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「思い出スキー」

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「思い出スキー」

リアクション

0・初めての雪

「ぎゃぁあああああああああああああ!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」
 子ども達の甲高い勢いのある歓声が雪山に響き渡る。
「大人しく並んで歩くのだ、ほれ、そこ、列を乱すのではない」
 引率をしているイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が一喝する。しかし、子どもたちは雪に夢中だ。
 歩くというより転がりながら民宿に向かっている。
「そんなに騒いで雪崩が起きたらどうする!」
 イーオンの怒鳴り声が山々に響く。
「イオ、本当に雪崩が起きます」
 銀色に伸びた髪をなびかせてアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)が少しづつ怒鳴り声が大きくなっているイーオンに忠告する。
 が、イーオンは勝手気ままな子ども達のことで頭がいっぱいだ。少しずつ声が大きくなっている。
「そうだ、アキラ、いつもお前だ」
 イーオンは列から外れて、しかも民宿からも離れた雪の斜面にダイブした孤児の1人、アキラの首根っこを掴む。
「なぜに…」
 アルゲオが掴まれてバタバタ暴れているアキラを背後から抱えて、列に戻す。
「まだ、着いたばかりです、小言は控えめに」
「うむ…」
 イーオンは、ドラゴニュートだがほぼ人型のフェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)を呼んだ。
「フェル、後は頼む、俺は後方を歩く」
 少しふてたイーオンは後方へと向かう。
 しかし、そこにも問題児、レッテがいる。
 宿に着くまで、イーオンの小言が山々に響いている。



「なんとかなるもんだなぁ」
 子ども達を置いてさっさと民宿に到着した王大鋸(わん・だーじゅ)は、コタツから首だけ出して、窓の外でイーオンと走り回る子ども達を見ている。
 雪を見たことにない子ども達にスキーをと考えた王大鋸だったが、よく考えればスキー板も防寒具もない。そこで、管理人に頼んで孤児院の前に大きな看板を立ててもらったのが数日前だ。
「スキーツアー参加者募集。ついでに子ども用スキー道具も募集!」
 ついでに、同様の案内を孤児院HPにも載せた。
「まあ、あとは細かいことが好きなやつがなんとかしてくれるはずだ」
 まさかと思ったが、実際、なんとかなったのだ。


1・準備

 教導団の林田 樹(はやしだ・いつき)は、副管理人として孤児院にいるヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)からスキーツアーの話を聞いて、早速動いた。
「私たちは防寒着を作ろうと思うんだ、子ども達のサイズを教えてくれないか」
「分かったわ、任せてねぇ」
 樹からの提案を快く受けたヴェルチェだったが、サイズ計りはかなり難航した。子ども達が「偽る」のだ。背の小さな子は大きく見せようとし、大きな子は小さく見せようとする。体重の軽い子は重く見せ、重い子はつま先立ちをして軽くさせようと懸命だ。
「あたしの…あたしの話を聞きなさいっ!」
「ヴェルチェ、怒ることもあるんだぁ」
 孤児のレッテが小声で隣にいたココに話しかけた。
 怒られたことよりも、ヴェルチェが怒ったことに動揺した子ども達は、みな神妙な顔つきで直立不動に立っている。
「さあ、計りましょうね♪クレオ、クリス、よろしくね♪」
 ヴェルチェは直ぐにいつもの妖艶で愛らしい声に戻ってパートナーに話しかけている。
「膝を伸ばしてくださいね」
 それでも偽装に頑張る子どもにクリスティ・エンマリッジ(くりすてぃ・えんまりっじ)が小声でささやく。
「わたくしも怒ると怖いのですが、クレオはもっと怖いですわよ、ちゃんとなさい」
 子どもの髪の毛から編み込まれた石を発見し、必死に取り除いていたクレオパトラ・フィロパトル(くれおぱとら・ふぃろぱとる)が、無邪気に笑う。
「わらわは、滅多に怒らぬからのう、みな知っておるじゃろう」


 ヴェルチェの副管理人の最初の仕事して行なった子どもの身長は以下の通りだ。
チエ、女、100センチ、
ルイ、女、100センチ、
リア、女、105センチ、
レッテ、女、105センチ、
鈴子、女、105センチ
ヴァセク、男、105センチ
リア、女、105センチ、
テアン、女、110センチ、
エナロ、男、115センチ、
アキラ、男、125センチ
ココ、女、130センチ、
モイ、男、135センチ。


 子ども達の身長や体格をヴェルチェから聞いた樹は、教導団の経理課へ出向き、孤児院に寄付という用途を話し、廃棄予定の冬用装備を分けてもらった。
「林田様、重くはありませんっ!ええ、大丈夫ですっ!私は機晶姫だから、力仕事は任せて下さい!!」
 倉庫から大きな軍用トランクを両脇に抱えて出てきたのは、ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)だ。
 ゆる族の林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が右に左に纏わり付くので、トランクで視界が遮られているジーナはコタローにぶつかっては、ふらふらしている。
「じにゃ、『こじいん』ってなんらお?こたくらいのちみたんがいるとこ?こたも、ちみたんといっしょに、すきーすうのー?」
 コタローは、ジーナに次から次へと質問をしている。
「そうですっ!一緒ですよ、コタローも雪は初めてですね。きっと楽しいですよっ!」
 よろよろ歩いていると、細竹を大量に抱えている水渡 雫(みなと・しずく)とすれ違った。
「こんばんは」
「大荷物ですねっ」
 どちらとも無く声をかける。
「もしかして、スキーですか?」
 ジーナが雫の抱える細竹を興味深く見ている。
「そうです。ジーナさんも?」
「はいっ」
 頷くジーナ。
「私スキーツアー初めてなんです。あ、でも私、スキー板持ってませんし。うちの親戚も皆、そんなもの使ったことないみたいですし・・・作ってみようかと・・・」
 雫がはにかみながら微笑む。
「こたもあそぶっ、たけであそぶっ」
 コタローも竹が気になるようだ。
「当日が楽しみです」
 スキーツアーは子どもだけでなく大人の心も浮き立たせてる。
 ジーナはコタローに、ぶつかってはよろめき、よろめいてはぶつかり。それでも懸命に部屋までトランクを運んだ。
「林田様、お待たせしましたっ!」
 トランクには防寒着がいっぱいに詰っている。

「すごいな、こんなに持ってきたのか!」
 樹は、ジーナが運んできたトランクから防寒具を一枚一枚取り出すと、セーター、ジャケット、防寒ズボンなど品別、サイズ別に分けてゆく。
「えっとですね、林田様はエンブレム外しと切り開きをお願いします。型紙は、前にクライウォルフ様からお伺いしたのを基に用意しております。マーカーペン型の洋裁ペンで印付けして下さいませ。ロックミシンをかけたり、縫い直したりするのは、ワタシが全て行います。」
 話を聞いていたコタローがジーナーの袖を引っ張る。
「こたも、およーふくのてつらいするー。じにゃ、こたはなにすうの?」
「コタちゃんは、穴の空いているのを探して」
「むしくいさんとか?でっかいの?わかった!」
 黙々と作業する三人。
 コタローは出来上がった服をサイズ別に分けてゆく。
「こた、ふぇうとでおにゃまえ(お名前)わっぺんつくうの。ねーたん、てつらってー。」
 出来たスキーウエアにはサイズを確認して名前がつけられた。
「上出来!」
 古着は見事に蘇った。
 満足いくウエアが出来上がった。

 水渡 雫は、スキー板作りに奮闘している。作っているのは竹スキーだ。
 パートナーのローランド・セーレーン(ろーらんど・せーれーん)はぼんやり眺めているだけだ。
「水渡 雫は器用だねぇ。それに引きかえディーは・・・」
 ローランドの視線の先には、バドラーのディー・ミナト(でぃー・みなと)がいる。
 彼は、足の幅に合わせてまとめられた一メートル程の長さの細竹数本を四苦八苦しながら結んでいる。
「それじゃぁ、ほどけてしまいますよぉ」
 投げやりなローランドの言葉に、ディーが切れる。
「あんたが作ってくださいよ」
 ローランドは、聞こえないフリをしている。
「いいですっ、私が作りますから」
 雫がディーから竹の束を取り上げた。
 器用に、竹の先端を沸騰したお湯に入れて柔らかくふやかす。端から十五センチほどのところを40〜45度反らしたところで一気に冷やして形を作り、足を固定させる紐を取り付けていく。
「懐かしいですー。日本にいた頃、父と修行に山にこもるときに作ったものですっ」
 出来上がった竹スキーを見て、日本を思い出す雫。
「子どもたちには難しいかもしれないですっ、子供用にスキー、誰か用意しているんでしょうか?」
「一応、聞いてみましょう、多分大丈夫ですよぉ」
 ろーらんどが、物珍しそうに竹スキーを見ながら答えた。

 同じころ、孤児院に来ていた羽高 魅世瑠(はだか・みせる)はスキーの看板を見て頭を抱えている。
「わん…キング様、唐突だよ、いきなりスキーなんて道具どうすんだよ、しかも子供用だぜ」
「はぁ、細けーこと、気にすんなっ!道具?いらねーよ、そんなもん」
 いつの間にか背後に大鋸が来ていた。
「板ッ切れと棒があればいいんだろっ、その辺に落ちてんぞっ」
 実は、大鋸もスキーは初めてだ。
「すきー?しってるよ?たりない?つくればいいよ!すべり方もラズがおしえるね!」
 突然、話に割り込んできたのは、魅世瑠のパートナーで森で暮らしていたラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)だ。
「作れんのか?」
 大鋸の目が輝く。
「ラズはスキーって知ってんのか?」
 魅世瑠はラズを覗き込む。
「作るって…おいおい、大丈夫かよ、ラズ。そう簡単に出来るもんじゃねぇだろ。ま、ねぇものは作るしかねぇけどさ」
 フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)は半信半疑でラズに問う。
「板履いて雪の上を滑るやつだ」
「スキー?ああ、森人の冬の狩りには欠かせない道具ですわね。本来なら夏場から木を削り出して乾燥させて準備するものですけれど」
 ジャタの森出身の蝙蝠型獣人アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)がラズの言葉を補足する。
「わんちゃん、ラズに作らせてみるよ、森に行ってみっかぁ。アキラとハルを借りるぜっ!」
 魅世瑠たち4人は、子ども達の中からやんちゃな2人をつれて、材料を探しに出かけた。

「かわいた長い板切れたくさん拾ってきて!杖になりそうな細くて長くてつよい棒も!」
 ラズの指示に皆が従う。
「牛小屋の近くに、板ッ切れなら沢山あるぜ、前に持ってきてヤツがいたから」
 ハルの言葉で、小屋に向かう一同。
 材料はすぐに揃った。
「魅世瑠、フル、板をこーゆー先のとがったかたちに切って、穴あけて!、先っぽ湿らせてから曲げる!ひもで木にしばるといい!、いいかんじに曲がった、乾かす!」
 ここからはラズの独壇場だ。
「他の奴らも連れてくる!エナロが器用だから、きっとすぐできるぜ」
 アキラは孤児院に走ってゆく。
「穴に牙打って靴の先っちょ止めるところ作る!」
「了解!」
 やってきたエナロは器用にラズの言葉通り道具を扱う。
「革ひもを穴にゆわえて靴しばるところ作る!板のうらにすべり止めの毛皮をにかわではる!」
「ラズちゃんはヴィシャ族・・・でしたかしら?ジャタの森式と似たようなものを使ってましたのね」
 アルダトが手伝いながら呟いた。実際にトナカイ遊牧民トゥバ族は、この方法でスキー道具を作っている。
「いやー、何とかなるもんだな」
 フローレンスは人数分のスキー板を手に感無量だ。
「・・・出来ちまったな。びっくりだ。森の民の知恵にはいつもながら恐れ入るぜ。…テレマークスキーとクロスカントリースキーのハーフみてぇなもんだな・・・ちゃんとビンディングもどきまでありやがる」
「魅世瑠、何言ってんだよ、分かるよーに話せよ」
 アキラは言葉では怒っているが、出来上がったばかりのスキー板を手にして目が輝いている。
「早く使いたいぜっ!」
「このスキー板は数日しか持ちませんわ。大切にしてくださいね」
 アルダトが出来上がったスキー道具をアキラからそっと取り上げた。


 蒼空学園では、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)が、子供用スキーや不要になった古いスキー道具を友人知人に声をかけ集めていた。
「子供用スキーは魅世瑠たちが作ると聞いたが、大人用だって必要だ。王がスキー道具持っているとは思えないよな」
 リアカーに山と積まれたスキー道具を軍用バイクにくくりつけていく。

 同じころ、薔薇の学舎では、皇祁 黎(すめらぎ・れい)が毛糸球と格闘していた。編み針を動かしながら太目の毛糸でざくざく何やら編んでる。孤児院の子どもたちにマフラーを編んでいるのだ。
 出来上がったものは、太くなったり細くなったり。途中で編み目が飛んだり増えたりしている。
「黎の編み針は、意思を持ってるようだな」
「ん?」
 パートナーの飛鳥 誓夜(あすか・せいや)の言葉に、黎が顔を上げた。
 悪戦苦闘するあまり、黎は冷や汗が出て眉間にしわがよっている。
「いや、一人で作るのは大変だろう、マフラーだよな、手伝ってもいいか?」
 黎の返事を聞く前に、誓夜もかぎ針を手にする。
 手際よく針が動き、あっという間にマフラーが出来上がる。
「子供用だからね、このぐらいがいいだろう」
 大人より少し幅の狭い短めのマフラーを次々と完成させてゆく誓夜。
「誓夜、器用だな」
「家庭科の数値が違うからね」
 黎は少しふてながらも、そのまま針を動かす。穴ぼこだらけのいびつなマフラーが長く長く編まれてゆく。