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【GWSP】サルヴィン川、川原パーティ

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【GWSP】サルヴィン川、川原パーティ
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リアクション


第1章 ケジメ

 シャンバラ地方の中心付近。ヴァイシャリー湖に近く、キマクとヒラニプラから同じくらいの距離がある場所に、いつの頃からか地球人達が集まるようになった。
 機材や食材を持ち寄って、バーベキューパーティを楽しんでいくのだ。
 殆どの学校が休校日である今日も、この場所は地球人を中心とした契約者達で賑わっている。
「何か物足りないですねぇ」
 呟きながら、首を回して神楽月 九十九(かぐらづき・つくも)は川原を歩いていた。
 いつも右手に装着しているドリルが今日は諸事情によりないのだ。
「ん?」
 ふと、屋台が一つ目に付く。
「食え食え食え食え魔法菓子〜♪ 膨らむ膨らむヒャッハッハー♪」
 モヒカンの少年が、子供達を前に綿菓子機で綿菓子を作っている。
「面白そう〜」
 とてとてと近づいて、九十九は綿菓子作成に見入るのだった。
「ワンちゃーんっ!」
 晃月 蒼(あきつき・あお)も、綿菓子を作っているモヒカン少年を見つけて、超特急で駆け寄ってきた。
「ワンちゃんじゃねぇ、キング様だっつーの!」
 そう答えたモヒカン少年王 大鋸(わん・だーじゅ)。波羅蜜多実業高等学校の生徒だったが、この春に見事裏の手を使って空京大学に入学を果たした男だ。
「綿菓子食うか、蒼」
 怒ってはおらず、彼は上機嫌だった。
「うんっ!」
 嬉しそうに蒼は綿菓子を受け取った後、王の腕をぐいぐい引っ張る。
「遊ぼっ、遊ぼっ。あっちでバーベキューやってるよぉ〜!」
「それじゃ、ちっとだけなー。甘いモン食った後はやっぱ肉食いたくなるしな!」
「やったぁ〜」
 王は財布を持って、蒼と一緒に綿菓子屋を後にする。

 川原には早速鉄板を使って料理を始めている少年の姿があった。
「青海苔とからしマヨネーズをかけて、出来上がりだぜ!」
 2本のヘラを器用に操り、焼きそばを焼き上げたのはトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)だ。
「綿菓子と交換してもらえるか? コイツの分だ」
 王がトライブに声をかけて、蒼を指差す。
「おー! いいぜっ」
 トライブはにこにこ笑顔を浮かべると皿に大量の焼きそばを盛って、王に渡した。
「2人分あるみたいねぇ? 一緒に食べようか〜」
「そうだな、川で遊んでるガキ共にも食わせてやりてぇな」
 袋入りの綿菓子を置いて、王と蒼は川の方へと向っていく。

「……で、なんだここは」
 鋭い目付きの男が、少し離れた位置から川原を見ている。
「警備なら、団員を集めて――」
「違いますぅ〜」
 皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)が嬉しそうな笑顔を浮かべながら、その生真面目そうな男の背をぐぐっと押す。
「非公式外交の場ですぅ〜。ほら、ミルザム・ツァンダ様もいらっしゃいますし、イルミンスールや百合園の校長の姿もありますぅ〜」
「ならば、こんな格好では失礼……」
「平気ですぅ〜。皆私服ですしぃ〜。あと、ここでは私はキャラ・宋と名乗りますねぇ〜。団長も偽名でお願いしますぅ〜」
 のんびりそう言いながら、伽羅は男――シャンバラ教導団の団長、金 鋭峰(じん・るいふぉん)の腕に腕を絡ませて引っ張るのだった。
「こんなことをしている場合では……」
 と、言いながらも、確かに校長や各校の重役などの姿も見られる場である。
「様子を見るだけだぞ。私がいる場で、校長達に何かがあっては申し訳が立たない」
 伽羅の熱意に負けて、金は自らの足で川原へと歩き始めるのだった。但し表情はいつも通り硬い。

 水の音を聞きながら、蒼と王は一緒に焼きそばを食べて、それから集っている人々と料理やお菓子を交換しながら、パーティを楽しんでいた。
「あ、綺麗な石〜」
 しかし、蒼が立ち止まって身を屈めたその時だった。
「空京大学に入ったんだってなァ」
「お、ナガ……」
 バキッ
 王の前に現れたピエロ姿のナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が突如王の顔面に強烈な右ストレートを決めた。王の巨体が吹っ飛び、地面に倒れる。
「ワンちゃ……」
 蒼は何が起きたのかわからず、ただ目を見開いている。
 王にはパラ実生らしい夢があった。
 その夢を応援する者、彼を慕っているパラ実生、友人達も沢山いた。
 突如、空京大学へ入学を果たした彼を裏切り者と看做している者もいる。
 ナガンもまたそうなのだろうかと。
 切れた唇の血を拭いながら、拳を握り締めて王は立ち上がった。
 だが、ナガンに殴り返しはしない。
 ナガンが手を振り上げる。
 王は睨みながらも、動かない。
 パシン
 ナガンは王の肩を叩いた。それは暴力ではなく、励ましの一撃だ。
「大学入学おめでとうなァ」
「あ、ああ……」
 笑みを見せるナガンに、王は気の抜けたような顔を見せる。
「もし大学辞めたりしたら次はゆるさねぇぞ」
「……ああ」
「先生の勉強は校長になれるぐらいがんばってくれよな」
「俺が学びてェのは福祉だからな、ま、パラ実の分校長くらいにはなってやるぜ!」
 言ったあと、互いに手を振り上げてパンと打ち合った。
「マテ……」
 ナガンと笑い合ったナガンだが、許せない者もまだまだいる。
「ワンころテメェ! 何が大学生だ!」
 王の肩を乱暴に掴んで振り向かせたのは、五条 武(ごじょう・たける)だ。
「お前が何やろうが勝手だけどよ、パラ実はどうなるッ! お前が居なくなったから、学校入口にも校長室にも、音楽室にも食堂にも教室にも、誰にも居なくなっちまったじゃねーか!
「いや、パラ実には……」
「ぶっ壊れて、ハナっからそんな設備ねーって突っ込みは不要だッ!」
 反論を許さず、武は拳を振り上げる。
「上等だよ、丁度良いからヤキ入れてやるぜ! バーベキューなだけに!」
 ガツンと王の顎に、武の拳が決まる。
 武は一撃では許さない。
 ゲシッと、王の腹を蹴り、ゴスッと頭にエルボーを叩き込み。更にガスッと脇腹に回し蹴り。
「てめェ……ッ! ワンころじゃねェ、キング様と呼べェェェ!」
 流石に王もキレて、拳を武の腹に打ち込んだ。 
「ぐっ……そこか、やっぱりそこが怒りどころかよ、ヘタレ犬!」
 武が王に掴みかかり、何度も何度も拳を叩き込んでいく。そして叫ぶ。
「お前が泣くまで、俺は殴るのを止めない!」
 ナガンは手を出さず、殴り合う二人を見守っていたが、がくりと膝をつき震えている蒼に気付くと、彼女に近づいた。
「……パラ実なりの洗礼ってやつだなァ。心配無用だ、仕事して待とうな」
 ナガンは泣き出しそうになっている蒼の腕を掴んで、王の綿菓子屋の方へと歩きだす。
「そうねぇ、早く済ませてねー」
 くすくすと笑みを浮かべながら、メニエス・レイン(めにえす・れいん)が後方から見守っている……。