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開催! 公式ムシバトル

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第四試合
「続いて……ぴょんサブちゃんとゴンちゃんの、入場……」
 最初よりだいぶ声が出るようになってきた晶が、第四試合の選手をコールした。
 ぴょんぴょん。軽快に跳ねて入場してきたのは、パラミタトノサマバッタのぴょん三郎。
「今日も動きがいいぜ。絶好調だな!」
「あははは、ぴょん三郎! もっと跳ねてください!」
 セコンドのシルバ・フォード(しるば・ふぉーど)雨宮 夏希(あまみや・なつき)は、そんなぴょん三郎の背にヒモをつけ、ロデオよろしく楽しそうに揺られて一緒に入場した。
「うわぁ……ゴキ……」
 観客席から漏れるため息。
 かさかさかさかさかさかさかさかさ。
 地面を這って入場してきたのは、パラミタオオゴキブリの、ゴキブリ怪虫権造。
「フハハハハハ! 貴殿らを恐怖に陥れよう!」
 油をたっぷり染み込ませた布で権造を磨き上げながら、セコンドの四石 博士(しこく・ひろし)が高らかに笑っている。
「ゴンゾウナラ カテル ダイジョウブダ アンシンシロ」
 ロ式 火焔発射器(ろしき・かえんはっしゃき)は、今日まで寝食を共にしてきた友人である権造に、やさしく声をかけた。
「ああ、ゴキブリこっちこないで! もう試合開始よっ!」
 カーン!
 まずは速さが自慢のぴょん三郎が跳ねる! その額には、試合前に夏希からもらった鉢巻が揺れている。
 まずは腹部に一撃、攻撃がヒットした!
「よしっ、いいぞぴょん三郎!」
「まだ大丈夫じゃ、頑張れ権造! ほら、皆が応援しとるぞ!」
 博士がバッとマントを広げると、中から数匹のゴキブリが飛び出してきた!
「いやあぁぁぁ!」
 客席の女性数名が逃げ出した!
 飛び出してきたゴキブリは皆、権造の子供達だ。カサカサとステージ周辺を動き回り、権造を応援しているようだ。
「サア イクガイイ ダレガ バンブツノ サイコウホウニ イルカ オモイシラセルンダ」
 今度は火焔発射器が、権造の応援団として連れてきた大量のゴキブリを、客席に解き放った!
「ご、ごきいいいぃぃぃ!」
「いやああぁぁぁぁ!」
 ぱたぱたと失神する者、逃げ出す者で、客席は大混乱に陥った!
 ところが、こんな中でもぴょん三郎の集中力は途切れなかった。
「ぴょん三郎……今ならいけますよ!」
 権造が、会場中をかさかさと走り回る家族と友人に気を取られているスキに、ぴょん三郎がキックで攻撃を仕掛けた!
 速さを生かした連続攻撃! 2発とも、見事権造にヒットした!
「ゴンゾウ タオレル」
 ずううぅぅん。権造は倒れて動かなくなった。
 「カ……カウントとるまでもないわね。ゴキ失神してるわよ。勝者、ぴょん三郎!」
「か、勝った……」
 ぴょん三郎の勝利が確定したものの、会場の騒ぎはどえらいことになっていた。

「みんな、落ち着け! すぐにゴキブリは回収するから!」
 会場警備を行っていた高月 芳樹(たかつき・よしき)は、混乱する観客を落ち着かせることに必死だった。
「すごい数のゴキブリだ……。回収するにしても、どうしたらいいんだ!」
 さすがの芳樹でも、これだけの数が群れていると鳥肌が立つ。
「芳樹、やっぱり持ち主に回収してもらうのが一番いいわ」
 芳樹のパートナー、アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が提案した。バトルステージの方を見ると、ゴキブリを放った張本人である博士と火焔発射器の姿が見えた。
「あの人たち、ゴキブリに命令ができるみたい。回収してもらうのが一番早い解決方法だと思うわ」
「わ、わかった。そっちは俺が行く。でも、この失神している女性たちはどうすれば……」
「その方たちのことは負かせてくださぁい!」
 救護班のシャーロットも、息を切らせてCブロックに駆けつけてきた。
 女性が、このゴキブリパラダイスに突入することは、かなり勇気が必要なことだっただろう。
「手当はしておきますから……その、急いでゴキさんを……いやあぁ来ないでぇ」
「すまない、頼む! アメリアも彼女を手伝うんだ!」
「わかったわ。気をつけて!」
 芳樹は、ぶんぶん飛び回るゴキブリを払い落としながら、このトラブルの元凶のもとへ走った。

「ニンゲンドモガ キサマラノホウガ ヨホド ガイチュウダ」
 混乱する会場を見て、火焔発射器は嬉しそうだ。
「おい、そろそろ満足したか?」
 駆け寄ってきた芳樹が、ぎろりと睨み付けた。
「止めないでいただこう。我が友権造が負けた以上、ここでゴキブリの生命力を知らしめるのが、我らの望みなのじゃ」
 博士も、やめる気は全くなさそうだ。
「おっさん、あのさ。おっさんも最初はムシバトル王の称号を、自分の虫につけてあげたいと思って出場したんだろ?」
「むろんじゃ」
「だったらそろそろやめておけ。このまま混乱が続いて試合が中止したら、来年から開催されなくなっちまうぞ。二度とおっさんの虫は王になれない。それでいいのか?」
「むぅ……
 博士は、口ひげをなでてしばらく考え込んだ。そして……。
「若いの。貴殿の言は正しい。我輩は、友を王にしてやりたい。今年でこの大会がなくなってしまうのは残念じゃ。ここは、引こう」
「分かってくれたか」
「ゴンゾウノ タメナラ シカタナイ」
 火焔発射器も理解を示した。
「オマエタチ モドレ イマスグニ」
 火焔発射器が命じると、会場中に散っていたゴキブリ達が、一斉に集まってきた!
 かさかさかさ。全て、博士のマントの内側に収まる。
「若いの。貴殿とはまた来年ここで会いたいのぅ」
「ああ。今度はゴキブリばらまくなよ!」
 博士は、権造を促して帰って行った。
 その後、実行委員会がすぐに会場を整備しなおし、試合は続行されることになったのだった。