波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

【ぷりかる】夜消えた世界

リアクション公開中!

【ぷりかる】夜消えた世界

リアクション

第二章 太陽の塔にて

 光に満ちた塔の中。
 それは、光の増幅を続けるが故の眩しさだ。
 つまり、村にもたらされた昼が太陽の塔の中に詰まっているとも言える訳で。
 言うなればこの場所は、濃縮した昼であり、光の世界でもあった。
 中の住人も光で構成された光のゴーレム達。
 この中にのみ適応した住人達は当然、中に入った異物を排除しようとする。
 それは先に中に乱入した盗賊達もそうであるし……たった今侵入したばかりの夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)達もまた、彼等にとっては排除対象に過ぎない。
 そう、ここから始まるのは彼等との戦闘なのだ。

「さぁて、邪魔なゴーレムをどんどん倒していくぞ。いろいろ楽になるだろうしな」
「ふむ、ではゴーレム倒しながら上へ上へと登って行こうかのぅ」

 如何に眩しいとはいえ、人の目は多少は適応というものをする。
 真っ先に適応をした甚五郎と草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)の二人は、互いにフォローをし合いながら塔を進んでいた。
 目の前にいるのは光り輝く、光のゴーレム。
 それ自体が光で構成されているという特殊なゴーレムだが、存在している以上攻撃が通用しないわけではない。

「気合が足りないなぁ! 気合がぁ!」
「わらわ達と対峙したのだ。当然の結果であろう」

 言いながら進んでいく甚五郎と羽純。
 その先にあるものが何かは分からないが、とにかく目につくものを甚五郎と羽純は斬って捨てていく。
 こうして斬って進んでいく事で、他のチームの危険度を下げる事が可能だ。
 つまりは、甚五郎と羽純は囮であり一番槍でもあるということだ。
 筋肉バンカラ男な甚五郎ではあるが、こういう時にはとても頼りになる存在なのだ。

「……ところで、階段はどっちだ?」
「さてのぅ。適当に歩いていけば、そのうち着くであろう」

 気合万能説のせいで、少々安定感にかけるのが弱点ではあるのだが。

「セシル殿、危ないから下がって」
「前に出て戦えないのはつまらないですが、仕方ないですわね」

 幸田 恋(こうだ・れん)に引き止められたセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)は、つまらなそうにそう呟く。
 夜が無くなるとか冗談じゃない、と参戦したセシルではあったが、こうまで光に溢れていると、中々に辛いものがあった。
 とはいえ、それで大人しくしているほどセシルは殊勝でもない。

「まとめて凍りつきなさい!」

 大魔弾コキュートスを投げ、続けて魔槍スカーレットディアブロを投げる。

「ヒャッハー!串刺しですわー!」
「光輝属性食らったらすぐ消し炭になるのに無茶しないで下さい……」

 心配そうに言いながら刀を振るう恋。
 出来るだけセシルを守るつもりではあるものの、この眩しい中で、次から次へと沸いてくる光のゴーレムの相手をするというのは、少しばかり無理がある。
 無理があるのだが……先程から近くで暴れている甚五郎や羽純達が大分敵を減らしている上に、何か他にも狙撃で支援されているような気がする。
 それが一緒に塔に入った大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)のものであろう事は恋には何となく察しはついたが……この眩しさでは、何処にいるかはわからない。

「ありがとうございます、剛太郎殿……」

 所構わず暴れまわるセシルから目を離さないようにしながら、恋は小さくそう呟いた。

「アーシア、何かザリザリしたものに触ったわ!」
「ああ、それは角刈りってやつかな。って、どっかで見たような……眩しくてよく分かんないけど」

 剛太郎の頭をザリザリと触っていたシェヘラザードは、アーシアの答えに頷くと手探りで太陽の塔を進んでいく。
 ああ、またアーシア先生に会ったなあ……などと考えていた剛太郎は、セシルを狙っている光のゴーレムへと銃口を向ける。
 パワードマスクの目ガラス部分にサングラスのアタッチを取り付け、多少なりとも眩しさを軽減した剛太郎。
 自分の攻撃では足止めにしかならないかもしれないが、それで充分。
 しっかりと狙いをつけると、剛太郎は引き金を引く。
 狙うのは、セシルを背後から狙っていた光のゴーレム。

「む、そこにもいましたか!」
「セシル殿ェ……もっと周りに注意をですね……」

 一発で倒せなくとも、それで充分。
 背後の敵に気付いたセシルは当然警戒するし、恋もついている。

「ここからでは、制御装置は見えないでありますな……」
「分かったわ、目の粗いタオルに似てるのよ! あの触感を再現したってことね!」
「角刈りの人に迷惑かけてないで、先進むわよ!」

 ザリザリと感覚を楽しんでいたシェヘラザードを引きずるように、アーシアの声が遠ざかっていく。
 その声を聞きながら、剛太郎はふと思う。

「……そういえば、自己紹介すらしてないでありますな」

 思わぬ盲点であった。