空京

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終焉の絆

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終焉の絆
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【2】大聖堂vs連合軍 1

 爆発が起こり、大聖堂内は混乱に満ちていた。
 爆破工作をしたのは三船 甲斐(みふね・かい)六尺 花火(ろくしゃく・はなび)で、通称『ボンバーズ』と呼ばれる内部工作班だった。二人はパートナーおよび契約者の玉屋 市朗兵衛(たまや・いちろうべい)猿渡 剛利(さわたり・たけとし)を連れ、爆風の中から逃げ出した。
「にっひっひっ! 制圧といったら爆発だよなー、やっぱ!」
 爆破に命を賭ける六尺はご機嫌で、逃げながらも笑顔を絶やさなかった。
「おうとも! 俺様に任せたら、未知の技術だろうがなんだろうがちょちょいのちょいってもんよ!」
 甲斐も同じで、とにかく爆破することに楽しみを見出している。
 神風シンクタンクやシリンダーボムといった、端から見れば危険物でしかないものを建物内で暴走させ、ちゅどーんちゅどーんと各地を爆破の嵐に巻き込んでいた。おかげで、工作班の居場所はここだと自ら教えているようなものである。
「見つけたぞ! 奴らだ!」
「げっ、見つかっちった」
 駆けつけたグランツ教徒たちに発見され、二人は逃亡犯となった。
 もちろん、市朗兵衛と剛利は巻き込まれたも同然である。
「花火っ! 爆破もほどほどにしろってあれほど言っただろうが!」
「甲斐のバカアアァァァ! これじゃ俺まで犯人扱いじゃないかぁぁ!」
 二人にあれこれ文句を言われながらも、六尺と甲斐は素知らぬ顔で次なる爆破を求めて走った。
「「アホオオオオォォォォ!!」」
 ちゅどーんっとまたもや爆発に巻き込まれながら、市朗兵衛と剛利の二人は叫ぶ。
 しかしながらやがて、グランツ教徒たちに挟み込まれることになった。
「しまったぁぁ!」
 さしもの甲斐と六尺も身動きが取れなくなる。
 前からもグランツ教徒。後ろからもグランツ教徒。逃げ場を失った四人。
 と、そこに、一筋の刃が飛びこんだのはそのときだった。
「なっ、ぐおあああぁぁッ!」
 刃の持ち主は赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)クコ・赤嶺(くこ・あかみね)だった。
 二人は内部工作班とともに大聖堂に潜入し、敵勢力の排除に回っていた。霜月が放ったのは愛用の刀ギフト『孤月』の一閃で、クコは青白い狐火を纏った拳で敵の懐を撃ち抜いていた。もちろん、殺さない程度に手加減はしてだ。
 一瞬にして倒されたグランツ教徒は地に伏し、残された者たちは動揺を隠せなかった。
「霜月! クコ!」
「何やってるんですか、三船さんも六尺さんも」
 想像以上の爆破騒動と追いかけられていた二人に、呆れるのを隠せない霜月。
「いやー、ちょいとやりすぎちゃったかな? てへぺろっ」
 六尺は舌を出してごまかしたつもりでいる。もちろん誤魔化しきれてはないが、四人はとにかくその場を霜月とクコに任せて、自分たちは邪魔にならぬよう逃げることにした。
「それじゃ俺様たちはとっとと退散するから、あとは任せたぜ!」
 甲斐と六尺は悪びれもせずさっさと逃げ去ってしまう。
「ご、ごめん、あとはよろしく!」
「すまねぇ! お礼はまた今度な!」
 市朗兵衛と剛利の二人も、申し訳なさそうに謝罪しながらその場は後にした。
「はぁ……」
 霜月は思わずため息がこぼれる。クコはそれに対しくすっと笑った。
「苦労するわね、潜入も前線での戦闘も」
「まったくだ」
 霜月は心の底からそう思った。
 しかし、そうあることが心の平穏を保っているとも感じていた。この刀で、大切な者たちを守る。それがなにより自分にとって大事なことで、その為にこうして戦いの場へ赴いているのだと。霜月は一息吸って心を波紋のない水のように落ち着けると、澄んだ瞳で目の前のグランツ教徒たちを見据えた。
 グランツ教徒たちも身構えた。只者ではない。そのことは気配からも、放たれる殺気からも明らかだったからだ。
 睨み合う両者。そして一瞬の静寂。瞬間、互いは一気にぶつかり合った。
「うおおおおぉぉぉ!」
 『孤月』の刃が一閃した。鉄槌や槍ごと敵を斬り伏せ、大地に叩く。
 そのまま全力で踏みこんでゆく霜月の後ろから、クコが気合いのこもった拳を地面に打ちつけた。
「ヅィアッ!!」
 それは震天駭地の一撃だった。
 大地を揺さぶる奥義の拳は、ぐらぐらと地面を振動させ、グランツ教徒たちの動きを止めた。突然の地震に足をすくわれ、パニックを起こしたのだ。その瞬間には霜月が目の前に迫っている。
「この一撃で全てを決める――奥義・羅刹解刀ッ!」
 銀光が放たれたと思ったその一瞬で、無の境地へ達した刃がグランツ教徒たちを一閃した。
 それは彼らにとっては目の前の白い光が自分を包みこんだかのようにしか見えなかった。だがその刹那、白夜のごとき刃は網膜に焼きつき、一瞬にして霜月の半径数十メートルに渡って全てのグランツ教徒たちを斬り捨てていた。
 苦しみの声をしぼり出す者、喘ぐ者、全てがばたばたと倒れてゆく。
 やがて動けなくなったグランツ教徒たちの中心に立っていた霜月は、銀色に輝く『孤月』を鞘に静かに収めた。
「やったわね、霜月」
 クコが声をかける。霜月は優しい顔つきになって、彼女にほほ笑みかけた。
「ああ。クコのおかげですよ」



 その頃、シャンバラの連合軍は爆破の混乱に乗じて大聖堂内部へ突入していた。
「全力でいくわよ! ディィアッ!!」
 鉤爪を装着した拳を振るい、白波 理沙(しらなみ・りさ)がグランツ教徒を蹴散らす。
 その勢いに続くように、パートナーのチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)椎名 真(しいな・まこと)原田 左之助(はらだ・さのすけ)といったメンバーが壁となって立ちはだかるグランツ教徒たちと戦闘を開始した。
「抵抗するのでしたら、魔法で一掃してやりますわ!」
 チェルシーが炎の聖霊を放ち、続けざまにブリザードを唱えた。
 吹雪に見舞われたグランツ教徒たちは一同に叫びとともにふき飛び、炎の聖霊からは逃げ惑う。そこに飛びこむ理沙は回し蹴りで目の前のグランツ教徒を蹴り飛ばし、チェルシーの身を守った。
「ありがとうございますですわ、理沙さん」
「どうってことないわよ。それより、まだまだ来る! 気を抜いちゃダメよ!」
「はいっ!」
 チェルシーは気合いの声をあげる。
 同時に真は左之助という契約者にしてパートナーの義兄弟は、派手に暴れまわっていた。もっとも、ほとんどは左之助の所業で、真はそのサポートに回っているだけだったが。
「おらおらおらおらぁッ!」
 居合の刀を手に、左之助はばったばったと敵を薙ぎ倒してゆく。
 その後ろで真は迫ってくる敵の関節を叩き、的確に一体ずつ打ち倒していった。
「やるじゃねえか、真!」
 まるで自分のことのように喜ぶ左之助に、真はくすりと笑った。
「兄さんこそ」
「んじゃま、ちょいと離れてろよ! こっから危ねぇからな!」
 真は左之助の言う通りに距離を取った。
 瞬間、左之助の刀に複数の光が集まり、その刀身を輝かせた。
「くらえ必殺の――レギオン・オブ・ドラゴンッ!!」
 刀身に集まったいくつもの竜の魂が、一撃必殺の鮮烈となってグランツ教徒たちに襲いかかった。
 激しい稲光に打たれたような衝撃とともに、グランツ教徒たちは叫び声をあげてふき飛ぶ。そのほとんどが地に伏し、もはや動くことはままならなかった。
「ふぅ……」
「さすがだね、兄さん」
 真は息をついた左之助のもとに戻り、その働きを賞賛した。
「あったりめぇだろ、俺を誰だと思ってんだ。元新撰組十番隊組長、原田左之助様だぞ。このぐらいは朝飯前だっての」
 にかりと笑う左之助。
 と、彼がグランツ教徒を蹴散らしてくれたおかげで道が作られ、後方から大勢の連合軍隊たちが聖堂内へ突入してきた。
 その中には水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)率いる『新星:リーディシュ』の前線部隊がいる。特に最も前方で強攻担当に任せられたジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)フィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)は、どの部隊よりも先に抜きん出て、立ちはだかるグランツ教徒を排除していった。
「どけどけどけどけぇっ!」
 壁や床を蹴って弾丸のように突きすすむジェイコブの動きは、人間離れしている。
 グランツ教徒に突撃するジェイコブを支援するべく、フィリシアは魔法で応戦し援護した。
「我は射す光の閃刃!」
 光の刃が形成され、目の前の敵を切り倒す。
 さらに石化魔法を駆使したフィリシアは、グランツ教徒たちを物言わぬ石像へと換え、あとで必ず元に戻すことを誓いながら先へ進んだ。
 ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)。そしてアルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)アフィーナ・エリノス(あふぃーな・えりのす)はそんなバウアー曹長とフィリシア隊員の後ろに続くよう、同じく強攻した。
 ケーニッヒはバウアー曹長のすぐ後ろに後続し、徒手空拳で戦った。複数の部下を引き連れ、バウアー曹長に遅れを取らないように細心の注意を払っている。アンゲロはそんなケーニッヒの援助を兼ね、支援魔法で応戦した。
「オートバリア! そして、ホーリーブレス!」
 聖なる気がケーニッヒたちを守る壁となり、聖なる息吹が傷ついた者を癒した。
 そんなアンゲロにケーニッヒは感謝の気持ちを持たざる得ない。
「すまないな、アンゲロ。我らの為にありがたい」
「いいんでヤンスよ! これぐらいどうってことないぜ!」
 ケーニッヒの謝辞にアンゲロは気持ちいいぐらいのカラッとした返事を返した。
 アルフレートは隠し通路や大聖堂の指揮を担う司令室の存在を探していた。アフィーナも弓矢で立ちはだかるグランツ教徒を射貫きながら、辺りに隈無く視線を配る。
「あれは……」
「監視カメラか?」
 アルフレートの予測にうなずいたアフィーナは、矢で天井そばのカメラを射貫いた。固い矢尻の先端に貫かれた監視カメラはバチバチと火花を散らして爆発し、キュウゥンと静かな電子音を立てた。
「他にも様々な警備システムがあるかもしれんな」
 アルフレートはあくまで冷静だ。敵の攻撃に頭を切り飛ばされそうになり、間一髪で避けたときも顔色は依然として変わらない。我が契約者ながらアフィーナは感心していた。
「ところで、マーゼン中尉は?」
「あちらにいますわ」
 アルフレートはアフィーナが視線を転じた方向へ目を向けた。
 そこには水原大尉がいて、マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)がその身を守り、マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)三田 アム(みた・あむ)が周囲の敵の迎撃排除に務めていた。
 マーゼンは優秀な判官だった。槍を転じて敵を切り裂く姿は見事。三田アムはその動きに追随して凍てつく炎を放ち、氷結と火炎の嵐に敵を巻き込んだ。
「敵はあちらにいるでしょうね」
 マーゼンはちらりと目を上げた。大聖堂の奥に神殿らしきものが見える。
 アルティメットクイーンのいる場所。救世の間へ続く神殿に違いなかった。
「ええ、きっと……」
 ゆかりはマーゼンにそう答えて、通信機を手に取った。
 もちろん目的は連合軍の本部拠点へ連絡を取ることだ。そこには香取翔子大尉たちがいるはずで、通信機はすぐにその通話の相手と繋がった。
「こちら水原ゆかり大尉。大聖堂への突入に成功。これより一般の立入禁止区域へと向かう」
『了解』
 返答はすぐに返ってきた。
『一般信者の保護も開始せよ。傷つけることなく、大聖堂の外へ逃がせ』
 新たな指示と命令も兼ねて、だ。ゆかりは自らに言い聞かせるよううなずいた。
「了解。次の行動に移る」
 通信はそれで途切れた。
「カーリー、大丈夫?」
 マリエッタが心配そうに訊いてきた。ゆかりは不安にはさせるまいと笑顔を作った。
「もちろんですよ、マリー。ただ、ここはグランツ教の総本山。神殿は守りが固いだけでなく敵もかなりの強さを誇ってるはず。気を引き締めていきましょう」
 ゆかりの笑みには自信すらもあった。マリエッタはうなずいた。
 そこに生き残っていたグランツ教徒が襲いかかってくるが、マリエッタはそれを念波の力だけでふき飛ばした。範囲を最小限に抑えた『カタクリズム』というサイコキネシス能力だ。壁に打ちつけられたグランツ教徒はそのままずるずると床に崩れて動かなくなった。
「さて……」
 ゆかりはマリエッタとともに神殿を見据えた。
 果たしてそこに何が待ちかまえているのか、まだゆかりには分からない。だが、アルティメットクイーンがいる。その一派のグランツ教団がいる。一筋縄ではいかないことは、いまのゆかりにも分かろうというものだった。