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隠れ里の神子

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隠れ里の神子

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「神子さんは渡しませんよっ!」
 神子の保護を目的とし、パートナーたちと3人で隠れ里を探していたフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)は一瞬の隙をつき、レティーフたちの前に立ちはだかると、威勢良く言い放った。
「お前にそんなこと言われても痛くもかゆくもないんだよっ!」
 レティーフはライフルを構えると、容赦なく引き金を引いた。フィルはそれを予期していたかのように、難なく交わす。
「なめないでいただきたいものです! シェリスさん!!」
 フィルはパートナーであるシェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)の名を呼んだ。
 呼ばれたシェリスは、すぐに煙幕を張った。突然、視界が悪くなったことにレティーフをはじめ周りにいたゴブリンたちの動きが鈍る。
「人質をとるなんて非道な行いをするヤツらは絶対に許せないのよね!」
 フィルのもう1人のパートナーであるセラ・スアレス(せら・すあれす)はそう言うと、
「爆炎破!」
 と吠えた。その声に共鳴するかのように、彼女の手に握られた剣から爆炎が放たれた。その場に居合わせた数匹のゴブリンたちはひとたまりもない。悲鳴を上げて、飛び退る。
「煙幕で視界を悪くしたのはいいけど、こっちの視界もやっぱり悪いわね……」
 フィルは口を尖らせ言うと、周りの気配に気を配った。
――そこだっ!
 敵の気配を察知し、一気に間合いを詰める。すると、視界が晴れ、レティーフの姿が見えた。銃を構え、撃とうした瞬間、レティーフのライフルの銃口が自分の胸に当たっていることに気が付く。
「くっ!」
「威勢だけはいいんだけどさぁ、お嬢さん。なめてもらっちゃ困るんだよね。こう見えて、強いんだよ〜?」
 人を小馬鹿にしたように言うと、嫌な笑いを口元に浮かべ、レティーフは残酷な瞳をフィルに向けた。自分が銃の引き金を引こうとすれば、確実にレティーフは撃ってくる。 きっとそうなれば、自分の命はないだろう。
「何をしているのだ。アホめ!」
 どこからともなく、声がして、眩い稲妻が走った。
「っ!」
 声にもならない声を上げ、レティーフはその場にライフルを落とす。
「シェリスさん!」
「雷術の威力はどうじゃ。なかなか痛いであろう。おぬしも自分の銃に当てられぬようわしが放ったことに感謝しろよ」
 シェリスはフィルを見て、にやりと笑った。
「形勢逆転と言ったところでしょうか?」
 フィルはにっこり微笑んで、自分の銃の銃口をライフルを取り落としたレティーフに向ける。
 その時だった。
 ゴブリンの1体がこの状況に気が付き、レティーフを突き飛ばした。銃口は自ずとゴブリンに向く。その隙にレティーフは落としたライフルを手に取り、退散した。
「ちっ! よくもやってくれたわね!」
 フィルは臍を噛んだ。



「思いの外、時間がかかってしまいましたね」
 雷號は目の前で繰り広げられている乱戦を見て、溜め息をついた。
「まぁ、若干、道に迷ってしまったからね……」
 クリストファーは馬を降り、馬を少し離れた木に留めた。
「あれ? 馬のまま戦いに行かないの?」
 侘助は不思議そうに訊く。馬上からの攻撃の方が辺りを見回せる分、有利に働くと思ったのだ。
「あぁ、馬は降りますよ」
 クリスティーもクリストファーの横に馬を繋げながら答えた。
「こんな乱戦状態じゃ、身動きを取りにくいし、馬が傷ついてしまう可能性が高いからね」
 霧神は馬を降りながら、侘助を見た。侘助はさすが馬術部だけあるな、と感心する。
「馬をこよなく愛してこそのタシガン馬術部だもんな」
 鬼院は馬から降りて、「うーん」と言いながら、伸びをする。
「最近、身体動かしてなかったから、鈍ってるかも……。大丈夫かなぁ……」
 心配そうに言いながら、腰に収まっているバスターソードの柄に手をかけた。
「まぁ、大丈夫だろう。それより、俺は汚名返上をしっかりしなくっちゃな」
 ヘルに操られて敵方に協力してしまったクリストファーは、己の汚名返上に日夜励んでいた。
「そうだよ。ボクもしっかりサポートするから、汚名返上頑張らないとな」
 クリスティーはクリストファーに向かって微笑んだ。
「ふぅ……」
「どうしました? 侘助。溜め息などついて」
「いや、これから鏖殺寺院と戦うのかと思うと、緊張するなと思って」
「そんな心配はいりません。他の生徒もいますし、しっかりみんなと協力して戦えばいいのですから」
 霧神は優しく微笑むと、乱戦をじっと見据えた。
「それでは、そろそろ行きますか?」
 雷號は全員を見まわして、問うた。
「勿論だともっ!」
 鬼院は答えるやいなや、乱戦に向かって走り出した。その後にクリストファーたちも続く。こうして、タシガン馬術部の面々はそれぞれの思いを胸に鏖殺寺院との戦いを始めたのだった。



 謎の覆面忍者【卍(まんじ)弦之助】こと甲賀 三郎(こうが・さぶろう)は馬にまたがり、馬上から乱戦状態にある状況を見渡し、レティーフがどこにいるかを瞬時に把握した。
「あんなところにいるのか……。簡単に到達することは出来まい……」
 距離はさほどなかったが、レティーフのところに行くまでには、数多のゴブリンたちがひしめき合い、生徒たちと戦闘を繰り広げていた。むやみに突っ込めば、流れ弾に当たってケガをしかねない。三郎は口をへの字に曲げ、難しい顔をした。
 しかし、覆面の所為でその表情は隣にいた彼のパートナーでゆる族のロザリオ・パーシー(ろざりお・ぱーしー)にすら見ることは出来ない。
――ここでジャタの森の秩序維持に貢献できれば教導団の株も上がる。その上、鏖殺寺院を撃退できれば今後の教導団がOBの就職先も道が広がって一石二鳥……。
「キャッチアンドリリースが基本でござる!」
 そう言い放ち、三郎は馬を走らせる。
「オレだって神子になりたいんだ!!」
 サーベルタイガーの着ぐるみを纏ったロザリオも、三郎が走り出したのを確認すると走り出した。
――神子になるとチヤホヤされて、どこかの料理屋で飯がタダになるとか……。この着ぐるみもちょっと汚れてきたし、クリニーングもタダになるらしいし、神子って美味しいじゃん♪
 猛ダッシュをしながらも、思わずロザリオは顔をニヤつかせる。
 しかし、その情報は間違っていた。ロザリオは間違った情報を仕入れてその気になっているのだ。非常に残念である。
 三郎は馬にまたがったまま、ゴブリンたちの中に出来たほんの少しの隙間を利用して入り込むと、下段から上段への逆袈裟斬りで轟雷閃を伴う一撃を繰り出す。間髪いれずに刃を返して爆炎波を叩き込んだ。
「我は龍雷の三郎なり!」
 馬にまたがり、三郎は颯爽と現れたのだった。