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リアクション
●そして、誰も気付きません!
こうして三度、エリザベートは拉致されてしまった。
そして、いつもなら異変を察知して追いかけてくるはずのミーミルや豊美ちゃんはと言えば、兄弟姉妹を世話したり逆に世話されたり、はたまたご利益にあずかろうとする生徒の相手をしていて気付くことができなかった。アーデルハイトは相変わらずルミーナによろしくされていたし、リンネはモップスの披露した新しい芸にお腹を抱えて笑っていたし、ミリアは笑顔のまま給仕に奔走していたしで、誰もエリザベートの危機? に気付かなかったのである。
生徒たちもやはり、賑やかな催しの中でそのようなことになっているとは気付かずに、それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。
(ん……ノアがいないな。どこに行った?)
ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)の姿が見えないことに気付いたレン・オズワルド(れん・おずわるど)が、サングラス越しに視線を走らせるが、ノアの姿は見当たらない。
(探しておくか……迷子になられては後々面倒だからな)
立ち上がりかけたレンは、傍に置いていた琥珀色の液体が見る者の目を奪う瓶を視界に入れ、一人の男を思う。
(閃崎静麻……言葉を交わしたことはないが、奴も冒険屋の組織を立ち上げたと聞く。この機会に話をしてみるのも悪くないな)
瓶を掴み、レンがノアと男、閃崎 静麻(せんざき・しずま)を探す。ほどなく、まずは静麻がレンの視界に入った。どうやらパートナーと思しき女性に言いくるめられているようであった。
「ひっく……静麻、今日こそ言わせてもらいます。静麻は普段はずぼらで面倒くさがりであれやこれやと口実を付けて結果何もしないくせに、ひっく、何かやるとなったらとことんまで突っ走って、私やクリュティ、魅音の心配も無視するような振る舞いを見せて、一体何なのですか!? ひっく、少しは心配する身にもなってくださいっく」
突発的に静麻を座らせて説教を始めたレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)の顔は、『魔性の一品』を一杯飲んだだけというのに既に真っ赤で、定期的にしゃっくりを繰り返していた。
「あー……こりゃいつもの説教の十倍タチ悪いな。別に有難くもない、おまけにしゃっくりまみれの言葉を延々聞かされる身にもなってくれ、レイナ」
「な、な、何なのれすかあっ! これほど言ってもまだ分からないと言うのれすか?」
しゃっくりは止まったものの、その頃にはろれつがおかしくなりながら、レイナが静麻に言葉を飛ばす。
「うーん、ボクたち完全に蚊帳の外だねー。ま、いいや、皆に飲み物注いで回ろうっと」
「では、クリュティもお供いたしましょう」
「うん! 和服着るの初めてでワクワクしてるけど、ちょっと動き回りにくいかなー」
「とても似合っておいでですよ」
そんな静麻とレイナを見遣って、閃崎 魅音(せんざき・みおん)とクリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)が給仕を請け負わんとその場を後にする。彼女たちも相当『魔性の一品』を口にしていたはずだが、全く影響は出ていないようであった。
(……取り込み中のようだな。一旦出直すか……そうだ、ノアを探さねば――)
瞬間、レンは背中に人の気配を察知して振り返る。
「ちぇっ、バレたか。まぁいいや、とりあえずそのサングラスとビンよこしなよ」
茅野 菫(ちの・すみれ)が、『魔性の一品』の影響で頬を染め、獲物を狙う目つきでレンの持つビンとサングラスを奪うべく近づく。
「おまえは……やめろ、これは俺の――」
伸ばされる手を避け、レンが菫を留まらせようとする。
「いいじゃんかよ、どうせいくつも持ってんだろ、一つや二つくらいどうってことないじゃん」
「そういう問題ではない。こんなものをおまえに渡せば、どうなるか想像はつく。子供たちを見守る者としてそれは出来ない」
なおも伸ばされる菫の手から、レンはビンとサングラスを死守する。千鳥足ながら菫の動きは素早く、手荒な真似が出来ないレンは壁際に追い込まれる。
「ビンを奪って、ついでに素顔も拝んじまうよ!」
菫が足を踏み出そうとして、その肩をケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)に掴まれ身動きが取れなくなる。
「な、ケイラ、何すんだよ、離せよ」
「駄目だよ茅野さん、今から呑まれちゃろくな大人になれないよ?」
「あたしは別に呑まれたりしてねーっつの! ちょーっとイタズラしてみたかっただけだっつーの」
「……悪戯で俺のサングラスを奪わないでくれ」
ずれたサングラスをかけ直して、レンが溜息をつく。
「ところで……ノアを知らないか? 先程から姿を見ないんだが」
「えっと、ノアさんなら確かリンネさんのところに行ったような……随分呑まれてるみたいだったから、響子が付いてっているよ」
ケイラが指した先では、『魔性の一品』を煽ったノアがリンネに絡んでいた。
「はぁ〜……リンネさんは良いですよね、いっつもモップスさんと一緒に居られて。レンさんってば、いっつも私を子供扱いして置いてけぼりにしちゃうんですよ! 酷いと思いません?」
「うんうん、分かるなその気持ち〜。リンネちゃんだったらムリヤリくっついてっちゃうかも!」
「そもそもリンネはボクをムリヤリ――」
ツッコミを入れてきたモップスを黒焦げにして、リンネがノアの愚痴に耳を傾ける。
「そりゃ初めて契約を交わした時に、迷子の子供を見つけて、一緒に親探しをして、一緒に迷って、そのまま何処かの教会が運営している施設に入れられて、飛び出して、また保護されての繰り返しでしたけど、レンさんが思っている程子供じゃないんですからっ!」
「な、何だかスゴイね〜」
「……申し訳ありません、ノア様は……レン様に少しでも追い付きたい、かと」
まくし立てるノアを見かねて、着物仕様の御薗井 響子(みそのい・きょうこ)がフォローする。
「今もレンさんの代わりに冒険屋ギルドのマスターも務めているんですから、もうちょっと認めてくれても良いと思うんですよ!!」
言い切って、ノアが『魔性の一品』が注がれた杯を煽る。息をつくノアに、リンネと響子の言葉がもたらされる。
「リンネちゃんもリーダー執ってるけど、みんなをまとめるのってホント、大変だよね〜。それが出来てるってことは、ノアちゃんはスゴイと思うよ〜」
「……ノア様は……ギルドの運営頑張っていらっしゃいます。……それはレン様も理解してらっしゃる、かと」
「リンネさん、響子さん……そ、そうですよね! 私凄いです、頑張ってます! えっへん!」
ノアが胸を張って、リンネと響子と杯を交わし合う。その一部始終を見聞きしていたケイラとレンが、互いを見合う。
「ノアさんのこと、今より少しだけでも、認めてあげたらどうかな?」
「……考えておこう」
呟いたレンが、なおもジタバタともがく菫に、懐から予備のサングラスを取り出して渡す。
「今日のところは、これで我慢しておけ」
「……ま、そう言うなら仕方ないか。よし、んじゃこれでも持って婆さんに見せてくるよ!」
眼鏡の代わりにサングラスをかけた菫が、『魔性の一品』のビンを持ってアーデルハイトのところへ向かっていく。ケイラがレンに一礼してその後を追う。
「さて……奴はどうしているか……」
服の乱れを直して、レンが静麻を再び訪れるために一歩を踏み出す。向かった先では数瞬前とは全く違った光景が展開されていた。
「あぁ? 何だよおい、もう寝ちまったのか? んじゃまあ、お約束っと……」
上機嫌で静麻が、撃沈して寝息を立てるレイナの額に油性ペンで落書きを施す。
「お、あんたはいつぞやの……何だったか?」
「……レン・オズワルドだ。今日はおまえと一杯、飲み交わせればと思ってな」
少々面食らいながらも、レンが琥珀色の液体が揺れるビンを掲げて告げる。
「そいつはいいねぇ。んじゃ、派手にやるか!」
二人の手に杯が添えられ、それが音を立ててぶつかり合う――。
「理沙、雛祭りって女の子の為のものって聞いたけど、じゃあ、男の子のもあるの?」
目の前の料理を啄みながら、白波 舞(しらなみ・まい)が白波 理沙(しらなみ・りさ)に問いかける。
「あるわよ。5月5日端午の節句に、鎧兜を飾ったりこいのぼりを立てたりするわね。あと、ちまきや柏餅を食べる風習もあるわよ」
「ふーん……変わってるわね。じゃあ……男の娘はどっちになるのかしら?」
「うーん……どっちだろう?」
舞の投げかけられた問いに、理沙が苦笑を浮かべる。
この騒がしいまでに賑やかな部屋の中で、そこだけがのほほんとした空気に満ちていた……のだが。
「パパ! 今日こそ魔法少女になって貰います! 何でも現役の魔法少女が来ているって聞きましたよ! ちゃんと服とステッキも用意してきたんです、これを着てその方に魔法少女として認めてもらいましょう!」
「ダメ! 断固拒否! ほら、雛あられ差し上げますから落ち着いて?」
「残念、葱なら釣られたかもしれませんが、そんなのじゃ止まりませんっ!」
理沙と舞の耳に、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)と九条 葱(くじょう・ねぎ)の賑やかな会話が聞こえてくる。視線を向けた先には、和を基調とした、ちょうど豊美ちゃんが着ているような感じの魔法少女を意識したと思しき服とステッキ代わりの葱をぶんぶん、と振り回して葱が翡翠を追い回していた。
「もう、何やってるのよあの二人は。……翡翠が魔法少女、ねえ……」
「理沙、今ちょっと想像したでしょ?」
「な、何言ってるのよ、そんな想像してないわよ? ……そりゃまあ、翡翠は見た目可愛いし、似合うかなーとか思ったけど」
「やっぱり想像してるじゃない。……そう、雛祭りは男の娘の為のものでもあったのね。また一つ勉強になったわ」
「舞、それは多分違うと思うな……」
納得したような表情で料理を啄む舞に溜息をつきつつ、理沙は誰か翡翠の魔法少女な恰好を写真にでも収めてくれないかなと淡い期待を抱いているようであった。
「あら、もう空になってしまいましたね。新しいのをお持ちしますね」
「ああ、頼む」
空になった一升瓶を抱えて、フィアナ・アルバート(ふぃあな・あるばーと)が橘 恭司(たちばな・きょうじ)にお伺いを立て、頷いた恭司に微笑んで新しい『魔性の一品』を受け取りに行くべく立ち上がる。二人とも一升瓶を空けるのだから相当飲んでいるはずなのだが、顔色は当初と何ら変わらない。
(これも飲み慣れたせいか、それとも飛鳥豊美女史が持ち込んだこれがさほど強いものでないのか。まったく来ないというのもどうなのだろうか)
そんなことを思いつつ、フィアナを待ちながら周囲に視線を向けた恭司の目に、慌てた形相で駆けてくる翡翠の姿が映る。
(あれは、浅葱翡翠。何やら騒々しいが、何かあったのか?)
翡翠も恭司の姿を認めたらしく、真っ直ぐ向かってくる。
「き、恭司様、匿っていただけないでしょうか」
「……理由は後で聞こう。これでも被るがいい」
言って恭司が、気配を消すことの出来る上着を翡翠に寄越す。翡翠がそれを被って恭司の背中に隠れるのと、葱が姿を見せるのはほぼ同時のこと。
「あれれ? パパどこに行きましたか? すみません、パパ知りませんか?」
「いや、知らないな」
「そうですか……ですが、このくらいでは諦めませんよっ!」
勇んで飛んでいく葱の姿が小さくなったところで、翡翠が上着から顔を出す。
「た、助かりました……恭司様、ありがとうございます」
「いや、それはいい。どうしてこうなったんだ?」
「それはですね、葱がどうしても私を魔法少女にと。豊美様も来ていることですし、いつも以上に熱が入っているようです」
「ああ……なるほど」
大体の察しがついた恭司が頷く。豊美ちゃんに魔法少女として認定してもらえば、言ってしまえば『お墨付き』を得たようなものである。翡翠を魔法少女にしたい葱にとっては、またとない好機であろう。
「あー! 見つけましたよ、パパ!」
「ヤバっ!」
飛んできた葱の声に翡翠が再び隠れようとするが、一旦姿が見えてしまえば、気配は消せても意味はない。
「匿ってたんですね! こうなったら二人とも魔法少女になってもらいますっ!」
「……俺も?」
自分を指して呟く恭司に、肯定するように葱が葱を振り回して迫る。
「マスター、新しいのをお持ちしました……あら?」
「フィーナ、すまんが暫らく隠れる!」
葱に追われる身となった恭司が、自らの何かを護るために光学迷彩を自らに施して離脱を図る。
「逝ってらっしゃいませ……私はもう暫らく飲ませて頂きます」
そんな恭司を見送って、フィアナが新しい『魔性の一品』を自らの杯に注いだ。
「あははー楽しいなー。周りには可愛い女の子ばかり……今なら何をしても許されますよね!」
「だ、ダメだよ春美、そんなことしたら後で大事だよ」
『魔性の一品』に思考を犯されたか、はたまた何かに目覚めたか、霧島 春美(きりしま・はるみ)が賑やかな女の子の群れに飛び込もうとして超 娘子(うるとら・にゃんこ)に抑え込まれる。
「ニャンコも行こうよー。……あ、分かったー、ニャンコ、春美が行っちゃうのが淋しいんでしょー」
「えっ、そ、それは……そうじゃなくて!」
「あはっ、ごまかしてるー。もー、そんなことしないよ、えいっ、えいっ!」
春美が娘子の肉球を突っつくフリをして、そのたわわな胸を突付く。
「キャ、胸さわるのなしだよ」
「気持ちいい? いいんでしょー」
「違うって、気持ちいいとかそういうのじゃないよ。……はぁ、完全におかしくなってるよ……」
ちょっかいを出してくる春美の相手をしながら、娘子が困った顔をする。
「私よりあちらの方がもっと似合いますって!」
「イルミンスールの校長は既に魔法少女ではありませんか!」
そんな二人を、未だ追いかけっこを続けていた翡翠と葱が駆け抜けていく。エリザベートやミーミルに気を振り向かせようと試みる翡翠だが、葱は構うことなく翡翠を追いかける。
(……校長は魔法使いですが、魔法少女とは違うような気がするよ?)
心の中でツッコミを返した娘子が、ふと春美の姿がないことに気付く。
「春美? 春美!?」
春美を探す娘子、まさかと思いエリザベートのところへ向かうも、肝心の本人の姿が見当たらない。次に向かった先で春美を見つけた娘子は、春美がミーミルの膝ですやすやと寝息を立てているのを目撃する。
「て、そこで寝ないでー。……すいません、うちの春美がすみません。いつもはこんなコじゃないんです」
「えっと、大丈夫ですよ。もう、慣れてしまいました」
色んな人の相手をしてきたミーミルが微笑んで、自らの膝下で眠る春美を見遣る。
「うぅん……ニャンコぉ……かえりはお姫様だっこで、連れてってねぇ……」
「と、言っていますよ」
「もう、よっぱらいお姫様には困ったもんね……」
呆れながら、でも、こんな春美も可愛いなと思う娘子であった。
「パパ、往生際が悪いですよ! おとなしく魔法少女になってもらいますっ!」
「だから拒否だって言ってるのにっ!」
葱の追撃を何とか振り切ろうとする翡翠、しかしそこに現れたのは。
「話は聞きましたよ! 可愛いは正義! 翡翠ちゃんが可愛いのは真理!」
アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)が翡翠の前に立ちはだかり、やって来た翡翠を捕まえてしまう。
「ど、どうしてアルメリア様がここにっ!? や、止めてくださいっ!」
「ありがとうございますっ! さあパパ、今こそ魔法少女になってもらいますっ!」
「わーーーっ!!」
「ああ……可愛いわ翡翠ちゃん。このまま持ち帰りたいくらいだわ」
「パパ……やはり私の見立ては正しかったです。パパには魔法少女の才能がありますっ!」
二人? がかりで服を着せられ、ステッキ代わりの葱を持たされ、翡翠が恥ずかしさで顔を赤くする。
「うう……こんなところ、豊美様に見られたら――」
「どうしましたかー?」
まさに絶妙なタイミングで、豊美ちゃんが現れ、魔法少女な翡翠を上から下まで眺める。
「文句なしですね、合格ですー。後で魔法少女な二つ名を考えて提出してくださいねー」
そう告げて去っていく豊美ちゃん、背後でアルメリアと葱が手を叩き合って喜ぶ中、翡翠がうなだれ、目に涙を浮かべて呟く。
「私、本当に魔法少女なんですか……?」
「カンパーイ!」
「カンパーイなのですー」
「カンパイなのじゃっ」
『魔性の一品』がなみなみと注がれた杯を合わせて、久世 沙幸(くぜ・さゆき)と桐生 ひな(きりゅう・ひな)、ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)が一足先に宴を始める。
「んく……んく……はぁ〜。これ、とっても美味しいね♪」
「どんどん飲めてしまうのですよー。さゆゆの着物はさくら柄ですかー、可愛いのですー」
「えへへ、ひな祭りだもん、やっぱり晴れ着だよねっ。あ、そうそう、この前の豆撒きだけど」
「あれも楽しかったのですー。もうちょっとみんなを巻き込めたらもっと面白かったのですー」
思い出話に花を咲かせながら、沙幸とひなが杯を空けては注ぎ、空けては注ぎ合う。
「ほへ〜、何だかふわふわしちゃうのですー……」
「それに何だか身体が火照って……この部屋ってちょっと暑くない? ちょっとはしたないけど……」
段々と『魔性の一品』が二人を犯していくに従って、二人の頬は染まり、ろれつも回らなくなってくる。
「あ、おったおった。ひな、さゆ……き……?」
そこへ、着物を着るのに手間取り、少々遅れてやって来たセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)が、乱れた姿の沙幸とひなを見て呆然とする。
「あ〜、セシリアちゃんだ〜。セシリアちゃん、カンパイしよっ、カ・ン・パ・イ♪」
「って、どうして身体を寄せてくるのじゃ!? それに沙幸、その、む、胸が……」
セシリアが、沙幸のはだけた着物から覗く胸の谷間に頬を染めて、顔を背ける。
「せしせし〜、もっと飲むのですー。三人で一緒に気持ちよくなるのですー」
「ひ、ひなまでかっ!? ちょ、ちょっとストップじゃ。大丈夫かえおぬしら、様子が変じゃぞ?」
セシリアが沙幸とひなを押し止めようとするものの、『魔性の一品』に身体の芯まで犯された二人に効果はない。
(……駄目じゃ聞いておらぬ。仕方ない、こうなれば力づくでも――)
「そうはさせないのじゃー。せしーも乱れるのじゃー」
魔法の行使も辞さない覚悟だったセシリアが、背後から組み付いたナリュキに強引に杯を押し当てられ、中身を注がれる。
「何を――んぐぐ!?」
縁まで注がれた『魔性の一品』を注がれ、口の端から零しながら、セシリアが軽く咳き込む。
「ケホッ……ナリュキ、いきなり何するのじゃ! 私がせっ……か、く……?」
ナリュキを振りほどき、詰め寄ろうと一歩を踏み出したセシリアは、身体の火照りを感じる。思考が蕩け、ふわふわとした心地に陥っていく。
「にひひ、これからが本番なのじゃー♪ 三人一緒に乱れ果てるのじゃー」
実に楽しげに笑ったナリュキの眼前では、三人の少女があられもない姿を晒して快楽を貪りあっていた。
「にゃはー、私も混ぜてなのらー♪」
「やん、セシリアちゃんダメだよぉ、急に……」
「せしせしを押し潰すのですー」
ひなと沙幸の間に入り込んだセシリアを、沙幸とひながその豊満な胸で挟み込む。
「うにゃー、沙幸の身体温かくてやーらかいのう……」
「あんっ、セシリアちゃんの手、熱いよぉ……感じちゃ、ううんっ!」
「せしせしー、もっと飲むのれすー、私が飲ませてあげるのれすー」
『魔性の一品』を口いっぱいに含んだひなが、セシリアの頭を抱えるようにしてその唇に自分の唇を触れ合わせ、中に注ぎ込む。
「んっ……んく……んく……ぷわぁ……ダメじゃ、どんどん気持ちよくなってくるのじゃ……」
惚けたような表情を浮かべて、セシリアが自らの着物をはだけさせ、直接肌と肌の温もりを求めようとする。
「えへへー、もっと触りっこぉ……お耳も食べちゃうのじゃー……」
「やんっ、だ、ダメダメぇ、食べられちゃうぅぅ……」
「さゆゆの首筋、細くて綺麗なのれす〜……吸い付きたくなるのれす〜」
「ひゃんっ!? ああっ、むずむずしちゃうよぉ」
片方から耳を、もう片方から首筋を攻められ、沙幸が太腿を擦り合わせて悶える。
「い、いつまでもやられっぱなしじゃないよ! えいっ!」
沙幸の指が、セシリアの腋を攻める。
「にゃは、にゃはは、くすぐったぁいのじゃあ……」
「せしせしよりー、さゆゆの方がいい反応するですー。やっぱりさゆゆが一番ですー」
「け、結局そうなるのぉ? ……いやっ、そこは……んんっ!!」
ひなの指が沙幸の敏感な箇所を攻め、沙幸が込み上げてくる快感に抑えきれず声を漏らす。
「せしせしもさゆゆにあたっくですー」
「わかったのら〜。ここかのう? ここなのかのう?」
「あっ、あっ、んんっ……せ、セシリアちゃん、オジサンみたいだよぉ……」
セシリアの指にいちいち身体をひくつかせ、沙幸がイヤイヤをするように首を振る。
「だ、ダメダメダメぇ! これ以上は本当にらめえぇぇ!!」
沙幸が抗えぬ感覚に、天にも昇る心地で声をあげた瞬間――。
「今だにゃーーーっ!!」
巨大な菱形の型を抱えたナリュキが、三人をむぎゅ、と型に押し込んで潰す。
「にひひ、見事な雛餅の完成じゃ♪ 良い感じのまま保存してやったから感謝するのじゃぞ♪」
型を外せば、三層の菱餅を彷彿とさせるように、ひな、沙幸、セシリアの三名がくんずほぐれつの姿で折り重なっていた。見えそうで見えないギリギリの、レーディングでいえばR15といった感じである。
そしてそのまま、『魔性の一品』のもたらす夢心地から覚めるまでのほんの一時、三人は幸せな時間を過ごしたのであった――。