リアクション
▼△▼△▼△▼ 静かな夜明けを迎えようとしていた集落跡に、激しい雷鳴が轟いた。 「おねえちゃんっ!」 「今の雷術じゃん。誰が戦ってるのっ」 びっくりして飛び起きたのは、アテナ・リネア(あてな・りねあ)だった。 立て続けの落雷だと判った熾月 瑛菜(しづき・えいな)も飛び起きて、アテナの無事を確認する。 「見張に出てんの、リースとマーガレットじゃねえかっ?」 「何かあっては大変です。行きましょうっ」 廃屋の部屋を見回したベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が状況を察知すると、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)と共に飛び出していく。 「あたしたちも行くよっ」 「うんっ」 ロチェッタの目的を知った瑛菜とアテナは、仲間と共に集落跡で待ち伏せていたのである。 ▼△▼△▼△▼ 「アナタたちみんな、要らん子なのよー。告白ぐらいひとりでやったらいいじゃない」 「うるせーいっ、なんだテメエ、邪魔すんじゃねーよ」 「バカは引っ込んでなさいよねっ。女の子ひとりにみんなで迫ったら、怖いことぐらい判らないのっ? 却下。大却下だもんっ」 刃こぼれした曲刀を手にした賊がマーガレットへ躍りかかるも、彼女はダンシングエッジで跳ね上げた相手をチェインスマイトではたき落としてく。 「お前も邪魔するなら、手加減はしない」 二輪車を降りたロチェッタはマーガレットの攻撃をひらりとかわし、短剣を振るっていた腕を捻り上げた。 彼女が苦しそうな表情を露わにするのとほぼ同時に、ロチェッタの足下の地面が盛り上がった。地面の隆起が更に進むと人型のアンデッドが露出して、彼の脚に絡みついていく。 「なんだくそっ」 マーガレットを突き飛ばしたロチェッタは、まとわりつくアンデッドを踏み倒した。 「大丈夫か、おい」 「いったあー。これぐらい平気だよっ、ありがとっ」 いち早く邪念を感じたベルクがアンデッドを呼び起こし、ロチェッタの気を逸らせたのだ。 「女の子に手を挙げるなんて――」 「――デリカシーに欠けてますよ」 「敵に情けは必要ないはずだ、ハイナを手に入れるためには、誰であろうとブチ倒すっ」 「この程度では、ハイナ・ウィルソンが屈するとは思えませんけど」 「やってみなくては判らんだろうが。どのみち諦めきれんのだから、結果を残す他にはないっ」 ロチェッタの拳がフレンディスの身体を捉える度に、彼女の姿は揺らいでかき消えていった。 「おバカさん、ですね」 フレンディスの姿がいっぺんにかき消えた時には、マーガレットはベルクに抱えられて戦線を離脱していた。 「くっそ、この俺らを茶化しやがってっ」 「ロチェッタさーん、後は俺たちに任せてくれえ。いくぜえ、野郎どもっ! ヒャッハアー!」 爆音を轟かせた二輪車と四輪車が集落跡へなだれ込んでいく。 「アテナ、いっくよーっ! 頑張ろうね、おねーちゃんっ」 「無理しちゃダメだかんね。あたいらみんなと協力すればイイんだから」 「うん!」 瑛菜の振るう茨のムチが二輪車もろとも跨がっている賊をなぎ払い、二輪車と交錯するアテナの跳び蹴りが、運転者のアゴを捉えて見事にノックアウトしていた。そして後衛に回ったリースたちが、ことごとく乗り物を破壊していった。 多勢に無勢だと判断した瑛菜は、ロチェッタの敵勢を殺ぐために活動を変更するのだった。 4 陽はだいぶ高く上っていた。 葦原明倫館までの道程も、およそ半分に差し掛かったときである。 「あのー、ロチェッタさん。残った奴らのイカしたマスィーン(乗り物)も、軒並みガス欠みたいで。す、すんませぇん。急な出発だったもので補給が充分じゃなかったらしく。それに、朝っぱらにやらかした集落跡のバトルで、その、奴らをとっちめ過ぎたみたいで、へへへぇ」 「ハッ、そうか。ならばここから歩いていく」 「マジっすかっ!? ちょっと、旦那っ。出直しましょうや」 「引き返したところで勝機はない。得物を渡せ。どこの生徒であろうと、ぶっ飛ばすまでよ」 二輪車に結わえておいた鉄線を掴みあげると、葦原城下町へ向かって歩き始めた。鉄線とはいえ、それはムチのように図太い代物だ。 「旦那っ、せめてもう少し待ちませんかい? 後から追い上げの奴らが来るかも知れませんぜ」 「待ってはいられないようだぜ。見てみろ、どうしても俺の邪魔をしたいらしい。やるぞ、お前らっ!」 ロチェッタ・クッタバット率いる野郎どもは、疲れをまったく知らないようだ。 ▼△▼△▼△▼ アッシュ・グロックから「してやられた」という連絡を受けた七篠 類(ななしの・たぐい)は、葦原の城下町を出立してロチェッタの巣くうとされる西へ進路を取っていた。 「類さん、相手を発見いたしましたわ」 「よし、黒羽。人助けの時間だ」 「……はい?」 魔法のホウキに腰掛けた尾長 黒羽(おなが・くろは)が偵察の報告を終えると、類は使命感にメラメラと燃えたぎり始めるのだった。黒羽はその意図が読めずに横髪を撫でつけた。 「何を企んでいらっしゃるんです?」 「哀れなロチェッタどもを、俺が半殺しにしてやるんだ。アイツらがハイナと正面切ってやりあったりでもしたら、拾う骨すら見当たらなくなるんだぜ」 「素晴らしい建前ですわね、類さん。では、敵情視察を終えたわたくしが援護射撃と参りましょう」 「待て黒羽。何をす――」 黒羽が背負う六連ミサイルポッドという鉄箱が連続して火を噴いて、地平の彼方へと輝く筒を送り込んでいった。 「援護は無事に成りましたわ。さあ類さん、参りましょう」 「お、おう……。よし、これで奴らを一網打尽にすれば、ハイナがアイツらを余裕でブチ倒してしまったがために“弱い者イジメ”の烙印を捺されることもないわけだな、んはははははっ。では征くぞ黒羽、お片付けの時間だ」 「はい、どうぞよしなに」 時を同じくして、ロチェッタを狙う者が忍び寄りつつあった。 ▼△▼△▼△▼ どこからともなく降りそそいで来るミサイルの雨を、ロチェッタは愛用の鉄線“(読み:ごうりきこん)豪兎璃輝魂”を打ち振るって破壊してしまった。 「クッタバットっ、新手だっ」 側方を指さした男の先には、紅い髪をなびかせるセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)を筆頭とした戦士たちと刃を交える者の姿があった。 「メビウスに近寄るからだ、愚か者」 セリスの振るった22式レーザーブレードが、相手の背中を激しく焼いていった。 「うぉぁああちちちちちちっ……て、てめえ、熱いだろうがっ!? メビウスって何だよっ、環か、例のアレがどうしたってんだよっ」 「判らぬのなら、あの世でゆっくりと考えろ」 レーザーブレードでド突かれた男は、額から煙を噴いて卒倒してしまった。 「セリスぅ、助けてくれてありがとうっ」 屈託のない笑みを向ける少女こそ、メビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)その人である。 「油断大敵だぜ、おらあー」 次なる相手が迫ったとき、パートナーのひとりであるマイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)が、いつの間にか設えたドッペルゴーストと口をそろえてこう宣言を始めた。 「お相手しよう。アイ(愛)、ソウル(魂)、アンド、パッション(情熱)、ウィズ・ハーツ(はぁと)!!」 5体と1人のマイキーたちは一斉に散開すると、賊たちの前で忽然と姿を消した。 「分かっているだろう? ステータスなんてただの飾りなんだよっ! ど偉い愚か者は、そんなコトすら解(げ)さないのさあああ――ぃぇすっ! さあ、キミたちにこのボクの存在を見つけられるかなあ」 そこにはマイキーの声だけが存在していた。 「ちっ、なめたマネを……そこかっ!?」 無造作に振るった武器がむなしく空を薙いだ。その男の眼前をかすめて、桃色のチューリップがボトリと地に落ちる。その場で振りあおいだ男の顔面に、ドッペルではないマイキーが、 「イッツア、ショウ、ターイムっ!!」 という叫び声と共に見事な着地を果たした。首の関節が軋む音が響いて、踏まれた男の体が硬直する。 「ボクの勝ちだよ」 シルクハットを指でつまんでマイキーが姿勢をキメると、男はゆっくりと地に倒れ伏した。 「たまにはボクだって、ちょっとぐらいは魅せるんだよ」 そして、倒れた男の顔面からピョンと飛び降りてみせた。 「今日のマイキーはひと味違うな。ステータスって何だ。絶好調って事か?」 「知らなーい。でもマイキーすっごーいっ。いっつもこうなら、花丸あげちゃうよねっ」 「きっと今夜は、世界各地でメテオライト(隕石)が降りそそぐな」 「ホントっ? じゃあ私、とびっきりの願い事を考えなきゃ」 呆気にとられるセリスとメビウスを余所に、マネキ・ング(まねき・んぐ)の瞳が眩く輝いた。 「我はお告げを賜ったのだよ。敵を討て、相手を討つなら、圧倒的な方が良かろう?」 するとマネキ・ングは機晶戦車に乗り込んで、メッチャクチャに砲弾を撃ち始めた。それに感化されたマイキーも同じく機晶戦車を用いて、辺り一面を焼け野原へと変えていった。 「ふたりとも止めないかっ、おいマネキっ! 暴走を止めろっ、メビウスに当たったらどうするんだっ……くそっ、メビウス逃げるぞっ」 「ひえぇええっ。セリスぅ、またいつものノリに戻っちゃったぁ……」 「おいおい、アイツらどっちの味方なんだ? みんな散開だっ、全力で逃げろー。ロチェッタてめーもだ。一網打尽にされちまうっ」 単眼鏡を覗いていた男が、片腕を振り抜いて警告を発していた。 機晶戦車の放つ砲撃は、並のイコンですら沈める破壊力を持っている。 「いくら何でも反則だろうが……ハイナの差し金だというならば、俄然、燃えるがなっ」 砲弾をかいくぐるロチェッタの元に、1台の二輪車が併走した。 「てめぇがロチェッタ・クタバッタリか。こいつぁ、恐れ入ったぜ。サハギン野郎のエラと背びれの立派なヤツでも、そこまで逆立っちゃいねえ」 どうやらゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)は、ロチェッタたる3つ股の鶏冠に驚いたようだ。 「てめぇの鶏冠魂には俺様も……心底惚れちまったみてぇだぜ。ここはひとつ、このゲブー様に任せてくれよ。てめぇが抱えてる事情はさっぱりと忘れちまったがその……成功を祈ってるぜ。たった今から俺とてめぇはモヒ友、モヒカン・マブダチだっ!」 ゲブーは鶏冠の生え際をサッと撫でつけて、力強いサム・アップを掲げた。 「あ、ああ」 「ここはゲブー様に任せて、ハイナのおっぱいを逃さずモノにするんだぜっ! じゃあなっ、クタバッタリっ」 二輪車が激しく咆哮すると、ゲブーは機晶戦車の下へと走り込んでいった。 「オラオラーっ、ゲブー様の必殺・七曜拳が火を噴くぜえーっ!!」 残弾を撃ち尽くした機晶戦車ら一行がどうなったのかは、ゲブー様だけが知っている。 |
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