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ほわいと・でい☆

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ほわいと・でい☆

リアクション

 紅茶で乾杯をしたサロンの中では、乙女たちが思い思いの時を過ごしていた。
 乾杯直後に外に飛び出すように走っていった子どもたちもいたようだが、乙女が釘付けになるお菓子がたくさんのパーティー、テーブルの上の色とりどりのフルーツに目を奪われている娘も少なくない。

静香やラズィーヤのテーブルには、フォーチュンクッキーをもらいに来た娘はもちろん、静香やラズィーヤにプレゼントを渡したい、とそっと隠し持ったプレゼントを胸に抱いている娘たちも、テーブルを囲むように集まっていた。
もちろん、百合園の乙女として、自分が自分が、とでしゃばるようなことはしない。みんな、ゆったりと和やかに、静香やラズィーヤと話せる機会を待っていた。
「ラズィーヤ様、ほわいと・でい☆ってとってもステキなイベントなのですね。こちらのケーキも雪の形をしていてとっても可愛い!」
橘 舞(たちばな・まい)は、ラズィーヤの前に置かれている、雪の結晶型のタルトを指して、感動した様子で両手を可愛らしく合わせた。
「ええ、白い雪は本当に美しいですわね。こちらのケーキは、特別に佐々木弥十郎さんという方が百合園女学院のイベントのために、と差し入れてくださったのですわ」
「佐々木様、ですか?なんだか聞いたことがあるような気がします」
「最近、活躍していらっしゃるようですから、橘さんのお耳にもお名前が入ったのかもしれませんわね」
 ラズィーヤが優雅な手つきでティーカップを手に取る様子を、ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)は苦々しい表情で聞いていた。
(自分の手柄でもないのに、ツインドリルってば、えっらそーに!!)
「ほ、ほらほら、ブリジットも見てみなよ。とってもおいしそうだよ?」
 舞が取りなすように言っても、ブリジットはツンツン。ラズィーヤは小首を傾げてそんな二人の様子を見ている。
「ら〜らららーらんらーらんらんー」
金 仙姫(きむ・そに)が妙なタイミングで歌を歌い出し、舞を舞うフリをして、ブリジットをとんっと、ラズィーヤの方に押し出す。一応、仙姫なりに精一杯の応援のつもりらしい。
(よ、余計なお世話よ!!私はべつにツインドリルなんてどうでもいいんだからね!!)
 ブリジットは仙姫をじとっとにらんだが、仙姫はそんなブリジットの視線なんてどこ吹く風。ふんふん♪鼻歌を歌いながら、楽しげに軽いステップを踏んでいる。
「美味しいですわよ♪」
 ラズィーヤは、小さなフォークでタルトを器用に一口大にすくい上げると、ブリジットの口元に差し出した。
……なっ!!一瞬、何が起こったのかわからず絶句したブリジットではあったが、この百合園女学院において、静香様・ラズィーヤ様のファンを敵に回すのも恐ろしい。
ああ、今自分は完全なるアウェー。舞がにこにこした顔でこっちを見ているのが余計に憎らしいぜこんちくしょう!
「ぱくっ」
 ブリジットは、もぐもぐ、となんとか内面の動揺を晒すことなく咀嚼することに成功した、つもり。百合園生らしく優雅に
「本当に、とても美味しいですわ、ラズィーヤ様。ありがとうございます」
 わざと慇懃無礼に言ってみたつもりだけど、ラズィーヤにはもちろん通用しない。
(ブリジットったら、何てことをしているのかしら!)
イルマ・レスト(いるま・れすと)は、ラズィーヤにタルトを食べさせてもらったブリジットを見かけて、いても立ってもいられない気分になった。イルマのそんなジリジリとした気持ちを感じ取って、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)は、背筋を伸ばし、凛とした涼しげな雰囲気で、ラズィーヤへと近づいていった。百合園女学院の制服を着た舞と、見た目はよく似ているが、蒼空学園の制服に身を包んだ千歳ではまるで雰囲気が違う。
「過日は寒空の下でのチョコレート配布、ご苦労様でした」
丁寧な口調で礼を述べると、チョコレートのお礼にとキャンディーの詰め合わせを差し出した。イルマを促すと、イルマもきちんと背筋を伸ばし、クッキーを差し出した。舞のほうへチラリ、と一瞬きつい視線を走らせる。
「ごきげんよう。朝倉さん、イルマさん。本日は百合園女学院へようこそ。パーティーを楽しんでらしてね」
「ありがとうございます。ラズィーヤ様。厚かましいようですが、イルマがラズィーヤ様にお願いがあるそうなのですが」
「なにかしら?あら、それは……」
 イルマが制服のポケットから大切そうに以前にラズィーヤからもらったチョコレートを取り出した。イルマは恥ずかしそうに、ラズィーヤの耳元にそっと唇を寄せて、願いごとを囁いた。

 パシャ・パシャ・パシャ。
 上手に写真を撮るコツは、撮影対象に対してさまざまな角度から何度もシャッターを切ること。1枚だけ撮った写真が=傑作。そんな奇跡はなかなか起きないものだ。
でも、今日は傑作写真を撮りに来た、というわけではなく毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は、静香とラズィーヤのテーブルを囲む乙女たちをそっと記念に撮影していた。もちろん、隠し撮りなんていう卑怯なマネはしない。自然な表情を撮るために、撮る瞬間まで気配は断っているけれども。ラズィーヤの承諾済だ。
レンズを通して見ると、世の中というのは実におもしろく見える。どうしてこの程度のことが、裸眼ではわからないのか、というくらいに人間関係が明確に映し出されるのが、実に興味深い。
 ラズィーヤを取り囲んでいる乙女たちの緊迫した空気を敏感に感じ取りながら、毒島大佐は、静香のほうに集まっている娘たちにレンズを向ける。
フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)は、静香にホワイトチョコをプレゼントしていた。ありがとう、とにっこりほほ笑む静香に頬を赤く染めて一礼するフィルの姿を、可愛いなぁ、と思いながら毒島大佐はシャッターを切った。ポラロイドが乾くまで、ひらひらさせながら、次のシャッターチャンスを待つ。うん、我ながら会心の出来栄え。
 フィルは、静香に挨拶を済ませると、そそくさとチョコフォンデュのテーブルの百合園女学院の生徒の輪の中へと入っていった。
 そんな華やかなパーティーの会場で、人の輪からそっと外れ、緊迫した面持ちで伏見 明子(ふしみ・めいこ)九條 静佳(くじょう・しずか)の手を引いて、人のいない壁際のソファへと向かっていくのを、毒島大佐は見逃さなかった。パーティーにそぐわない表情の二人に、思わずシャッターを切った。

「今日は白い食べ物を食べないといけない日なんですよぅ」
「あら、そうでしたわね。そういえば、フォーチュンクッキーって、白くはありませんでしたわ。どうしましょう」
神代 明日香(かみしろ・あすか)が、ラズィーヤにヨーグルトマショマロを差し出しながら言うと、ラズィーヤは案外素直にだまされた。どうも雪を運ぶことに熱心になるあまり、ほわいと・でい☆を雪遊び祭りとカンチガイしかかっていたようだ。
「これを、静香様にも食べさせて差し上げれば、罰が下ることはないですぅ」
「罰が下りますの?!静香様!!」
 むぐ。振り向きさまに口にマショマロを詰め込まれた静香は目をぱちくり。むぐぅ。むぎゅむぎゅ。…っくん。
「急に何するんだよ。ラズィーヤ!」
「だって、白いものを食べなくては罰が下るっていうのを、存じ上げなかったのですもの」
「んもぅ。神代さんだねぇ?そんなこと言ったら、め、だよ!」
 静香はラズィーヤの行為を咎めることはせず、明日香を優しくたしなめた。そして、フォーチュンクッキーを差し出して、はい、と明日香の小さな手のひらにちょこん、と乗せてくれた。

「どうして現代の人たちは、こういう味の濃い甘いものを好まれるのでございますか?」
邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)は、百合園の乙女の集まりに「あ〜ん」攻撃を受けて、渋い顔。チョコバナナ・チョコイチゴ・チョコオレンジ・チョコクッキー・チョコマショマロ。壱与が甘いものが苦手と知ると、可愛い〜とばかりに押し込もうとする。
 しかし「チョコ、おいしいよ?」と可愛らしく見上げられると、なんとなく断れない壱与であった。
「フォーチュンクッキーは、基本的にそんなにあまくないはずどすし、口直しに、ね?」
清良川 エリス(きよらかわ・えりす)は、早く静香様のところに行きましょうよ、とばかりにフォーチュンクッキーをススメる。
「まだ、けっこう混んでるわよ?」
ティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)は、静香とラズィーヤのテーブルを囲んでる乙女たちを見ながら呟いた。
「でもでも、早く行かないと、良いフォーチュンクッキーがなくなってしまうかもしれないどすえ!」
「フォーチュンクッキーって、そういう早いもの勝ちというものではないわよ」
「でも、どっちにしてもずっと混んでるかもしれないどすし……」
「はいはい、まぁいいわよ。壱与もチョコにはうんざりみたいだし、ね」
ティアは何度も口元をぬぐう壱与を見ながら、くすくす笑う。
「もう、甘いものでなければ、何でも良うございます」
 静香の前には、今、蒼空学園の制服を着た少女が立っている。学校内のイベントということで、今日は基本的に制服着用なので、他校の生徒だと一目でわかる。
 静香のファンは他校にも多いので、こうしたイベントがあると、百合園女学院の生徒経由で招待を受けて、他校の生徒と出会う機会もあり、良い交流の一助ともなっている。
「百合園女学院の校長として、静香様はどのようにしていきたいと思っているんです?」
霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は、慣れない他校の校長と何を話せばいいのかな?という様子で探り探り会話をしている感じだ。
「ボクは、みんなが楽しく、幸せに過ごせる学校が一番だと思うな。もちろん、乙女として大和撫子を目指してもらうっていうのが、百合園女学院のモットーだけどね♪」
 静香はどんな質問にも優しく受け答えをしてくれる。そこが乙女たちからの人気の秘密かもしれない。
「あの……、えっと、女の子同士って、難しい時がないですか?その、たとえば、たとえばですけど、、、いじめ、とか……」
 なんとも歯切れの悪い言い方で緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が静香に尋ねた。なんとなく、ラズィーヤに気を使っている様子だが、ラズィーヤは他の生徒たちと歓談中で気がつかない。
「ボクはいじめのことを聞いたことはないけど……、ええと、何か気になることがあるのかな?」
 静香が尋ねると陽子はぶんぶん、と首を振った。何でもないならいいんだ、うん。
 少なくとも、ラズィーヤに静香がいじめられたり、、、とかはないみたいだ。
「ふふふん、あの娘。おもしろいこと聞いてるわね♪」
「おもしろいことって、どういう意味どすか?」
「もちろん、言葉通りの意味ですわ。きっと、同類かも、と思ったのね」
「同類って、何のことでございますか?」
「いいのよ、わからなくっても♪それよりも、さ、エリス、フォーチュンクッキーが欲しいんじゃなかったんですの?」
「あぁ、そうどす。今なら、だいじょぶかな?」
 エリスが遠慮がちに近づくと、静香はにっこりとほほ笑んでくれた。
「清良川さん、ごきげんよう」
「ご、ごごごっごきげんようどす!!し、しびゅっ、はふっ。静香様、う、うち、いあう、私も食べて頂こう思て用意してきたんどすっ是非っ」
エリスは、卵白で白く焼いた生地のロールケーキを静香に差し出した。キレイに整った形をしたケーキはクリームたっぷりで、見るからに美味しそうだった。
「ありがとう。うれしいな」
「静香様、フォーチュンクッキーってどんな形をしているんですか?」
ティアが横から声をかけると、静香はカゴの中からフォーチュンクッキーの包装を取り出して、くの字型のソレを出して「ほら、耳みたいな変わった形してるんだよ」と見せてくれた。
「あら、本当に耳みたいですわね。美味しそうですわ」
 ティアはそう言うとそっと静香に身体を寄せ……

 かぷっ。

 静香の耳を甘噛みした。
「ふふっ、ご・ち・そ・う・さ・ま・でした♪」
 静香がかあああ、と頬を染めて何か言おうとした声は、エリスの
「ちょっ!!し、静香様になんてこと、す、すするんどすかっ!!!」
 という声に、かき消された。

 もちろん、この瞬間は、毒島大佐によって、バッチリ激写されたのだった。