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第4章 花嫁たちの救出

 突入経路が確保されていることで、多くの仲間たちが塔に入ることができ、諜報班だけでは危険すぎて近寄れなかった最上階へ、生徒たちが乗り込んでいった。
 その先頭に立っていた涼司が、花嫁たちのいる機関室のドアを蹴破った。
 そこには、意識を失った花音ら、多くの剣の花嫁たちの姿があった。

 室内になだれ込んできた生徒たちが、自分のパートナーを捜そうとすると、地鳴りのような方向が響き渡った。
 その声の主は、巨大な泥人間だった。


 生徒たちは、巨大泥人間に、一斉に攻撃を仕掛けた。
 涼司は、巨大泥人形に飛び掛ると、カルスノウトを腹部につきたてた。
「花音を苦しめるヤツは、俺が許しちゃおかねえっ!!」
 そう叫びながら、涼司は、怒りを込めて深く、深く、剣をめり込ませた。


 セイバーの東條 カガチ(とうじょう・かがち)は、パートナーをさらわれたとき、冷静でい続けることを自分に課した。
 パートナーの柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)は、一見、子猫のような雰囲気の女の子だが、その実、肝の据わったところがある。
「なぎさんは、ちょっとやそっとじゃ怖がらないし、くたばらない。諦めもしない。だったら俺が諦めてなるものか」
 カガチは自分に、そう言い聞かせた。

 塔に向かう間、カガチは環菜に同行し、正確な状況把握に務めた。その後も、環菜の援護に回っていたが、カガチの最終目的はあくまで「花嫁奪還」だった。
 機関室に乗り込んだ今、いよいよその目的を果たす時が来た。
 カガチは、渾身の爆炎波で泥人間を攻撃し続けた。


 いつもは「明るく、元気いっぱいの女の子」という雰囲気のローグ、陽神 光(ひのかみ・ひかる)も、この時ばかりは目の色が変わっていた。
 実の姉のように思っている大切なパートナーレティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)がさわらわれたとなれば無理もない。長い歴史を持つ『陽神流戦刀術』の現正統後継者である光は、凛々しく、勇ましい表情で、戦闘に加わった。
 光の放ったリターニングダガーが、巨大泥人間の頭部に突き刺さった。


「遥、無事でいてくれ!」
 この機関室にたどり着くまでに、犬神 疾風(いぬがみ・はやて)は、何度そう願ったか分からない。
 パートナーの月守 遥(つくもり・はるか)や、友だちのレティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)が捕らえられていると知り、疾風は矢も立てもたまらず、ここまで突進してきた。
 今、目の前にいる巨大泥人間を倒せば、遥やレティナを救い出すことができる。
 疾風は最後の力をふりしぼり、リターニングダガーを泥人間に向けて放った。その刃が、敵の顔面を真っ二つに切り裂いた。


 御風 黎次(みかぜ・れいじ)は、大切なパートナーのために、霊刀『月鴉』を抜いた。これは、黎次が剣術の師匠から譲り受けた剣で、退魔の力を宿すと伝えられている。
 自分を信じ、待ち続けているであろうノエル・ミゼルドリット(のえる・みぜるどりっと)のため、黎次は刃に思いを込めた。
「もう二度と、大切な人を失いたくない……それが、俺の戦う理由だ!」
 両親と妹を魔物によって殺されるという悲しい過去を持つ黎次は、そう叫ぶと、霊刀で、巨大泥人間の体を一気に袈裟斬りにした。

 
 パートナーをさらわれ、怒りに震えたローグのにみ てる(にみ・てる)は、塔にたどり着くと、ただ我武者羅に機関室を目指して突進した。
 しかしその最中、ふとある考えが浮かんだ。
「グレーテルは今ごろどう思っているだろう?」

 パートナーのグレーテル・アーノルド(ぐれーてる・あーのるど)は、きっとこう思っているはずだ。
「てるは、きっと、私たちを『最速で』救出するために動いてくれる……」
 そうだ。一人で遮二無二突進するよりも、皆と協力し合うことで、より速く、全ての花嫁を救出できるはずだ。
 それに気づいたてるは、単独行動を止め、周囲と力を合わせてこの場にたどり着いた。
 てるは、敵の足止め役が足りないと思えば、その役割を買って出て、最前線のものが先に進めるようにした。
 グレーテルを救えるまで、あともう一歩だ。
 てるがリターニングダガーを放つと、その刃が巨大泥人間の片腕を斬りおとした。


 ナイトの天 黒龍(てぃえん・へいろん)は当初、パートナーの救出より先に、この事件の黒幕を倒すことを優先しようと考えていた。
 黒龍のパートナーの紫煙 葛葉(しえん・くずは)は、かつて黒龍が『先生』と呼んで慕っていた人物に、瓜二つだ。陰謀渦巻く環境で育った黒龍にとって、『先生』は、唯一心を許せる存在だった。

「葛葉のことは……あれは、私が救わずとも……彼は『先生』と似ているだけで、『先生』ではないのだから……」
 そう考えて、黒龍は環菜に同行していたのだが、どうしても葛葉のことが頭を離れなかった。
「ええい、気が散る! 葛葉はどこだ!」
 結局黒龍は、環菜から離れ、この機関室に飛び込んできた。
 黒龍は、葛葉を救うために、ランスで巨大泥人間の体を貫いた。


 ソルジャーの佐々良 縁(ささら・よすが)は、当初、パートナーをさらわれたことに、ひどくうろたえた。しかし、従姉妹のにみてるが、我武者羅に戦う姿を目の当たりにし、「花嫁奪還のためには、正確な判断、行動ができる冷静な人間も必要」と思うに至った。
 そして、自分は戦闘の最前線に立つよりも、環菜と行動を共にして情報を把握し、後方からの射撃、情報伝達など援護を行うことにした。

 そんな縁だったが、パートナーの佐々良 皐月(ささら・さつき)を救い出すことだけは、人任せにできず、この場に駆けつけたのだ。
 一刻も早く、皐月をこの腕に抱きしめたい……。そう願う縁は、アサルトカービンで、巨大泥人間の胸元を撃ち抜いた。


 セイバーの叢牙 瑠璃(そうが・るり)は、両親の形見の剣「天龍」を抜き、泥人間に斬りかかって行った。銀色の髪が美しくなびき、金色の瞳の奥には、怒りの炎が燃えている。
 わずか11歳で「双覇武神流」免許皆伝となり、「小神姫」の異名を持つ瑠璃は、白刃を振り下ろし、泥人間の巨体を切り裂いていった。
 全ての花嫁たちの命を救い、無事に連れて帰る……。瑠璃の刃には、そんな決意が込められていた。


 波羅蜜多実業の生徒で、ローグの伊達 恭之郎(だて・きょうしろう)は、事件を知って、バイクで塔に駆けつけた。更に、塔内もバイクに乗ったまま突進し、この機関室にたどり着いた。
 恭之郎のパートナーは剣の花嫁だが、さらわれてはいない。しかし、「お嫁さんが大好物」の恭之郎は、大勢の花嫁たちがさらわれたと聞き、いても立ってもいられず、飛んできた。

 そんな恭之郎の後を追って、パートナーの天流女 八斗(あまるめ・やと)もついて来た。八斗がついてきた目的は二つある。
 一つは、戦いで傷ついた者がいたら、ヒールで回復させ、自分もできるだけ戦闘に協力すること。
 もう一つは、恭之郎が、どさくさにまぎれに、自分以外の花嫁を連れて帰らないよう見張ることだ。
 八斗の懸念通り、恭之郎は「隙あらば……」と思っているようだ。
 よこしまな心をパートナーに見抜かれているとも知らず、恭之郎は、八斗から受け取った光条兵器で、泥人間を攻撃し始めた。


 彼らの攻撃を一斉に受けた巨大泥人間は、断末魔の声と共に崩れ落ち、細かな砂粒へと姿を変えた……。


 花嫁を取り戻しに来た者たちは、一斉に自分のパートナーのもとへ走った。

「花音!!」
 涼司は花音に駆け寄り、彼女を抱き上げた。
 心配でたまらないという顔で、涼司が覗き込んでいると、花音の大きな瞳がゆっくりと開いた。
「……涼司さん……?」
「大丈夫か? どこか痛いところはないか?」
 朦朧としながらも、花音は何とか答えた。
「平気……。また涼司さんに心配かけちゃった……ごめん……なさい……」
「分かった。もう何も言わなくていい。何も心配いらないから、ゆっくり休めよ。俺が、ちゃんと連れて帰ってやるからな」
「涼司さん……あり……がと……」
 安心しきった顔で、花音は目を閉じた。


 柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)は、何と食べ物に釣られて、この塔にさらわれてきた。命を落とす可能性もあったというのに、本人に危機感はなかった。
「迷子になっちゃったけど、カガチが、ちゃんと迎えに来てくれるから」
 パートナーの東條 カガチ(とうじょう・かがち)を信じていたから、なぎこは怖くはなかった。怯えている他の花嫁を「ちゃんとだんなさまが迎えに来るから大丈夫だよ」と励ます余裕さえあった。
「何だか眠くなってきちゃったからお昼寝して待ってよう。起きたら、カガチとたいやきいっぱい食べよう!」
 なぎこはそんな気持ちでカガチが来るのを待っていた。

 カガチは、眠っているなぎこの頬を優しくなぜた。
「なぎさん……」
 なぎこが、長い、長いお昼寝から目覚めた。
「ふぁ?、おはよう、カガチ……。あっ、大変!」
「どうした?」
「カガチ、いっぱいケガしてる!」
 傷だらけのカガチの体を、なぎこがヒールで癒した。
「いたいの、いたいのとんでけー!」
 その愛くるしさに、ポーカーフェイスのカガチも、思わず笑みがこぼれた。


 倒れている花嫁たちの中からパートナーのレティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)を見つけだすと、陽神 光(ひのかみ・ひかる)はそばに飛んでいった。
「レティナー!」
 エネルギーを奪われ、憔悴しきっているはずなのに、レティナは優しい笑みを浮かべて光を迎えた。
「迎えに来てくれたのね」
「うん! 私、すっごくがんばったんだからー!」
「ありがとう。きっとあなたが来てくれるって、信じてたわ」
「あのね、レティナ、私、塔の中で、いっぱい泥人間をやっつけたんだ。最後はこぉーんなにおっきなのが出てきてね、それで……」
 夢中で話し続ける光を、レティナが優しく抱きしめた。その腕のぬくもりが、光を最高に幸せな気分にさせてくれた。


 綿御 零矢(わたみ・れいや)のパートナー、エミリア・スコティーニャ(えみりあ・すこてぃーにゃ)は、胸のペンダントを握り締め、零矢の助けを待ち続けていた。
「エミリア!」
 零矢の姿を見つけると、エミリアは力をふりしぼり、起き上がった。
「さぁ、ここから出るぞ!」
 長身の花嫁を背負い、小さなセイバー・零矢が歩き出した。
 すると、エミリアは光条兵器を取り出し、零矢に持たせた。その青白い光は、ふだんよりも強く感じられた。
「零矢、まだ、敵が残っているんでしょう?」
 エミリアは、一緒に黒幕を倒しに行こうと言うのだ。その言葉に、零矢は銀のフードを深く被りなおした。いつも零矢が戦いに挑む際の合図だ。
 エミリアを背負ったまま、零矢は塔の頂上へと向かった。


 月守 遥(つくもり・はるか)は、犬神 疾風(いぬがみ・はやて)を待つ間、他の花嫁たちを懸命に励ましていた。
「師匠たちが、きっと助けに来てくれるよ!」
 遥はいつも、疾風を『師匠』と呼んでいる。
 二人が初めて出会ったときも、『師匠』は不良に絡まれていた遥を助けてくれた。自分が困っているときには、いつだって師匠は助けに来てくれる。遥はそう確信していた。

 巨大泥人間を倒した『師匠』が、自分の方へ駆けて来るのを見つけたとき、遥は嬉しさで胸がいっぱいになった。
「師匠!」
 本当はすぐに抱きつきたかったけれど、まずは、疾風が来てくれたら最初に言おうと決めていた言葉を口にした。
「心配かけて、ごめんなさい」
「バカだな、何謝ってんだよ……」
 そう言うと、疾風は、遥をしっかりと抱きしめてくれた。


 ノエル・ミゼルドリット(のえる・みぜるどりっと)も、パートナーの御風 黎次(みかぜ・れいじ)と再会を喜び合った。
「ノエル! 無事で良かった!」
「黎次さん!」
 甘えん坊のノエルは、黎次に飛びつき、二人はひしと抱きしめあった。
 大切な人を守ることができた……。黎次の中に、安堵と幸福感がこみ上げていた。
 
 そんな黎次を前に、ノエルは意外な行動に出た。光条兵器を取り出したのだ。ノエルの光条兵器は、ノエル自身の体とほぼ同じ大きさの片刃の大剣・『星龍』だ。
「行きましょう」
 やっと助かったばかりだというのに、ノエルは砲台の破壊に向かおうと言う。その健気さに、黎次は一層ノエルを愛おしく思った。
「よし、行くぞ! ノエル」
 二人は、砲台へ向かった。共に戦える喜びを感じながら……。


 ガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)は、捕らわれの身になり、自分の不運を嘆きながらも、パートナー島村 幸(しまむら・さち)の役に立ちたいという思いは失わずにいた。
 エネルギーを奪われ、何度か意識を失いかけたが、懸命に周囲を観察して、情報収集に努めた。
「幸が来てくれるかも……じゃなく、必ず来るのですから、幸のために、するべきことがありますぞ」
 ガートナはそう信じ、必死に平静さを保っていた。

 しかし、巨大泥人間が倒れ、幸が駆け寄ってくるのを見つけると、もう感情を抑えることはできなかった。
「幸!!」
 ガートナは、幸を抱きしめ、人目も構わずキスをした。
 ふだんは、何かと暴走しがちな幸をフォローすることが多いガートナだが、このときばかりは、ガートナの方が「愛の暴走列車」となり、誰にも止められなくなっていた。
「あなたを待つ間に、改めて感じました。幸のために生きることこそが私の喜び……。あなたと引き裂かれては、私に生きる意味などないのです」
「ガートナー……私から理性を奪わせる存在は、この世界であなた一人……」

 愛をささやき合いながらも、ガートナーは、自分が知りえた情報を伝えることも忘れなかった。
「黒幕は、どうやら環菜に個人的な恨みを持つ者らしいです」
 ならば、黒幕は環菜に攻撃を仕掛けてくるに違いない。環菜のそばにいれば、黒幕と直接対決ができるはず。そう判断して、幸はガートナと共に、環菜がいる塔の頂上へ向かった。


 日頃は元気いっぱいの神楽 冬桜(かぐら・かずさ)が、ぐったりと倒れている姿を目の当たりにし、パートナーの葛稲 蒼人(くずね・あおと)は胸がはりさけそうだった。
「よく、がんばったな……。帰るぞ、冬桜」
 蒼人は、冬桜を背負って歩き出した。
「……ん……蒼人?」
 冬桜が目を覚ましたようだ。
「もう大丈夫だ。安心して、休んでていいから」
 蒼人のその言葉と背中のぬくもりに安堵し、冬桜は再び眠りについた。


 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、巨大泥人間が倒れると、すぐに自力で立ち上がり、パートナーの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)に光条兵器を届けるべく走りだした。
 エネルギーを吸い取られたばかりだというのに、ベアトリーチェは必死で美羽のもとに急いだ。美羽の力になることが、ベアトリーチェの生きがいなのだ。
「今ごろ、美羽はカルスノウトで戦っているはず。早く光条兵器を渡して、パワーブレスで攻撃力を上げてあげなくては!」
 美羽を想う気持ちだけが、憔悴しきったベアトリーチェの体を支えていた。


 一度目の光条発射で、多くの花嫁が意識を失った中、グレーテル・アーノルド(ぐれーてる・あーのるど)比較的、意識をはっきりと保っていた。
 パートナーのにみ てる(にみ・てる)の助けを待つ間、グレーテルの胸には、二つの思いが交錯していた。
「てるは、私たちを『最速で』救出するために動くはず。もし、他の子の主人の方がてるよりも速そうなら、そちらを援護すると思う。私も、それが正しいと思うよ」
「だけど……私、本当はてるに助けに来てほしいよ! てる、助けて!!」
 葛藤の中で、グレーテルは、自分の中にあるてるへの特別な想いに気づき始めた。
 
 グレーテルは、自分を救いに来たてるを見つけた瞬間、迷わず駆け寄り、抱きついた。
「グ、グレーテル……」
 てるは、突然のことに驚き、頬を赤らめた。それでもグレーテルは、てるを抱きしめた腕を離そうとはしなかった。


 ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)は、パートナーの支倉 遥(はせくら・はるか)の助けを待つ間、自分たちの繋がりを信じ、その繋がりを使って、何とか遥を自分の方へ誘導しようと努めていた。

 待ち続けた遥が、自分の方へ駆けて来るのを見つけると、ベアトリクスの瞳には涙が溢れた。
「泣いてるの?」
「そ……そんなはずなかろう!」
 強がるベアトリクスが、いじらしくて、遥は思わずギュッと抱きしめた。


 紫煙 葛葉(しえん・くずは)は、薄れ行く意識の中で、パートナーの天 黒龍(てぃえん・へいろん)が自分を助けに来ようとしているのを感じ取っていた。
「力が……出ない……起きて……いる、のが……つらいな……。黒龍、は……来る……だろう、か………。……いや、……来て、いるな……わかる……」
 葛葉には、確信があった。そして、信じた通り、黒龍は敵を倒し、今、葛葉の前に現れた。
「…………遅い」
 そう呟いて、葛葉は笑った。
「すまん」
 黒龍の返事はそのひと言だけだった。だが、いつも無愛想な彼の、とびきりの笑顔が見られたというだけで、葛葉は十分満足だった。


 絶対に死にたくない。ユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)は、エネルギーを奪われながら、そう思い続けていた。
「……ク……クルードさん……助けてください……こんな所で死ぬのは……嫌です……まだ私、クルードさんに伝えていない言葉があるのに……お願いです……私達を……助けてください……」

 泥人間が崩れ去り、パートナーのクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が駆け寄ってきた瞬間、ユニは、はっきりと意識を取り戻した。
「クルードさん……来てくれたんですね……嬉しいです……」
「ユニ! 無事か? 怪我はないか?」
「はい、何とか無事です……まだちょっと、体が重いですけど……」
 クルードは、それ以上何も問わず、突然ユニを抱きしめた。
「ク、クルードさん!?」
 驚きのあまり、ユニはしばし固まってしまう。言葉を無くし、瞬きもしないユニの様子に驚いた周りの花嫁たちが、慌てて声をかけた。
「ちょっと、ユニ! 大丈夫?」
「あっ! あのっ……わ、わたし……」
 頬を赤く染め、ユニは慌ててクルードの腕を離れた。
 このいとしい存在を失わずに済んだことを、クルードは神に感謝していた。


 アリシア・ノース(ありしあ・のーす)は、捕らわれの身になっても、いつもの元気を失うことはなかった。パートナーの村雨 焔(むらさめ・ほむら)への強い信頼が、アリシアを支えていた。
 彼女は、周りの花嫁たちが諦めの言葉を口にするたび、持ち前の明るさで皆を励ました。
「絶対、大丈夫! 焔も、みんなのパートナーたちも、どんなことをしても私たちを助けてくれるよ!」

 その言葉通り助けに来てくれた焔に、アリシアは飛びついて、思い切り甘えた。
「よくがんばったな」
 焔は、アリシアの髪を優しくなでてくれた。エネルギーを奪われたことなど忘れてしまいそうな程、アリシアは幸せな気分だった。


 フレア・ミラア(ふれあ・みらあ)は、助けに来てくれた時枝 みこと(ときえだ・みこと)から、「精霊がフレアの居場所を教えてくれた」と聞かされた。
 泥人間との戦いでも、精霊は、みことに力を貸してくれたという。
 みことの剣のシャルバラムは、精霊の力を乗せることができる。みことは、光の精の力を借りて、剣を光束刃断機にして泥人間と戦った。
「精霊たちのこと、もっと聞かせて」
 フレアは、そうせがんだ。
「家に帰ってから、ゆっくりね」
 みことは優しくそう答えると、フレアの手を引いて、塔の外へ向かった。


「何も心配することはない」
 葉月 アクア(はづき・あくあ)はそう信じて、葉月 ショウ(はづき・しょう)の助けを待っていた。
「ショウは助けに来てくれる。私はショウを信じてる……。だから、助けに来がときに体力がなくて足手まといにならないように、眠って少しでも体力を回復させよう」
 そう思い、アクアは眠り続けていた。

 目覚めたアクアの目の前に、ショウの笑顔があった。
「ねえ、ショウ」
「ん? どうした?」
「やっと動けるようになった。なんだかものすごく暴れたいんだけど、光条兵器でひと暴れしない?」
「ダメだよ。もっと体を休めなきゃ」
「そっか……。ねえ、助けてくれたみんなにお礼がしたいけど何がいい? クッキーとか、どうかな?」
 目覚めたとたんに、「ひと暴れしたい」などと物騒なこと言ったかと思えば、女の子らしい気配りもする。
 そのどちらも、アクアらしいなと、ショウは思った。


 ツィーザ・ファストラーダ(つぃーざ・ふぁすとらーだ)は、助けに来てくれた轟 雷蔵(とどろき・らいぞう)から、戦闘中の様子を聞き、怒り出してしまった。
「そんな危険なことばっかりして! 助けてもらえたって、パートナーが無事じゃなきゃ意味ないでしょ!?」
 強い口調でそう責められ、ゲンコツまで振るわれて、雷蔵は思わず謝った。
「ごめん……」
 すると、ツィーザは笑顔になり、雷蔵に抱きついた。
「雷蔵! ありがと!!」
 ツィーザの瞳には、涙が光っていた。


 アリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)は、パートナーのレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)と再会するや、純白のドレスが汚れるのも構わず、泥まみれのレベッカに抱きついた。
「やっぱりレベッカは、わたくしの思った通りの人でしたわ……」
 アリシアは、嬉しくてたまらなかった。レベッカは普段は強引で、人を散々振り回して好き勝手をやっているけれど、いざという時には、私の為に自分の命さえかけて戦ってくれる……。
 やはりレベッカは自分にとってやはりかけがえのない人なのだと、アリシアは感じていた。


「よすがは助けに来るよ……絶対に。」
 ひたすらそう信じて、佐々良 皐月(ささら・さつき)は、パートナーの佐々良 縁(ささら・よすが)を待ち続けていた。
 自分の意識がはっきりとしない中でも、皐月は周囲の友人たちを気遣う優しさを忘れていなかった。

 巨大泥人間が崩れ去ると同時に、機関室内では、花嫁たちとパートナーとの再会ラッシュが始まった。
 皐月も、必死で縁の姿を捜したが、ふだんから迷子になってばかりの皐月には、なかなか見つけられなかった。
 他の花嫁たちが外へ向かい、人影まばらになった頃、皐月はやっと縁を見つけた。
「もう! どこにいたの、よすが!」
「それはこっちのセリフだよ」
 縁は笑顔でそう答えた。
 二人は互いをしっかりと抱きしめあった。