理を考案せよ!

リアクション

レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)と」
ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)の」
「お料理コーナー、御節編! イエーイ、パチパチ〜」
 効果音を口にしながら、のほほんと笑顔を浮かべるレティシアの拍手だけが静かに響き渡る。
「あの、レティ……ほんとにこのやり取り必要なのですか?」
 少し頬を赤く染めながら、パートナーに付き合わされたミスティがため息に混じりに尋ねる。
 パートナーであるレティシアの頼みを断れ切れずに付き合ったが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
「いやぁ、折角のイベントだし、一回でいいからこういうのやってみたかったんだよねぇ。なんていうか、これがないと料理コーナーが始まらないっていうか、せっかく取材の人がカメラで撮ってくれてるんだしねぇ」
 レティシアは満足気に、カメラを向ける男子生徒(蒼空学園新聞部一年)に視線を向けた。
 事の初めは、料理を始めようとしていたレティシア達のもとに偶然この男子生徒が取材を申し込んだことが始まりだった。
 レティシアは取材の協力を快諾し、録画装置があるならばと料理番組のような風景で撮影したいと提案。
 もちろんその提案に、パートナーのミスティは呆れながらも反対するが、半ば強引にレティシアがその場を仕切ったことでこの状況が生まれたのであった。
「はあ……もう、レティったら」
「あははは。さて、気を取り直して早速やっていこうか。まず取り出したるは今朝釣り上がったばかりの新鮮なパラミタカジキを捌いた切り身ですねぇ」
「まさか、このために日の上がる前に起こされていきなりクルーザーに乗せられるとは思ってもいませんでしたわ」
 すっかり諦めモードのミスティは、仕方なくレティシアにあわせて作業を進行させる。なんだかんだで彼女もまた付き合いが良かった。
「いやぁ、メイン食材くらい自分で捕った食材のほうがいいと思ったんだけど、やっぱ一本釣りは大変だったねぇ」
 まるで世間話をするかのようにサラっと爆弾発言を織りまぜつつ、何事もなかったかのように油をひいたフライパンに火をかける。突拍子のない言動とは裏腹に、その手つきは実に慣れた感じの滑らかな動きである。
「さて、そんなエピソードを秘めたこのパラミタカジキの切り身を塩コショウして表面にパン粉をつけます」
「あ、その辺の作業はお任せ下さい。レティに任せたら分量も何もめちゃくちゃにしちゃいますからね」
「あはは、ありがとう。んで、油をひいて熱したフライパンに乗せてっと」
「ここは火加減に注意しないといけないわね。強すぎず弱すぎず、中までしっかり火を通して……」
 せっかく料理の知識があっても大雑把な性格でいつも失敗してしまうパートナーを気遣って、細かい作業はすべてミスティが買って出ていた。
 そして今回もまた、いつものように火加減の調節をするミスティの横で、レティシアがゴソゴソと調理台の下から何かを取り出そうとしていた。
「そして、焼きあがった物に特製のスイートチリソースをかけた完成品がこちらです」
 ドンッと調理台に置かれたのは、今まさにミスティが火にかけているものと同じものであり、こちらは調理中のものと違って完璧に火の通した完成品であった。
「完成品を用意してあるんですか!?」
 やることまで某番組とそっくりのレティシアの準備の良さに、普段冷静なパートナーが壮大なツッコミの声をあげた。


「しっかし、せっかくコンテストでこれだけの人が集まっているのに食材だけっていうのもなんだか味気ないな」
 パートナー達と共に食材を提出しに向かう途中、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)は唐突に足を止めた。
「急にどうしたんですか健闘くん?」
 天鐘 咲夜(あまがね・さきや)はパートナーの突然の思いつきにさして驚きもせずに尋ね返す。
 むしろ、今までこの手のイベントで彼が食材提出だけで済ませる気はないだろうと薄々思っていたのは、おそらく彼女だけではないはず。
「せっかくのイベント、せっかくの食材、これだけ他校から参加者が募っているのに、俺達だけ食材を提出してはい終わりというのはもったいないと思ったんだ!」
「んー、確かに少し物足りない気はしてたわね。でも、今さら料理で参加しても大丈夫かしら?」
「そうですよ、私たちは何の準備もしてないのですから」
 文栄 瑠奈(ふみえ・るな)紅守 友見(くれす・ともみ)も健闘の言動に刺して動じることなく、一応義理という形で彼を嗜めてみる。が、もちろんこんな言葉で彼の気持ちが変わることはないと二人とも百も承知だ。
「そんなことはない、俺達には参加用に準備した食材がある! なに、四人分の食材だ。きっと十分な料理ができるはずだぜ!」
 男の子には、特に健闘のような熱血漢には、己の言葉を簡単に曲げることのできるような器用な生き物ではなかった。
 彼は知っている、諦めずに一歩を踏み出す事で人には無限の可能性が秘められていることを。
「みんなの材料、ですか……?」
 三人は自分や他の三人が持っている材料を交互に見比べる。が、当然今回はコック長に調理してもらえる可能性があるからと、四人とも自分の食べたい物のメイン食材しか持ち合わせていないことは誰もが知っている。
「えっと、私のパスタに勇刃くんが麻婆豆腐用に作った絹豆腐でしょ」
「それと私のチーズフォンデュ用チーズを数種類と牛乳、後は咲夜さんの鯛と昆布ですわね」
 どう見ても統一感のカケラのない食材を見比べ、三人は「無謀すぎるよね?」視線を交えて互いに意思疎通する。
 だが、そんな中でたった一人だけ、発案者の健闘だけは瞳に希望と可能性を宿して、他の三人に語りかけていた。
「うん、十分じゃねえか。予定通り麻婆豆腐を作ってそれにパスタを絡めたり、焼き鯛や昆布を使った和風チーズフォンデュとかどうだ?」
 彼はすぐさま頭に描いたレシピを提案する。
 もちろん、その示した可能性に一抹の不安が過ぎろうとも結果が出るまで彼の想いは止まることはない。
 そう、熱血漢とはそういうものだ、故に彼らは止まることを、恐れることを知らなかった。
「うーん、麻婆豆腐のパスタは面白そうだけど……」
「健闘くん、さすがに和風チーズフォンデュってはどうかと思うんだけど」
「そ、そうでございますね……」
 こうなっては誰も健闘を止めることは出来ないとわかりつつも、一応最後まで抗議は諦めない。だが、もちろんそんな事で彼のたぎる想いは決して変わらない。
 なぜなら彼は、一人の漢だからだ。