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魔女のお宅のハロウィン

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魔女のお宅のハロウィン
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リアクション

「なんだ、ゆうこ、きがえてきたのかー」
 諸事情によりログハウスに着替えに行っていた3歳児のゆうこ(優子)が戻ってきた。
「うん、へんじゃない?」
 真っ黒な上下にコウモリの羽をつけた姿だった。
「おお、へんじゃないぞー。かっこいいぞ」
 吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)がそう言うと、ゆうこはちょっと恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「りゅーくん、おちむしゃ? おもしろい」
 竜司の侍のお化けの格好、ゆうこは気に入ったようだった。
「でもどうしてきがえたんだ? やんちゃしすぎて、よごれたのか?」
「ううん。くるしそうなひとがいたから、パンツあげたの。だからついでにきがえたの」
 ゆうこの説明は良く分からなかったが、無茶して汚れたわけではないらしい。
「そうか、こまってるひとをたすけたのか。ゆうこはえらいな〜。でも、ひとりでがんばりすぎちゃだめだぞ。つかれたら、かぞくみんなでぎゅーってしてやるからなー」
「かぞく?」
「ぶんこーのみんな、ぜんいんゆうこのパラミタのかぞくだからな! オレもまもってやるからあんしんしろよー」
「へへっ、りゅーくんいっしょなら、ゆうこむてきだね」
 にこおっとゆうこは笑みを浮かべた。
「よおーし、きょうはいっしょにむしゃしゅぎょーだ。おだいかんさまをせいばいしまるくぞー!」
「うん! ゆうこいっぱいしゅぎょうして、つよくなっていちばんになる!」
 ゆうこは小枝を拾ってぶんぶん振り下ろす。
「そうか、いちばんだな。ゆうこはオレのいちばんのおヨネさんだからな」
「うん、ゆうこ、りゅうくんとおヨネさんしたい!」
「おヨネさんになったら、ゆうこは「せんぎょーしゅふ」と「ともばたらき」のどっちがいいんだー?」
「えーとえーと?」
 竜司が言ったことが良く分からなかったらしく、ゆうこは首をかしげている。
「かじをがんばるのか? それとも、はたらくのか?」
「ゆうこ、かじ(火事)やだ! おとなになったらたくさんよなおしするよ!」
「そうかそうか、ともばたらきだな」
 家事は分校の皆でやるから問題ないなと1人竜司はうんうんと頷いていた。
「それじゃ、わるいおだいかんせいばいしよ!」
 ゆうこは、辺りを見回して……大人の男を見つけた。
「あれ、わるいだいかんだー!」
「よし、いくぞ」
 走り出す優子に続いて、竜司も走る。
「わるいおだいかんめ、おかしをださないとせいばいするぞ!」
 ゆうこが小枝を手に、立ち向かった相手は――大人と化したゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)だった。
「オレのヨネがせいばいするぞー」
 竜司もゆうこを庇うようなポーズで立ち向かう。
「……は、ははははははっ、おまえら、かわいくなりやがって……はははははっ」
「もしかして……総長さんと番長さん?」
 お菓子を食べていたゼスタが笑いだし、リンも思わずくくくっと笑みをこぼしてしまう。
「こがねいろのおかし、もってるんだろ!? ごくあくだいかんめ!」
 ゆうこは小枝を捨てて、ゼスタに飛びついた。
「はいはい、もってるもってるぜ。……リン、なんか黄色っぽいの頼む」
「うん……これがいいかな。はい、どーぞ。1個しかないから、半分こしてね」
 リンは黄金色のお菓子――スイートポテトをゆうこに差し出した。
「やっぱりもおっておったな! これは……えっと、えっとおう……もらっていく!」
「よし、つぎのだいかんのところにいくぞ、ゆうこ!」
「うんっ」
 ゆうこはもらったお菓子を巾着にいれると、次の大人のもとに竜司と一緒に駆けていった。

 そして沢山黄金色のお菓子を押収したあとは。
「ゆうこ、ホットミルクもらってきたぞー」
「ゆうこは、げんまいちゃもらってきた!」
「それじゃ、くおうぜー」
「うんっ! あちっ」
 1人用のゴザに一緒に座って、夫婦……いや、ふうふう、仲良くおやつを楽しむのだった。

○     ○     ○


 ハロウィン会場には、子供達に連れられてペットの動物も沢山訪れていた。
「キャン、キャンキャン!」
 茶色の毛の子犬――薬で子犬と化した千返 かつみ(ちがえ・かつみ)が、しきりに吠え声をあげている。
「キャン、キャン、キャン!(ナオ! またちょこちょこと走り回って、転ぶぞ)」
 一緒に訪れた3歳くらいの男の子――千返 ナオ(ちがえ・なお)に注意を促しているのだが、ナオは周りに気をとられていて、人にぶつかっては転び、自分のマントを踏んでは転びを繰り返していた。
「おかし、たくさん。いろんなひとたくさん、すごいすごい。きゅーけつきさん、ミイラさん〜」
 ナオはきょろきょろと不思議そうに辺りを見回している。
「わーい、おかしもらった! じょうおーさまとはんぶんこする〜♪」
「あっ」
 走ってきた5歳児のエリオ・アルファイ(えりお・あるふぁい)とぶつかり、ナオは勢いよく転びそうになる。
「キャン!(ナオ!)」
 かつみは急いで尚に飛びついて、クッションになってあげた。
「キャン(うぐっ)。キャンキャン…(だから、気を付けろと……)」
「あー、わんちゃん。きょうもきてたんだね。かわいー」
 自分の下に茶色の子犬がいることに気付き、ナオはぎゅーっと抱きしめる。
「キ、キャン〜(だ、だからぎゅっとするな、苦しいって……)」
「んー」
 むぎゅーっと抱きしめながら、ナオは周りをまた見回した。
 自分は吸血鬼の姿で、一緒に遊んでいるエドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと)は、フランケンシュタインの姿。
 人間体の大人の姿のままのノーン・ノート(のーん・のーと)は、魔法使いの格好をしている。
「うん、わんちゃんもかそーしてあげるね。ほうたいぐるぐるの」
 にこおっと目を輝かせると、ナオは近くのゴザの上に置いてあったマスキングテープを手に取った。
「キャン?(え?) キャ、キャンキャン!(まて、それは包帯じゃない、マスキングテープだ!!)」
 暴れるかつみをナオはマスキングテープでぐるぐる巻きにしていく。
「かわいいミイラさんです」
「キャンキャンキャン!(だから待てって!!) ……キャン、キャキャン!?(……エドゥはどこ行った!?)」
 かつみは必死に逃れようとしながら、エドゥアルトの姿を探す。
「ナオ! わんちゃん!」
 お菓子を貰いにいっていたエドゥアルトが、気づいて近づいてきた。
「あ! わんちゃんがぐるぐる巻きだ!」
「えへへ、ミイラさんかわいいでしょ?」
「ダメだよ、べたべたがわんちゃんのけにくっついちゃう」
 エドゥアルトはナオの手から、かつみを助け出した。
「キャーン……(あぁ、なんとか助かった……)」
 安堵するかつみから、マスキングテープを剥がしていくが。
「ふつうのテープほどくっついてなかったからよかったけど、でも頭のあたりテープと毛がからまってる…………切っちゃおうか」
「キャン……?(え……?)」
 シャキーンと、エドゥアルトは工作用のハサミを取り出した。
「キャ、キャン、キャンキャンキャンキャン! ギャーーーーン!!(待て待て待て!! 助けてくれノーン!!)」
「だめだよー、じっとして」
「じっとしてて! あぶないよ」
 エドゥアルトとナオ、2人にかつみは押さえつけられる。
 そして、テープと一緒に頭の髪もジョキジョキと切られていく……!
「ギャンギャンギャーーーーーーン!!」
 ちなみにエドゥアルトは不器用である。子供の頃は器用、なんてことはなく、当然もっと不器用だ。
「ちょちょちょと待て!」
 大きな鳴き声に気付いて、ノーンが慌てて駆けてきた。
「エドゥ、ナオ、二人して何やってる!?」
「テープ、けにくっついちゃったから、きってるの」
「わんちゃんけがしないように、おさえてるんだ」
 得意げに言う2人から、ノーンはハサミを取り上げる。
「わかった、あとは私に任せろ」
「キューン」
 開放されたかつみは、地べたにぐったりとへばりつく。
「あーあ、毛切られたな……に、人間に戻ったら他の部分で隠れる」
「……クゥン?(……ホントか?)」
「た、多分」
「キュゥー……ン……」
 かつみの頭部の毛はざくざく切られてしまっている……。
「しょうがない、飾りの魔法使いの帽子でもかぶってろ」
 ため息をつきつつ、ノーンは飾りの小さな魔法使いの帽子を外すと、かつみの頭にぽふっと被せた。
「わんちゃんどうしたの」
「げんきないみたい」
 ナオとエドゥアルトが心配そうにかつみを見て、身体を撫でた。
「キュン、キューン……(大丈夫だ、毛は大丈夫じゃないみたいだけど……)」
 かつみは弱い鳴き声を上げる。
「ナオ、エドゥ、子犬は走り回って疲れたからちょっと寝かしてあげような」
 ノーンはそう言って、かつみをゴザへと運んであげる。
「うん」
「わかった」
 2人は素直に頷いて、一緒にゴザに向かって。
 子犬を撫でながらお菓子を食べたり、仮装した人々の姿を見て楽しく過ごすのだった。
 ……ただ、ふとノーンが目を離すと、どちらかが消えてたりしていて、その後も大変だったけど!