空京

校長室

【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行

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【2020修学旅行】東西シャンバラ修学旅行
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リアクション

 
(やはり魔法技術に優れた国……魔法に関する書物がたくさんありますね)
 本屋を巡っていたレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)が、魔法技術を扱った本の種類の多さに驚きつつ、あれこれ手にとってみる。『機械』が『魔法』に置き換わっている世界故、『魔法力学』『魔法構造学』『魔熱力学』『魔流体力学』といった理論を教える教科書から、魔法技術で作られた商品の紹介本、それらを生活に取り入れるための知恵本などなどがずらりと本棚に並べられていた。
 ただその他、思想・政治・社会・倫理・趣味や娯楽といった関連は地球のそれとそう大差ないように感じられた。文化は違えど地球人もシャンバラ人もエリュシオン人も生物であり人間である以上、必ず似通った部分はあるという証拠でもあった。
(様々なことを教えてくれる書物……ああ、これも興味を惹かれますね)
 いつもの無表情な顔ではなく、どこかうっとりとしたような表情のまま、レイナが興味を惹かれた本を手に取り、次々と買っていく。
「あの、お嬢様? 流石にそろそろ買いすぎではないでしょうか……? いえあの、決して重くて持てないとかそういう事ではなくてですね、そろそろ待ち合わせの時間になることですし、この辺りで切り上げた方がよろしいのでは……?」
 そして、リリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)に言葉をかけられるまで、レイナは数十冊に及ぶ本をいつの間にか購入していたのであった。
 
 本屋ではそういう本が並んでいるということは、当然図書館も同様の品揃えになっている。
「……なるほど、これは……理解するのに数時間では足りなそうだな」
 図書館で魔法技術の勉強を、と思い立った本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が、早速借りてきた本(ちなみに、貸し出しシステムはエリュシオン人用と観光客用に分かれていて、エリュシオン人用のは借りたい誰もが魔法技術の使われていると思しき検索システムを利用して目的の本を探していたのに対し、観光客用のは魔法を使えない人用にカスタマイズされていた。前者のはイルミンスール大図書館にあるシステムと酷似している)に目を通し、内容の違いに苦笑いを浮かべる。
「ですが、興味深い内容ですわね。ここで本のタイトルをメモしておいて、後で書店で探して購入なされてはいかがでしょう」
「そうだな、そうしようか」
 エイボンの提案通り、涼介が興味のある本のタイトルや著者名を記録しておき、図書館を後にする。
「エイボン、時間は?」
「後……1時間ほどですわ。10分前集合厳守ですわよ、兄さま」
「ああ、分かっているよ」
 そんなことを話しながら、二人が目的の本を探しに繁華街へと向かっていく。
 
「不思議なところです……ボク達は確かにユグドラシルの中に入ったはずなのに、空が見えます……」
 街中を歩きながら、御薗井 響子(みそのい・きょうこ)が空を見上げて呟く。ユグドラシル内部は重力制御により、樹の内側壁面部分に建物が並んでいながら、そこに入った者たちには壁面が地面であると感じるようになっていた。その仕組みだと、ならば上を見上げれば反対側の壁面が見えるはずであるが、それは樹の中心に何らかの魔法的な仕掛けが施してあるのか、反対側は見えないようになっていた。
 ちなみに樹の中心にうっかり近づくと問答無用で真っ逆さまに落ちる(さらに言えば、ここはアスコルド大帝と面会を交わした者が、不敬を買って落とされる時に使われる場所であった)。真ん中はゼロGだと思って飛んでいったソフィア・ギルマン(そふぃあ・ぎるまん)ハリー・ヴァンス(はりー・う゛ぁんす)が真っ逆さまに落ちていったことが知らされ、図らずも身を以て証明されたのであった。
「途中でクレープ買ってたら遅くなっちゃったね。もしかしてもう道場破りを達成して、次の道場に向かってたりするのかな?」
 両手にクレープを持ったケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)が、どうやら先に向かった様子の鬼崎 朔(きざき・さく)ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)椎堂 紗月(しどう・さつき)有栖川 凪沙(ありすがわ・なぎさ)のことを口にする。何でも、『旅行といえばペナント』の話題になった時、朔と紗月が、
「イルミンスール武術部員として持って帰るべきペナントは、やっぱあれだろ!」
 と、『エリュシオンの道場を探して道場破り』で意見一致したことに端を発している。
「そのようなことをして、大丈夫なのでしょうか……」
「うーん、とにかく行ってみよ? 鬼崎ちゃんと紗月ちゃんが怒られたりとかしてたら、一緒に謝っちゃおう!」
 ケイラにクレープを奢ってもらったらしいルーナ・フィリクス(るーな・ふぃりくす)セリア・リンクス(せりあ・りんくす)も一緒に、一行は二人が向かったとされる道場へと足を運んでいく。
 
「その程度で道場破りとは片腹痛い!
 出直してこい!」

 
 そして、一行が道場へ着いた矢先、正門の奥から厳つい声が響いたかと思うと、朔、紗月が相次いで吹っ飛ばされてくる。二人は地面を転がり、反対側の壁に激突してようやく止まった。
「おい、大丈夫か? ったく、だからいわんこっちゃない」
「もー、紗月も鬼崎さんもあれだけ意気込んでたのに……でも、道場の主? すっごく強かったよねー。あんなのが相手じゃ、ちょっと仕方ないかな」
 二人を追いかけて、ブラッドクロスと凪沙が道場から出てきた。どうやら道場破りは、道場の主によって阻まれてしまったらしい。
「いつつつつ……いやー、門下生は全員倒したんだけどよ、体力切れかぁ? くっそー、あと少しだったのによー」
 悔しそうにバン、と地面を叩いて立ち上がった紗月が、続いて立ち上がろうとする朔の手を取ってよっ、と立ち上がらせる。
「大丈夫か? ケガとかしてないか?」
「あ、ああ……すまない紗月、私がもっと動けていれば」
 申し訳なさそうな表情の朔、その額を紗月の指がつん、と突付く。
「んな暗い顔してたら、せっかくの修学旅行が台無しだぜ。紗月の背負い投げ、カッコ良かったぜ? また今度機会があった時は、次こそ道場破り、成功させてやろうぜ!」
「……うん」
 にかっ、と笑う紗月に続いて、朔も頬を紅く染めて頷く。
「それじゃ、どうしようか? まだ集合時間までには余裕があるよ」
「それなら、さっき見つけた甘味処に行こう! 椎堂さんも鬼崎さんも疲れてるだろうし、落ち着いて休めるところにしようよ」
「……単に、ケイラが行きたいだけのように見える」
 凪沙の言葉にケイラが勢い良く手を挙げつつ提案し、響子がツッコミを入れつつ本人も甘い物好きとあって特に咎めることなく付いていく。
「セリシアさんに素敵なお土産を用意できるといいね」
「うんうん! 何かこう、今セリアたちが楽しんでるのが分かるようなお土産がいいよね!」
 その後をルーナとセリア、紗月と、紗月に腕を絡ませる格好の朔、そしてブラッドクロスが付いていく。
 
 さて、その後の道場では。
「……騒がせたな。では、続きを始めようか」
 道場破りを蹴散らした道場主、かつて従龍騎士として名を馳せたと聞く男に向かって、魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)を装着した赤羽 美央(あかばね・みお)が頷いて構えを取る。
『美央、私はこれといって助言などはいたしませぬぞ。己自身で考え、身体、精神共に鍛え上げるのです』
「ええ、分かっています。こうしてエリュシオンの騎士と会い見える機会……無駄にはしません!」
 目の前の元従龍騎士は、朔と紗月を相手にした後でさえ、疲れの欠片も感じられない。むしろ身体から立ち込める闘気は、より激しさを増しているようであった。
「……参る!」
 練習用の槍を取った男の、無駄な動きなく振るわれた一撃を美央は最小腕力で受け止め、弾く。
 空いた懐へ、必ず強くなる、そんな想いを込めた一撃を見舞う――。
 
「ここが、エリュシオンの墓所ですか」
 笹野 朔夜(ささの・さくや)笹野 冬月(ささの・ふゆつき)が、エリュシオンの墓地を訪れる。ユグドラシル内部ということで温度は適温に保たれ、辺りは歴代皇帝の在年、功績を示す墓標以外、目立った人工物は見当たらない。
 ユグドラシル内部では、人々は皆死ねばユグドラシルの下に等しく還る。歴代皇帝も墓標こそ立てられるものの、遺骨を保存するなどということはされない。ユグドラシルの前では、人間の差別、階級などほんの小さな差に過ぎない。
 残された遺族は、この無数の墓標が立てられた土地を祈りの場所として、花を手向けユグドラシルに還った者たちの安らかな眠りを願うのであった。
(他国の人間で恐縮ですが……)
 支社に花を手向けるのは何処の世界、国でも一緒。そんな思いを抱きつつ、朔夜も用意した花を手向け、安らかな眠りをと願う――。