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食材を巡る犠牲と冒険

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食材を巡る犠牲と冒険

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第三章 俺の尻を刺してゆけ
 
「コーンに〜生まれた〜この〜命ぃ〜、しゃきっと〜咲かせて〜みせましょう〜。シャキっと歯ごたえ〜……お、見つけた見つけた。アレみたいやな」
「あれが目的のトウモロコシか……ん? あれはゴブリンか?ふむ。奴らが収穫するのを待ってから襲撃をかけ、収穫物を奪い取るという手もあるか」
 奏輝 優奈(かなて・ゆうな)の横を歩いていたフォルゼド・シュトライル(ふぉるぜど・しゅとらいる)は、そんな事を口にする。
 しかし、ゴブリンの尻を貫いたトウモロコシを口に出来るのかという問題はある。
「ん?ヤツら、尻を出して何を……っておい!正気か! えぇい、プラン変更だ! 奴らは速攻で抑える!」
 フォルゼドの視界に映ったのは、暗黒トウモロコシに向かって尻を出すゴブリン達の姿。
 そんな事をされたら、本気で食べ物では無くなる。
 慌ててフォルゼドが飛び出すと、ゴブリン達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
 何か、途中で怖い事でもあったのだろうか?
 だが、追い払えたという結果が同じならば何も問題は無い。
「さぁ、収穫始めよか!」
 そう言うと、優奈はフォルゼドを期待を込めた目で見上げる。
 この視線の示す意味は、一つだろう。
「くそ、非常に不本意だが、俺が受けるしかないか。攻撃を受けさえすればいいんだろう?なら「銃舞」で回避スレスレの所を狙って、被害を少なくして受けてやるさ」
 そう言うと、フォルゼドは暗黒トウモロコシの前に立つ。
「あとで自分でも料理してみるか〜」
 そんな優奈の呑気な台詞が、耳に痛い。
 尻を狙うというトウモロコシ。
 油断をすれば、尻を貫かれる。
「尻でだけは! 絶対に受けんからな!」
 その言葉を合図にするかのように、暗黒トウモロコシが射出される。
 そう、それはさながら銃器のよう。
 射出、とは比喩表現ではなくそのままの意味だ。
 暗黒トウモロコシは文字通り射出され、軌跡を描きながら飛んでいく。
 狙うは、フォルゼドの……尻。
「させる……かぁ!」
 そして、フォルゼドの尻を巡る死闘が行われている場所とは少し離れた場所。
 そこでは、マルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)キルラス・ケイ(きるらす・けい)の尻に狙いを定めていた。
 別に、キルラスの尻に恨みがあるわけではない。
 誰かにキルラスの尻の抹殺を頼まれたわけでもない。
 ただ、キルラスの尻を守ろうとしているだけなのだ。
 やはり、お尻にささった暗黒とうもろこしは様々な意味で危険だと思っていた。
 そうなる前にトウモロコシを取りに来ている男性陣を守ろうと思っていた。
 だからこそ、マルティナは閃いたのだ。
 暗黒トウモロコシが尻に挿さる前に別のものを撃ち込んで挿せばいい、と。
 そこで用意したのは、市販のトウモロコシ。
 これを刺せば、暗黒トウモロコシが刺さる事はない。
「そう、この一撃は外してはいけないっ……皆(のお尻)を守るためにも」
 それを本末転倒と呼ぶが、この場には誰も突っ込みを入れる者は居ない。
「ぇ、何か飛んで……ひあぁッ!?」
 そして。キルラスの尻に暗黒トウモロコシが突き刺さる直前。
 キルラスの尻に市販のトウモロコシが突き刺さる。
 そして、その市販のトウモロコシを、さながら杭を打つかのように叩く暗黒トウモロコシ。
 悶絶して痙攣するキルラス。
「これが……暗黒トウモロコシ……!」
 尻を絶対に刺すという意思すら感じてしまいそうになる、その精度。
 外敵から身を守る植物もあるとはいうが、このトウモロコシは一体いかなる過程を経てこうなったのか。
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)に出来る事はただ、真剣白刃取りの構えをとることだけだった。
 だが、それでもドリルのような回転を加えた暗黒トウモロコシ。
 そして何処からか飛んできた謎のトウモロコシの前で、吹雪は無力だった。
 キルラスの尻に刺さり続けるトウモロコシ。
 そのキルラスを助けに行こうとした吹雪は、気付かない。
 その尻もまた、暗黒トウモロコシに狙われているということに。
「キルラスさん……!」
 大丈夫でありますか、と。
 そう叫ぶ吹雪の尻に向けて、無情にも暗黒トウモロコシが射出される。
「なにこれすごい!」
 尻に刺さった暗黒トウモロコシ。
 それを跳ね除けても、次から次へと容赦なく。
 山のような暗黒トウモロコシが尻を狙って飛んでくる。
 走って逃げ回るミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)
 だが、まるでホーミングするかのように暗黒トウモロコシはミルディアの尻へと突き刺さる。
「ちょっと! ダメだって!」
 刺されたら、すぐに払わねばならない。
 そうしなければ、次の暗黒トウモロコシが撃ち込まれてとんでもない事態になってしまう。
 更に次の暗黒トウモロコシが撃ち込まれたならば、地獄か新たな世界の扉が開いてしまう。
 どちらに傾いても、すごく怖い未来しか見えてはこない。
「ミルディ、とりあえずそのトウモロコシから離れたほうが……」
 最近のミルディの行動に不安があった和泉 真奈(いずみ・まな)だが、ミルディの言葉の端々に更なる不安を感じずにはいられなかった。
「ちょ、ま、まだ一本目を払ってな……間に合わなあーっ!」
 引っ張ってきたほうが早いだろうか。
 そんな事を考えながら、真奈は溜息をつく。
「食材の採集と聞いてましたが……これは食材の収集とは呼べませんわね」
「アリスちゃん、アンナさん、どこに行ったの?」
「間違いなく迷子ね、あの二人だし……ところで何か、悲鳴聞こえなかった?」
 及川 翠(おいかわ・みどり)ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)の二人は、行方不明になったアリス・ウィリス(ありす・うぃりす)アンナ・プレンティス(あんな・ぷれんてぃす)を探して歩いていた。
 先程まで居たはずのアリスとアンナ。
 その二人を探して洞窟の中を歩く二人とは別の場所を、アリス達は歩いていた。
「……あれっ? ここ、どこ……? 何だか真っ暗だし……うぅ〜っ、もしかしてまたまた迷子になっちゃった……?」
「さっきまで外に居たはずなのに……」
 地図を見ていても迷子になってしまった二人。
 進めば進むほど奥に進んでしまう感覚すらあった。
 幸いにも、ゴブリン達はアリスやアンナを見かけるとすぐに逃げてしまった。
 何か怖い事でもあったのかもしれないが、その原因を探る術は無い。
 ただ、迷子になっている事を自覚しながら奥に進んで。
 アンナは、ふと何かの匂いを感じ取る。
「あら? この香りって……?」
「お料理?」
 そう、それは美味しそうな料理の香り。
 この先に行けば、人がいる。
 香りを追うだけなら、きっと迷いはしない。
 二人は走り出す。香りのする方向へと向かって。
 そして、その香りを感じ取ったのはアリスやアンナだけではない。
 翠もミリアもその香りうぃ感じ取り、もしかしたらと走り出す。
 そして、その先にあったものは。
 想像していた通りの調理風景と……ちょっと想像してなかった風景だった。
「どうしてこうなった? 衆道について特に疑問はなかったのだが……おかしいのか? パラミタでも普通なんだろう? バラとか男の娘とか? 違うのか?」
拘束衣を着せられ聖人のごとく貼り付け状態にされているのは、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)だ。
「別に、それ自体は否定はせんが……妾のパートナー兼パーティーの保護者がそうなのは嫌じゃ。更生させてやるわ!」
 言いながら何かを調理しているのは草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)だ。
 積極的に嫌というよりは、なんかやだという気持ち。
 そんな羽純の気持ちに同感する者は、他にも居た。
「羽純ちゃんの気持ちもちょっと解るから……ゴメンナサイ!」
 続いて謝ったのは、ここまで甚五郎を運んできたホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)だ。
 申し訳なさそうにしつつも、縄を解いてくれるわけではないようだ。
 各暗黒食材をまずい状態一通り食させた後で、うまい状態一通りを食させたのち食材と一緒に煮込み、呪文を唱えることで、記憶の改ざんを行う儀式。
 これは、甚五郎の好みを変えるために行われる儀式なのだ。
「これで未来、変わるといいなぁ……すこしでも……」
 阿部 勇(あべ・いさむ)の呟きは、実に切実だ。
 少しでも、この儀式が効けば。
 暗黒食材と、書物にのっていた儀式の効能を祈るばかりだった。
 勿論、そういう危険な光景ばかりではない。
「元々多くはないみたいだが……全く来ないとは思わなかったぞ」
 シェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)は、言いながら調理場を手伝っていた。
 美味しく収穫し、美味しく仕上がった料理の数々。
 暗黒などと名前がつく割には、一級品や特級品と呼んで差支えない味の野菜達だった。
「皆、凄い勢いだな? 紫翠、お前は、また食べ損ねるだろうから。それに、元々食べるぺース遅いだろう。ほら、これ」
「ありがとうございますが……あの量多くないですか? ……こんなに食べれませんよ」
 言いながらも、神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)は焼きトウモロコシを口にする。
 瑞々しいトウモロコシと、醤油の香ばしい香り。
 噛むと弾けるような食感は、不思議と食欲を増進させるようで。
 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が作ったという暗黒枝豆、暗黒ジャガイモ、暗黒トウモロコシを使った3色の冷製暗黒ポタージュを口にする。
 すうっと入る冷たさと、濃厚な食材の味。
「これは……良い仕事ですね」
 言いながら涼介の方を見ると、涼介は紫翠の仕込んだ暗黒スイカのシャーベットを口にしながら微笑んでみせる。
 負けていられない。
「今は自分達の出番です。皆様の頑張りに報いないといけませんよね」
「そうだな」
 シェイドは紫翠に答えて、軽く涼介へと会釈する。
「さあ、今日も美味しい料理を作りますか」
 軽く会釈に答えて、涼介は笑う。
 皆の尊い犠牲の元に集まった、旬の野菜達。
 調理していても、とても良いモノであるということが分かる。
 並んだ料理も、実に多彩。
 冷製ポタージュ。ジャガイモのコロッケ。ゴーヤチャンプルー。ゴーヤおひたし。スイカの皮の浅漬け。デザートにスイカのスムージーに氷スイカ。
 焼きトウモロコシ、ジャガバタ、スイカのシャーベット。
 その他にも、様々な暗黒料理が並べられている。
 その全ては、とても美味しくて。
 暗黒などと名前がついてはしまうが、そんな印象も吹き飛ばすほどの出来。
 これならば、エリザベートもきっと満足だろう。
 そう考えて、涼介は包丁を振るう。
「アリスちゃん、アンナさん……二人ともここにいたのね!」
「もう、心配したわ」
 洞窟の中に香る、美味しい香り。
 それは迷子を再び探す者と引き合わせ。
 食材の犠牲になった者達に再び元気を与える。
 広がっていくのは、美味しいものと巡り合えた笑顔。
 そんな、素敵な香り。

担当マスターより

▼担当マスター

相景狭間

▼マスターコメント

こんにちは、相景狭間です。
皆様、おつかれさまでした。
ほとばしるような熱い思い、全力で受け止めさせていただきました。
皆様の尊い犠牲で、今年の野菜の味は最高だったようです。

今回の冒険、お楽しみいただけたなら幸いです。
それでは、また次の冒険でお会いしましょう。