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魔女のお宅のハロウィン

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魔女のお宅のハロウィン
魔女のお宅のハロウィン 魔女のお宅のハロウィン 魔女のお宅のハロウィン

リアクション

「おかしくれないと、いたずらするぞー」
「おかしはいらない、べつのものくれー」
 幼児化したブラヌと悪友たちが、女の子を追い掛け回し、写真に収めている。
「おかしはおとなにもらいにいくんだよ! あたしはいま、こどもだからあげないよー」
 幼児化した秋月 葵(あきづき・あおい)はさっきからずっと、ブラヌ達に追い掛け回されている。
 彼らはどうやら、スカートの子をターゲットにしているようだ。
「おまえはホントはおとなか? よーじょか? パンツみせてみろ」
「あたしは、まほーしょーじょあおいだよ。パンツはみせないよー♪」
 あっかんべーしてあおいは走っていく。
「あはははははっ♪ あたしは、まほーしょうじょだから、かんたんにはつかまらないよ〜♪」
 小さな姿の葵は、すばしっこく人々や木々の間を駆け回っていた。
「ううっ、すばしっこいやつだ。あれはようじょの走りじゃねえ」
「でもかわいーから、しゃしんとっとこ」
 ブラヌ達は走る葵の写真数枚を撮って、彼女のことは諦めることにした。
「ブラヌ〜、おかしもらったよ。しゃしんもたくさんとれたし、きゅうけいにしませ……しよーぜー」
 パンプキンヘッドの被り物をした子供が、お菓子が入った袋を見せて、ブラヌ・ラスダーの手を引っ張る。
「そうだな、そろそろきゅうけいにするかー……ん?」
 言って歩きかけて。
 ブラヌは「やったー」と自分の手を引っ張って嬉しそうにしているパンプキンヘッドの子供を訝しげに見た。
「お、おまえ……もしかして」
「あっ!」
 かぼちゃの被り物を、ブラヌは両手で持ち上げて脱がした。
 中から現れたのは、黒髪黒目、褐色の肌の女の子の顔。
「ぼ、ぼたん」
 びっくりして、ブラヌは足を後ろに引いた。
 そう、それはブラヌの妻の牡丹・ラスダー(ぼたん・らすだー)だった。
「あはは〜、ばれちゃいました〜」
「あ、あははじゃねーーー。しごとについてくんなよ。は、はずかしいだろっ」
「ブラヌさん……わたしといっしょ、はずかしいですか?」
「そ、そうじゃなくてっ。ほ、ほら……こういうしごと、おまえ、いやだろ?」
 カメラを手に、ブラヌはすまなそうな顔をしている。
「よくわかんないです。でもたのしいです!」
 幼児化しているせいで、牡丹は女の子と沢山おいかけっこして楽しかったくらいにしか感じてなかった。
「そうか? それならいいけど……うん、もうきょうはしごとはおわりにしよう。おやつたべよーぜ」
「そうだな、はらへったー!」
「かし、くいたい!」
 悪友たちも賛成をする。
 でも、ブラヌたちは女の子を追い掛け回してばかりで、あまりお菓子を貰っていなかった。
「よし、ログハウスしゅうげきだ!」
「おー!」
「おーです!」
 牡丹も悪ガキたちと同じように拳を上にあげて。
「いくぜー」
「とりっく……おおおおかし、すとりーと!」
「とらっく、おわっとりーとりー!」
「いきますー、とりっくおあとりーすと」
 一緒にログハウスに駆けて行って、中にいた大人たちから、お菓子を貰うのだった。

 パシャ、パシャ――。
「ん、ようやくぼたんのしゃしんものせるきになったか!」
「そーそー、てめーはぼたんのしゃしんで、しゅーきゃくすりゃーいいんだよ」
 牡丹がお菓子を貰っている最中。
 ブラヌは牡丹の写真を撮っていて、悪友たちに左右から小突かれていた。
「ぼたんのしゃしんはしごとにはつかわねーの。これは、おれのかんしょうようだ」
 小さな声でそう言って。
「ブラヌさん、とってもあまいおかしもらいました! たべましょう〜」
 振り向いて笑顔を見せた牡丹を、またパシャリと写す。
「へへへっ、よしてっしゅーだ。あっちで食おうぜ〜」
 残りの時間は、他の子供達と同じように、沢山遊んで、食べて。
 そして、牡丹の可愛い姿を沢山撮って帰ったのだった。

「かしくれないとイタズラするぞー」
 吸血鬼の男の子が、吸血鬼の格好をした女性に両手を差し出した。
「ふむ……よし、お菓子をあげましょう。で、も。あたしもトリック・オア・トリートメント〜」
 言って、吸血鬼の姿をした女性――リン・リーファ(りん・りーふぁ)は男の子の髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
「ぎゃーやめろ! おとなはおかしあげるほうだろ! きょーはこどもはたべほーだいなんだ」
 その男の子――4歳児と化したゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)は貰ったお菓子を沢山さげて、とっても嬉しそうだった。
「でも、あまくないのならわけてやってもいいぞ。おねーさん、きれーだし」
 言って、ゼスタはスナック菓子をリンに差し出した。
「おー、ありがとう! このチーズ味のスナック美味しいんだよね。でもあたしは、お菓子も貰うけど、悪戯もするよー」
 リンは小さなゼスタを抱きかかえると、ぎゅっと抱きしめた。
「は、はなせーっ」
 ゼスタは少しの間暴れていたが。
「……んん? リン? いつもよりちょっとおおきい?」
 ぺたぺたリンの身体を触りつつ、尋ねてきた。
「あははは、ずっと前から見てたけど、ぜすたん全然気づかないし〜。そろそろ戻ろうかなと思ってたところ」
 リンはゼスタを下ろして、屈んでみせる。
 リンは、普段は着ない、胸元が大きく開いた服を着て、ショールをかけている。
 スカートのスリットも深く、とてもセクシーな格好だった。
「んー? めになにかいれてる? かみはかつら?」
 ゼスタは訝しげな顔でリンを見ている。
 声と匂いでリンだと気づいたのだが、どうみても彼女は別人だった。
 普段の彼女は、シャギーで、焦茶の髪に、赤い瞳の、14歳くらいの外見の魔女だ。
 でも今は、赤いウェーブがかかった髪に、深い緑の瞳だった。
「うん、リーアさんが開発した、大人化する薬を飲んだの。髪はウィッグ、目にはカラーコンタクトいれてるよ」
「それはずして! いつものリンのおとなのすがた、みたい」
「よしわかった、外すからこれ食べて待ってて」
 リンはクッキーを一枚ゼスタの口に突っ込んでから、ウィッグとコンタクトを外した。
 彼女が変装を解いた時には――。
「うわっ、まてまてまて! 服がヤバイだろ!」
 薬入りのクッキーの効果でゼスタも大人の姿へと変わっていた。
「借りるぜ!」
 慌てて、その辺にいた吸血鬼の格好をした大人からマントを奪う。
「ふう……」
 間一髪変質者にならずにすんだゼスタは、咎めるようにリンを見た。
「ふむ……大人の体格もカッコいいよ、ぜすたん」
 ゼスタは筋肉はあるが、若者のどこかひょろりとした体型だった。
 でも、薬を飲んで大人と化した彼は、がっしりとした男らしい男性の姿になっており、チャラさが抜けていた。
 彼は多分、自分とは違って、そのうちこんな外見に成長するかもしれない。
(ちょっと楽しみかも?)
「サンキュ〜。それじゃこれからは大人の時間?」
 ゼスタがリンを悪戯気な目で引き寄せた。途端。
「おとなのおやつの時間だね!」
 パクッとリンは元に戻るお菓子を食べて、いつもの10代半ばの姿に戻っていた。
「って、折角大人同士になったんだから、もう少し魅惑的な……」
「トリック・オア・トリート! ぜすたん」
 リンがにこっと笑って、両手をゼスタに差し出す。
「は、はははは……っ、それじゃ、いつものように一緒に甘い菓子食うかー。お互い、悪戯はここまでにしてな」
 ゼスタの大人の手が、リンの頭に乗せられた。
「うん!」
 リンは笑顔で頷いて、一緒にテーブルへと向かった。
 そして2人は、甘いお菓子を分け合って、甘くて楽しい時間を過ごしていく。

「いろんなかっこーしたこたち、たくさんいるね!」
「みんな、おかしいっぱいもってる。いいな〜」
 ログハウスから着替えて出てきた小さな子供達が、きょろきょろあたりを見回している。
「はぐれないようにな。ちゃんと前見てあるけよ」
 子供達の前に立ち、先導しているのは瓜生 コウ(うりゅう・こう)だ。
 コウは今日、三角帽子に箒を持った『地球における魔女』の姿をしている。
「おかしちょーだいっていったら、おとなのひとくれるんだよね?」
「おかしくれないと、いたずらずるよーっていうんだよ」
 わきゃわきゃ話をしているのは、イルミンスールに住む本当の子供達だ。
「こーゆーのは(本物の霊が惹かれて)『寄ってくる』コトもあるからな、まあ、普通は大事にはならんが」
 コウは子供化せずに、今日はこの子達の世話に徹することにしていた。
 リーアの家の庭には、お化けの格好をした子供達が沢山いる。嫌な雰囲気はまったくないが、用心に越したことはない。
「さ、行くぞ」
「はーい」
「うん、はやくいこ〜」
「おっかし、おっかし〜♪」
 子供達はコウの足やお尻をぐいぐい押してくる。
「こらこら、焦るなよ、よそ見もするな。お菓子は逃げないぞ」
 やんちゃな子供達に注意を払いつつ、コウはパーティ会場へと入った。
「こっちだ」
 コウは子供たちを先導しパートナーのマリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)に会いに行く――そう、これはコウを生死の境に立つ魔女、マリザを古い信仰の女神に見立て、魔女の夜から女神の朝が来ることにより猖獗する悪霊たちが鎮められるという古来の儀式の再現でもあるのだ。

「とりっくおあとりーと。おかしちょーだい」
 は池の側にいた騎士の格好をした大人――マリザに両手を差し出した。
「はいどうぞ。可愛らしい魔女さん。一人で来たの?
 もうすぐイルミンスールの子達が沢山来るはずだから、一緒に遊んでいかない?」
「うん、あそんでいく〜。あたし、みんなをえがおにする、まほーしょーじょなの♪」
「ふふ、確かにあなたを見ていると笑顔になるわ」
 目を輝かせて笑顔で踊り、くるくる回る葵は、とっても可愛らしかった。
「きしだ」
「よーせーみたいなおんなのこもいるぞ」
「きしさんも、よーせーのきしさん?」
「まあ、そうだな」
 コウは子供達を、騎士の姿をしたマリザの方へと向かわせる。
「それで、大人と会ったらなんて言うんだっけ?」
 コウがマリザの隣に立って子供達に尋ねる。
「えっと、おかしくれないといたずらしちゃうぞ」
「とりっくおあとりぃと?」
「そうそう、トリックオアトリートー! だよっ」
 葵が魔法をかけるような身振りを交えて言い、子供達の顔に笑顔が浮かぶ。
「トリックオアトリート」
「とりっくおあとりーとぉ」
 子供達がマリザに両手を向けて、楽しそうな笑顔でお菓子を強請る。
「はい、どうぞ。お菓子あげるから、悪戯はしないでね、うふふ」
「わーい」
「おかしっおかしっ」
 コウに連れられてきた子供達は、ちゃんと並んでマリザからお菓子を貰っていく。
「つめあわせだ!」
「いろいろはってるね。あたしは、チョコからたべる」
「ぼくは、このおっきいアメ!」
 子供達はマリザから受け取ったお菓子を、嬉しそうに早速食べ始めた。
「あたしは、このまほーステッキのかたちの、チョコレートからたべちゃおっ♪」
「それおいしそー、はんぶんこうかんしよ〜」
「いいよ〜」
 葵も子供達に混ざって、お菓子の交換をしながら楽しく食べている。
 ほっと息をつき、コウはマリザへ近づく。
「……それにしても、オレが魔女でマリザが騎士……ってこれ仮装って言うのか?」
 コウはもとより魔法使い。
 マリザはシャンバラ古王国の騎士だ。
「細かいことはいいじゃない、楽しみましょう、ほら、子どもたちも喜んでるわ」
 マリザがくすりと笑みを浮かべる。
「ねー、まじょのおねーちゃんは、おかしくれないの? とりっくおあとりーと?」
「え? んー……オレは先導役だから……」
「魔女のおねーちゃんも、良い子にはお菓子くれるそうよ」
 子供達にせがまれ困るコウのポケットに、マリザがお菓子をそっと入れてウィンクした。
「ええと、それじゃ、いたずらしないから、おかしちょうだい」
「いいこにしてるからおかしちょーだい」
 子供達がわーっとコウと取り囲む。
「よし、それじゃとっておきのお菓子をあげよう。ジュースも貰ってきてあげるから、みんなはここから離れないように、な」
「はーい」
「うん! もりのなかには、ほんもののおばけがいるかもしれないしね」
「おばけ、このなかにまじってるかもねー」
 コウからもお菓子を貰って、子供達は「おまえがおばけかー」などと言い合いながら、楽しく笑い合っていた。

「どうぞ、大人のお菓子よ」
 飲み物も貰って戻ってきたコウに、マリザがワインチョコを渡した。
「ありがとう。ワインで乾杯ってわけにはいかないもんな」
 くすっと笑い合い、コウとマリザもチョコレートを食べながら、子供達を見守り、共に楽しむのだった。