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【十二の星の華】シャンバラを守護する者

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【十二の星の華】シャンバラを守護する者
【十二の星の華】シャンバラを守護する者 【十二の星の華】シャンバラを守護する者

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第6章


 ホイップ達が到着して、村の中心へと入っていくと、とっくに到着していた人達がホイップの側へと駆け寄った。

「ホイップ殿!」
「黎さん」
 一番に近寄ったのはホイップの保護者とも言うべき藍澤 黎(あいざわ・れい)だ。
「山火事の様な火災は専門家でも無い者は無闇に立ち向かうより避難するのが一番なのに……どうしてもやるのだな?」
「うん!」
 黎の言葉に一歩も引かず、真剣に返すその眼差しは揺るがない決意が見て取れる。
「……まあ、それがホイップ殿だからな」
 呆れつつもファイアプロテクトをホイップに掛けた。
「ありがとう!」
「いいか、風下には絶対立たない事。また傾斜地では急炎上現象で火の周りが早くなるから注意だ。あと頭痛・耳鳴・めまい・嘔気が出たらすぐその場から逃げる事。一酸化炭素中毒の初期症状だ。それから……」
 まだ続けようとしたが、自分の持っているリュックの事を思い出し、ストップした。
「ホイップ殿、これを背負っておいてくれ」
「これは?」
「保険だ」
「保険?」
 ホイップは聞き返したが、問答無用で背負わされてしまった。
(なんかちょっと温かい?)
「無理はするな」
「うん」
 ホイップの頭をくしゃりと撫でると黎は小型飛空挺で上空へと上がって行った。

 続いて、近付いて来たのはウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)ヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん)ルナール・フラーム(るなーる・ふらーむ)だ。
「え、えっと……来てくれて凄くうれしいんだけど……放火魔?」
 ホイップはウィルネストの呼び名を指して言った。
「いやいやいや! 確かに銀髪の放火魔とか言われてるけど! 良い色に燃えてるとか思ってたけど!」
「にゃにゃにゃっ!? 不謹慎でありますっ!」
 良い色と言ったのをルナールに咎められてしまった。
 ぽかぽかと殴られるウィルネスト。
「悪かった! ルナ! 真面目にやるって。俺だってちゃんと燃やすモンは一応選んでるんだぜ?」
「……お前、エルを燃やした事なかったか?」
「エルは俺的に燃やして良いモンだ」
 ヨヤのツッコミによって、エルが燃やして良いモノ扱いが発覚した。
「にゃっ!? ホイップちゃん……ホいいにおいがするであります」
「えっ? そう?」
 ルナールはスンスンと鼻を動かし、近くで匂いを嗅ぐと突然ホイップに抱きついた。
「ルナちゃん、いいにおい大好きであります! なんだか甘い……シナモンの香りがするでありますよ!」
「えへへ……ありがとう」
 ホイップはルナールのハグに笑顔で返したのだった。

「ホイップちゃん、このマスク使って」
 エルは防炎マスクをホイップへと手渡した。
「エルさん、ありがとう!」
 ホイップはそのマスクを大事そうに受け取る。
「うふふ……仲が良さそうですわね」
 ルディ・バークレオ(るでぃ・ばーくれお)はホイップの横へと立つ。
「なんだ、金運と男う……ではなく健康運だったか? とにかく、また幸の薄いこの小娘か。ルディはいたく気に行っているのだな」
 ラグナ・アールグレイ(らぐな・あーるぐれい)が腕組みをしながら言う。
「ホイップさんは、可愛い妹のようなものですから……しっかり守ってあげなければ――」
 ルディはエルの耳元に口を近付ける。
「下僕にしてしまいますわよ?」
 ふふっ、とルディは笑い、エルは頷いた。
 勿論、ホイップにルディの言葉は聞こえていない。
 ラグナの方は聞こえていなくてもなんとなく解っているようだ。
「じゃ、ボクは自分の出来ることをやってくるよっ!」
「うん!」
 ホイップはエルを送りだした。

「ひゃっ!」
 ホイップにいきなり抱きついて来たのは到着したばかりのルカルカだ。
「ホイップちゃん! 来たよーーっ! 慌て過ぎてパートナー達忘れて来ちゃったけど」
「そんなに急いで!? ありがとう!」
 ルカルカの行動にホイップもハグで返した。
(この辺りには殺気を持っている人物はいなさそうね)
 ハグをしながらも殺気看破をして辺りを警戒しているのは、流石といえよう。

「ホイップ、この火事は不自然なのだ。放火なのか?」
 次に近づいて来たのはリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)だ。
「えっ!?」
 ホイップは驚き、目を見開く。
「何か心当たりはないのですかー?」
 小型飛空挺に乗って近寄って来た桐生 ひな(きりゅう・ひな)も質問をする。
「う、んと……この村が襲われる理由は……思いつかない……かな」
(ホイップは疑っていないのか……)
 その様子を見てリリは確信し、頑張ろうと声だけ掛けてホイップから少し離れた場所へと移動した。
 その後ろをひなもついていく。

「ホイップが到着する前に少し調べたが、出火元と思われるいくつかの納屋の中で同じ物を見つけたのだ」
 リリはひなに手の中にある融けて再び固まったタイマーと豆電球を見せた。
「それは貴重な情報ですね」
 横から口を出したのは樹月 刀真(きづき・とうま)だ。
「俺も気になることがあります。電話で言ってましたよね? 薬屋のおやじが依頼してきた、と」
「言ってましたねー」
 ひなの言葉にリリも同意する。
「何でわざわざ空京にいるホイップに頼んだんですかね? 火事の規模を考えれば個人に頼むような事じゃ無いでしょうし場所が離れすぎです」
 刀真はさらに言葉を続ける。
「ジャタの森なら地理的にザンスカールかヴァイシャリーが近いんですから真っ先に連絡するでしょう? 弟に危険が及ぶ可能性を考慮してるなら尚更だと思うんですけどね」
「確かにな」
 リリが相槌を打つ。
「頼んだ後、更にホイップにも頼った? 駄目だ腑に落ちない」
 刀真は自分の頭をぐしゃぐしゃと掻きまわす。
「予想なのだが、この火事はティセラの手による者の犯行ではないかと考えている」
 リリは自分の思っていた事を伝えると、皆固まった。
「この火事……やはりきな臭いな」
「刀真、火事なんだからきな臭いのは当たり前」
「大事な話をしているんだから、茶々を入れない」
 刀真にツッコミを入れたのはさっきから話しを側で聞いていた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)だ。
「とにかく、ホイップさんを護衛ですーっ!」
 ひなの言葉に皆、同意したのだった。

「呼雪、お願いがあるの」
 話合いが終わった後、月夜は友人である呼雪に電話を掛けていた。
 呼雪に今さっき皆で話していた事を告げると、ホイップと仲が良いグランの警護をお願いしたのだった。
『どっちみち、俺もグランに聞いてみたいことがあったんだ。側にいるから大丈夫だ』
「うん、宜しく」
 月夜は電話を切ると刀真の元へと戻った。

「家などを破壊して消火をしようと考えている人達、集合ですっ! 火消しのヒーロー(自称)が音頭を取りますから一緒に動きましょうーーっ!」
 火事の為、高いところからの登場が出来なかったクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が大きな声で周りに呼び掛ける。
「クロセルさんも来てくれたんだ!」
「はい! マナさんとシャーミアンさんの故郷まで燃やしたくはありませんから」
 ホイップはマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)シャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)の姿を確認する。
「怪我しないでね!」
「ホイップさんもです」
 お互いに応援をするとホイップは氷術を使うメンバーの元へと向かっていった。
「あれがホイップ殿ですか……」
「ん? シャーミアンは初めてだったか」
 シャーミアンが呟いた事にマナが反応した。
「はい。さ、マナ様、クロセルの奴の音頭で行動するのはなんだか癪(しゃく)ですが、頑張りましょう!」
「いや、クロセルはクロセルで頑張っていると思うのだが……では上に行って来る」
「宜しくお願いします」
 マナはシャーミアンに見送られながら箒で上空へと向かった。
 呼びかけていたクロセルの元に人が集まり、マナもスタンバイが完了した。

 ホイップが氷術消火メンバーの元へと着くと緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が相談をしていた。
「ああ、ホイップ。ちょうど今、氷術を使った消火についての案がまとまったところだ」
 ケイはそう言うと説明を始めた。
「燃え盛る火に氷術で氷塊を落とせば、それが融けて水蒸気を生む。そこへ更に数人が氷術を使い、その上空の空気を急激に冷やすことで、水蒸気の水滴は氷粒子となって再び火に降り注ぐっていう寸法だ」
「これには皆さんの協力が必要です。タイミングも大事だと思います」
 ソアが説明を付け足す。
「うむ、皆の協力を頼まなければならん」
 カナタは氷術で消火をするメンバー全員を見渡す。
「応用魔法か……良い案だな。効率的に出来るだろう」
 突然声を掛けてきたのはアルツールだ。
 後ろにはエヴァも控えていた。
「先生の太鼓判ももらったし、皆に早く呼びかけようぜ」
 ベアは言うが早いか大声で皆を集めた。
 さっそくケイとソアが説明をすると、一同は賛成をした。
 それぞれファイアプロテクトを掛けたり、ギャザリングヘクスを飲んだりして準備も完了。
「では、ホイップ君。君も一緒に箒に乗って上空で……って、なぜ君は我が校の生徒なのに魔法の箒を持っておらんのだね!?」
「ひゃっ! ご、ごめんなさい。箒は……お金がなくて……」
 アルツールの前でしおしおになっているホイップ。
「えーと、ホイップさん? とりあえず、あなた私の箒に一緒に乗って上空から消火をしてくれるかしら?」
 さらにお説教を開始しようとするアルツールからホイップを庇ったのはエヴァだ。
「あの人、お説教始めると長いし……」
 エヴァはぼそりと本音を呟いた。
「う、うん」
 ホイップは了承し、エヴァの箒の後ろへとまたがる。
 ついでにギャザリングヘクスも出され、飲み込んだ。
 が、何故かくどい味だった。
 こうして、ホイップは上空へと上がっていった。
「それじゃあ、準備はオッケー? いっくよーーっ! せーのっ!」
 箒に乗り、上空にいる響希 琴音(ひびき・ことね)がタイミングを合わせられるように声を出す。
 その声に合わせて氷術を放つ。
「煌めけ氷雪、眠れ白の抱擁の元に……コールドストーム!」
 ウィルネストが氷術を上空へと格好付けながら放つ。
「ルナール! この近くに逃げ遅れた人はいそうか?」
「大丈夫であります!」
 その後ろではヨヤとルナールが逃げ遅れた人がいないかをチェックしている。
「関係ないけど、心頭滅却すれば火もまた涼しって言った坊主は焼死してんだぜ」
 近くに居たウィルネスト達にファイアプロテクトを掛け、さりげない気配りアピールに成功した国頭 武尊(くにがみ・たける)は、火術で炎の勢いをコントロールしている。
「冷え冷えですよーっ!」
 シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)は武尊の横で氷術を撃っている。
「武尊さん、ディテクトエビルをちょっと前に使用しましたが、邪念を抱いているような人は近くにいないみたいです」
「そうか」
 武尊はシーリルの報告を聞くと火術のコントロールに精を出す。
 上空には大きな氷の塊が出現した。
 それが、火事の中へと落ちて行く。
 大きな音を響かせ、建物を壊したが、炎の勢いは少しだけおさまっただけだった。
 しばらくすると氷は融け、蒸発していく。
「予想通りだな」
「ちゃんと成功させましょうね!」
 ケイとソアは自分達の練った計画を信じて、皆を信じて、次の氷術の準備に取り掛かる。
「その前にご主人、ちゃんと回復しとけよ」
 ベアはSPタブレットをソアとケイ、カナタに渡す。
 爽やかなミント味が口の中に広がる。
「ベアにしては気が利くな」
 カナタがニヤリと笑いながら言う。
「嫌なら返せ」
「もう胃の中で、融けておるが良いのか?」
 負けたのはベアだった。
「次いっくよーーっ! せーのっ!」
 タイミングを見計らい琴音が再度、声を掛ける。
 次は水蒸気を上空でもう一度冷やす為のものだ。
「成功して下さいね」
 霜月が氷術を発動させる。
「んと……えと……あっ! あそこに怪我人発見!」
 アレクサンダーは近くに居た怪我をしている村人を発見し、治療するとまたすぐに霜月に側へと戻るを繰り返していた。
「みんなひやして火をけしちゃうです。いくです、ひょうせつの女王〜♪」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)はベースを使用し、歌いながら範囲氷結の効果で一気に周りを冷やしていく。
「今度はボクもホイップちゃんにハグです〜♪」
 先ほどのホイップ達のやり取りを見ていたのかヴァーナーは思いを歌に込めたようだ。
「私も……ちゃんとお役に立ちたいんです!」
 アリア・ブランシュ(ありあ・ぶらんしゅ)は決意を瞳に宿らせ、氷術を使う。
「ちゃんと出来てるじゃないか」
 アリアの様子を見て、リュート・シャンテル(りゅーと・しゃんてる)は呟いたが一所懸命になっているアリアの耳には届かない。
 アリアの側の木が炎によって倒れてきたが、集中している為が全く気が付いていない。
「アリアの邪魔はしないでもらおう」
 リュートはホーリーメイスで倒れて来た木を殴り、軌道を逸らす。
「あれ? 今、なにか音がしませんでした?」
 流石に木が地面に倒れた音には気が付いたらしい。
「いや? それより、ちゃんと集中しないと皆に迷惑がかかるんじゃない?」
「あ、そうでした!」
 リュートはアリアを危険から守る事に集中していく。
 上空の水蒸気が急激に冷やされた為、小さな結晶を作り、地面へと落ちて行く。
 そう、雪が出来たのだ。
 広範囲に雪が降っていく。
 徐々に炎はその勢いを弱めていく。
「もう一度行くよーーーっ!」
 琴音が次のスタンバイを促す。
「使っておくか」
 アルツールは次の氷術詠唱の前に驚きの歌によって、自分と近くにいるエヴァ、ホイップそれとホイップの側を片時も離れない美羽とベアトリーチェのSPを回復した。
 4人はすぐさま礼を言い、氷術詠唱へと入る。
 黎は小型飛空挺で琴音の側へと近寄る。
「けほっ……こほっ……」
「歌の為の大事な喉なのだろう? 今度は我が代わろう」
 琴音は炎の熱によって、少し喉を痛めていたのだ。
「大丈夫だよ!」
「無理をするな」
「……うん、お願いね!」
 こうして掛け声は黎へと代わった。

「氷術による消火に見惚れてちゃダメですよっ! こっちもこっちで頑張りましょう! せーの……どっせい!」
 クロセルの力み過ぎそうな掛け声で破壊消防組は動いた。
 まだ燃えてはいないが、これ以上の延焼を防ぐのが目的だ。
 マナが上空から見て指示を出した建物の柱にはロープが付けられており、馬やトナカイ、駿馬を使ってロープを引っ張っていく。
 さらに、リリがアシッドミストでもろくさせ、ひながハンマーで壁を破壊している。
 刀真も光条兵器を使い、建物の周りの木を切っていく。
 勿論、力作業をする人には前もって月夜がパワーブレスを使用している。
「そーれっ!」
 クロセルが掛け声を掛けると一気に建物が傾き、崩れた。
「見事な手際だ。次の建物は……あれだな」
 マナは上空から皆に次のターゲットを指示したのだった。

「アリアちゃん、SP大丈夫ですか? ボクのちゅ〜で元気になるです」
 ヴァーナーはアリアのほっぺにアリスキッスをお見舞いした。
「あ、あ、ありがとうございます!」
 いきなりの事に赤くなりながらお礼をした。
「いえいえです〜」
 ヴァーナーはそう言うと自分の持ち場へと戻って行った。
「……あれは危険人物ではなさそうだな」
 リュートはヴァーナーに好印象を与えたようだ。

 黎による掛け声により、2回目、3回目の氷術消火も成功し村の消火は無事に成功したのだ。
 破壊消防の方も、無事に破壊が終了した。