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謎の古代遺跡と封印されしもの(第3回/全3回)

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謎の古代遺跡と封印されしもの(第3回/全3回)

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第十三章 ――第一層――

・黒き獣と幼き影

 最上階の中心部である大広間。そこには奇妙な組み合わせがあった。
 一つは体長二十メートルはあろう獅子にも似た獣。
 もう一つは九、十歳くらいにしか見えない金色の髪と瞳を持った、黒いゴスロリ服の女の子である。

 ――遊ぼうよ。

 少女の発した言葉はそれだった。とはいえ、横にいる獣の存在が返答を阻んでいる。
(うっわー、見るからにボスだよな、アレ。部屋の外にいたのも十分ヤバいけど、比じゃないぜ。しかも遊んでって……敵さんはヤル気っぽいし、まともにやりあったらどう考えても負けるだろ)
 ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)は引きつった顔で立ち尽くしていた。
 そこへ、
「おィ耳貸せ」
 とナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が耳打ちしてきた。
「なんだ?」
「あんなのと正面から張りあったところで勝てるわけがねェ。ここは一丁ヤツに自分の墓穴を掘って貰うとしようぜ」
 ナガンは詳細を伝えて行いく。曰く、魔獣の攻撃を誘導して床を破壊させ、そのまま下層への落下という形でご退場願おうという魂胆だ。
「なるほど、分かったぜ。まだ鎖は切れてないようだし、今のうちに武器を確保だぜ」
 ミューレリアは暗がりながらも超感覚で猫目になり、自分に使えそうなものを探す。このフロアに落ちている武器のようなものは既に調べがついている。詳しくは分からないが、かなり強力な兵器の試作品らしいという事は掴んでいた。
 二人が作戦を実行しようとしているまさにその時、魔獣と少女に無防備で近付いていく者がいた。
「彩殿、危険だ」
「大丈夫だよ、まだ鎖で繋がってるみたいだしね。それにあのかわいい子、遊びたがってるのよ?」
 守山 彩(もりやま・あや)は少女の言葉を額面通りに捉え、遊んであげようとしているのだ。だが、パートナーのオハン・クルフーア(おはん・くるふーあ)は魔獣だけでなく、女の子の方も警戒しているようである。
「ね、何してあそぼっか?」
 微笑みかけながら少女へと近付いていく。
 だが、その時

 ――ガキンッ!!

 何か金属が引きちぎれる音が聞こえた。それは目の前の魔獣が自由になった事を意味していた。
「彩殿!!」
 オハンが彩を勢いよく引っ張り、少女と魔獣から遠ざける。解き放たれた獣は真っ先に二人に襲いかかると思われたが、そうではなかった。
「ちょっと、オーちゃんそんなに引っ張らなくたって……見てよ、ただじゃれ合ってるだけじゃない」
 目の前の巨獣は自由を手に入れると真っ先に少女へと前足を振るった。もしそれが攻撃のためのものだったら、おそらく少女の身体は無残なものだっただろう。だがそうはならず、女の子はそれを受け止め、戯れるようにしている。
「はは、こっちじゃないよ」
 まるで子犬と遊んでいるかのような、奇妙な光景だった。戸惑うオハン。それは彼に限った事ではない。
「どういうことか知らねェが、こりゃあチャンスだな」
 ナガンもミューレリアも準備は出来ていた。ミューレリアの手には刀を模した試作型兵器が握られている。彼女のパートナー、カカオ・カフェイン(かかお・かふぇいん)もまた、銃の姿をした兵器を確保していた。こちらは大広間の入口まで退避し、安全を確保している。
「用意は出来てるぜ」
 二人は魔獣へと近付いていく。攻撃を誘導するためにも、まず自分達に注意を向ける必要がある。

「さて、それじゃ思いっきり遊ぼうじゃないか!」
 
             ***

「なんとか振り切れましたか」
 最上層の外周通路を走るエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は振り返りながら呟いた。
「そのようですね。あの場所からは大分離れたでしょうし」
 片倉 蒼(かたくら・そう)もまた、警戒している。禁猟区に触れている気配はないため、ひとまずは切り抜けられたようだ。
「あとはさっきの機械兵がこの先にいない事を願うばかりです」
 ファレナ・アルツバーン(ふぁれな・あるつばーん)は通路の前方を眺める。幅は広く、壁には特に扉はないようだった。
 先へ、先へ。ちょうど上ってきた階段の対角線上だろうか、通路が直角に曲がっている場所があった。
「外周だけなら下とほとんど同じですね」
 今井 卓也(いまい・たくや)は第二層で手に入れたデータと照らし合わせつつ、簡易のマッピングを行ってきていた。現在地ある程度安全だと分かると、パートナーのフェリックス・ルーメイ(ふぇりっくす・るーめい)から拠点で手に入れた各種資料を出してもらう。
「現在この遺跡で分かっている情報です。僕達が立ち寄った時のものではありますが、どうぞ」
 とファレナにそれを見せる。新拠点が設置された事や、そこで無線を通じてデータ管理が行われている事も伝えていく。
「この写真のようなもの……これはさっきの機械兵みたいですが、他にもありますね」
 やはり視覚的にすぐ分かるものには興味を引かれるようだ。その中には手持ちで使える武器もあったため、もし見つける事が出来た際には持ち帰ろうという魂胆なのだろう。
「この階にも何か資料があればいいんですが……怪しそうな場所は今のところないですよね」
 卓也が言う。
「怪しいものといってもな、全部が全部怪しいだろう。現に何の変哲もなさそうな行き止まりに階段が突如として出現してたんだからな」
 ルーメイがこの最上層へ来る際の事を振り返った。卓也と彼は一度この階層への入口に差し掛かっていたが、その時はただの行き止まりだったのだ。
「改めて仕掛けを探そうとしたら、あの通りだったから最初は拍子抜けだったよ。上がった瞬間にガーディアンでかなり吃驚だったけど」
 卓也は嘆息する。彼としては出来る限り戦闘は避けたいということだろう。
「この階に隠されているのが機密文書とかならいいんですけど、さっきのみたいな僕達に襲いかかってくるような存在だったら厄介ですね」
 言葉にしながら資料に視界を落とす。拠点で多少は見ているとはいえ、じっくり読んでいる時間はなかった。
「ふうん、僕達が最初に集めたデータも入ってるね。おや、誰かいる」
 シオン・ニューゲート(しおん・にゅーげーと)がその存在に気付いた。通路のちょうど先から走ってくる姿があった。白い長髪の少女である。
「……消えた?」
 厳密には壁の中に入っていった、ように見えたのだが、その様子から開かれた扉があることが予想された。
「行ってみましょう」
 エメが慎重にではあるが、一歩踏み出す。それに他の者も続いていく。
 すると、案の定というべきか、室内への入口があった。すぐそばには小柄な影――カカオ・カフェインの姿が。
「今、みんな中で戦ってるにゃ。でかいやつがいるから気をつけるにゃ」
 目が慣れていない以上、その場所からでは奥の様子は分からない。だが、カカオの説明である程度の状況は掴めた。
 ちょうど全員が室内に入った頃、入れ違いで先刻の少女が出ていくのが見えた。手には槍のようなものが握られているのがかろうじて見て取れた。
(あれは……この部屋にはあのような武器も保管されているのでしょうか?)
 ファレナは近くを見渡した。すると、壁の辺りにいくつもの武器のようなものが見受けられた。
 彼女はそれの一つに手を伸ばした。

            

・心を持たぬ騎士

「騎士の機械の戦士……誰かがあれを引き受けないと落ち着いて皆が調査出来そうにないですね」
 赤羽 美央(あかばね・みお)が最上層にやってきて最初に視界に捉えたのは、動きを止めている二体の機甲化兵の姿だった。
「今は止まってるみたいですが、さっきまでは動いてたような、そんな気がします」
「かなり強そうなロボットじゃないデスカ! 止まってるんならさっさと逃げまショウ」
 彼女のパートナーのジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)はかなりびくびくしていた。
 その時、
「ああ、動き出しマス!!」
「落ち着いて、ジョセフ。下で分かった情報だと、この遺跡には武器があるかもしれません。探してきます」
 美央はガーディアンが完全に起動する前に急ぎ足で奥へと進んでいった。
「待って下サイ!」
 ジョセフもそれに続いて走っていく。
 間もなく二体のガーディアンは動き出し、それぞれが索的モードで巡回を始めた。


「相手にとって不足なし、です」
 美央とジョセフが奥へと向かった直後、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は再起動した剣士型ガーディアンと対峙していた。彼女は懐からゆるスターを取り出し、吸精幻夜によって図書館戦での疲労をも完全に回復させる。
「うふふ、では、お手合わせ願います」
 高周波ブレードを構え、剣士型の振り下ろす刃を真っ向から受け止める。それを受け流し、踏み込んで剣撃を与えようとする。が、しかし、
「疾い!」
 敵は瞬時に剣を返し、優梨子の一撃を受け止め、弾く。しかもそこから後退せず踏み込んでくる。その動きは、単なる機械ではなく一対一の戦いを熟知した、歴戦の勇士をも思わせた。
 装甲を破ろうにも、なかなかその隙さえ見当たらない。それどころか、攻めに転じることすら難しい状況に追い込まれていく。
「ふふ、やりますね」
 だがその顔は嬉々としていた。純粋にこの騎士との真剣勝負を楽しむかのように。
「そこです!」
 何度か相手の剣を受けた事で、優梨子はパターンを掴んでいた。さらに敵の剣が高周波ブレードよりも弱いものだったために、剣撃に競り勝っていたのだ。
 刃は折れ、その隙に彼女は装甲に打撃を与える。斬ろうにも、一撃では打ち破れない。だがその連続した攻撃は、装甲を傷つける事に成功した。
 だが、敵もずっとおとなしくしているわけではない。折れた剣を捨てるや否や、腰にあるもう一本の刃を手に取り、優梨子を武器ごと跳ね飛ばした。
 その時、敵の動きに変化が起こる。形態が少しずつ変形していったのだ。
 それまでは両手に剣を持った剣士の姿。だが、一部の装甲が開き、肩当てのようなものが二枚分離する。それは盾となり、中世の甲冑の騎士さながらの姿を晒した。
「お嬢!」
 それと同じタイミングで、彼女のパートナーである宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)が駆けつけてきた。
「待ってました!」
「お嬢、さっさとコイツを始末してくださ……ぎゃーッ!?」
 優梨子は現れた蕪之進の首根っこを掴み自分の所まで引っ張ると、吸精幻夜を自らのパートナーに対して行使した。
「では、こちらも全力でいかせてもらいますか」