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夢の中の悲劇のヒロイン~ミーミル~

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夢の中の悲劇のヒロイン~ミーミル~

リアクション

「いいか、僕は良かったね、なんて言わない! 君の事を大切に思っているたくさんの人たちを不幸にして、校長先生を悲しませて!! その考えが問題なんだ!!」
 怒鳴っているのは音井 博季(おとい・ひろき)だった。
 元に戻ったミーミルから一連の事情を聞いて、怒ろうとしたエリザベートだったが、博季の剣幕に圧されて口を挟めずじまいである。
「自分が犠牲になって今この時だけその人たちを助けられたとしても、その後に訪れる不幸や災厄から救うことは出来ない! 困っている人を本当に守りたいのなら、君は生きて、生きながらその人たちを守り続けなければ意味がない!」
「……ごめんなさい」
 しゅんとするミーミル。
 その後お茶でねぎらわれる生徒達を尻目に、しばらくお説教は続いたが、ひとしきり怒って落ち着いたのだろう。彼は普段の口調に戻って、
「貴女が幸せでいること。それが近しい人たちの幸せを守るために一番大事なことなんですよ? まずは自分の身近な人を守れなくては、離れている人を助けることなんかできないでしょ? だから、これからもですから貴女はこれからも校長先生や、皆さんといっしょに生きて、笑ってください」
「は、はい……」
 こくこく頷くミーミルに再び、今度は笑いかけながら、博季は繰り返した。
「笑って。ミーミルさん」
 にっこり。ミーミルは笑ってみせる。
「お加減は如何ですか、ミーミルさん」
 説教が終わったと見て、席を外していたクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)が、ミーミルにココアの入ったマグカップを差し出す。
「どうぞ、暖まりますよ?」
「ありがとうございます……」
 ミーミルはココアのカップを両手で包み込むように受け取り、甘い湯気を吸い込んだ。口を付け、冷え切った体を温めるようにゆっくり飲み込む。
 目を閉じて、生徒達のお互いを称え合ったり軽口を言い合ったり、いつもの声に耳を傾ける。
 ──耳の中に、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)の質問が飛び込んでくる。
「貴方は今、幸せですか?」
 それは夢の中での虎縞模様の猫の口調によく似ていた。
「……ええ、幸せです」

 生徒達の会話がいつの間にか打ち上げの馬鹿騒ぎになった頃、その光景を微笑ましく見ていた緋桜 ケイ(ひおう・けい)は、アーデルハイトに疑問をぶつけてみた。
「俺たちには魔法が使える。光を照らしたり、炎の嵐を起こしたり……。でも物語の魔法使いは、派手な魔法じゃなくても、ほんの一押しで幸せにできる。俺たちはそんな魔法使いになれたかな。これから……なれるかな」 
 『幸福な王子』という物語に必要だった魔法は、ツバメを死なせない魔法と、心無い人々から像を守る魔法だった。そんな魔法を使える、魔法使いに。
「そうじゃのう。無理に区別を付けんでもいいじゃろう。魔法はかつて“ふしぎなこと”だったのじゃ。……大丈夫じゃ、ミーミルはああ見えて強い子じゃから」
 アーデルハイトはケイに優しく応える。
「女王器のように、魔法も使いようじゃ。優しい気持ちを持っている限りは、悪いようにはならんよ」

 



 後日のこと。
 机に真剣に向き合っているミーミルを美術室に見付けて、エリザベートは後ろから覗き込んだ。
「なにをやっているんですかぁ?」
 机に広げられているのは、画材とスケッチブック。そこには淡い色合いの景色が描かれていた。
「それはなんですかぁ?」
「絵本を描いてるんです」
「……絵本? 何の絵本ですかぁ?」
「『幸福な王子』です」
 一瞬ぎょっとした顔をするエリザベートに、ミーミルは微笑を浮かべながら言葉を続ける。
「みんなに宝石や金箔のお礼をもらった王子様は、ずっとみんなを見守り続けることを誓うんです」
 最後の頁は、雪の中、着飾った白い王女像が建っている様子が描かれていた。
 周囲には氷像。フルートを奏でる人がいて、絵描きがいて、ツバメが舞い、何故かコタツが二つ並んでいる。
「……ね、素敵でしょう?」

担当マスターより

▼担当マスター

有沢楓花

▼マスターコメント

 有沢です。シナリオにご参加いただき、ありがとうございました。
 また、ガイド及びサンプルアクション、マスターコメントの情報が分かりづらく、皆さんを困惑させてしまったことをお詫びします。
 判定に関しては、いつもでしたら、判定をし、成功・失敗の理由を分かるように「リ」アクションにするというのを心がけているのですが、分かりづらさもあり、夢の中ということもあり、今回は全体的に採用する方向で書かせていただきました。場所や設定的な矛盾等はあえて無視、ダブル以上や確定ロールのアクションも(全部ではないですが)ある程度採用しています。特に数が少ない宝石にかけられたアクションなど、行動によって矛盾が生じそうなところは適宜変えてしまっていますので、アクションと違うところもでてきているかとは思いますが、夢や物語としておかしくない形を優先しています。
 おかしくないといえば、ミーミルを書くのは随分久しぶりで(イルミンキャンペーンの一話依頼で、まだ「ちび」でした)、イメージを壊していないといいな、と思います。
 また、こちらは「夢の中の悲劇のヒロイン」と題した三本同時リリースのうちの一本です。小谷愛美・瀬蓮編と他の二本も同時にお楽しみ頂けたらと思います。といいますか、私も他二本を楽しみたいと思います。

 最後に、私信を下さった皆様にも感謝申し上げます。ありがとうございました!
 もし宜しければ、また次回のシナリオでお会いいたしましょう。