校長室
戦乱の絆 第1回
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森の出口にて 大樹の木陰から出ると、4名の少年少女達が待機してアイシャを待っていた。 「脱出要員達だよ、頑張って!」 栞がアイシャの背を押す。 4名の中には見知った顔もある。 「詩穂!」 アイシャは騎沙良 詩穂(きさら・しほ)に駆け寄った。 危険をも顧みずに、フマナでの救助活動を手伝ってくれた少女だ。 「お久しぶり☆ アイシャ。 元気だった? ……て言うのも、変かな?」 再会の抱擁を行った後、紹介するねー、と残りの3名を紹介する。 セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)。 ナナリー・プレアデス(ななりー・ぷれあです)。 ヴィオレット・プリマ・プレイアデス(う゛ぃおれっと・ぷりまぷれいあです)。 ナナリーは10歳程度の少女だったが、「地祇のたくらみ」を使っているだけだとの説明に、アイシャはホッとした。 「こんな小さな子供、森の中で1人にする訳にはいかないもの!」 ヴィオレットは、ナナリーの胸元に埋まる光条石の中に宿った古代文字が本体らしい。 声は聞こえなかったが、サイオニックのため意思疎通はテレパシー的だそうだ。 が、本日は「精神感応」がないため、何と無くしか分からない。 博識、禁じられた言葉等を駆使して、ナナリーを常時補佐している、ということだった。 「時にアイシャさん。 もしかしたらの話で失礼ですが……」 セルフィーナが質問する。 「女王に、何か大きな変化があったのでしょうか?」 アイシャは驚いて振り向く。 「アイシャさんは女王の力の一部を託されたのではないのか? と。 危険を承知でそれでも信頼して託す、つまりそのことは……」 「女王様は、御健在よ」 アイシャは深い息を吐く。 セルフィーナが、そうですの? と答えて、話は終わった。 「貴女の強い想いは綺麗な音ね……アイシャ。 行こう、ワイバーンの所まで」 ナナリーは囁くように、アイシャに告げる。 「私達の目的地は、空京。 別の出口になるの。 これで、送って行くわ」 空飛ぶ箒をみせて、裾を引っ張る。 一緒に乗って行こう! というのだ。 「じゃ、脱出に備えて。 詩穂はひと足早く、『空飛ぶ魔法↑↑』を掛けておくね?」 詩穂はアイシャに魔法をかける。 「これでいいよね?」 「チョット待って、詩穂」 アイシャは空飛ぶ箒に乗ろうとして、身をひるがえした。 「忘れ物しちゃったの。 チョット待っていてもらえる?」 「あ……うん、いいいけど? 時間もないから、出来る限り早くね☆」 「詩穂、みんな……」 大樹の下で、アイシャは一度振り返った。 「私のこと、忘れないでね?」 「うん? どうしたのアイシャ?」 「何でもない。 じゃ、取りに行ってくるわ!」 アイシャは軽やかな足取りで、大樹の陰に入って行く……。 ……だが、待てど待てど、アイシャは戻ってこない。 妙だ、と気づいた詩穂達が大樹の向こうをのぞき込む。 少女の姿はない。 ボロボロのローブが1枚、木の根に置かれてあるだけだった。 ■ アイシャはジャタの森の、「ヴァイシャリー側・出口」付近に立っていた。 陽光がまぶしい、片手をかざす。 一歩足を踏み出せば、そこはもうヴァイシャリーまでの平原がある。 「長い長い道のりだったわ……」 アイシャは胸元に手を持って行き、ローブがないことに気がつく。 「やだ! 癖になっちゃってる!」 そして1人じゃなかったな、と思った。 色々な人と出会った。 大勢とは信頼関係を結べたし、多くのシャンバラの学生達はアイシャにとって好ましいものに映る。 けれど、彼らを取り巻く情勢は、アイシャが想像していたよりも遥かに複雑なもののようだ。 力になってあげたいのは山々だが、彼女には使命がある。 そして彼らの言い分は、アイシャの決心を変えるまでには至らず、その結果東西のどちらにも捕らわれるには至らなかった。 「呼雪――」 東西の事に胸を痛めていた少年の名を呟いた。 クライスの言葉が、重く響く。 「そうね、呼雪は悪くない……」 お茶……お礼も言わなかったわ。 いつかお会いできるかしら? アイシャは一歩踏み出す。 心の中で、「女王様」は唱えなかった。 彼女には大勢の「仲間」がいる。 ヴァイシャリーでの協力者達も……。 お願い、皆! 私を守ってね? イチ、ニの、サンッ! ■ アイシャはジャタの森から出て行った――。 さて。 ジャタの森、野戦病院の関係者は役に立ったのであろうか? ■ 七尾 蒼也(ななお・そうや)は、中立の立場として、エリュシオン人の重傷者も差別せず治療した。 もっとも彼は、野戦病院への運搬専門だったが。 「戦争してる訳じゃないだろ? 追われてる少女を守るのは大事だが、他の奴の命だって大事だ!」 とは彼の言。 「余裕があれば、動物の治療だってしたいところだぜ!」 サイコキネシスを利用して負傷者を搬送する。 「おっと、俺も倒れちゃいけないぜ!」 時折SPリチャージでSPを回復させる。 ラーラメイフィス・ミラー(らーらめいふぃす・みらー)は治療に専念した。 現地は医療品が不足している。 蒼也のバックパックから医薬品や毛布をとりだし、患者にあてがう。 特技「応急手当」やヒールで、SPの続く限り治療に精を出した。 「たくさんの人が、戦いでなく、命を守るために立ち上がっている……。 戦争になんか、させません!」 その一方で、どうしても、間に合いそうにないものは、蒼也に頼む。 だが、銃弾飛び交う森の中だ。 禁猟区も忘れない。 ルイ・フリード(るい・ふりーど)とリア・リム(りあ・りむ)は野戦病院の関係者として、腕に赤十字腕章を付けて入った。 ルイは小型飛空艇オイレに、リアは機晶姫用フライトユニットに旗をくくりつけて、森の離着陸可能な場所でとめる。 「ここが、私達の戦場ですね!」 ルイはリアに指示を下すと、自身は応急処置を施す。 「特技ではないですが。 やらないよりは、マシでしょう?」 そして、野戦病院までの地図を渡す。 動けない者は病院まで直接連れて行く。 現地の者に任せて、再び森へと戻った。 その一方で、リアは機晶姫用フライトユニットで、空からの捜索に動いた。 「どなたか! 怪我をされた方はおらんのか?」 そして怪我人があれば、着陸可能な場所で降りる。 徒歩にて怪我人の所まで行き、ナーシング等の治療を行った。 もちろん拙い腕だが、応急処置も忘れない……。 「うむ、こんなに必要であれば! 特技にでもしておけばよかったな」 ぼやきつつも、後から後から湧き出てくる患者への対応に迫られる……。 ■ ……彼等の活動は、戦闘が収束するまで森の中で続けられた。 患者は学生達より、現地住民の方が圧倒的に多かった。 学生達は本気でやり合わない者が多く、その結果、威嚇で売った銃弾が流れて当たったりしたようだ。 その結果、東西の学生達のみならず、ジャタの森の住民達から非常に感謝されたのだった。