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恋の糸を紡ごう

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恋の糸を紡ごう

リアクション

「今年は寒いから2人であったかぬくぬくになれるように、2人で仲良く一緒に巻ける長いマフラーが欲しいよね〜でも毛糸がいっぱいいるのに不足してるなんてどうしよ〜」
 胸の前で両手を組み、困った素振りを見せるどりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)
 パートナーのふぇいと・たかまち(ふぇいと・たかまち)と一緒に巻けるくらい、長いマフラーが欲しいのだ。
「ということでお手伝いです!」
「です!」
 元気に片腕を突き上げると、どりーむとふぇいとは毛糸を乾燥させる手伝いを買って出た。
 毛すきができるように、汚れを落とした毛糸を乾燥機にかけるのだ。
「だめだよ、どり〜むちゃん。そんなことしなくても私は……」
「え? 何が? どうかしたの?」
「はっ……ううん、なんでもない」
 しばらく作業を続けていると、何だか疲れてきたふぇいと。
 長い毛糸を持つどりーむの姿に、『毛糸でぐるぐる巻きにされてお持ち帰りされる』妄想に浸っちゃったり。
「ほぉら赤い糸だよ〜」
 そんなふぇいとの妄想を知ってか知らずか、赤い毛糸を見付けたどりーむがふぇいとの小指に糸を結んだ。
 もう片方は、ふぇいとがどりーむの指へと結んで。
「どりーむ、私……もう」
「だめ、ふぇいと。帰ってからよ」
 本気にしたふぇいとが、どりーむを押し倒しにかかる事態に。
 帰宅後の甘いひとときを約束して、何とかふぇいとを押し留めるどりーむであった。

「作業が終わったら、青色の糸で大和と自分用にそれぞれ帽子を編みたいです。ここは糸を紡ぐのを手伝い、自分で紡いだ糸をゲットするしかないよねっ。大和も一緒だし、心強いな! 2人で共同作業っていうのも、嬉しいのです♪ 持ち前の腕力と体力で、どんどん毛をすきますよ♪」
「歌菜の笑顔を見るために、俺も頑張りますか」
(きっと歌菜はいただいた毛糸で、俺に何か作ってくださるのでしょうから……俺はせめて歌菜に毛糸をプレゼントしたいです)
 手を取り合いながら毛をすいているのは、遠野 歌菜(とおの・かな)譲葉 大和(ゆずりは・やまと)の2人。
「結婚かあ……いいなあ。私も憧れちゃうなあ」
 婚約関係にある歌菜と大和を見て、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)は羨ましく思う。
 洗い終えた毛を2人のもとへ運んでいったのだが、あまりの仲の良さにちょっと眼を離せなくなったり。
(恋愛については一応朱里さんのセンパイ! 朱里さんにアドバイスをしたいな。あれ? でも助言ってナニをしたらいいんだろ?)
 そんな視線に気付いた歌菜は、恋愛の先輩として朱里を励ますことに。
 だが改めて考えると、何を伝えれば良いのか分からなくて。
「男性視点として、恋人に何をされたら嬉しいかな?」
「ん? 『恋人に何をされたら嬉しいか?』ですか。難しいですよね、いろいろなカップルがいますから。少なくとも俺には、歌菜が無事に……元気な俺達の子供を生んでくれたら……とても嬉しいですね。としか言えません、ルツキンさんもそう思いますよね?」
 歌菜に問われた大和は、眼鏡の端を上げながら微笑んだ。
 その笑みはルツキンにも伝染し、ファーナとともに恥じらいの笑顔をこぼす。
「好きな人のために一生懸命になれる男の人って素敵ですよね。私のパートナーも、私だけじゃなくて、みんなのために一生懸命戦ってくれて……それにとても優しくて。私にはもったいないぐらい素敵な人。だから私も、少しでも力になりたくって。頑張って魔法も覚えたけど、あまり上手くなくって、今はこんなことしかできないけど……少しでも支えになれてるといいな」
 大和と歌菜、それにルツキンとファーナの様子に、朱里の顔も思わずほころんできた。
 手作りのミトンを渡したら、恋人もこんなふうに笑ってくれるかな……と期待する朱里であった。

「にはは♪ コレおもしろ〜い!」
 手回し毛すき機を、とにかく回しまくるリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)
「おまいは目一杯回し過ぎ。ちょっとは自重しれっ」
 そんなリーズを止めるため、七枷 陣(ななかせ・じん)がリーズのもみあげを引っ張った。
「いだだだ痛いよぉ〜! 髪引っ張んないでよぉ〜!」
「まぁまぁ、作業が止まってしまいますし、ご主人様もそれくらいで許してあげてはどうでしょうか?」
 陣とリーズの様子を見ながら、普段と変わらない2人に小尾田 真奈(おびた・まな)は思わず苦笑する。
「あ、ファーナさん。糸も作ってみたいんですけどやり方教えてもらえます?」
 リーズは陣が、通りかかったファーナに声をかけることで解放された。
 真奈とリーズを毛をすく作業場へ置いたまま、陣は糸紡ぎを始める。
「い〜と〜巻き巻き〜い〜と〜巻き巻き〜っと」
 こつを掴み、まぁまぁいい感じの糸を紡いでいく陣。
 安心して、ファーナも陣に作業を任せた。

「……でも、毛すき作業なんてやったことがない……えっ、一緒にやろうって、紗月……」
「こうじゃないか?」
 初めて触る手回し毛すき機に、鬼崎 朔(きざき・さく)は手間取っていた。
 椎堂 紗月(しどう・さつき)が後ろから朔の手を握って、機械を動かそうとするのだが。
「ひゃあ」
 急な紗月の行動に、驚いて悲鳴を上げてしまう朔。
 紗月の直球な言動にも、まだまだ慣れるには時間がかかりそう。
「朔ッチ達がうまくやれるか、心配で着いてきたけど……うん、大丈夫そうだね」
(ボクとしては、2人がうまくいくのなら万歳ものだけど……やっぱりちょっと紗月くんにジェラシーを感じるかな)
 恥じらいながらもいい感じの朔と紗月の姿に、ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)は心から安心を覚える。
 のだが、これまでとは異なる感情も少し芽生えてきて、複雑な心境。 
「スカサハも大型毛すき機で毛をすく作業を手伝うのであります!」
 朔と紗月の行動を眺めていたスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)も、何だかわくわくしてきた。
「手回しで回すのでありますか! やるであります!!! ぐるぐる……おお、意外に楽しいのであります! もっと回すのでありますよ!!!」
 やっているうちに熱を帯びてくる、スカサハの手回し。
 毛糸が切れない程度に……一応は加減しつつ、機械の取っ手を回しまくった。
(この人が、紗月が好きになったって人なんだね)
「って、アヤメもやる気出しなよもー」
 朔の様子を、遠目にじとっと見ていた有栖川 凪沙(ありすがわ・なぎさ)
 ふと自分の近くに戻した視線の端に、特に何をするでもなく座っている1人の男性を発見する。
「糸を紡ぐ……か。いまいちやる気はしないが……紗月がやりたがってるんだ、手伝いはするさ」
 凪沙に突っ込まれてようやく、椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)は顔を上げた。
 しかし決していやいやではないようで……紗月の笑顔を、心では嬉しく思っているのだ。
「まあ、基本は皆と同じ毛をすく作業をしますが……せっかく向こう側にかわいい子が2人もいるのですし、愛でてあげましょう!」
 そのとき。
 平和だった作業場に、可憐なる悲鳴が響く!
「なでなでー!」
 尼崎 里也(あまがさき・りや)が、アヤメと凪沙の頭を撫で回していた。
「何するんだ!」
「やめるんだよ〜!」
「……ふふふ、かわいい反応を二人ともなさる。どれ、ひとつその恥じらっている顔を撮らせてもらおうかなっと」
 どこから……え、胸の谷間から?
 取り出したカメラで、パシャり。
「えぇい、暴走禁止!」
 好き勝手している里也の背後から、救世主現る……鉄拳制裁!
 ブラッドクロスは、凪沙とアヤメをいやらしいお姉さんから救い出したのであった。

「縁は異なもの味なもの、私たちが誰かの縁結びの手伝いしてるかもしれないと思うと不思議ね。『運命の紡ぎ手』とか思うと、ギリシャや北欧の女神になったような気分がするわね」
 リズム良く足踏みしながら、糸を紡いでいく宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)
 作業はただ糸を紡いでいるだけだが、この糸から新しい関係が生まれるのだと思うと感慨深いものがある。
「そうですね……この毛糸が皆を幸せにしてくれますように、ボクも縁の下の力持ちとして皆を支えたい。バレンタインは皆、幸せになれますように」
 祥子の考えに感銘を受けた三朝咲 胡桃(みささぎ・くるみ)も、紡ぐ糸に祈りをこめた。
(たくさんの方達が困ってしまうなんて放ってはおけません……毛糸を作るお手伝いでしたら、私にもできる……よね?)
 自分に、いまいち自信を持てない胡桃。
 しかし普段から少しでも誰かの力になりたいと考えていたため、『クロシェ』の窮状を知って手伝いを決意したのだ。
「♪〜回る回るよ 車輪は廻る ホイール・オブ・フォーチューン 運命の車輪が廻る〜♪」
 糸を紡ぎながら、祥子は思うがままに歌い始める。
「♪〜車輪を廻して人が糸を紡ぐ 縁と云う名の糸を紡ぐ 紡がれた糸を使って人が編み出すのは絆 友愛、恋愛、様々な絆が編まれ 生まれてゆくよ 廻そう廻そう車輪を廻そう 縁を絆を生み出すための運命の車輪を廻そう 途切れさせぬように慎重に糸と云う名の縁を紡ぎ出そう〜♪」
 たくさんの幸せが、永久に続くように……心からの願いとともに糸を紡ぐ祥子であった。
「糸に紡ぐ作業って難しいのかなぁ……出来れば自分で糸にしてみたいけど」
 祥子と胡桃を見よう見まねで、作業に挑戦する清泉 北都(いずみ・ほくと)
 悪くはないのだが、綺麗だとも言えない、何とも微妙な感じ。
「う〜ん、僕はゴミを取ったり洗ったりする方を手伝おうかなぁ。やっぱり不揃いだと見た目良くないし、なるべく綺麗な物を渡したいもんね」
 判断をくだして、北都は糸紡ぎから手を引いた。
 だがどの作業に携わっていても想いは同じ、先に取りかかっていた生徒からやり方を教わりつつ、丁寧に作業をこなしていくのだった。