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【2019体育祭】目指せ執事の星! 最高のおもてなしを!

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【2019体育祭】目指せ執事の星! 最高のおもてなしを!

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激しい関係

 スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)は自分のお嬢様である崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)のお着替えを今か今かと待っていた。
「今日のために用意した特別な衣装。お嬢様に似合わないはずがない!」
 緑の瞳をキラキラさせ、スレヴィはあれこれ考える。
 ああ、きっと、あの黒い革が大きな胸にぴったりとフィットして……。
 ピンヒールを履いて、俺より高くなった視界から、俺を見下ろして。
 書けないような妄想が、どんどんとスレヴィの中で膨らんでいるうちに、亜璃珠の着替えが終わった。
「着替えたわよ」
 シャッとフィッティングルームのカーテンを開け、亜璃珠が出てくる。
 そこには黒いボンデージ姿の亜璃珠がいた。
「素晴らしい!」
 体のラインがはっきりくっきり出るボンテージビスチェ姿にスレヴィは興奮して、亜璃珠を賞賛した。
「お嬢様は何を着てもお似合いになりますが、この衣装はお嬢様の美しさを最高値にまで引き出す魔の衣装です。ああ、本当に、とてもとても麗しい……」
 自然とひざまずき、普段とは口調すら変わって、自分を見上げるスレヴィを見て、亜璃珠の微笑が、すうっとそれまでと違うものになった。
「ふふ……とてもいい子ね。ちゃぁんと、私の趣味を理解しているみたい」
 最初、亜璃珠は今回は薔薇学との合同ということで、お嬢様らしく大人しくしようとしていた。
 亜璃珠は百合園女学院の中でも、色々と立場のある人物なのだ。
 百合園女学院生徒会執行部……通称白百合団の一員であり、白百合団・副団長であり、パラ実のC級四天王である神楽崎優子の補佐役であり、『神楽崎分校』分校長であるという高い立場の人物なのだ。
 そのため、薔薇の学舎の生徒たちと会った時も優雅な笑みを浮かべ、こんなことを言っていた。
「美しさを解し且つ瀟洒で奥ゆかしさを備えた人物こそ、薔薇の学舎の生徒としても、相応しき人物と言えるのではないかしら」
 人に仕える執事にも相応のセンスがないと、と思っていた亜璃珠だったが……。
 ある意味、スレヴィは正しく、お嬢様の嗜好を読むセンスがあったといえよう。
 なにせ、亜璃珠は鞭とハイヒール常備のドSなのだから。
 だからこそ、亜璃珠は『私の趣味を理解している』と評価したのだ。
「あなたとなら、模範的な主従関係が出来そうだわぁ。ねえ、そう思わない?」
 スレヴィが用意した、いつもよりさらにヒールの高い黒ブーツのつま先で、亜璃珠がひざまずいたスレヴィの顎を持ち上げる。
「は、はい、そう思います……思いますとも……」
 これから起こるであろう事を期待し、スレヴィの声が上ずる。
「そう、いい子だわ。いい子にはご褒美をあげないとね」
 色っぽい笑みを見せた亜璃珠は、軽く手首を振った。
 それと共に、風を切るシュッと言う音が鳴り、次の瞬間、痛みを伴う音が鳴り響いた。
 亜璃珠がダークネスウィップを振るい、スレヴィの身体に叩き付けたのだ。
「きゃっ!」
「うわ……」
 百合園のお嬢様も、薔薇の学舎の学生もビクッとして身体を竦めた。
 だが、叩かれたスレヴィはというと、自分のネクタイを緩め、頬を染めてそれを亜璃珠に差し出した。
「ふぅん……」
 亜璃珠は口元を緩め、そのネクタイを受け取ると、スレヴィの両手を縛ってやった。
 しかし、縛ってすぐに真っ赤な美しい瞳に、加虐の色が宿る。
「執事でありながら、お嬢様である私に要求をするとは……覚悟は出来てるのでしょうね?」
「は、はい、もちろんでございます」
 スレヴィの目は恐怖よりも期待に満ちていた。
「その目の色を変えてあげるわ」
 音が二つ鳴り、鞭打つ音が高く響き渡った。
 光条兵器の鞭と、ダークネスウィップが同時にスレヴィの身体を打つ。
 片方の鞭は服の上からスレヴィを打ち、もう片方の鞭は素肌をそのまま打って、痕をつけた。
 その音と痕に、顔を背けるものもいたが、打たれたスレヴィはうっとりとした顔をした。
「魔力と物理、両方の痛みはどうかしら?」
「最高です、最高でございます、お嬢様」
 スレヴィが歓喜の声を上げる。
 この性癖のせいで、かつて恋人に別れを告げられたスレヴィからすれば、自分の性癖を理解してくれて、かつ、悦びを与えてくれる亜璃珠は、お嬢様どころか女神様だった。
 SでもMでもいけるスレヴィだが、今回はMスイッチ全開になっていた。
「どちらの痛みも最高とは、どこまでもMね。さて、いつまで耐えられるかしら?」
 いつまで、という言葉に、更なる痛みが加えられることを悟り、スレヴィの背筋がゾクゾクとした。
 震えるスレヴィに亜璃珠は楽しそうな笑みを見せて、両方の鞭を振るった。
「二通りの快楽にご招待してあげるわ」
 ピシッ。
 パシッ、ピシッ!
 会場の中で鞭の音が響き渡る。
 スレヴィの服が鞭に打たれて擦り切れるが、中の肌が傷ついても、スレヴィは悲鳴を上げるどころか、悦楽の声を上げている。
「亜璃珠女王さ……いえ、お嬢様は世界一です! 愛してます……!」
 恍惚とした表情で、主人への愛を口にし、亜璃珠を讃えるスレヴィ。
「ほら、もっと言って御覧なさいよ」
 薄い板なら簡単に穴が開きそうなくらい硬いヒールで、亜璃珠がスレヴィを踏みつける。
 血が滲んだが、それでもスレヴィのうれしそうな表情は変わらない。
 むしろ、快感が増したかのような表情に変わる。
「これだけ痛めつけられて、そんなに楽しいの。本当のドMね。これまで、いろんな子の接してきたつもりだけど、あなたほどのドMは初めてよ」
「うれしいです、お嬢様。どうか、お嬢様のお心のままに……」
「そう、それなら……」
 ここ最近、女王様をしていなかったせいだろうか。
 亜璃珠が楽しそうに更なる攻撃を与えようとして……その腕をがしっと掴まれた。
「え……?」
 動こうとしても、思いのほか強い力に、羽交い絞めにされた。
 亜璃珠を捕らえたのは、白百合団だった。
「このような姿を、他校にまで晒し続けるわけには行きません」
「百合園の品位が疑われます。力ずくで申し訳ありませんが、ご了解を」
 感情のない言葉でそう言い放つと、白百合団は亜璃珠を連れて行った。
「誰に向かってこのような狼藉を! 私は神楽崎副団長の補佐役であり、分校長であり……ちょっと、ちょっとーー」
 亜璃珠の叫びが段々小さくなり、最後には「自分も白百合団なのにぃ」という少し情けない嘆きだけが聞こえて去っていった。


 弁天屋 菊(べんてんや・きく)皇祁 黎(すめらぎ・れい)は互いに相手がおらず、顔を見合わせていた。
「貴様がお嬢様ということはないよな?」
 黎の言葉に、菊は肩を竦める。
「どう考えてもありえねえだろ」
「そうだな」
 短くぶっきらぼうに黎がそう応じた。
 別にパラ実の菊に思うところがあるのではなく、黎は大の女嫌いなのだ。
 男子校である薔薇の学舎には割といそうだが、女性に不慣れという生徒はいても、女嫌いというのはあまり多くない。
 だからこそ、今回の体育祭が成立するのだが。
 菊は困ったように辺りを見回した。
 今日の彼女は、農作業用の服でも、弁当作りのときのはっぴでもなく、執事然とした格好をしていたのだが、お嬢様がいないのではどうにもならない。
(ジェイダスのイベントと言やぁ、パラ実にトロフィーをくれるイベントだからねえ。今回も有り難く頂戴しようと思ったのに)
 菊がそんなことを思う近くで、黎も同じようにジェイダスのことを考えていた。
 女性が半径2M以内に近づくのを欲しない黎だが、勝利して、ジェイダスに“いい子いい子”をしてもらいたいと思っていた。
 だから、ここでお嬢様がいないと困るのだが……。
「さて、それではお相手いただこうかしら?」
 困る2人の前に現れたのはラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)だった。
「へ……?」
「なんだ?」
 不思議そうな菊と黎に、ラズィーヤは優雅な笑みを見せた。
「美しさを競うのに、私が参加しなくてどういたしますの?」
「どうって……だが、1人では……」
「庶民なら執事1人でいいかもしれませんけれど、わたくしのお世話をするというならば、1人では足りませんわ。しかも、素人執事さんでは尚更」
「素人だと笑うか。騎士とて仕えるものだ。貴様の望みくらい簡単に叶えてやる」
 高飛車なラズィーヤの態度に、カッとした黎がそう言い切った。
 菊は執事だが、黎は騎士なのだ。
 しかし、理由はそれだけでなく、跡取りの地位を姉に奪われた黎は、ラズィーヤのようなタイプが、より嫌いなのかもしれない。
「そうですか。では、期待させていただきますわ」
 ラズィーヤの微笑みに、菊が小さな悪寒を感じた。
 そして、それは現実のものとなり、数十分後……。
「あらあら、もう終わりですの」
 たくさんの服に埋もれてグロッキー状態になった黎と菊を見て、ラズィーヤは楽しそうに微笑む。
「なんで、どれ持ってきても気にいらねえんだよ」
 ラズィーヤの好みを聞き、何十点もの服を見せた菊は、どれもダメだしされ、疲れた表情を見せた。
「貴様のイマイチなコーディネイトをどうにかしてやろうっていうのに……まったく言うこと聞かないじゃないか」
 そんなんだからダメなんだと言いたそうな黎だったが、ラズィーヤは涼しい顔だ。
「自分の方がえらそうな態度で、執事が勤まると思ったら、大間違いですわ。騎士が主君にそんな態度はしませんでしょ? そちらの女性執事さんはそうね……一度、自分でお嬢様っぽいものを着ると、もっと勉強になると思いますわ」
 ぐったりとした2人を置いて、ラズィーヤは微笑を浮かべたまま去っていった。


 佐野 亮司(さの・りょうじ)月島 悠(つきしま・ゆう)の2人は、珍しい教導団からの参加だった。
 だが、2人は競技を始めていなかった。
「私のこと騙したんですか!」
 悠が大きな青い瞳で、キッと亮司を睨んでいた。
 どこかおかしいとは思っていたのだ。
 百合園女学院の制服を着ていくように、とパートナーの麻上 翼(まがみ・つばさ)に言われたときから。
 でも、潜入訓練のため女装も必要だと言われたから、悠は恥ずかしく思いながら、百合園の制服を着て来たのだ。
 亮司はちょっと困りながら、しかし同時に(怒った悠も百合園制服の悠も可愛いな)とか思ったりしながら、悠をなだめた。
「ほら、ハロウィンの時の仮装が可愛かったからさ、もっといろんな格好の悠が見たくて」
「だ、だからって、訓練だなんて騙していいものでは……」
 頬を染めながら、何とか言い返そうとする悠だったが、そこに声がかかった。
「キャー、ユウチャーン」
 観客席のイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)の声に、悠はガクッと崩れる。
「も、もうイリーナさ……」
 悠が観客席に向かって文句を言おうとすると、トゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)が観客席から身を乗り出し、黄緑の葉っぱで悠たちを指差した。
「イリーナ、イリーナ。佐野さんと月島さんラブラブでありますか? ラブラブでありますか?」
「あらあら、トゥルペちゃん。そんなのを直接言ってしまったら、情緒がありませんわぁ」
 携帯で亮司たちの様子を撮るイリーナに代わり、エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)が笑顔を浮かべて、トゥルペに答える。
「さすが、エレーナさん。ちゃんと悠くんに聞こえるように言うあたり抜かりがないですねえ」
 翼がビデオカメラを用意しながら、感心の声を上げる。
「も、もうみんなして……」
 悠があちこちからの爆弾に頭を抱えていると、イリーナたちからの声が止まった。
 1人の人物がイリーナに近づいたからだ。
「……セルベリア?」
 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)に声をかけられ、イリーナの意識がそちらに向く。
「あ、早川」
「観戦に来てたのか」
 2人が話し始めたのを見て、ホッとした悠だったが、イリーナがちょっとだけ悠たちのほうに意識を戻し、任務口調で言った。
「月島。佐野と月島は、この大会唯一の教導団コンビだ。教導団の名を、小隊の名を汚さぬ活躍を期待する」
「うっ……」
 イリーナの言葉に、悠は言葉を詰まらせる。
 その様子を見て、翼がすかさず、追撃を入れた。
「そうですよぉ、悠くん。軍人たるものを、敵前逃亡はいけません」
「敵前逃亡……? で、でも、どうすれば」
「悠くんはお嬢様役なんですから、全部使用人に任せるべきです。それとも、執事役の佐野さんを信用できませんか?」
「そ、そんなことないよっ! 亮司さんのこと信じられないなんて、そんなこと……」
 慌てて悠が翼の言葉を否定する。
 そして、チラッと心配そうに亮司の方に目を向けた。
「でも……お嬢様なんて言われても、どうして私が……」
「だってもったいないじゃないか、そんなに可愛いのに、男っぽい格好ばっかりしてたら……」
 ポツリと亮司が呟く。
「亮司さん……」
 「まぁ本当なら俺の前だけで、色んな服を着てくれたら嬉しいんだけどな」
「え? 今なんて……?」
「あ、いや。まぁ、今度何か奢るからさ、許してくれよ。悠の好きなもの、何でもおごるからさ」
(さすが闇商人。不利な状況でも、次のデートの約束を取り付けてます〜)
 ビデオカメラを回しながら、翼が心の中でニヤニヤする。
「さ、月島さん。どうぞ機嫌を直してくださいな。このお振袖、とても素敵ですよ」
 向山 綾乃(むこうやま・あやの)が、亮司が選んだ桜色の振袖を悠に見せる。
「……わぁ」
 見せられた振袖を見て、悠が目を輝かせる。
 このあたりはやはり女の子だ。
「さ、それでは着付けをいたしましょうか」
「え、で、でも……そ、そんなのを着るの?!」
「あれー、悠くん、フィッティングルームに行かないんですかー?」
 着付けをしようとする綾乃に、悠が尻込みするのを見て、翼がビデオカメラ片手に小さく笑う。
「もしかして、佐野さんに着付けをするところを見て欲しいんですかぁ? 着物って下着を着けないって聞いたのに、悠くんってば大胆☆」
「ええっ!?」
 翼の言葉に、悠が真っ赤になる。
「ば、バカ言ってないで、翼も綾乃を手伝ってくれ」
 真っ赤になった悠ほどではないが、亮司も照れて、翼の背を押す。
「はーい、分かりました。着替えのシーンもバッチリ撮っておきますので、佐野さん後で見たかったらどうぞー」
 自重しないと決めて参加した翼の暴走は止まらない。
 その様子を見て、綾乃が心配そうに翼に耳打ちする。
「大丈夫なんですか、月島さん……」
「平気ですよー、恥ずかしがっても嫌がっても、悠くん、誘い受けですのでー」
 ニコニコと笑いながら、翼が綾乃を促し、綾乃は悠の着付けを行った。
 そして、数十数分後。
 桜色の振袖を着た悠が出てきた。
「…………」
 出てきた悠を見て、亮司が黙る。
 悠はそんな亮司の態度を見て、急いで踵を返した。
「に、似合いませんよね! ごめんなさい、脱いできます!」
「そんなことないですよ。すごく似合っていますよ」
 綾乃がフォローし「亮司さん」とパートナーを促す。
 亮司は「あ、ああ」と答え、恥ずかしさを払うように一つ息を吐いて、小さく笑った。
「うん、よく似合ってる、綺麗だよ、悠」
「あ、ありがと……」
 率直な褒め言葉に、悠は目を伏せながら、お礼を言う。
「ホントにもったいないよな、普段から女の子らしい服着てればモテるだろうに……」
 踵を返そうとしたときにずれてしまった花のかんざしを、亮司はそっと戻してやった。
 その時に亮司の手が、悠の髪に触れ、悠はドキッとする。
「モ、モテるだなんて、そんなことないもの……」
「そんなことないか。まあ、俺からしたら、そんなことないほうがありがたいんだけどな」
「え……?」
 悠の青い瞳が亮司を見つめ、亮司はそれに視線を合わせて、瞳を覗き込むように語り掛けた。
「でも、俺はもっと見たいな、女の子らしい服着てる悠のこと」
「もっと……?」
「ああ、もっと。俺に女の子っぽい悠を見せて欲しい」
 亮司は悠のそばに立ち、悠の耳元に唇を近づけると、そっと囁いた。
「仮に勝負に負けちゃっても、俺の中では悠が優勝だから」
 囁かれた言葉に、悠は顔を真っ赤にして硬直し、その可愛い様子を見て、亮司は笑みを浮かべるのだった。