空京

校長室

【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行

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【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行
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リアクション

 
 最後の修学旅行の行き先は、エリュシオン帝国。
 シャンバラ王国とは微妙な関係にある、パラミタ大陸最大の国家。
 
 生徒たちは、名前だけはよく知りつつも実態をよく知らない地へと、期待と不安を織り交ぜつつ出かけていく――。
 
●首都ユグドラシルの『今』
 
 200万の人々が日々の生活を営む、エリュシオンの首都、ユグドラシル。
 シャンバラの一都市とは比べものにならない賑わいを見せる街を、生徒たちは思い思いに見学していく。
 
「早くするですぅ! 早くしないと美味しいものが逃げるですぅ――」
 ユグドラシル内部に入るや否や駆け出そうとしたエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の手を、ミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)が引いてその身に抱く。
「ダメですお母さんっ、皆さんと離れない約束ですよ?」
「ちび、降ろすですぅ。これじゃ私が子供みたいじゃないですかぁ」
 ジタバタ、と手足を振って抵抗するエリザベートだが、ミーミルの力では解放は許されない。というか既にエリザベートの方が子供である。
「やれやれ、一時はどうなるかと思ったぞ。おまえたちの機転で助かったわい」
「いや、ワイバーンやドラゴンに罪はないからな。放っておけなかったんだ」
 アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)の言葉に、七尾 蒼也(ななお・そうや)が答える。彼とラーラメイフィス・ミラー(らーらめいふぃす・みらー)ジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)ガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)による『エリュシオンの名物を食べに行きましょう』提案であっさりドラゴン襲撃を止めたエリザベートは、すっかり食い気満々といった様子であった。
「ジーナ、すまないな。巻き込む形になってしまって」
「いえ、そんな。まだ初日ですし。……先輩と一緒ですから」
 ジーナが顔を赤くして言うと、蒼也もつられて顔を真っ赤にする。
「おやおや。是非ここは、二人だけの時間を確保するためにも、私たちが校長の相手を務めなければいけないようですね」
「うーむ、我はエリュシオンの立法がどうなっておるのかに興味があるのだが……ま、ここは手助けするしかあるまいよ」
 彼らの後ろを、ラーラメイフィスとガイアスが微笑ましく、やれやれと息をつきつつ続く。
「止める私の身にもなってくれ、頼むから……」
「ご、ごめんねエリオットちゃん。リンネちゃん反省っ! してるから許して〜」
 どっと疲れたように息をついて呟くエリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)に、彼に止められる形になったリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)がごめんなさいっ! と謝る。頭を掴まれながら『大人しく私の監視を受けながら観光するか、それとも『人間スタンガン』を浴びて気絶するか』の二択を付きつけられたリンネは、反省して前者を選んだのであった。
 と、リンネの背中をツンツン、とつつく者がいた。
「何だかんだ言ってアイツもあなたが心配なのよ……。ま、ブレーキ役としては結構優秀だと思うし、少しは頼ってあげなさいな……」
 ヴァレリア・ミスティアーノ(う゛ぁれりあ・みすてぃあーの)の言う通り、エリザベートからして行動力があるが故にぶっ飛びがちなイルミンスール面子の中で、エリオットの存在は時に貴重であった。
「うん、そうするよ〜」
 笑って言うリンネ、そしてその背後には、神代 明日香(かみしろ・あすか)ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)の姿もあった。どこか俯きがちな明日香、それを心配しつつ何も言い出せないノルンの横に、前からアーデルハイトがつく。
「あの、これでいいんですか? 私が――」
「それ以上は言わんでもよい。校長の責任を生徒に取らせてどうする。おまえのことじゃ、エリザベートを庇おうとしてのことじゃろ。ま、今日でみっちりと観光のマナーを叩き込んでおくから、明日はおまえたちで好きに遊んでこい。私の言う通りにせぬ場合は、留年措置じゃからな?」
 アーデルハイトの悪戯っぽい笑みに、明日香とノルンが顔を見合わせ、ようやく笑顔を浮かべる――。
 
「校長先生とアシュリング様は、皆様に止められたようですね」
「……竜、居なくなる。止めてよかった」
 エリザベートとリンネ一行を見送って、クレイ・フェオリス(くれい・ふぇおりす)ピアル・アルレイン(ぴある・あるれいん)が街中をのんびりと散策する。流れる風景の中には、彼らが普段見慣れないものばかりが飛び込んでは消えていく。
「……ピアの周り、アレ、無かった。初めて」
「どれどれ……」
 ピアが興味深そうに見つめる先を、クレイも同じように見つめる。そうしていると、ふと自分も昔、こうして両親に付き添われながら同じようなことをしていたような気分に浸る。
「……兄様…――違う、クレイ。どうしたの?」
「……ん、ああ、いえ、ちょっと懐かしい思い出をね」
 意識を現実に戻して、クレイがピアルと共に街中へと進んでいく。
「えっと、サラに似合いそうなのって何だろ? やっぱり髪留めかな?」
「け、ケイ、私は皆のお土産を買いに来たのであって、自分のを買いに来たわけでは――」
「サラ、違うぞ。自分にも気に入った品を買いつつ、相手にも気に入ってもらえそうな品を買ってあげるのが、本当の気遣いだ。もし相手からお土産をもらって、相手が何も買っていないって知ったとしたら、いい気分はしないだろ?」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)にそう指摘されて、サラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)がううむ、と自分の考えを改める。
「そ、そうだな……では……」
 しばらく小物を眺めていたサラが、ある髪留めに目をとめる。今サラが髪の両側に付けている髪飾りよりも一回り大きい、髪を一つに束ねる用に使う髪留めのようであった。
「いつもサイドに留めているのだが、たまには後ろに流してみるのもいいと思ってな」
「そっか、じゃあそれを、俺がサラにプレゼントするぜ。……すみません、これお願いします」
「あ、あのケイ!?」
 突然の事態に焦るサラを差し置いて、ケイがその髪留めを持って会計を済ませに行く――。
 
(ふふふ、よい肴が撮れたのう。夜が楽しみじゃ)
 カメラを持った悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が、愉快そうな笑みを浮かべる。カメラのディスプレイには、ケイにプレゼントされた髪留めを付けてもらっているサラの姿が映し出されていた。
 
「むぅ、残念じゃ。せっかくセリシアにいい土産と思うとったのじゃが」
「だめに決まってますぅ。ちゃんと考えてくださいよぅ……って、どうして僕たちはこんな所にいるですか?」
 少し残念そうな表情のサティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)に続いて、土方 伊織(ひじかた・いおり)が疑問を口にする。エリザベートとリンネが止められたことで、ドラゴン退治とはならなかったサティナの向かった先は、ユグドラシルの地上方面だった。
「確かクマの着ぐるみが落ちていったはずだの。回収しておかぬと後々面倒になるじゃろ」
「た、確かにそうかもです」
 ドサクサに紛れて転げ落ちたモップス・ベアー(もっぷす・べあー)、彼は途中の枝葉に引っかかるようにしていた。ボロボロの外見がさらにボロボロになった気がするが、怪我はしていないようである。
「た、助かったんだな。お礼にエリュシオンの名物スイーツを教えてあげるんだな」
 何故彼がその情報を知っているか分からなかったが、ともかく二人はドラゴンの代わりに美味しいお土産を手に入れたのであった。
 
「おじさーん、お薦めのお土産って何かな?」
 ずらりとお土産が並ぶ店の中で、エル・ウィンド(える・うぃんど)が店主にお薦めの商品を聞いてみる。勧められた方へエルが行ってみると、そこにはワイバーンの姿を模したキーホルダーや、ただ『エリュシオン』と銘打たれただけの様に見える饅頭が置かれていた。
「むう……こういうのはどこ行っても変わらないものなんだなぁ……じゃあ、無難にお菓子――」
「ねーねーエルー、このワイバーンのぬいぐるみ可愛いと思いませんかー? きゃー♪ こっちのマグカップも可愛いー♪」
 そこへ、すっかり有頂天のホワイト・カラー(ほわいと・からー)が、ぬいぐるみやらマグカップやらを手にやって来る。
「いや、そうかもしれないけど、全部買うお金はないぞ」
「そっ、そんなぁ……仕方ないですね。じゃあ、このマグカップだけは死守しますっ!」
 残念そうな顔をしつつ、よっぽど気に入ったのか、マグカップを胸に大切そうに抱くホワイトを見て、エルがふっ、と顔を綻ばせる。
(ホイップも……喜んでくれるといいな)
 そんなことを思いつつ、エルが帰りを待ちわびている者たちのためにお土産を選んでいく。