空京

校長室

【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行

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【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行
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リアクション

 
「……っと、ここ、学校みたいね。どんな授業してるか見えるかしら?」
「どれどれ……あっ、あそこに子供たちがいるよ」
 エリュシオンの魔法がどういうものなのかを調べようと街を散策していた四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)霊装 シンベルミネ(れいそう・しんべるみね)は、街の学校へと行き着く。敷地の一部を利用して、体育の授業が行われているようであった。
「いっくぞー!」
 ボールを持った子供の一人が、瞬時に敵陣ゴールまでテレポートしてみせる。そこからシュートしようとした所へ、高速で駆けてきた別の子供がボールを奪う。
 その他にも手足が伸びたように見えたり、明らかにシャンバラで見られるのとは異なっていた。
「な、何だか凄いね。子供でこうだと、大人はもっと凄いのかな」
「これが、魔法が溢れる街ってことなのかしら。なんかワクワクしてきたわね。他行ってみましょ!」
 次はどんな光景に出逢えるのかと楽しみにしながら、二人は別の場所へ向けて歩き出す。
 そうやって見ていくと、どうやらここの住民は、規模の大小はあれど誰もが、普段の行動(歩く・走る・物を掴む……)に補正をかけられるように見えた。移動はやはり空間移動が多いが、他にも空を飛べたり、中にはパンを美味しく焼く事ができるとか、ユニークな物も多々あるようであった。
「はい、どうぞ」
「ありがと〜」
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)の手に、出来立てのパンが置かれる。齧り付いたそれは、香ばしい香りと漂うパンの味がして、とても美味しいものであった。
「そっか〜、ボク、どうしても魔法って聞くと、道具とかアイテムとかの方に意識が行っちゃうけど、こういうのも魔法っていうんだね〜」
 地球における人間の発展の歴史は、機械の発達に依る所が大きい。エリュシオンの場合、機械ではなく魔法がその代わりを果たしているのだ。地球では機械の力が人間に均等に行き渡るところを、エリュシオンでは魔法の力が同じようになる。違いは、魔法を行使する人一人一人に個性があり、特徴がある点だろうか。
「先程訪れた道具屋の主人も、そのようなことを言っておったな。どこかに設置されているという大型魔力集積炉は、このために使用されているのであろうか」
 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)の言葉は、かつてアーデルハイトから聞いたことを基にしていた。そしてその通りに、街の人々はその恩恵を受けて日々の生活を豊かにしているようであった。
 戦いに行く必要のない一般住民に、ファイアストームやブリザードは必要ない。機械にも兵器と生活用品との違いがあるように、である。
「うわー、なにこれー。色々あって面白いなー」
 当然、玩具に値するものも、魔法技術で出来ている。というわけで、佐伯 梓(さえき・あずさ)カリーチェ・サイフィード(かりーちぇ・さいふぃーど)は、街の玩具屋へ来ていた。シャンバラだと『魔法の道具店』となりそうなものだが、エリュシオンでは『玩具屋』なのである。他国の観光客向けに作られたものから、普通に使ったら悪用できそうなものまで、色々な品が置かれていた。
「せーの……それっ!」
 ぺこっ、と梓の頭で音がし、背後には何か軽い素材で出来たハンマーを持ったカリーチェの姿があった。
「あはは、痛くなかったでしょ――ってアズサ!?」
 叩かれた梓は、なんと紙のようにぺらり、と薄くなって地面に伏せてしまった。どうしよう、とカリーチェが慌てていると、その内ポン、と元の姿に戻る。どうやらこのハンマーは、叩いた人間をペラペラにするハンマーらしい。カリーチェの持っていたハンマーには『お試し版』とあるから、実際の商品はもっと効果時間が長いのだろう。
「ご、ごめんなさいアズサ」
「ううん、いいよー。カリーチェも好きなんだね、こういうの」
「……そうね。結構、楽しいかも!」
 はしゃいだ様子のカリーチェに続いて、梓も続く。
「……これ……どんな術式を使ってるの? ……分からない……とっても不思議……」
 やはり『話しかけるとオウム返しに話しかけてくる手鏡』を手にしながら、御子神 鈴音(みこがみ・すずね)がその原理を検証しようと試みる。魔法技術が使われているのは確かなのだが、エリュシオンの魔法技術はシャンバラのそれとは大分異なっているようである。
 尤も、メイガスの例があるように、エリュシオンの魔法技術もシャンバラに伝わっている(ただそれは、エリュシオンによるシャンバラの実効支配が進められていることを意味する。支配するつもりのない国に技術を渡せば、それは技術の流出に繋がるからだ)ため、今後は分かってくることが増えるかもしれない。
(うんうん、鈴、すごくウキウキしてるねー。まぁ、根っからの研究家だしねー)
 鈴の頭からぴょこっと頭を出して、サンク・アルジェント(さんく・あるじぇんと)が傍目には分かり辛い鈴の感情を読み取り、楽しんでいることを確認する。
「おっ、あったあった。……うわ! なにこれすげぇ! 浮き出て見える!」
 御弾 知恵子(みたま・ちえこ)が目的の品、パラミタ地図を開くと、主要な場所(主に世界樹)が立体的に表現される。エリュシオンを中心に、南西にシャンバラ、シャンバラの北にコンロン、コンロンの北西にポータラカ。エリュシオンの南にはカナン。南東にはシボラ、東にはティル・ナ・ノーグとマホロバ。余白にはザナドゥとナラカの存在を示す記載もあった。
「あっ、あった! えーと、『ユグドラシル製』!? もしかしてものすごく硬いとか? ……でも確か長生きだって話だし、実はものすごく脆いのかも?」
 一方、修学旅行のお土産のなぜか定番、木刀を探していたフォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)は、ユグドラシル製らしい木刀を『試し斬り可能』と書かれたサンドバッグのような吊り下げられた物に向かって振ってみる。すると、見事なまでに真っ二つに切れた物が、次の瞬間には両端から触手のようなものが伸びて、あっという間に元通りになる。
「……うわー、これもしかして結構危なかったりする?」
 流石、ユグドラシル製である。
 
 エリュシオンにももちろん、生鮮食品や日用雑貨を売る店はある。
 それも首都ユグドラシルとなれば、相応の規模だった。
 
「へ〜、これがエリュシオンのファッションなんだ〜」
 衣料店でエリュシオンの衣装に身を通した秋月 葵(あきづき・あおい)が、鏡の前でくるり、と一回転してみる。自然由来の素材、機能的というよりはゆったり、華やかな感じのデザインは、自身の力+魔法の力で生活をこなすエリュシオン人ならではと言えた。
 ちなみに女性の衣装は、外見だけなら魔法少女のそれに見えなくもない。ただ魔法少女の衣装は夢と希望で出来ているのに対して、こちらは現実界に存在する物質から出来ている違いはあるが。
「うん、これであたしたちもエリュシオン人だね! 次どこ行こっか?」
「そうですね……料理の本など見てみたいです」
 同じくエリュシオン製の衣装に袖を通したエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)の言葉で、とりあえず雑貨屋か本屋の類を探しに二人が街中に消えていく。
「これなんかどうかしら?」
「あ〜そうじゃな……ま、いいんじゃないかの」
「じゃあ、これは?」
「あ〜そうじゃな……ま、いいんじゃないかの」
「ちょっと、ちゃんと見てるの?」
 色々なデザインの服に袖を通して、ヴィクター・ハルパニア(う゛ぃくたー・はるぱにあ)にどれが似合うか見てもらっていた魔桐 千草(まきり・ちぐさ)が、しかし何ともやる気の無さそうな様子のヴィクターに声を荒げる。
 ちなみにエリュシオンでは、パラミタ各地の衣装が運ばれてくることもあって、特に伝統的な民族衣装の類は定まっていない(気候も、ユグドラシルの中は適温に保たれており、一年を通して変化が少ない)ようだが、傾向的には身体のラインを見せない方の衣装が多く広まっているようであった。
「わしは温泉に入って、くっちゃねできればそれでいいんじゃ」
 なんとも老人のような台詞を吐くヴィクターだが、エリュシオンには温泉という文化は(おそらく)ない。同じくシャンバラにもなかったが、地球人(というか日本人)が持ち込んだ所、広まっていったのである。
 
「ロザリンドおねーちゃん、こんなもの見つけたよー!」
 主に食品を売る店頭で、メリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)がいびつな形の食材と思しき何かを持ってくる。
「これは……野菜、でしょうか。ふふ、何だかかわいらしい形をしていますね」
「あっちにもっといっぱいあったよー!」
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)を連れて、メリッサがそれらが置かれているコーナーへ案内する。そこにはおそらく地球と同じ野菜が、しかしちょっと変わった形、色で置かれていた。地球では遺伝子組み換え、機械化によって規則的な形の野菜や果実が出回っているが、パラミタ、特にエリュシオンではある意味自然のそのままの姿で栽培が行われ、出荷されていた。
 ちなみにこれらの野菜や果実は、生で食べるにはキツイものが多い。
「ん? なんだ響、これを俺様に食べてみろって? いいぜ、俺様は好き嫌いはないからな!」
 瑞江 響(みずえ・ひびき)が、買った果実の一つをアイザック・スコット(あいざっく・すこっと)に渡して、食べ物の違いについて調べようとしていた。
「はむ……むぐ、むぐ……??!!」
 果実を口に含んだアイザックが、しばらく口をもごもごとさせると、やがて目を白黒させつつ、言い出した手前吐き出すわけにもいかず、強引に飲み込む。
「ぜぇぜぇ……み、水、水〜っ」
 どうやら、物凄く苦かったらしい。うえ〜、と舌を出すアイザックに謝って、飲み物を探しに行く二人に続いて、今度は聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)キャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)が現れる。
「あれもこれもどれもそれも、みーんな美味しいですわ〜」
「お嬢様の仰られる通り、真に美味でございました。調理法もさることながら、食材そのものが良いからでございましょう」
 既に多くの料理を平らげたにも関わらず、平然とした顔で次の一品を探し求めるキャンティが、思い出したように言う。
「そういえばさっき、エリュシオンのマスコットらしきモノを見ましたけど、あれが人気のマスコットだなんてびっくりですわ。あれはちょっとライバルとして認めたくないですわね」
 キャンティが言っているのは、エリュシオンのマスコット(公式か非公式かは定かではない)、アスコルド大帝の髪というか何というか、あの目がたくさんついてるアレのことである。聖が耳を澄まして周りの話を聞いてみると、時折その話が漏れるのだが何故かとっても小声な上にすぐ打ち切ってしまう所を見ると、他の住民も可愛いとは思っていないらしい。
(……なるほど。そのまま食べるには辛いですけど、調理すると美味しい食材なのですね)
 二組の様子を見ていたロザリンドが、手にした食材を元の位置に戻して、メリッサと共に次の場所へと向かっていく――。