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【4周年SP】初夏の川原パーティ

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【4周年SP】初夏の川原パーティ

リアクション

「賑やかですね」
 川の家のVIP席から、東京都知事のミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)は外を見ていた。
「うん、賑やかなの、好きだろ?」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が尋ねると、ミルザムは笑顔で頷いた。
「それじゃ、準備出来たから行こうぜ。迎えに来たんだ」
「準備?」
 不思議そうな顔のミルザムを、シリウスは外へと連れ出す。
「告知もしてあるんだ」
 シリウスが案内した先には、ステージがあった。
「『シリウス』の名で。……オレの本名シリウスだし、嘘じゃないだろ」
「……そうですね」
 広くしっかりと作られたステージを見て、ミルザムは戸惑っていた。
「簡単だけど、お前のステージだ」
「……」
「衣装持ってきてるか?」
 シリウスの言葉にミルザムは少し迷いを見せたあと。
「実は……」
「実は?」
「そういう機会もあるかもしれないと思って。用意してきました」
 ミルザムが眼鏡をとって、笑顔を見せた。
 彼女の顔が、真面目そうな表情から、健康的で明るい女性の表情へと変わっていく。
「それじゃ、着替えたら開演だ〜」
「ええ!」

 ミルザムが準備してきたのは、いつもの衣装ではなくて、今の彼女の美しさを魅惑的に引き出す衣装だった。
「……始めようか」
 竪琴を手に、シリウスが言う。
「演奏、してくれるのですか?」
「ああ、任せてくれ。自分のしたいこと、オレもやるよ」
「自分のしたいこと?」
 ミルザムに強く頷いて、シリウスは竪琴を軽く弾いた。
 ポロン、と綺麗な音が響く。
「お前の為に作曲し練習してきた。今日はオレの曲で踊ってくれないか?」
 シリウスの言葉にミルザムの瞳が輝く。
 そして彼女は強く頷いた。
「よろしくお願いします」
 彼女がステージに立つと、拍手が湧いた。
 シリウスの竪琴の演奏に合わせて、ミルザムは美しく伸び伸びと、軽やかに踊る。
 事前の告知を見て訪れた人々だけではなく。
 バーベキューを楽しんでいた人達も手を止めて、シリウスの曲と、美しい女性の舞に心を奪われていった。

○     ○     ○


「リコ、今よ!」
「OK、美味しく料理してあげるわ!」
 未だ、美羽と理子は意気揚々と巨大魚と戦っていた。
 戻ってきた優子も一緒にすっごく楽しそうに挑み、解体している。
 その様子をしばし無言で見ていた煌びやかな軍服姿の男――シャンバラ国軍総司令金 鋭峰(じん・るいふぉん)が低い声で、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)に「神楽崎を呼べ」と言った。
(マズイ。これは多分、優子さん叱られるわ……)
 ひやひやしながら、ルカルカはロイヤルガード隊長の神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)を呼び寄せた。
「貴様は、何の為に先にここを訪れた。代王の安全を守るためではないのか」
 いつも通りの鋭い目、厳しい口調で鋭峰は優子に言った。
 鋭峰は、パートナーの羅 英照(ろー・いんざお)と共に、教導団員のルカルカ、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)達を伴いイルミンスールで開かれた会議に出席していた。
 代王の理子も出席した会議だ。
「お言葉ですが、金団長。団長の格好こそ、この場に相応しくないものと存じます。
 ここがどこで、このパーティがどのような目的で行われているか、ご存じでしょうか?」
 ひるまずに優子は意見する。
 ……というか、解体に戻りたくてうずうずしているように見える。
「そうそう、金団長……とゆーか金ちゃん!」
 後からやってきた理子がびしっと鋭峰を指差す。
 理子の姿はキャミソールにショートパンツ。
 水着と変わらぬ姿に、鋭峰は眉間に皺を寄せた。
「一応パラ実分校主導のイベントだしね。軍服はイメージ悪いわよ。むしろその顔自体イメージ良くないけどね。笑って笑って」
「殿……理子さん、それはさすがに」
 手を伸ばして鋭峰の顔をひっぱろとうした理子を優子が止める。
「無礼講で楽しもうって場だから、そんな堅苦しい格好やめて、一緒に遊びましょ?」
 にこっと理子が鋭峰に微笑みかける。
「最低限の秩序を保つためには、最低限の監視が必要だ。今回は私達がそれを担っているまで」
 英照がそう言うと。
「でも、いつもそんなんじゃ、気が休まらないでしょ」
 理子がちょっと心配そうな顔で鋭峰と英照を見る。
「いえ。……感謝いたします」
 優子は2人に頭を下げ、ルカルカに目配せをすると理子を連れてその場から離れる。
「……あそっか、あたしがちゃんと休暇をあげればいいのね」
 現在の軍のトップは代王の理子なのだから。歩きながら理子はそう思うも……同時にそれがとても難しいことだとも気付く。
「とはいえ、そんな余裕ないのよね。……いつもありがとね。感謝してるわ!」
 振り向いて理子が鋭峰に手を振ると、鋭峰は軽く苦笑いをして飲み物に口をつけた。
「遊んでいるように見えますけれど、お2人とも民を巨大魚から守るために戦っていたのでしょう」
 ルカルカが2人をフォローする。
 活き活きと楽しんで戦っていたということが、一目瞭然だったけれど。一応フォローしておく。
「あ、団長、あちらで踊ってらっしゃるのは……」
 ルカルカが手を向けた方向に、鋭峰が目を向ける。
 そこには、ステージで楽しそうに艶やかに踊るミルザムの姿があった。
 彼女の踊りを観る人々の目も輝いていた。
 パーティを楽しんでいる若者達も。
 水遊びをしている人達も。
 皆、きらきら、輝いているように見えた。
 若者達を見る鋭峰の目が、少し優しくなったことにルカルカは気付く。
 そして、鋭峰は上衣を脱ぐとルカルカに預け、シャツのボタンを一つ外した。
「皆、楽にするように」
「はっ、了……いえ、わかりましたっ」
 ルカルカは元気に返事をして、鋭峰の軍服を大切に抱えたまま、上衣を脱いで楽な姿になった。
「そろそろ焼けるぞー。宴会始めようぜ。神楽崎も飲んでけって、アレナも呼んだし」
 少し離れた位置で、串に刺した食材を焼いていた朝霧 垂(あさぎり・しづり)が大きな声を上げた。
 途端、ルカルカはびくうっと震える。
「こっちも食べごろだよ〜」
「飲み物も冷えてますよ」
 より近くで肉と野菜を焼いているエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)の言葉を聞いた直後。瞬時にダリルは2人の元に向かい、紙皿に鋭峰と英照の分の肉と野菜を貰う。
「食べ物はこちらには十分あるからな」
 焼けた分全て貰って、ダリルは鋭峰達のテーブルへ戻ってきた。
(ナイス、ダリル! この幸せな雰囲気を守らなきゃ)
「ささ、熱いうちにどうぞ〜」
 ルカルカは皿に取り分けて、鋭峰と英照にそれぞれ渡した。
「ウィスキーに日本酒に梅酒にワインにカクテル!! いろいろ用意したよ」
 垂が担当しているコンロの側で、ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)が酒の瓶を取り出していく。
「ん? 未成年もいるのかな? でも大丈夫、大丈夫」
 ルースはグラスに適当に酒を注いでいく。
「これはきもちよ〜くなれるジュースだから!」
 そして、トレーに乗せると配って回る。
「垂ちゃんも、ルカもメルヴィアも飲んでみなさい」
 まず渡したのは、呼び寄せたメルヴィア・聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)だ。
「きもちよ〜くなるジュース? ありがとぉ」
 にこっとメルヴィアは微笑んだ。
 彼女は今、寂しがりのメルメルモードになっていた。
 さっきこっそりルースが彼女のプラチナブロンドの髪を結んでいる、リボンを解いたせいだ。
「ごめん、今度呑みに付き合うから許して」
 ルカルカは鋭峰に付き添っている今も、仕事中でもあると考えている為、酒は遠慮した。
「ならば、私が戴こう。ジンの分も頼む」
 返そうとするグラスを受け取ったのは、英照だった。
 すぐに鋭峰の分の酒も注がれ、酒を飲まない者はジュースを注ぎ、一同は乾杯をする。
「ところで、団長と参謀長……酒が強いのはどちらの方なんですか?」
 乾杯後、一口ノンアルコールビールを飲んだ後でダリルが尋ねた。
 その問いに、鋭峰と英照が軽く顔を合せる。
「判らんな。試したこともない」
「互いに飲まれるほど飲むようなことはないからな」
 2人とも酒に関しては、徹底した自制を怠ることはないようだった。

「次の肉が焼けるまで、もう少し待ってくださいね」
 エースが、鉄板に肉を並べていく。
「お父様、あまり他の人には迷惑かけないでくださいね」
 エオリアは冷たい水を、犬の姿の吉井 ゲルバッキー(よしい・げるばっきー)に飲ませていた。
(あまりというか、迷惑なんかかけるわけないじゃないか。肉はまだか、にくー)
 コンロの側で、しっぽを大きく振りながらゲルバッキーは肉を待っている。
「本性か演技かわからないけれど……か、可愛い……」
 エースは野菜を並べ終えると、しゃがんでゲルバッキーを撫でまわしていく。
(撫でるな、暑苦しいー)
 と言いながら、ゲルバッキーはエースにじゃれてくる。
「ホントにただの犬のようだな」
 トングで肉をひっくり返しながら言ったのは馬場 正子(ばんば・しょうこ)だ。
 VIP席で要人と歓談していた彼女を誘って連れ出したのはエースだった。
「しかしこれは、犬に食わせるのはもったいない肉だな」
「正子さん、料理が上手だからね。気合入れていい肉を選んできたんだ。栄養バランスも考えて、野菜やキノコも沢山用意したよ」
 ゲルバッキー犬をまふりながら、エースが言う。
 タッパーの中の肉の他に、大きなざるの中に沢山の野菜が入っている。
「上手といっても、焼くだけだがな。……とはいえ、タレは用意してきたぞ」
「え? 手作り?」
「無論だ」
「それは楽しみだな」
「良かったですね、お父様。美味しいタレで美味しい肉が食べられますよ」
 エースと一緒に、エオリアもゲルバッキーの頭を撫でる。
(わんわん。それは嬉しいわん)
 ゲルバッキーのわざとらしい吠え声に、一同笑みを漏らす。
「あまり無茶して寿命縮めるような事はホドトボにしてくれよ」
 そう言いながら、エースはブラシを取り出して、毛づくろいをしてあげる。
「こんにちは」
 そこに、トレー持った少女が近づいてきた――川の家で、売り子をしているアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)だった。
「どうぞ。溶けないうちに、食べてください」
 アレナはエース達に、差し入れの一口サイズの氷アイスを渡していく。
「ゲルバッキーさんも、どうぞ」
 しゃがんでアレナはゲルバッキーの口に、アイスを入れてあげた。
(暑くて暑くて仕方ないと思ってたんだ! さすが気が利くなサジタリウス〜)
 ゲルバッキーの言葉に、アレナはにこっと笑みを浮かべると、頭を下げてルカルカ達のところへアイスを届けに向かって行った。
「……サジタリウス……十二星華ですね。彼女もお父様製なんです?」
 エオリアが聞いてみると、ゲルバッキーは。
(さあ。見たこともない娘だよ)
「……嘘をおっしゃいますと、お肉お預けですよ?」
(うー。十二星華はいくつか手がけた気がするけど、あの娘を作ったのは僕じゃないよ。調整したことくらいあったかな。いただき)
 ジャンプして、ゲルバッキーは焼き終えて皿に乗せられたばかりの肉をくわえる。
(あちっ!)
「熱いに決まってます。もう……」
「しつけがなってない犬だ」
 エオリアと正子が苦笑する。
「後で診させてください。勉強の為にも」
 獣医の卵のエースもそう言って微笑んだ。

紫月達が獲ってきた、新鮮な食材だぜ!」
 垂は焼けた串焼きを大皿に乗せていく。
「美味しそうに焼けましたね」
 垂に誘われて訪れたアレナが飲み物を手に、にこにこ微笑んでいる。
「メルヴィア、どんどん食べるといい。酒も沢山あるからな」
「うん、梅のジュース、美味しかったよぉ。お代わりしたいなぁ」
「そうかそうか、どんどん飲みなさい」
 ルースが串焼きをメルヴィアに渡して、空になったグラスに梅酒を注いであげる。
「ありがとぉ」
 メルヴィアは嬉しそうに微笑んで、梅酒を飲み、串焼きを口に入れた……。
 途端、彼女の顔から笑顔が消える。
「……メル、これ食べられない」
「ん? どうしたんだ?」
「あげる!」
「嫌いな食材でもあったか?」
 ルースの問いに、メルヴィアは首をふるふる横に振る。
 匂いを嗅いでみたが、普通だし。
「うん、丁度いい焼き具合だ! やっぱこういうところで食べる料理は美味いな」
 同じ食材の串焼きを、美味しそうに垂が食べていることから、食材に問題があるわけでもないらしい。
「あ、タレか、タレが口に合わなかったか〜。どれ、馬場校長のタレを貰ってきてあげよう〜」
 と言い、ルースは酒を手にエース達の方へと行き、酒を提供し、タレを貰ってきた。
 たっぷりタレを付けて、はい。とメルヴィアに渡すも。
 一口食べて、メルヴィアは首を大きく左右に振る。
「むーりー。わかんないけどむーりー」
 何故だかわからないが、それは恐ろしく、不味かった。
「どれどれ」
 ルースは、まずタレの味を確かめてみる。
 うん、とっても美味しい。
 続いて、タレの着いたピーマンを食べてみる。
「なんだこの、オキシドールのような味は」
 とりあえず飲み込む。
「……雑巾と肉、間違えたのか……?」
 見かけは確かに肉であったものは、雑巾のような硬さと味だった。
 とりあえずそれも飲み込む。
「これは、スポンジ?」
 シイタケのような形をしたものも飲み込む。
「さあさあ、どんどん食べてくれよー!」
 どさどさっと、垂がルース達の皿に串焼きを乗せていく。
「メル……そっちのお魚欲しいーっ。沢山いれてぇ」
 メルヴィアは、串焼きを全部ルースに任せると、優子が焼いている魚を強請った。
「あ、どうぞ」
 優子はメルヴィアの皿に焼いた切り身を乗せながら、訝しげな顔をしている。
 優子もアレナも、垂が焼いた肉を一口食べたのだが……言葉では言い表せない味だった。
「あの……優子さんの分、私焼きますね……!」
 しらばらくアレナは不思議そうにコンロを見ていたが、食材を引き寄せて自分で焼こうとする。
「いやいや、任せてくれ。アレナは川の家で働いてるんだろ? 休憩時間くらいゆっくりしていけって」
「いえいえ、焼きたいので焼かせてください……っ」
「アレナは働き者だなー。それじゃ、神楽崎の分は任せた。残りは俺が焼いてやるからな!」
「し、垂ちゃん、いい子だからこっちにおいでー」
 ルースがにっこり微笑んで垂を呼ぶ。
「ん? なんだ」
 焼きたての串焼きが乗った皿を手に、垂はルースに近づいた。
「まあ、のんでのんでのんでのんで!」
 ルースはだばだば垂のグラスに酒を注いでいく。
 垂に焼く暇を与えてはいけないようだ。
 彼女の料理は何故か殺人的だ。
 見かけは美味しそうなのに。
 自分自身は美味しく食べられるのに!
 他の誰もが受け付けられない味なのだ……!
「……普通に焼けましたー。はい、どうぞ」
 自分で焼いた串焼きを一応味見してから。
 アレナは、優子、メルヴィアの皿の上に串焼きを置いていく。
「こっちはまだ沢山あるから平気〜。ルース、どんどん食えよ!」
 垂の皿には沢山自分で焼いた串焼きが残っていたので、見張り担当となったルースも美味しい肉が食べられずにいた。
「はい、どーぞぉ」
 そんな彼に、メルヴィアが味見をした串を差し出した。
「ん、ありがと」
 あーんと口を開けて、ルースは、美味しい肉を食べさせてもらったのだった。