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「思い出スキー」

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「思い出スキー」

リアクション

 入浴後は、暖かな雪見鍋が子ども達を待っていた。涼介は、〆の雑炊まで付きっ切りで子ども達の鍋の面倒を見ている。
 涼介が気にしているのは、人力リフトの面々だ。まだ起きてこないものもいる。
 皆が食べ終わったコタツに、鍋と酒のつまみを用意する涼介、多分、台所の日本酒の持ち主がまだ起きてきていない。


 子とも達が出たあとの風呂には、姫宮 和希が入っている。入浴中は男らしさの源である「学ラン・学帽」を外すので、普通の女の子に戻っている。
「今日はいい一日だったなぁ」
 和希は、先ほど垣間見た子ども達の笑顔を思い出していた。


 薔薇の学舎のスレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)は子ども達がパジャマパーティの準備をしている。
 民宿の一部屋の入り口に、
「なんちゃってクイーン・ヴァンガードエムブレム」
「…の三角帽子もどき」
「…の冠もどき」
「白百合のヘアバンド」
「王大鋸並のモヒカンのつけ毛、」
「…風仮面」
 などの仮装アイテムを用意している。子ども達にはどれか一つ選んでもらうつもりだ。

 さて、開始時間になって、わくわくした子ども達が選んだものは、勿論!
「みんな、モヒカン…?」
 アキラが言う。
「ああ、だってワンちゃんだぞっ!」
 一緒に並んでいた蒼も、残ったモヒカンを手にとる。
「あたしもつけちゃおう!」
 結局、残ったアイテムは孤児以外が身に着けた。
「白百合のヘアバンド」を選んだのは、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)だ。一日中、雪山で子ども達に怪我がないか見張っていたために、声がかれている。
「あ、それあたり!」
 疲れているのか、スレヴィの呟きも耳に入らないらしい。
 皆が部屋に入ると、灯かりが暗くなった。
 スレヴィが、百合園ヘアバンドをつけたイーオンを捕まえている。
「わたしはこの娘を誘拐した悪の親玉だ。お前たちの着ているパジャマをよこさないと校長のパジャマを脱がしちゃうぞ」
「たす・・・てー」
 一応、劇に乗っているイーオンだが声がかれていて何を言っているのか。
「校長をいじめるなんて、許さないぞ!」
 男子がスレヴィに向かってゆく。
 男子対スレヴィの戦いごっこというか、かなり本気にスレヴィが殴られ、
「もうしません。心を入れ替えてまっとうに生きます〜」
 スレヴィが皆に謝って劇は終わった。
「…」
 イーオンは感激しているようだ。


 春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)は、ピンクのふりふりパジャマをきて、パーティに参加している。
「お泊りなんだから折角だし夜更かししちゃおうね♪」
 子ども達は、トランプが珍しい。
「なんだこれ?」
 一枚一枚、ひっくり返しては見ている。
「ね、みんなで大貧民でもやろ!」
 反応が無い。
「そっか、しらないか、じゃ」
 トランプを裏返しにして混ぜる。
「同じ数字を二組作るよ。沢山集めた人が勝ち」
 霧島 春美(きりしま・はるみ)も参加している。
「せっかくだから、一組そろったらお菓子上げるね」
 真菜華の一言で、盛り上がるものの、子ども達は既にあくびしている。
「しかたないなぁ、もうお開きにしてお風呂行く?」
 真菜華は、春美を誘う。


 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、お風呂のあとパジャマに着替えて子ども達の部屋にやってきた。遊びつかれた子ども達は、まだ枕を投げたり、今日の話をしたり、わいわいがさがさ遊んでいる。
「もう寝る時間ですよー。」
 ロザリンドは灯かりを小さくして、覚えている雪の話を子ども達に聞かせる。
「むかーし、むかし…」
 それは日本の古い民話だったり、北欧の昔話だったり。どれも暖かな幸せなラストシーンの話ばかりだ。
「…幸せに暮らしましたとさ、おしまい」
 この言葉で終わるお話は、子ども達の心を和やかにする。
「さあ、後はお布団に入ってお話しましょう」
 子ども達は布団に包まる。
「じゃあ、これから、みんなの秘密の話をしましょう。目を閉じて…」
 子ども達は言われるままに目を閉じる。
「大きくなったら何になりたいですか。みんな目を閉じているし、今日は疲れて声も変わっています。みんなに内緒の夢を話してみましょう」
「…先生」
 男の子の声だ。
「なれないと思うけど、勉強して孤児院の先生になりたい」
「…お料理を作る人」
「…洋服を作る人」
 女の子の声だ。
「…お金持ち。お金持ちになってみんなに家を買ってやる」
 今度は男の子の声だ。
「…お母さんを探す」
 女の子の思いつめた声が聞こえた。
「お母さん、会えるといいですね」
 ロザリンドが小さく答える。
「きっと会える…探してみせる」
 その声を最後に、子どもの声は消えた。
 ゆっくり起き上がるロザリンド、子ども達の寝息が聞こえる。
 ロザリンドは、布団をかけなおしたあと、うなされている子の横で手を握り締めながら布団に入る。
 みんなの夢、かなえてあげたいです…子どもの未来に思いをはせつつロザリンドも眠りに付く。

 泉 椿は、灯かりの消えた食堂で、孤児院に電話している。
「ああ、無事だ。そうだ、ああ、ああ、明日も晴れだ・・・元気だ・・・」
 相手は留守番している管理人のようだ。

 大人たちは順番に風呂に入っている。
 鬼院 尋人(きいん・ひろと)は皆が出たあとの風呂に一人残った。突然の静けさが昼間の疲れを心地よく癒してくれる。そのうち、尋人は疲れて風呂の湯船の中で壁にもたれた姿勢で、うとうと眠ってしまった。
 黒崎 天音(くろさき・あまね)は、多くの人が風呂を済ませたのに気が付いて、風呂場にやってきていた。
「誰もいないようだね」
 起きたばかりのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)に話しかける。
「おや」
 壁にもたれて眠っている尋人に気付いた。
「まったく、世話が焼けるね」
 ブルーズと二人、尋人を浴場から連れ出すと、パジャマを着せる。
「まだまだ…」
 尋人はボードを引く夢を見ているらしい。
「明日もあるのだから、こんなになるほど遊ぶなんて」
 ブルーズは呆れ顔だ。
「ブルース、キミこそ。夕食に起きられないほど人力リフトに夢中だったじゃないか」
 部屋につくと、天音は尋人を布団に中に押し込む。
「さあ、ゆっくり風呂につかろう」
 天音は風呂好きなのだ。


 暫くひとけの無かった風呂だが、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)が入ってきた。
 男二人、のんびり雪見をしながら露天風呂につかる。この二人はスキーよりも温泉目当てだ。
「う〜ん、やっぱり眼鏡曇りますねえ・・外しましょう」
 翡翠は伊達メガネを外す。
「良い湯加減だな〜まったく、お前素顔マシなんだから、眼鏡やめれば、いいのによ?」
 陽気なレイスには、わざわざメガネをかける気持ちが分からない。
 湯には日本酒と、厨房に用意してあった酒のつまみを持ち込んでいる。
「眼鏡ですか?外すと目立つんですよ・・仕事柄、目立たない方が良いんです」
「ふ〜ん、そういうもんか?しかし、お前運動神経良いんだな?スキー上手いじゃないか」
「まあ、生まれは、雪国ですし・・初めてにしては、あなたも上手かったです」
 翡翠には背中に傷がある。
 誰もいない風呂だが、他人に見られるのを嫌い、深く湯に使っている。


 夜が更けてきた。人力リフトで疲れきり寝っぱなしだった男たちがおきてくる。
「子どもはようやく寝たか…さって、こっからはいよいよ俺たちの時間だぜ!」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、同じ部屋の大鋸や数人に声をかける。
「風呂で・・・どうだい?宴会でも」
「そうだなぁ、行くかぁ」
「へっへっへ。ちゃんと酒も持ってきたぜ?」
 ラルクが持ってきたのは、大奮発をした日本酒だ。
 夜も遅い。
 厨房には鍋の雑炊と酒のつまみが豊富に用意してあった。
 ラルクはそれをもって風呂に向かう。

 大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は、パートナーのコーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)ソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)を誘って風呂に来て、大鋸たちと一緒になった。

 夜も遅い。
 厨房には鍋の雑炊と酒のつまみが豊富に用意してあった。
 程よく酔いの回ったラルクは大鋸を挑発する。
「酔いも回ったし、素もぐりでもしてみっかっ、勝負だ」
「死ぬぞ、ラルク」
「ああ?風呂で死ねたら本望だ」
「ちぇ、泳いでみっか」
 ガタイのいい男も、孤児院男子も、考えることは一緒のようだ。
 大洞は、のんびり酒を飲んでいる。
「ラルク、お湯が揺れると、酒がこぼれる」
「そうか、そうだな」
 再び、杯を手にするラルク。
「外に行くか?」
 三人は、酒と肴を手に、露天風呂に向かう。
 そこには、翡翠とレイスがいる。
「よおっ」
 大鋸が挨拶した。
「同じ肴か・・・」
「誰が用意したのか」
「気が利きますね」
「まったく」

 隣の女露天風呂から話し声と時々笑い声がする。

 入っているのは、コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)と、ソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)
 機晶姫のソフィアは、脱衣所で諸々の装甲を外し、基本素体となったソフィアは風呂場に入っている。マシンであるソフィアに風呂に入るという概念はなく、生身の者がどの様に外部の洗浄を行っているかソフィアは興味津々荷見ている。
 ほかに風呂にいるのは、パジャマパーティで知り合った真菜華と春美だ。
「そんなに見られると恥ずかしいよぉ」
 真菜華が、まじまじ見るソフィアに照れて話しかける。

「パジャマパーティ、何で皆来ないのかなぁ」
 トランプやお菓子を沢山用意してきた真菜華は不満顔だ。
「わたしも楽しみにしていたので、残念!でも、お芝居は面白かったかも」
 春美だ。
「お芝居があったのですか」
 コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)が尋ねる。
「うん、ねえ、髪の毛キレイ」
 真菜華は、コーディリアの長い三つ編みを触る。
「マナも三つ編みしてみようかな」
 自分のピンクのロングヘアを触ってみる。
「あっ、焼けてる」
 マナが胸元の日焼けに気が付く。
「明日は焼けないようにしないと…」
 話の途中で、会話が途切れた。真菜華が寝ている。
「しかたありませんね」
 ソフィアが真菜華をそっと抱き上げる。
「また、明日も楽しみですね」
 露天風呂の周りに小さな雪ウサギが並べられていることに気が付いた春美がにっこり笑う。


 同じ頃どりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)ふぇいと・たかまち(ふぇいと・たかまち)は、ちっと大人の時間を過ごしていた。ただし、子どもがいるので、ちょっとだけ。