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隠れ里の神子

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隠れ里の神子

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「あー、まだ着かないのか……」
 影野 陽太(かげの・ようた)は独り言をぶつぶつ言いながら、ジャタの暗い森を1人進んでいた。彼は銃型HCのオートマッピング機能を駆使してマップを作成しつつ、しらみつぶしに探索を行っているところだった。少しでも、他の生徒の役に立ちたいと思い、調査したポイントをデータ化し、蒼空学園の仲間に転送するといった行動をジャタの森に入った時から取っているのだが、なかなか隠れ里は見つからない。
「取り敢えず、データは送っているから、同じポイントを探すっていう二度手間は省けるとは思うんだけど、ちゃんと俺の作ったデータ参考にしてくれてるのかなぁ……」
 新しいデータを送り終わった後、陽太は溜め息をつき、近くにあった切り株に腰をかけて一休みすることにした。
「あー、思っていたより、これは大変だぞ。1人で来るんじゃなかったかなぁ……。いや、でも、俺がこれだけ頑張れば、環菜会長も俺のことを認めてくれるかもしれないし……。ここはやっぱり、頑張りどころだよなっ!」
 独り言は次第に大きくなり、陽太は1人でガッツポーズをとると、すっくと立ち上がり、銃型HCを片手に再び歩き出した。



 狭山 珠樹(さやま・たまき)はジャタ森で迷っていた。早い話が迷子である。
 パートナーの新田 実(にった・みのる)には、しっかりと「みのるんへ ジャタの森へ行ってきます」と置手紙は残してきた。もし、自分が帰らないようなことがあれば、きっと実はパートナーなのだから、探しに来てはくれるだろう。だから、そこまで、彼は迷子になってしまったことを悲観的に考えてはいなかった。しかし、だ。空腹には耐えられそうにもない。さっきから、お腹の虫は空腹を訴え続けている。
「隠れ里を探していたら迷ってしまいましたわ。食料もさっき、森のパラミタアルマジロさんにあげたのが最後。あぁ、どうしましょう……」
 珠樹は1人呟いて、空を見上げた。見上げたものの、森の木々が邪魔して、空は木々の葉の隙間からほんの少し、光を覗かせているだけだった。
 しばらく、珠樹がその場でへたり込んでいると、いくつかの足音と話し声が聞こえてきた。
――もしかして、人……?
 珠樹は心躍らせながら、近付いてくる足音を待った。
「あら、こんなところで何をしていますの?」
 ガートルードはへたり込んでいる珠樹を見つけて、開口一番言った。
「道に迷い、お腹が空いて……。君たち、食料持ってます? 我の食糧は底をついてしまいましたの……。お腹が空いて、これ以上歩けませんわ」
 涙ながらに訴える珠樹を不憫に思ったのか、ガートルードの隣にいたシルヴェスターは、懐から1枚の板チョコを取り出した。
「さぁ、これを食べたらええじゃろう」
「ありがとうございます! この御恩は一生忘れませんわ……」
 珠樹はそう言うと、板チョコの包みをバリバリと破り、勢いよくかぶりつくと一気に平らげた。
「あぁ、美味しかったですわ。腹が減っては戦は出来ぬとはよく言ったものですわね」
 珠樹はにこりと微笑んで、「もしかして、隠れ里をお探しなのですか?」と2人に問うた。
「そうですが……」
 ガートルードは自分たちの目的を考え、一瞬口ごもる。
「もしよろしければ、そこまでご一緒させてはいただけないでしょうか? さすがに1人ではいつまた空腹で動けなることやら……」
「まぁ、ええんではないか。なぁ、親分」
「親分……?」
 シルヴェスターがガートルードを親分と呼んだことに珠樹は不思議そうな顔をしたが、敢えて深く突っ込まなかった。人には言えないこともあるだろう、と勝手に解釈したのだ。
「そうですね。1人でここに置いて行くわけにはいきませんし……。きゃっ!!」
 ガートルードが皆まで言い終えるより早く、彼女の口をついたのは、悲鳴だった。
「いってぇ……。あっ、すみません……。ちょっと余所見をしていたものですから……」
 陽太はデータを作成するのに夢中になるあまりきちんと前を見ずに歩いており、立ち止まって話し込んでいたガートルードにぶつかったのだった。
「君ももしかして、隠れ里をお探しの方……?」
 珠樹の問いかけに「そうだけど」と陽太はさらりと答えた。
「今、この方たちと一緒に探しに行くことになったのですが、君も一緒にどうですか?」
 珠樹の誘いに陽太はしばし考えた後、「それも悪くないかもな」と言って快諾したのだった。
 かくして、変わった組み合わせの4人は違った目的を胸に秘め、神子を探す為、隠れ里に向かったのだった。