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リアクション
事態は、フラン・ロレーヌ(ふらん・ろれーぬ)にとって最悪であった。
噂のテロリストが行動を起こした隙に、火事場泥棒的に艦内を物色しようと企んでいたのだが。
「なんで、教導団の艦の中にモンスターがウロウロしているんだよ!」
フラン達の侵入を測ったかのように突如現れた、グールの群れ。
侵入には成功したものの、兵士とモンスターを避けながら走り回った結果、すっかり迷子になってしまった。
「教導団も対応に追われ混乱している様子。ここは無理をせず退くべきですな」
フルリオー・ド・ラングル(ふるりおー・どらんぐる)が冷静に助言する。
「むぅぅ……。せめて、外に繋がる場所に出られれば……、お?」
その時、通路案内板に「格納庫」という文字を見つけた。
「しめた、うまくすれば外に抜けるルートがあるかも」
「で、ですが、警戒も厳しそうですよ……。危険なのでは……」
ベアトリス・ド・クレルモン(べあとりす・どくれるもん)は心配そうに辺りを警戒する。
「このままじゃいずれ見つかっちゃう。危険だけど、行くしかないよ」
フラン達はタイミングを見計らい、警備兵の注意がモンスターに向いた一瞬の隙をついて格納庫まで走り抜ける。
「……しっ」
コンテナの影に身を隠そうとすると、先客の気配がした。
ラングルが武器を構えて警戒し、機先を制して威嚇しようと飛び出す。
しかし相手もかなりの手練。暗闇の中で剣先が交差し、火花が散った。
「……ん。よう、ロレーヌじゃねぇか」
「あれ、ジェニー……?」
先客の正体は、おなじ海賊仲間のジェニー・バール(じぇにー・ばーる)とジャン・バール(じゃん・ばーる)であった。
互いに顔見知りだと解り、警戒を解いて武器を収める。
「あなた達も?」
「まぁ、そんなところだな。しかし、厄介な事になっちまったぜ」
不可解な事に、この格納庫の中はモンスターの気配がしないようだった。
あるいは既に、教導団によって完全に鎮圧されてしまったのだろうか。
「外へのルートがあるかもと思ったが、ここは殊更にやべぇ。教導団の中でも、名の知れた連中がちらほら歩いてやがる」
「え、どういう事……?」
「ある意味、ここが奴らにとっての【お宝】なのかもな」
警備の目をくぐり抜け、格納庫内を進む一行。
どうやらこの格納庫には、イコンを艦載するスペースが設けられているようだ。
しかし現在、艦載デッキにはなにも積まれていなかった。
「このコンテナの中身が、イコンなのか……?」
ジャン・バールは一際異彩を放つ黒塗りのコンテナに目をつけた。
「イコン、か。流石に今日頂くには大物すぎるな」
「ですがこれ、本当にイコンなのでしょうか……?」
ベアトリスが恐る恐るコンテナに触れながら、ぼそりとつぶやく。
「どういう事、クレルモン?」
「なんと言いますか。魔力、とも違うなにか、意思のような……? っ、ビヴィィー!」
突如、ベアトリスは奇声を上げて卒倒した。
「な、なんだっ!?」
「ラングルっ!」
「承知っ」
フランとラングルは互いに背中を合わせ、瞬時に警戒を強める。
それを見てジェニー達も、一瞬遅れで周囲に身構えた。
「そこまでであります、海賊ども」
銃を構えながら、大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)が一行を威嚇する。
「こちら格納庫。侵入者を発見、応援頼む。……むっ?」
剛太郎は眉をひそめる。無線がうまく繋がらない。
「ジャミング……?」
「……どうやら、お仲間は来てくれないみたいだな? どうするんだ、こちらの数相手に勝てると思うのか?」
「むっ……」
ジャン・バールの恫喝に、剛太郎は慎重になりながらも、一歩も退く気配はない。
戦力差を理解した上で、なお躊躇せず任務に忠実であろうとする。
こういった手練が、一番厄介なのだと海賊たちは思った。
「貴殿の覚悟、しかと受け止めた」
「わしとフルリオーが道を拓く。お嬢達は先に行け」
どうやら状況は、教導団側にとっても思った以上に悪いらしい。
ならばここさえ抜けてしまえばこれ以上の追跡はないだろうと踏んだ。
「……参るっ!!!」
神速の踏み込みでフルリオーが剛太郎への距離を一気に詰める。
剛太郎は一切の躊躇なく引き金を引いた。
フルリオーの剣閃が剛太郎の放った弾丸を払い落とす。
「うおぉりゃあ!!!」
追走するジャン・バールはサイドテップを踏みながら駆け抜け、剛太郎の照準を翻弄する。
「むぅ!」
「獲ったァ!」
ジャン・バールのビーチパラソルが剛太郎を襲う。
「ジャン! 上からくるぞ!」
「ぬぅっ!?」
頭上の死角から放たれた弾丸を察知し、ジャン・バールは咄嗟に後ろへ飛び退く。
「大丈夫、お兄ちゃん!?」
鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)が、デッキ上から飛び出し、剛太郎の援護についた。
「気を抜くな望美。こいつら、只者じゃないであります」
「えぇそうね。召喚術に通信妨害。ここまで用意周到に攻めてくるなんて、目的はなにかしら?」
「うーん、買いかぶってもらえて悪い気はしないんだが、そっちはあたしたちじゃないんだけどなぁ」
ジェニー・バールは申し訳なさそうな表情で、ぽりぽりと頬をかいた。
「いずれにせよ、ここは最重要機密区域よ。外部の人間を、無事に帰すわけにはいかないわね」
互いに牽制しあい、膠着状態が続いた。
それを破ったのは、艦全体を包む巨大な振動だった。
「うわぁ!?」
艦は大きく傾き、格納庫内に積み上げられたコンテナが崩れ落ちた。
「望美っ!!!」
剛太郎は咄嗟の判断で望美の手を引き、崩れ落ちるコンテナから逃れた。
その混乱に乗じて海賊たちは、剛太郎達の追跡を逃れて姿を隠したのだった。
「……けほっ、ごめんなさい、お兄ちゃん」
「仕方ないであります。それにしても、今の揺れは一体……? 外で何が起こっているでありますか……?」
「ブリッジとの連絡も繋がらないし。さっき長曽禰中佐のおっしゃってた、用心しろって、この事……?」
「……今は無闇にこの場を動かないほうがよさそうであります。ところで望美」
「うん? なに、お兄ちゃん」
「……大きくなったでありますな」
「……ふぇ? き……――っ!」
望美は思わず、胸を押し付ける密着状態の姿勢から剛太郎の頬を平手打ちした。
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