波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

【2019体育祭】目指せ執事の星! 最高のおもてなしを!

リアクション公開中!

【2019体育祭】目指せ執事の星! 最高のおもてなしを!

リアクション



お嬢様のお着替え

始まりからハプニング

「我が校、百合園女学院その他学園から体育祭へ参加の諸君。今日は、最高の執事ともに最高の淑女を決めたいと思う。諸君等も参加するのであれば、高みを目指して欲しい。それでは、楽しい催しになる様に頑張ってくれたまえ」
 ジェイダスの開会の挨拶が終わると早速、第一競技の準備が始まった。
『お嬢様のお着替え』に参加の淑女達は、更衣室で準備をしている。
 そんな中、怪しい人物が一人。
 派手なマントをしっかり羽織り、こそこそと端の方でタイミングを見計らっている。
 何のタイミングかって?
 そりゃあもう、百合園女学院の生徒達に自分の立派なお宝を披露するタイミングだ。
 きっと、こんな事を考えるのは、彼だけだろう(多分)。
 そう、薔薇の学舎の勇者、変熊 仮面(へんくま・かめん)である。
「クックックッ、百合園生が一同に集まるとは……。お嬢様に私の肉体美をアピールする絶好の機会!」
 こんな機会は2度と無い。
 女生徒達が自分の裸体を見て歓喜の声を上げるのを想像すると、変熊は顔が緩む。
 そんな時、見かけたのが知り合いの冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)である。
(少し緊張している様だな。よし、俺様が緊張を解してやるか)
 誰もそんなことを頼んでいないのに、変熊は小夜子の側に近寄ると。
「お嬢さん……。私の心の起動レバーを引いてもらえますかな?」
 いきなり、小夜子に向かってマントを広げ、その裸体を晒す変熊。
 一瞬訪れる静寂。
(ふっふっふ♪ 冬山だけではなく、他の女生徒の羨望の眼差しも感じるぞ)
 変熊は満ち足りた気分になる。
 だが、一瞬後に訪れたのは、女生徒達の悲鳴のハーモニー。
「キャー! 嫌ー! 変態ー!」
「えっ、そんな、俺様は皆の緊張を解そうと……」
 変熊が言い終わる前に、誰が放ったか知らないが光条兵器が変熊にぶち当たり、素手でのツインスラッシュが放たれる。
 淑女とは言え、彼女たちだって戦闘訓練も受けているし、いくつもの冒険をこなしている。
 そんな彼女たちの前に、変熊の様な輩が現れたら返り討ちに合うのは当然と言えば当然のこと。
「いやー! 助けてー!!」
 慌てて逃げ出す変熊。
 通路を必死で逃げ、光が見えた。
 その先は、『お嬢様のお着替え』の会場だった。
 そこには、数人の執事達がお嬢様の為にスタンバイしていた。
 いきなり現れた、ボロボロの変熊に皆が驚く中、すごくいい笑顔を浮かべながら、変熊に近づく人物が居た。
 黒い執事服を身に纏い、耽美なフェロモン全開のその人物。
 明智 珠輝(あけち・たまき)その人である。
「そこ行くは、愛しの変熊さん。そちらのゲートからいらっしゃったと言うことは、お嬢様ですね? 私に身も心も預けてみませんか?」
 いきなりの珠輝の登場で動揺する変熊。
「いや、明智。その申し出は、嬉しいのだが。今、俺様は失意のどん底なのだ。またの機会に……」
「またの機会? 私がこんな機会を逃すとでも思っていらっしゃるのですか? 変熊さん?」
 後ずさる変熊に、怪しい笑顔を浮かべにじり寄る、珠輝。
 その表情を一言で表すなら『恍惚』。
「そんな、ボロボロの格好では、麗しの美貌が台無しですよ」
「いや、いいんだ。放って、おいてくれ」
「私が、あなたを放っておけるとでも思っているのですか、変熊さん。いつもの、素肌を晒したあなたも愛しいですけど、今日は、私好みの王子様にして差し上げますよ」
 そう言って、珠輝の手に用意されているのは、某歌劇団もびっくり豪華ラメ入り王子様衣装。
「さあ、いつもとは違う自分をさらけ出しましょう。変熊さん」
 妖艶な笑みを浮かべる、珠輝。
「マテ、明智。俺様に服を着せる気か!? こんな大衆の前で!?」
「ええ、そうですよ。そう言う競技ですから」
「嫌だぁー! ジェイダス校長もイエニチェリも見てるのにそんな恥かきたくないー!?」
 いや、恥って。
 いっつも素っ裸な方が人としてどうかという意見の方が多いと思うのだが。
「変熊さん、泣いても叫んでも誰も助けてくれませんよ。さっきも言ったとおり、そう言う競技なんですから」
「嫌だー! パンツなんか履きたくないー!?」
 人として間違っている気が多大にするのは何故だろう?
「仕方ない人ですね。そこが可愛い所でもあるんですけど、パンツはあなたの可愛さに免じて今回は許してあげましょう。でも、服は着て頂きますよ♪」
 格闘、数分。
 そこに出来上がったのは、いつもと違う自分。
 と言うか、服を着た変熊。
 観客の目にも優しいが、もの凄く派手。
「美しい。愛してますよ。マイプリンス」
 変熊の手の甲に口づける、珠輝。
 自分の手で出来上がった芸術品にご満悦の様子。
 だが変熊は、むせび泣いていた。
「こんな姿、もうお嫁にいけない……」
 泣きダッシュで会場を去る変熊を、珠輝は、愛おしそうに眺めていた。


「先程は酷い目に遭いましたわ。それでも、薔薇園の皆様に淑女のなんたるかを、お見せしないといけませんわね」
 冬山 小夜子がいつも通りのシスター服を着て会場に現れると、可憐な美少女執事真口悠希(まぐち・ゆき)が近づいてくる。
「小夜子様、本日はボクをお誘い下さいまして、有り難うございます。ボク、男の人苦手だから、嬉しかったです。精一杯、小夜子様の美しさを引き出せる様に頑張りますね、ボク」
 小夜子からの誘いがよっぽど嬉しかったのか悠希が笑顔で小夜子にお辞儀する。
「いいえ、私も悠希さんとご一緒出来て嬉しいですわ。今日は、よろしくお願いしますね執事さん」
 にこやかに微笑む小夜子に、自然と悠希の頬がほんのり赤くなる。
「それでは、コーディネートに移りましょうか、小夜子様」
 自分のドキドキが小夜子に気付かれない様に、執事として話しかける。
「そうですわね。私、あまり派手なドレスの様なものは好みではありませんの」
「分かっています。今日は、小夜子様の人を惹きつけて止まないその魅力を十二分に引き出せる様に、こちらのシスター服をご用意しました」
 悠希が差しだしたのは、ごく普通のシスター服に見えるが、スリットが入っており、純白のガーターベルトがちらりと見えるデザインになっている。
「私がいつも着ている、シスター服とは少し違いますわね」
「はい! 小夜子様の魅惑的そして清純なイメージで選ばせて頂きました」
「そうですか、私のことをよく考えて下さって嬉しいですわ」
 小夜子がにこりと笑う。
 悠希の心拍数が更に上がる。
「それでは執事さん。着替えますから、手伝って下さいます?」
「えっ!? ボクがですか!?」
「あら、女の子同士ですもの平気ですわよ」
「そ……そうですね。では、フィッティングルームに入りましょう」
 小夜子は気付いていない様だが、悠希の心はドキドキしっぱなしだ。
 フィッティングルームに入ると、小夜子はおもむろにシスター服を脱いで、ランジェリー姿になる。
 そんな小夜子を悠希が直視出来ないで居ると、小夜子が。
「執事さん、ガーターベルトをはめるのを手伝って下さいます?」
「は!? はい!」
 悠希は、慌ててガーターベルトを手に取ると、小夜子の顔を極力見ない様にして、小夜子の脚にガーターベルトをはめていく。
「どうかなさいました? 執事さん?」
 悠希のぎこちない手つきに疑問を覚え、小夜子が聞く。
「いっ! いえ、小夜子様のおみ足があまりにも白く美しいので見とれておりました」
「そうですの。そう言って頂けると嬉しいですわ」
「いえ。それでは、こちらの服をお召しになって下さい」
 小夜子は渡された少し大胆なシスター服に袖を通す。
 その着替え方が妙に色っぽく悠希はドキドキしっぱなしだ。
(……このままじゃ執事失格ですっ! そうだ! 愛する静香さまの事を思い出そう! 静香様がいらっしゃってる運動会で…こんな情けないボクで居る訳にはいかないっ!)
 そう心の中で唱えると、悠希の心は少しずつ落ち着いていった。
「執事さん、このような感じでよろしいかしら?」
 小夜子の言葉に振り返ると、いつもの清純な小夜子の面影を残しながら、セクシーなシスタースタイルの小夜子が居た。
 何とも男心をくすぐるスタイルである。
「お嬢様、とてもお美しいです」
 悠希が心からの賛辞を述べると小夜子もにっこり笑って。
「ありがとう」
 淑女らしい、優しい声でお礼を述べる。
「勿体無いお言葉……お嬢様の為なら、どんな困難も乗り越えてみせましょう」
 そこには、強い瞳をした少女執事の姿があった。


 鬼院 尋人(きいん・ひろと)は、いつもの鎧を脱いで、執事服を着て居た。
 尋人は立派な騎士を目指している。
 騎士として成長すれば、気難しいお嬢様に仕えることもあるだろうと思い、執事になる今回の体育祭に参加している。
 だが、男兄弟の中で育ち、男子校に通い、女性に関わってこなかった尋人にとっては女性の心などちんぷんかんぷんだった。
 執事どころかなんちゃって執事になれるかも怪しい。
 そんな尋人の心を知ってか知らずか、お嬢様アリス・ハーバート(ありす・はーばーと)は、尋人の選ぶ服を心待ちにしている。
 アリスは、地球にいた頃からの正真正銘のお嬢様で屋敷には執事も数人居たが、若い執事はおらず、年輩の執事ばかりだったので、今回、同世代の執事に洋服をコーディネートして貰えるというのをとても楽しみにしていた。
「執事さん。私に似合う服選べた?」
「ちょっと待ってくれ」
 尋人は言うと、また大量の服とにらめっこを始めた。
(とにかく派手でヒラヒラしていればいいんだろうな。女なんて)
 考えが纏まると、尋人は自分が思い描くお嬢様の服をチョイスしていった。
「お待たせしたな。お嬢様」
「うん。大丈夫だよ。それで、私に似合う服選んでくれた?」
「ああ、こんな感じでどうだ?」
「えっ!?」
 尋人が持ってきた洋服を見て、アリスは絶句する。
 何故なら、尋人が持ってきた洋服というのが全体に薔薇模様が入っており、おまけに巨大な羽飾りまで付いている。どこぞの校長の様だ。
 ここまで派手だと着る人を選ぶというか、お嬢様には明らかに相応しくない。
「執事さん! どういうセンスしてるの!」
 アリスが怒るのも当然である。彼女の実家の老齢の執事だってもっとまともなセンスをしていたのだから。
 だが、怒られて黙っていられる程、尋人も大人では無かった。
「なにぃ! 俺のセンスが悪いとでも言いたいのかー! ひらひらで派手な服を女は好むんだろ? 大体その態度はなんだ! お嬢様には程遠いよ!」
 完全に逆切れである。
「何ですってー! 私はれっきとしたお嬢様だよ! はあ、執事さんには、女の子が好む服のセンスって言うのが無いのね。仕方ないわね」
 アリスは溜息をつくと尋人に切り出した。
「この際だから執事さんには、お嬢様が好む服装って言うのを徹底的に教えてあげる」
「えっ!」
「ほら、一緒に洋服を選ぶよ」
「……ああ」
 そう言って、アリスは女の子がどんな服を好むのか尋人に徹底的に教え込み始めた。
 そして、自分の好みの服を選び出した。
 花柄の白いカントリーワンピースの上に淡いピンクのフリフリエプロンドレス、靴はロングブーツ。髪飾りは白いレースのリボン。
「こう言うのが、女の子が好むコーディネートだよ」
「そういうものなのか」
「私だけ着替えるのも面白くないかな? 執事さんの服もコーディネートしてあげる♪」
「何だってー? もしかして、俺に女物を着ろってこと?」
 アリスの発言に尋人は心底驚いていた。
 執事はそんなことまでしなくちゃいけないのかと。
「執事さん、細身だし、きっと似合うよ♪」
 アリスは無邪気に尋人の服を選びだした。
 そんな中、尋人は本気で困っていた。
(薔薇の学舍のみんなや憧れの先輩黒崎 天音(くろさき・あまね)に見られるのはすごく嫌だ! 断固拒否したい! でもなあ、執事としてお嬢様に逆らう事は絶対にできないしなあ。途中で投げ出すのは騎士道に反するし。……仕方ない。耐えるか)
 尋人が大きく溜息をつく。
「執事さんのコーディネート出来たよー!」
 アリスが尋人に渡してきたのは、緑のストライプ柄のカントリーワンピースの上に、白いフリフリレースのエプロンドレス、靴はロングブーツと言ったカントリースタイル。さらにツインテールのカツラまで用意されている。アリスとのお揃いで、白いレースのリボンももちろん付いてきた。
「早速、お着替えお着替え♪」
「ああ」
 そうして二人はフィッティングルームに入り着替えた。
「執事さん、すっごくかわいい♪ 私も嬉しくなっちゃう♪」
 アリスは尋人のカントリーワンピーススタイルの服装にご満悦で、尋人に微笑みを浮かべる。
 その微笑みを見て、尋人はハッと気付く。
(俺は今まで騎士道の修行とか勝負のことしか頭に無かった。大事なお嬢様の気持ちを考えられて無かった)
 尋人もアリスに微笑み、アリスの優しい気持ちに気付けた自分が誇らしかった。
「行こうか、お嬢様」
「うん♪」
 尋人はアリスに手を差しだしアリスもその手を繋いだ。
 尋人は主人に仕えることのなんたるかが少し分かった気がした。
 後日。薔薇の学舎で尋人の女装写真が売りさばかれた際、尋人がもの凄く後悔したのは、言うまでもない。