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リアクション
第4章 いろんな思惑、あと王様ゲームのこと
ざんすかがジャタの森を走っていると、メニエス・レイン(めにえす・れいん)が木陰から現れ、言った。
「私達も除草剤を撒くのを手伝うわ。あなたの言ってること、当然だと思うもの」
パートナーの吸血鬼ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)は、自分の分とメニエスの分、両方の空飛ぶ箒を持っていた。
除草剤を手に微笑むメニエスに、ざんすかは気をよくしたように言う。
「そうざんすか! じゃあ、さっそくジャタの魔大樹に向かうざんす!」
ざんすかの無防備な後姿を見て、メニエスはミストラルに目配せする。
ミストラルは、後ろからざんすかを羽交い絞めにすると、口を塞いだ。
「メニエス様の目的のためですわ。悪く思わないでくださいませね」
「実体化した森の精なんて珍しいじゃない。私の研究の材料になってもらうわ! ……あなたの人を疑わない態度、見てるの、楽しかったわ……クックックッ……」
悪役っぽく笑うメニエスであったが、その瞬間、ミストラルがざんすかの後ろに吹っ飛ぶ。
「ゲホッ、メニエス様、逃げ……」
「ミストラル!?」
ざんすかのエルボーが炸裂したのである。
「ミーを騙そうとするなんて、100万年早いざんす!!」
「きゃああああああああ!?」
メニエスとミストラルはそろってざんすかにぶっ飛ばされるのであった。
一方、シルエット・ミンコフスキー(しるえっと・みんこふすきー)は、ざんすかを愛でるため、迫っていた。
「……その髪、そして神秘的な瞳。そして一度聞いたら忘れられない個性的な語尾! ボクと快楽を謳歌してくれないか。 一度でいいから精霊とやってみたかったんだ。この背筋、素敵だよね……」
「ざんすかちゃん、とってもキュートヨー」
シルエットのパートナーのドラゴニュートエルゴ・ペンローズ(えるご・ぺんろーず)も、主人を手伝うべく、ざんすかに抱きついた。
シルエットに背筋を撫で上げられ、ざんすかは身震いする。
「さっきから、抱きついてくるやつらばっかりざんす!」
「ふふふ、それだけキミが魅力的だってことさ……」
シルエットは、キスして肉体言語に持ち込もうとしたが、ざんすかは別の肉体言語で返してきた。
「ふざけんなざんす!!」
「な、殴られるのもまた一興だよね! ドSの精霊って、ゾクゾクするよ」
「それはどうかと思うヨー」
ざんすかにぶっ飛ばされながら、シルエットとエルゴは空中で漫才していた。
そのころ、離れた場所では。
「おや、いま、どこかでSMの話題が聞こえましたね」
「気のせいだと思うよ、大和ちゃん……」
譲葉 大和(ゆずりは・やまと)と、パートナーの剣の花嫁ラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)が会話していた。
「ほらほら、語尾に『〜じゃた』ってつけるのを忘れていますよ。君はじゃたなんですからね」
「りょ、りょーかい、じゃた」
白髪ボブで、じゃたに似た外見特徴のラキシスが、黒いワンピースを着て「偽じゃた」に変装し、じゃたを利用しようと近づく者を騙すという作戦であった。
ラキシスは、大和と離れ、ジャタの森をうろつき始める。
そこへ、女の子たちの楽しそうな笑い声が聞こえ始めた。
「あはははーまてまてーマスター」
「私を捕まえてごらんなさぁ〜い」
「あははーまってよ〜」
「アハハハ、ウフフフ」
桐生 円(きりゅう・まどか)は、パートナーの吸血鬼オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は、禁断の遊び「耐久! 砂浜で私を捕まえて」をプレイしながらヴァイシャリーから走ってきたのであった。
禁断の遊び「耐久! 砂浜で私を捕まえて」とは、円やオリヴィアのような台詞を言いながら、延々と追いかけっこをするゲームであり、命名者はオリヴィアである。
円とオリヴィアは、このゲームをしながら、ヴァイシャリーからザンスカールに向かってやみくもに走ってきたのであった。
「あ、あの人たち、テンションおかしいよ、じゃた!」
「巻き込まれてはいけません、冷静に対処するのです!」
携帯でこっそり通話し、ラキシスは大和に助けを求めるが、戻ってきたのは無茶振りであった。
「え、えーと、苦しいじゃた、助けてほしいじゃたー」
目薬で泣き真似しながら、ラキシスはじゃたの振りをして、円とオリヴィアに訴える。
「苦しんでいるならインスミールの森をもやしちゃえばいいんだよ」
円は、「偽じゃた」ラキシスの両手を握ると、周りをくるくる回りながら高らかに宣言した。
「はやくはやく〜」
オリヴィアも一緒に回りながら、朗らかに言う。
「「アハハハ。ウフフフ」」
「え、もやす、じゃた?」
「さぁ行こうかーまずはジャタ族の村へ行き兵隊を集めるんだ、そして戦争だ!」
「ジャタ族が私たちを呼んでいるわぁ〜」
「「うふふふ。あははは」」
二人の世界に他人を巻き込む気満々の円とオリヴィアは、最初からじゃたや他人の意見など聞くつもりはなかった。
「か〜は火炎瓶のか〜」
「じぃ〜は除草剤のじぃ〜」
「アハハハハ」
「ウフフフフ」
「ちょ、ちょっと、そんなことできるわけないよ、じゃなかった、ないじゃた!」
「え? ボク達に反対する気?」
円はぴたりと止まり、「偽じゃた」ラキシスを睨みつける。
「ボクとマスターの話が聞けないなんて……つまり、キミは偽物なんだね!?」
「え、なにその超理論、じゃた!」
「『じゃた』とかつけても騙されないよ!」
「じゃあ、さんだーぶらすとぉーを今回は撃ってみるのだわぁ〜」
円とオリヴィアは、ラキシスを攻撃しようと迫る。
「円! 詠唱に集中するわ! 雷の精霊よ、雷と言ったらテレビの電源切ったかしらぁー気になるわー、それと円ー今日のご飯はいいものが食べたいわぁー近くにいいお店あるかしらぁ〜サンダーブラストー!」
「ぎにゃあああああああ!?」
「くっ、ここまでですね!」
大和はラキシスをかばって、なんとかサンダーブラストを避けると、全力で逃走した。
ルーシー・トランブル(るーしー・とらんぶる)は森の高い木の上で、意味深なことを呟いていた。
「このままジャタの魔大樹に何かあれば、200年前のあの時と同じ……、いえ規模からすればあの時以上の災厄がこの地に降り注ぐことになるでしょう。この気に乗じて彼も長き沈黙を破って動き出すでしょうし、最悪この大陸すべてが消え去ることになるかもしれませんねぇ。もはやこうなってしまっては私では止めることは不可能……。まあ、この地と運命をともにするのも悪くないですねえ……」
ルーシーを木の下から見上げるパートナーの剣の花嫁メグ・ゼラズニイ(めぐ・ぜらずにい)が声をかける。
「おーい、ルーシー。なにか新手の遊びを堪能してるところ悪いけど、いい加減食事にしませんかー? もうお昼時をすぎちゃってるし、お腹ペコペコだよー」
「……メグ、お昼ご飯はカレーにしましょう」
口調はそのままに、ルーシーは答えた。
そこに、ざんすかが通りかかり、それを追ってきた青空 幸兔(あおぞら・ゆきと)が、声をかける。
「待ってーな、ざんすか、オラのプレゼント、受け取ってくれ!」
「プレゼント? 何ざんすか?」
「じゃーん! 森の精で女の子ならこれしかないと思ったんや。有機肥料のクッキーと有機肥料のミルクコーヒーや!」
危険な色と臭いの固体と液体を差し出し、幸兔は満面の笑みを浮かべた。
悪気はゼロである。
「ぎゃあああああ!! ミーにそんな趣味はないざんす!!」
ざんすかが「有機肥料のクッキー」と「有機肥料のミルクコーヒー」を幸兔の手から弾き飛ばし、幸兔の顔面に思いっきり投げつける。
「そ、そんなこと言うても、ざんすかが悪だろうと善だろうと、体張って守るで。肉盾となるで! 嫌われてもどこまででも憑いてったるでー!!」
「ついて来るなざんすー!!」
ざんすかを追いかけて、幸兔は全力で走っていった。
「……メグ、やっぱりカレーはやめましょう」
「同感だよ……」
先ほどと同じ口調のルーシーの言葉に、メグはうなずいた。
一方、そのころ、ザンスカールでは。
立川 るる(たちかわ・るる)が、夜空をさえぎる木々を一掃しようと、空飛ぶ箒に乗り、思いっきり除草剤を撒こうとしていた。
パートナーの守護天使ラピス・ラズリ(らぴす・らずり)は、自分の箒がいつのまにかなくなっていることに気がついたが、それと同時に、るるの奇行を目の当たりにする。
(あ、るるちゃんがアホなことしようとしてる……なんかもう周りも訳わかんなくなってて可愛くみえちゃうけど。でも、せめてるるちゃんだけでもパートナーの僕が止めなきゃ。森を枯らしちゃうのは良くないもん。そもそも木まで枯れちゃう除草剤って普通に危ないよ……)
「箒ないけど、そういえば、僕、自力で飛べるんだ! すっごく疲れるけど! 早く追いついて『めっ!』ってしなきゃ……」
ラピスが、慌ててるるを追いかけようとするが、それより先にアーデルハイトが木の上からるるに叫ぶ。
「こらーっ! 何をしておるのじゃ!!」
「あ、大ババ先生!! あのね、るるは星を見るのが好きなの。でもイルミンスールは森が深くて、星の観察のために荒野へ出張とかしてたんだよね……。よし、この機会に乗っかってパーッと森を剪定しちゃおう! って思ったの! これからの季節、どんどん空気が澄んでって星が綺麗に見えるんだよー。パラミタからもスバルやペガスス座は見えるのかなっ?」
「誰が大ババ先生じゃ!! 馬鹿なことを言わずにおりてきなさい!!」
「ジャタの森にだけ除草剤を撒いて、その上イルミンスールの森に取り込むなんて、そんなの一方的すぎるよ! ここは公平を期してイルミンスールの森にも除草剤を撒かなくちゃ。草木がなくなって鬱蒼とした森が開けたら、どちらも同じ空の下にいるんだってことが実感できるに違いないよ」
本音での説得が失敗したので、建前で説得しようとしたるるだったが、当然、アーデルハイトには通じない。
「警告したからな? 私は警告したんじゃからな! お前ら、まとめてお星様になるがいい!!」
ざんすかにラリアットされた八つ当たりのため、普段より乱暴なアーデルハイトは、魔法でるるとラピスをまとめて吹っ飛ばした。
「るるも大好きなお星様になれるんなら本望だよ☆」
「やっぱり僕もるるちゃんのとばっちりを受けるんだね……」
るるとラピスは仲良くお星様になったのであった。
一方そのころジャタの森。
七尾 蒼也(ななお・そうや)、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)、セレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)の3人は、ざんすかとじゃたに王様ゲームをさせようとしていた。
「お茶とお菓子の誘惑に勝てる女の子はいないはずだ」
蒼也はそう言って、ざんすかを更生させようと、お茶会に連れてきていた。
「お帰りなさい、お嬢様!……えへへ、これ言ってみたかったんだ〜♪」
メイドの歩は、ざんすかに微笑みかける。
「キャー! 可愛いわ! 木の精霊ですって素敵♪ パラミタに来てからは素敵過ぎる事ばかりだわ♪」
メルヘンなおとぎ話が大好きなセレンスは、ざんすかに出会い頭、抱きついていた。
「このパターンはもう慣れてきたざんす……。ここに来れば、ジャタの森の精がぶん殴れるざんすね?」
セレンスに抱きつかれつつも、不穏な発言をするざんすかに、蒼也が苦笑する。
「そんなこと言って……ケンカするなよ?」
じゃたも、蒼也の大量に用意したお菓子と、セレンスのお弁当を頬張っていた。
「もぐもぐ、王様ゲームってなんなのじゃた?」
じゃたの問いに、セレンスと歩が実演を始める。
「まずくじを引いて自分の番号を見るの。相手に見せちゃ駄目よ」
「引いてみたよー」
「そしてジャンケンで勝った人が色々命令するの。命令された人はした人に逆らっちゃ駄目。例えば2番引いた人!」
「はーい」
「ヒンズースクワットよ!」
「ええっ! ひどいよ、セレンスちゃん……」
歩が、しかたなく、ヒンズースクワットを始める。
「こんな風にじゃたちゃんにも色々命令出来るかもしれないよ? うふふ♪」
「そうざんすか……なんでも命令していいざんすね……」
セレンスがいたずらっぽく笑い、ざんすかが恐ろしげな笑みを浮かべる。
「な、なんだか怖いよざんすかちゃん? そして、あたし、いつまでスクワットしてればいいの?」
「説明だし、もうやめていいと思うぞ。歩、律儀だな……」
「ごめーん、歩ちゃんっ」
こうして、王様ゲームが始まった。
「ねえねえ、ざんすかちゃんとじゃたちゃんは好きな子っていないの?」
恋愛話に目がない歩が、ざんすかとじゃたに問いかける。
「好きな子? 何のことざんすか?」
「よくわからないじゃた」
「ふーん、そっかあ。じゃあ、あたしが王様になったら絶対聞き出しちゃうもんね!」
ざんすかもじゃたも、森の精なので、本気できょとんとしているのだが、歩はとぼけているのだと解釈した。
(あたしが王様になった時の命令は、「素敵な恋人を見つけるまでケンカ禁止!」恋とか愛って人を優しくしてくれると思うの。だからきっと素敵な人を見つけたら、二人ともお互いいがみ合うこともなくなるよ……うん、あたしカンペキ! あ、ちなみに素敵な人って王子様みたいな人限定だからね!)
こっそり決意する歩は、恋愛話でアホの子スイッチが入っていた。
(大樹を枯らすほどの除草剤をまいたら、たくさんの生き物が死んでしまう。森の精のざんすかならよくわかってるはずだろう? 本当にそれでいいのか? 森にいるのは魔物だけじゃないはずだ)
一方、蒼也は、仲良くなったころあいを見て、説得の言葉を切り出そうと準備していた。
「王様だーれだ!」
そんな中、セレンスはこっそりくじを入れ替えていた。
「はい、王様は私でーす。じゃあ、1番さんと2番さん、抱き合いなさい!」
「あ、1番ざんす」
「2番じゃた」
「えーっ?」
「あ、いきなりか?」
歩と蒼也が驚きの声をあげる。
「そしたら、1番さんと2番さん、キスをしなさい! ……きゃー、言っちゃった!!」
「だ、だめだよお! キスは一番大切な人のためにとっておかないと!」
「む、無茶振りすぎるんじゃ……」
セレンスの命令に、歩が慌て、蒼也も突っ込むが、ざんすかとじゃたは平然としていた。
「ミーはかまわないざんすよ!」
「ワタシも別にいいじゃた」
「え、本当にいいの? って、命令したの私だけど」
「きゃー、だめだってば!」
「お、おい?」
セレンス、歩、蒼也は、驚きの声をあげるが、ざんすかとじゃたは本当にキスをしてしまった。
それからしばらくして、げんなりしたざんすかと、顔色のよくなったじゃたの様子があった。
「うう、せっかく口移しで除草剤を飲ませたざんすが、吸収するとは!!」
ざんすかは、この機会を悪用して、じゃたに除草剤を飲ませようとしていたのだった。
「覚えてろざんす! 絶対、魔大樹を枯らしてやるざんす!」
「あっ、待ってよ、ざんすかちゃーん!」
「ま、間近でみちゃった……」
「除草剤口移しって……」
走り去るざんすかをセレンスが追い、赤面する歩と、逆に顔が青くなっている蒼也が残された。
そんな、平和な王様ゲームを守るために戦う戦士の姿があった。
セレンスのパートナーのシャンバラ人ウッド・ストーク(うっど・すとーく)は、見えない影とひたすら戦い続ける。
「やあっ!!」
木の上から地面に槍を投げたウッドは、ヒーローのように名乗りを上げる。
「ただでさえ森を荒らす奴らに頭にきている所を、麗しい少女達の楽しい戯れを邪魔しようなどと、この正義のヒーロー、えーと、ウッディ! が許さん!」
謎の影は、すばやく茂みに身を隠した。
羽高 魅世瑠(はだか・みせる)とパートナーの剣の花嫁フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)は、森への「侵入者」を排除するため、罠を仕掛け、全力で攻撃していた。
「ジャタの森全体を枯葉剤で破壊しようと企む奴らがいるなんて、許せないよ!」
「あたしたちがリラックスできる場所を奪うなんて、許せない!」
魅世瑠とフローレンスは、そういった誤解から、「侵入者」である目立つ一団を片っ端から攻撃しているのだ。
「ヒョオオッ!!!」
ウッドが、木の上から飛び降り、茂みの中にチェインスマイトを放つ。
「な、は、裸?」
マイクロビキニ風に改造した防具類を魅世瑠とフローレンスは着用しているのだが、森の中で一瞬捉えた姿は、全裸の少女2人に見えたのだった。
「くっ、あんな奴らに負けてたまるか! チェインスマイト!」
ウッドは、再び、魅世瑠とフローレンスを槍で攻撃するが、同時にスパイクボールを投げつけられてしまう。
同時に、魅世瑠とフローレンスも、目配せしあい、一旦撤収することを決意する。
「ぐほっ……俺頑張ったよな……?」
そう呟いて、正義の戦士「ウッディ」は前のめりに倒れるのだった。