空京

校長室

【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行

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【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行
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リアクション

 
「龍騎士団に入団したいという知り合いがいるので許可が欲しい。五秒で納得しろ」
「まあ一つよろしく頼むわ、親父殿!」
「……見苦しい!」
 
「セリヌンティウスはどのような御方だったのですか? これは私の憶測ですが、大帝のパートナーの女性に手を出したとか――」
「愛人100人説、アイリスの幼少時代の家庭教師説、部下の花嫁を略奪説、大帝のパートナーの女性に手を出した説等、噂されていますが真相は――」
「……二度言うな!」
 
「こんにちは大帝様。……はて、タダの一地方でしかないシャンバラを気にする理由はなんなのでしょう? 私が思うに、環菜やドージェのような強い力の存在が一つ挙げられるでしょう。……そして、他にもそんな力の持ち主が居る。……答えにくい質問でしたら、無理に答えなくて結構ですよ?」
「……ならば答えん!」
 
「ここは本当にエリュシオンなのか!? 浦安にあるというネズミーランドから東京湾を挟んで反対側、浦賀にあるエリュシオンランドじゃないのか!? くそっ、そうに違いない! こうなればここが浦賀であるという証拠を掴んでやる――」
「タワー・オブ・ホラーを味わうがいい!」
「いやー! ホラーはいやー!」
 
「あんたにもしもの事があった時、国民は殺した相手にどんな感情を抱くと思う?」
「愚問だ、我が死ぬことなどありえぬ」
「そうか。……ならばここで死ね!」
 
「大帝、質問。シャンバラにはドージェがいる。エリュシオンには誰が居る? 出来りゃ腕前も見せて欲しい」
「武力という一面で鑑みれば七龍騎士であろうが、総合的に見れば我であろうな。我は誰にも負けぬ」
「そうか。……俺は駿河 北斗。ドージェを目指す男だ!」
 
「大帝様♪ 今でしたら吸血鬼と機晶姫、お安くしておきますわよ?」
「マミー、その言い方はあまり好きじゃない――」
「……いらぬ!」
 
「アスコルド大帝こそが、エリュシオンを最も知る人でしょう。ですので、貴方様の口からエリュシオンの歴史について語っていただきたいのです」
「……5000年に渡る歴史を語るに、この紙面では短過ぎる! ……無論だ、我が勝つと思えば、その通りになるのだ」
 
「アスコルド大帝、ここに書かれた言葉を言ってみるのだ」
「ぶるあああぁぁぁ!!」
 
 それからのアスコルド大帝は不機嫌そのものに、アイリスと瀬蓮に変装して龍騎士団に入れてもらう算段を立てたロイ・グラード(ろい・ぐらーど)常闇の 外套(とこやみの・がいとう)、様々な憶測を並べ立てつつ同じ説を二人で言い合ったザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)ボア・フォルケンハイン(ぼあ・ふぉるけんはいん)、一人で質問に来たエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)、何か決定的に勘違いをしている大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)、全力で斬りかかりに行った白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)駿河 北斗(するが・ほくと)、媚を売りに行ったドルチェ・ドローレ(どるちぇ・どろーれ)アンジェラ・エル・ディアブロ(あんじぇら・えるでぃあぶろ)、エリュシオンの歴史について教えてもらおうとしたミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)リリウム・ホワイト(りりうむ・ほわいと)(彼女の質問には一応答えていた)、ネタに走ったリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)を次々と地上へと落としていく。
「落とされてしまいましたか。では、せっかく来たのですし、楽しんでいきましょう。ちょうどあちらから好みのタイプが――」
「エリュシオンに来てまでところかまわず誰彼かまわずナンパしてんじゃねぇっつうの!!」
 落とされた影響を微塵も感じさせず、ナンパに行こうとしたエッツェルを、緋王 輝夜(ひおう・かぐや)の拳が捉えた。
「……やっぱり落とされてきたか。で、どうだったんだい? エリュシオンの親玉さんの感想は?」
「殺しがいのありそうな奴だったぜ。……待っていろアスコルド、お前は俺が殺す!」
 迎えに来た松岡 徹雄(まつおか・てつお)が駆る飛空艇の上で、竜造の顔が狂笑に歪んでいた。
「くっそぅ……何だよ、正面から戦えってんだ」
「はぁ……あのね、相手は一国の王よ? あんたみたく馬鹿正直に正面から殴り合うわけないじゃない。ほら、怪我してないんだったら行くわよ。せっかく来たんだから、観光とか買い物とかしておきたいの」
 悔しがる北斗に告げて、ベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)が最近溜息が増えたなぁ、と自己嫌悪に陥りつつ街中へと向かっていく。
「やはりアスコルド大帝の中の人は、リリの推測で間違いなかったのだ。あの声は聞き間違えようがないのだ」
「あの、リリ? 宮殿に行く前から気になっていたのですが、その、中の人とは一体――」
「ちなみにユリの中の人はアーデルハイト校長と同じ人なのだ」
「もう、穴掘って埋めてしまいたいですぅ〜」
 何やらネタばらしをされたらしいユリが、ユグドラシルの養分にするが勢いでリリを埋めにかかる。
 
「おやおや、随分と荒れているご様子で、聞きましたよ、娘さんに激しく拒絶されたとか」
 そして玉座の間では、頭にセオドア・アバグネイル(せおどあ・あばぐねいる)を乗せて現れたフォン・アーカム(ふぉん・あーかむ)が、睨みつけるアスコルド大帝に恐れた様子もなく、チラチラと煙草をちらつかせて呟く。
「最近は喫煙者に厳しいご時世ですねぇ。ここに来る間も、あちらこちらで禁煙の張り紙やお知らせを見てきましたよ。……宜しければ、喫煙室で珈琲と煙草をツマミに、娘さんのことでも話しませんか?」
「…………」
 無言のまま、アスコルド大帝は玉座から立ち上がる――。
 
『なんでも、お父様のブリーフを洗う時は箸で摘まんで洗濯機に入れるそうな。使うのは風呂の残り湯みたいですよ』
『……風呂の残り湯を使うのは生活の知恵だ、我はそれに対して口は挟めぬ』
『そうそう、最近はあのけしからん乳を狙う不届き者が多いとか』
『あれは妻に似た。妻の作るパンが、あれは好きだった』
『僕にも娘のような子がいて、悪い男に夢中になってないかどうか不安で。お互い娘がいると心配ですね。……煙草、もう一本どうですか?』
『……もらおう』
 
(なんだろう? 向こうからうらびれた父親の哀愁が聞こえてくるよ? 男親って悲しいなあ……)
 宮殿に設けられた喫煙室で黄昏る二人、そして外のベッドで寝かされるセオドアが、そんなことを思う。
 
 それからのアスコルド大帝は、幾分機嫌を取り戻したようで、生徒たちの時に真剣な、時にぶっちゃけた質問にも可能な限り対応していた。
「そう、これが日本の威厳ある父親の伝統、ちゃぶ台返し!」
 言って佐野 誠一(さの・せいいち)が、わざわざ持ち込んだ丸い形の低い机をひっくり返す。
「これは家族が己の主義信念に反することを主張した時に行われる儀式。アイリス嬢が何か言ってきたら、「くぉのバカ娘がぁ!」と怒鳴りながらこれをひっくり返せ!」
「ほう、我が知らぬ文化であるな。そうすることの意味は分からぬが、確かに汝の言う効果は示せるやも知れんな」
 どうやらアスコルド大帝も、ちゃぶ台返しに一定の興味を示したようである。
「だろ? というわけだ、礼の一つに皇女の一人を嫁にくれ――」
 しかし、誠一がそれを口にした直後、床に穴が開き誠一の姿が消える。
「……ハッ! 閃きました! アスコルド大帝! 私を養女にしてください! そして『誠一さんの下へ嫁ぐ皇女』にしてください! これで誠一さんはエリュシオンのお姫様を嫁にでき、アスコルド大帝は実の娘を嫁に出さずにすみ、私は誠一さんの花嫁です!」
 次いで、言っていることは分かるような気がするしかしやっぱり無茶苦茶理論を口にした結城 真奈美(ゆうき・まなみ)も、誠一の後を追うようにして地上に落とされる。
 
「フマナでの龍騎士達の戦いぶりには、真に称揚の念絶えません。ケクロプス殿やスヴァトスラフ殿の戦死にお悔やみ申し上げると共に、彼らの様な忠義の士を喪った陛下の心中、お察しします」
「我も、惜しい戦士を亡くしたと感じている。汝にそのように評されていたと知れば、ナラカに堕ちた彼らも浮かばれよう」
 教導団の正装に身を包み、形式的な言葉を並べ立てて反応を伺う源 鉄心(みなもと・てっしん)に、アスコルド大帝もやはり形式的な言葉で本心を表すことなく応対する。
「……しかし、結局ドージェさんの目的は何だったのでしょうか」
 一方、ティー・ティー(てぃー・てぃー)の言葉に答えるアスコルド大帝は、幾分自分の言葉を言っているかのように見て取れた。
「力を有する者の中には、人間が持つ思考を超越した思考がある、そうとは思わぬかね? ……彼の者もまた、我でも完全に理解し得ぬ思考を持ったまさに神と呼ぶべき存在よ」
 人の言葉を有しない動物の考えていることに想像が及ぶこともあれば、人の言葉を有するにも関わらずそのモノの考えていることに想像が及ばないこともある。
 それが“生物”と“神”の違いであるかどうかに正解はないが、だとするなら目の前の人並み外れた風貌を持つアスコルド大帝は生物の枠内であり、彼よりは人間に見えるドージェは神の枠内ということになるだろう。