校長室
【ろくりんピック】最終競技!
リアクション公開中!
正体露見 教導団の制服を着たメニエス・レイン(めにえす・れいん)は、同じく教導団制服のミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)、パワードスーツに身を固めたジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)と共に、スタジアムのVIPルームへと向かっていた。 メニエスは変装もしていないので、顔を伏せてジャジラッドの巨体に隠れるようにして進んでいく。 さらに奥へ行くと、VIPルームへ通じる通路を封鎖するように、蓬生 結(よもぎ・ゆい)や支倉 遥(はせくら・はるか)が立っていた。 結がジャジラットに歩み寄る。 「この先はVIPルームですが、何か御用……あら?!」 ジャジラット達は、子供のように見える結を無視して先に進もうとする。だが今度は、ダークスーツにサングラスで、いかにも警備者といったいでたちの遥が、立ちふさがった。 「VIPルームに何か御用でしょうか?」 言葉は場所にあわせて丁寧だが、さりげなくドスが効いている。 結も急いでヴァジラットの前に回りこむ。眉間にしわを寄せて怒っているが、悲しいかな、子供がすねているように見えてしまう。 ジャジラットはメニエスを隠しつつ、あえて不機嫌そうに遥に答える。 「エリザベート校長の警備だ」 「なんだ、イルミンか」 遥の警戒が緩んだのを見て、ジャジラットはパワードヘルムの下でニヤリと笑った。 (やはり警備担当者は、まさか寺院が味方?である東のVIPを狙うとは思っていないな) まさしく遥は、そう考えていた。 「寺院の背後にはエリュシオンがいることから要人が狙われるなら、西側の重要人物だろう」 だが遥は大きな事実誤認をしていた。もっとも同レベルの間違いを犯している者の方が多数派の上、実は目の前のジャジラットもその一人だ。 鏖殺寺院を背後から操っていたのは、五千年前のエリュシオン帝国だ。 現代の帝国は、鏖殺寺院をやっかい者扱いしてきた上に、白輝精がシャンバラ女王を連れていった今になって、ようやくその情報を集めようと躍起になっている。 だからこそ、怪人プロメテウスが鏖殺寺院の幹部に揺さぶりをかけて連絡を取ろうと、聖火リレーを妨害するマネをしたのである。 ジャジラットはメニエスを連れて、情報収集不足の警備陣をすり抜ける。 しかし、今度はベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)が通路をふさいだ。 「まだ、通ってよい、とは言っていない。貴公らの所属、姓名は?」 ベアトリクスの手には、この日VIPルームに出入りする客人や業者、警備に参加する関係者全員のリストがあった。 言いよどんだジャジラットに代わり、メニエスのパートナーミストラルがしれっと答える。 「リストには、わたくし達の名前は無いと思いますわ。エリザベート様がまた我がままを言って皆を困らせるので、応援に来て欲しい、と急に頼まれましたの」 もともとメニエス達はイルミンスール魔法学校の生徒だ。内情はよく知っている。 「……だとしても、所属、姓名、パスワードは書き記してもらおう」 ベアトリクスが記名帳とペンを渡す。 「御安い御用」 ジャジラットはすらすらと、適当に教導団の知人の名前を書き、続けてパスを書いた」 「一人ではなく、入室する全員だ」 ベアトリクスが、女性士官候補生らしき二人に署名を促す。 だがメニエスもミストラルも動かない。ジャジラットはいぶかしんだ。 「んん? 悪いが、仲間から連絡が入った。少々待ってくれ」 ジャジラットは携帯電話がかかってきたフリをして、メニエス達を伴って、いったんベアトリクスから離れる。 「どうした? 適当な名前を書けばいいだろう?」 しかしメニエスの返事は、ジャジラットにとっては予想外だった。 「パスワードなんて聞いてないわ。和馬からもプルクシュタールからも」 ジャジラットは唖然とする。 「事前に公開されていただろう? あの【4】から始まる……本当に分からないのか?!」 それでもメニエスは、分からないようだ。それは和馬もグンツも同じことである。 (こいつら……作戦を成功させる気が無いのか?!) ジャジラットは急に、自分が彼女たちに陥れられたのではないか、という気になってくる。 ボソボソと話し込んでいる彼らに、ベアトリクスが声をかけた。 「どうした? 何か問題でも起きたかな?」 「取り込み中だ」 ジャジラットが返す。 ベアトリクスは結に、彼らの後方を指差した。ジェスチャーで、逃げ道をふさげ、と言っているのだ。 「えぇ……」 結は消え入りそうな声をもらす。 パワードスーツはやたらと大きく、二人の女性教導団員からは、共に非常に強そうな格を感じる。この三人が「もし」テロリストだったら、その戦闘力は今の結とは比べ物にならないだろう。 もともと「運動はどちらかというと苦手だから」と、選手としての出場は見送って裏方に回ったつもりの結だった。 しかし、そこは最前線だったのだ。 凶悪、強力なテロリストと命のやり取りをするなど、ひたすらに勉強ばかりしてきた結には、あまりに荷が重く思えた。 イハ・サジャラニルヴァータ(いは・さじゃらにるう゛ぁーた)が結を心配する。 「顔色が悪いですわ。ベアトリクス様、いま結を行かせるのは無理なのでは?」 「……下がっていろ」 ベアトリクスは息をついた。イハは結の手を取って、控え室の方へ歩き始める。 (まさか結を介抱する事になるなんて……) イハは、警備の緊張状態が続くことで気分が悪くなる者がいないかと、見守っていたのだ。 しかし新入生でもない生徒にとっては、要人護衛も鏖殺寺院と戦う事も、もはや定番の任務である。今さら、気分が悪くなるほど緊張するような者はいない。 代わって、怪しい教導団員三人を取り囲んだのは、支倉 遥(はせくら・はるか)と、遥に呼ばれて来た警備スタッフだった。 遥だって馬鹿ではない。いったん引っ込んだフリをして、連絡を取り合っていた同僚を呼び集めたのだ。 その中には、ジャジラットのパワードスーツに対抗するべく、やはりパワードスーツをまとった月谷 要(つきたに・かなめ)もいる。もともと要はコリマ校長の護衛に立候補したのだが、無骨な兵器をVIPルーム内には置いておけぬと室外警備を言い渡されたのだ。 ジャジラットが、自分達を囲む者に問う。 「これは何事だ?」 増援の一人、クイーン・ヴァンガードのシルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)がジャジラットの装甲の背後に向けて、ほほ笑みかける。 「まさか素顔の君に会えるとは思わなかったよ。いつまでもうつむいていないで、可愛らしい顔を見せてくれないかな?」 「ナンパにしては仰々しいですわね」 ミストラルが不機嫌そうに言う。 しかし遥がぴしゃりと言う。 「もう正体は分かってるんだ、メニエス・レイン! ここは通しはしない。絶対にだ!」 「なに?!」 驚く彼らの前で、シルヴィオが銃型HCで映像を映し出した。 会場内の監視カメラの映像だ。始めは、ただのスタジアム内の光景で、どこに誰がいるかのかも分からない。シルヴィオがHCを操作すると、画面は階段の手すりの間にズームアップ。さらに、遠方のボヤけた映像が、急速に解析された綺麗な映像に変わる。パワードスーツの横で、一瞬だけ顔をあげた「女性教導団員」が映っていた。 しかしジャジラットは認めない。 「この会場の監視カメラの性能は知っているぞ。こんな性能は無いはずだ。故に、捏造映像だ」 だがシルヴィオも言い負けない。 「蒼空学園のエンジニアは優秀でね。とっておきの解析ソフトがあるのさ」 実のところ、その映像は影野 陽太(かげの・ようた)が砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)から譲り受けた、監視カメラシステムと画像解析を連動させるソフトで得たものだ。 陽太は一切、砕音の名は出していない。だが聖火リレーの顛末を調べていたシルヴィオは、だいだいそんな事ではないかと予想していた。