空京

校長室

【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行

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【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行
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リアクション

 
 エリュシオン帝国とシャンバラの血を引く者として、いつかエリュシオンを東西シャンバラ関係なく歩けるようになれればいい、と思いを口にするセディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)に続いて、ルナティエール・玲姫・セレティ(るなてぃえーるれき・せれてぃ)がこれまで抱えていた疑念を口にする。
「……陛下、お伺いさせていただきたいのですが、陛下は東西シャンバラとの今後の関係をどうお考えですか?
 もしシャンバラを帝国の領土となさりたいと考えるならば、わたくしたちは祖先の敵と戦わねばなりません」
「ふん、好きにしろ……と返すところだが、まあよい、少々口を滑らせてやろう」
 単なる気まぐれか、アスコルド大帝が言葉を続ける。
「5000年の間文明が途絶えていたシャンバラを、僅か十数年で他国と渡り合えるまでに復興させたのは誰か。
 その者が今後どのような形で我らと相対することになるのか。
 そして、我はエリュシオンの帝である。
 ……人間は勝手な想像をする生き物だ。それが面白くもあるのだがな」
 
「あ、あのさ、もしかしたらこんなこと質問するのバカらしいって思うかもしんないけどさ」
 アスコルド大帝の放つ威容に恐れを抱きつつ、匿名 某(とくな・なにがし)がいくつか質問を投げかける。
「ここに来るまでユグドラシルの中通ったんだけどさ、あの重力干渉っての? あれってここ限定なのか?」
「限定ではないが、これほど大規模なのはここ以外にはないであろうな」
「そっか。んじゃさ、世界樹内部に街作ったのって、やっぱり防衛とか考えての事なのか?」
「歴代の帝は考慮に入れた上で、街を建設したのであろうな」
「うーん……仮にも他国の俺とそんな気軽に会ってくれたのは何故だ?」
「支配者となるやもしれん人物の顔くらい知っておきたかろう? 我なりの配慮だ」
「あ、あのあのえっと、そ、その髪についてる目は飾りですか!?」
 緊迫した雰囲気に耐えられなくなったか、結崎 綾耶(ゆうざき・あや)が思わずそんな質問を投げかけてしまう。しかしアスコルド大帝は意に介さず、綾耶が言う髪についてる目を一斉に動かすことで応える。
「は、はい、ありがとうございます……きゅう……」
 緊張の糸が切れたように、倒れそうになった綾耶を某が支えつつ、二人が玉座の間を後にする。
「シャンバラから勉強に参りました。よろしくお願いいたします」
 続いて玉座の間に姿を見せたリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)が、アスコルド大帝に丁寧にお辞儀する。
「エリュシオンには多くの神が居ると聞いています。是非、お薦めの寺院などありましたら、教えていただきたいのですが」
「それは、下々の者に聞いた方が詳しいであろうな。ここ首都ではユグドラシルが、七つの地方ではそれぞれの選定神が崇められている、までは国として把握しておるが」
「ふーん、ま、それは後で街に戻った時に訊いてみっか。ついでに訊いとくけどよ、エリュシオンの良いところって何だ?」
 カセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)のついでとばかりの質問に、アスコルド大帝はふん、と鼻を鳴らして答える。
「我はエリュシオンの全てが素晴らしいと感じておるぞ? ……帝である我がエリュシオンを下に見ては、他国と対等以上に渡り合えぬのでな」
 
「俺が聞きたい事は、エリュシオン帝国の長を決める、選帝神による選帝の詳細だ。地球じゃなじみがないんでな、可能な限り詳細に教えてほしい」
 アスコルド大帝の前に立った閃崎 静麻(せんざき・しずま)が、外面上は敬意を払いつつも大帝の放つ威光には退くことなく、真正面から対峙する。隣ではレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が、心に穏やかでない感情を忍ばせつつ、平静を保っていた。
「……よかろう。互いの文化の違いを知ることは、今後において意味を成す」
 呟き、アスコルド大帝が厳かに話し始める。
「選帝に関わるのは、エリュシオンの国家神である七柱の選帝神とユグドラシル。これらがエリュシオンを託してもよいと思った人物が、実質上の国家神、“皇帝”として選帝されるのだ。必ずしも高貴な者がなるわけではない。我も元は下級貴族であった。
 歴史の中では、任期は選帝された帝が亡くなるまで。だが、途中で新しい皇帝の素質を持った者が現れた時、禅譲した例もある。複数の候補が出たこともあるが、その場合は多くの選帝神が支持した方となる。
 候補が一人の場合も、過半数の選帝神が認めなければならん。選帝神が認めた後に、世界樹による最終的な承認があって、初めてその者は皇帝と認められるのだ。
 我は選帝神とユグドラシルの全員一致で皇帝として認められた。故に我は他の歴代の皇帝と違い、『大帝』を名乗っている。
 ……理解したか?」
 
「お初に御目にかかります。イルミンスール魔法学校在籍、関谷未憂と申します」
 恭しくお辞儀をして自己紹介を述べた関谷 未憂(せきや・みゆう)が、アスコルド大帝に質問をする。
「差し支えなければ、エリュシオン帝国と世界樹ユグドラシルとの関係について、教えて頂ければ嬉しく思います。これは私の主観ですが、対等な関係の良き隣人、という事になるのでしょうか」
「国としては世界樹を崇めている。世界樹が我らをどう見てるかは、我では見当がつかぬな。国家神とも違う、それでいて人間とも違う存在である以上、人間の考えは及ばんよ」
「……では、ニーズヘッグについてはどのような考えをお持ちですか」
「ユグドラシルを守る守護者として、直接崇められることは少なくとも、蔑む者はそういないだろう」
「はいはーい! エリュシオン帝国ではドラゴンの飼育が盛んって聞いたよ! ということは、ドラゴニュートさんにはドラゴニュート権がないってこと?」
「ちょっと、リン……!」
 回答してくれたことへの礼を言い、下がろうとした未憂を差し置いて、リン・リーファ(りん・りーふぁ)が手を挙げつつ質問する。
「汝の言っていることが分からぬが、ドラゴンの飼育はドラゴニュートから行うものではないのか?」
「……あれ? どういうこと?」
 
 ネタにマジレスするなら、エリュシオンは『ドラゴニュート』を、あくまでドラゴンの幼生と見ているだけであり、シャンバラのように『契約できる一種族』として捉えていないのである。
 『ドラゴンの飼育』と書いたのも、例えば『蝶の飼育』を『イモムシの飼育』とあまり書かないのと同じことである。
 この理論も正しいかどうかは定かではないが、今はそういうことにしてもらえたら幸いである。
 
「一頃は女王の復活とシャンバラ復興を切望しておりました。
 ですが、今では様々な事を経験し、学び、それ故に心が揺らいでおります。
 女王陛下の復活を素直に喜んでいいのでしょうか。もっと何か他に道はあるのではないでしょうか。
 私は何をすべきなのでしょうか――」
 アムリアナ女王の様子を尋ねに来たはずが、いつの間にか人生相談になっていたエヴァ・ボイナ・フィサリス(えば・ぼいなふぃさりす)を、アスコルド大帝が地上に落とす。
「……我に何を言えばいいというのかね」
(あーらら、おねえちゃん落とされちまった。……あれで少しでも、おねえちゃんの揺れる心が決着すればいいんだがねぇ)
 後ろで見守っていた東條 カガチ(とうじょう・かがち)がそんなことを思いつつ、エヴァを迎えに地上へと向かう。
 
「陛下の七龍騎士の武勇伝などを聞いてみたいのです。あっ、ついでにプライベート情報とかも――」
 そんな質問を投げかけた桐生 円(きりゅう・まどか)の足元に穴が開き、地上に落ちる……かと思われたが、頭だけ床の上に出た状態で円がその位置に固定される。諸々の都合で一息に落とすのを躊躇ったらしいかは、大帝のみぞ知る。
「エリュシオンは魔法技術が盛んと聞きましたー。例えば魔法を使ったお薬など、シャンバラに輸出する予定はあるんでしょうかー?」
「胸が大きくなる薬とか開発してないの!? というか開発してください!!」
 オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)の質問に便乗して、円が本人にとって切実な質問を口にする。
「そのようなものは開発されておらんだろうが、我の力で何とかするくらいはできよう」
 言ってアスコルド大帝が、円の髪に何か枝のような者を髪留めのようにして挿す。
「気紛れだ、汝がそう望めば、その通りにしてやろう。もし望んだ場合は、『胸が大きくなった』ことにして設定を変更するがよい。……但し、元には戻らぬぞ。そうそう都合よくはいかぬのだ。……ああ、別の望みを叶えてもらおうとしても我は応えぬ。あくまで胸に関することのみだ」
 何やらとんでもないことを口にして、改めてアスコルド大帝が円を地上に落とす。
「アイリスさんのおかぁさんって、やっぱり胸が大きいんですかー?」
「うむ。あれはパン作りにおいては神に値する才があった。そして娘も、あれの作ったパンが好きだった」
 ありがとうございましたー、とオリヴィアが礼を述べて、地上に円を迎えに行く。
 
「陛下がシャンバラを従わせてでも目指す世とはどんなものですか?」
「エリュシオンを中心としたパラミタの安寧だ」
「……それを、どの様な手段で達成なさるおつもりですか?」
「それは汝ら次第であるな。尤も汝らが何もせぬのであれば、力を以て支配に至るであろうが」
「……陛下の御威光に触れ得ました事に、感謝いたします」
 
 カレイジャス アフェクシャナト(かれいじゃす・あふぇくしゃなと)を装着した真口 悠希(まぐち・ゆき)が退出し、人の姿が消えた玉座の間でアスコルド大帝は、流石に疲れた様子で息をつく。50名以上の生徒を相手にすれば、彼も人間、疲れもする。
 
「……さま? アスコルド大帝さま?」
 自分を呼ぶ声で意識を現実に引き戻したアスコルド大帝が瞳を開けると、直ぐ目の前にヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)の姿があった。それより離れた位置ではセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)が二人の一挙手一投足を注意深く見守り、もし主に危機があるようなら全力で守りに行く準備を整えていた。
「アスコルド大帝さま、どうしたらみんななかよくなれるですか?」
「……それが分かる者がいるなら、我にも教えてほしいものだな」
 アスコルド大帝の言葉は、そのまま人間の生の言葉でもあろう。
 皆と仲良くなりたくないものなどいない。だが、仲良くなる方法など誰にも分からない。故に人は悩み、間違いかもしれないと不安に怯えながら、それでも行動を選択するのだ。
 うーん、と唸っていたヴァーナーが、次の瞬間思い切った行動に出る。ぴょん、とアスコルド大帝の膝下に飛び乗り、両腕を大抵の背中に回して抱きつく。
「……みんながえがおの方がいいと思うです」
 その表裏ない言葉には、人間である以上、アスコルド大帝も否定は出来ない。帝としての威厳を保つために好きにさせつつ、大帝は未だ忘れ得ぬ日々を思い返す。
 決して大きくはないパン屋で、父と母と娘、笑顔を浮かばせながらパン生地を捏ねていたあの日々を――。