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小ババ様の一日 旅立ち編

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小ババ様の一日 旅立ち編

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ザンスカールだよ

 
 
 ひゅるるるるーん。
 また変なのに遭遇しないようにと、小ババ様は低空飛行に変えました。
「あれ、大ババ様……小ババ様!?」
 ザンスカールで、アンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)さんという人が小ババ様専用イコンを見つけて声をかけてきました。小ババ様専用イコン、すでに人気者です。
「お茶とお菓子とかいかがです?」
 アンネ・アンネ三号さんが言いました。なんとなく、アンネ・アンネ三号さんからは甘い匂いがしてきます。思わず、ふらふらっと小ババ様がそちらへと釣られました。
「一名様、御案内です」
 アンネ・アンネ三号さんの案内で、小ババ様はザンスカールの郊外にあるカフェ・てんとうむしにやってきました。
『おー、久しぶりのお客様だ』
「こばー?」
 喫茶店に入るなり、どこかから声がしました。でも、姿が見えません。声だけです。ちょっと不気味です。
『こばさんですか?』
「ああ、気にしないでください。ミスターアンドミセス・オカリナ(みすたーあんどみせす・おかりな)ですから」
 アンネ・アンネ三号さんが説明しました。どうやら、ミスターアンドミセス・オカリナさんという人はゆる族さんらしいのですが、この喫茶店自体がその人の着ぐるみだということです。なので、中の人はずっと光学迷彩で姿を消しているということでした。いろいろと謎です。
 とりあえず一杯のミルクとたくさんのお菓子をもらうと、小ババ様は再び出発することにしました。
「じゃあ、こばさん、よい旅を」
 ミスターアンドミセス・オカリナが、やっぱり姿を見せずに言いました。
 
 
雪だるま王国だよ

 
 
「そこ、少し溶けて形が崩れています。しゃきっとしなさい!」
 何やら、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)さんの声が聞こえます。ちょっと気になって、小ババ様は雪だるま王国で寄り道をしてみました。
 それにしても、ここは雪だるま王国のはずなのに、なんだかちょっと蒸し暑いです。これでは、雪だるまの兵隊さんたちは溶けてしまうのではないでしょうか。
よーく見ててください。ここが本日の山場です。さあ、気合いで暑さなんか跳ね返しちゃってください!」
 クロセル・ラインツァートさんは、短パンにムームーという姿でかき氷を食べながら兵隊さんたちに命令をしています。実に涼しそうです。
「こ、この暑さは……責任者を呼ぶでござる!
 童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)さんが、訓練の過酷さにクロセル・ラインツァートさんを探し回っているようです。雪だるま兵士さんたちは、もう半分溶けかかっています。
「みんな、走るんだもん」
 秋月 葵(あきづき・あおい)という人が、雪だるま兵団さんを率いてバケツ要塞十周をしているのを見かねて、童話スノーマンさんがブリザードを連発しています。けれども、その上ではフェニックスさんが羽ばたいているので、冷えたり暑くなったり大変です。
これも修行、やな!がんばれっ、ファーイトッ!
 奏輝 優奈(かなて・ゆうな)さんがミニ雪だるまさんたちと一緒に応援していますが、フェニックスのイグナイトさんは奏輝優奈さんの召喚獣のような……。過酷です。
 なんだか、見ているこちらの方が暑くなってきました。
『こばー』
 思わず、小ババ様がイコンの手でクロセル・ラインツァートさんのジュースを奪おうとします。
「はっ、殺気。ダメですよ、ただで人の物を取ろうとしては……おや、これは……」
 叱ろうとしたクロセル・ラインツァートさんが、小ババ様専用イコンの背中に何かを見つけたようです。いつの間にかカフェ・てんとうむしのチラシが貼りつけられていました。きっと、ミスターアンドミセス・オカリナの仕業です。
「こんな手があるとは……クロセル・ラインツァート、一生の不覚。さあさあ、小ババ様、どうぞジュースをあげますよ。その代わり……」
「こばー♪」
 小ババ様が喜んでジュースを飲んでいる間に、クロセル・ラインツァートさんが背中のチラシを剥がして、雪だるま王国のチラシを代わりに貼りつけました。姑息です。
「騎士団長、次はどんな特訓を……」
 奏輝優奈さんがクロセル・ラインツァートさんに聞きに来たときです、童話スノーマンさんがついに堪忍袋の緒が切れて走ってきました。
「騎士団長が、一番とろけているでござる。ここはピシッと引き締まってもらうでござるよ!」
 そう言うなり、童話スノーマンさんがクロセル・ラインツァートさんにブリザードを放ってきました。あわてて小ババ様がイコンで離脱します。
 そこは、さすがに騎士団長を名乗るだけはあります。空が暑くて地面が冷たいグラウンドにクロセル・ラインツァートさんが逃げ込みました。
「ははははは、灼熱の氷塊クロセル・ラインツァート、そんなことではやられません。ほれほれほれ、そこ解けている場合ではありませんよ。キリキリと走りなさい。最前線はこんなものではありませんよ」
 かき氷を持ったまま、クロセル・ラインツァートさんが雪だるまさんたちに言いました。
「団長自ら兵士を鍛えに走り込むとは。分かったんだもん、大サービスだよー!」
 なんだか勘違いしたらしい秋月葵さんが、雪だるま兵さんたちとクロセル・ラインツァートさんの頭上に、サービスでシューティング・スター☆を雨霰と落としました。
「ちょ、ちょっと……。お助けー!」
 あわててクロセル・ラインツァートさんが雪だるま兵士さんたちを押しのけて逃げます。
 なんだかこれ以上ここにいると巻き込まれそうなので、小ババ様はあわてて雪だるま王国を逃げだしました。
 
 
ジャタの森だよ

 
 
 ひゅーん。
 小ババ様は、ジャタの森上空にさしかかりました。
 おや、森の中に可愛らしいお家があります。ちょっと気になって小ババ様は近づいてみました。
 お庭では、一組の夫婦がお茶を飲んでいるところでした。博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)さんとリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)のようです。
 ティーポットから注がれた紅茶が、ティーカップに引っ掛けた小さな茶漉しで漉されていきます。その周りには、焼きプリンとクッキーがおいてありました。
 きゅるるる〜。
 小ババ様のお腹が、ちょっと自己主張をしました。ちょっと着陸して、イコンから出てみます。
「こばー」
「あら、小ババ様、こんにちは。どうやってこんな所に来たの?」
 リンネ・アシュリングさんが、小ババ様に聞きました。
「こばばあー」
 小ババ様が、自分専用のイコンを指し示します。初めてそれを見たアシュリングさんたちが目を丸くしました。
「なんだか、凄い物を作ってもらいましたね」
 さりげなく小ババ様用のカップとしてミルクサーバーを取り出しながら、博季・アシュリングさんが感心したように言いました。
「こばー」
「美味しいですか。それはよかった」
 嬉しそうに、博季・アシュリングさんがリンネ・アシュリングさんと顔を見合わせて微笑みます。
 紅茶とプリンをいただきながら、小ババ様はさっきまで二人がしていた魔法のトレーニングの話を聞きました。でも、プリンに夢中だったので、半分も頭に入っていません。
 お土産にとクッキーをもらうと、小ババ様は、いよいよパラミタ内海へと飛び出していったのでした。