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【十二の星の華】黒の月姫(第2回/全3回)

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【十二の星の華】黒の月姫(第2回/全3回)
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「赫夜様!」
 真珠が今日も登校していないため、一人で黒髪をなびかせて廊下を歩く赫夜に、翡翠は駆け寄った。
「真珠様は、今日も具合が良くないのですか?」
「ああ。具合が悪いと言って、部屋からも出てこないんだ…翡翠さん、もしかして、真珠のことを気にかけてくれているのか?」
「当たり前ではないですか!」
 翡翠はついつい、声を上げてしまい、そんな自分に驚くがそのまま、同様に驚いたように目を見開く赫夜に言葉を続ける。
「私は真珠様は悪者だとは思っていません。あのような優しい女の子に、あのようなテロができるはずはありません。ですが、何もしないのは疑念を肯定する結果に繋がります。疑いを晴らしたいのなら本人が行動を起こさないと駄目です!」
 翡翠の渾身の思いが赫夜にも伝わったのか、赫夜も眉間に皺を寄せて翡翠の顔を見つめた。偶然ではあるが、二人の瞳は同じ色をしており、赤き双眸がお互いを見つめ合った。
「翡翠さん…あなたがそれほどまでに、真珠のことを考えていてくれるとは思わなかった」
「赫夜様、私だけではありません。パートナーの円も心配しています。私たちで、噂はできるだけ消して回りましょう。ですから、疑いを晴らすためにも、真珠様には学校に出てきて欲しい…それが私の願いです」
「ありがとう。…なかなか、私だけでは真珠の殻を打ち破ることは難しいのだ。私は自分の力のなさが悔しい…だが、あなたたちが力になってくれていること、伝えておく。きっと真珠もそれでこころを開いてくれるキッカケがつかめるだろう。本当にありがとう」
 赫夜はひし、と翡翠の手を取ると強く握った。



☆ ☆ ☆



「ねえねえ、あの藤野赫夜の妹がアッサシーナ・ネラの可能性があるみたいよ」
「あなたたち、それって本当の事かしら?」
 図書館でうわさ話に花を咲かせている女子達に、円が美しい髪をなびかせて、笑顔で寄ってくる。
「え…でも、みんな、そう言ってるもの」
「『みんな』って誰? 良ければ教えて欲しいわ」
 円の言葉につまる女生徒達。
「どうやら、特定の人から聞いた話ではなさそうね…。真珠さんが本当に『アッサシーナ・ネラ』と判るまでは、口をつぐんでいるべきよ。それが蒼空学園の生徒としてのあり方じゃないかしら。噂は楽しいけれど、人を傷つけるものだと理解して欲しいの」
 女生徒たちは笑顔ではあるが、芯のある円の言葉に頷いた。

「さて、と…。噂の出どころが判れば、と思ってはいたけれどなかなか、そういうわけにはいかないみたいね。リフル・シルヴェリア(りふる・しるう゛ぇりあ)の件もあって、みんな浮き足立てっている感じがするわ」
 円は独り言をつぶやきながら、廊下をスリムな肢体で歩いて行くと、後ろから円を呼び止める声が聞こえてきた。
「円さん〜」
 キュートなボブカットと黒い瞳が印象的な羽入 勇(はにゅう・いさみ)が、円のあとを追いかけてくる。
「ふう、ふう」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫です〜それより円さん、ボク、キミの先ほどのお言葉に感動したんだ!」
「え? さっきって、あの図書館で?」
「うん、あの毅然とした態度。ボクも正しいことが一切判らない状態で、噂ばかりが先走っている状況がいやなんだ。ボクは将来、報道関係の仕事に就きたいと思っている。やはり真実が知りたい。それに円さんも、犯人、『アッサシーナ・ネラ』に繋がる情報を探って、噂のでどころをしらべてるんじゃないか?」
「さすが、報道希望者だけあるわね。勘が鋭いわ。で、あなたは何をするつもり」
 円がくすっと笑うと、勇もにっこりと笑う。
「ここでは他の人に聞かれてしまう可能性もあるから、ちょっと中庭にいかないか?」

 中庭に場所を移した円と勇はベンチに座って喋りはじめた。
「ボクが考えているのは、『アッサシーナ・ネラ』が一人に対しての名称ではなく、共通の敵がいる集団が用いてる名前なのではないか、ということなんだ」
「…!」
 円が目を見開く。
「黒マントに仮面をつけるという行為で1人に見せかけているだけの可能性が高いと思う。だからボクは、ミルザムに怨みを持つ者がいないか調査してみるつもり。それについ、最近、リフルの洗脳の件があっただろ?」
「まさか、あなた、真珠さんが洗脳されているとでも?」
 藤野姉妹の友達という自負がある円はきっとまなじりを上げる。
「違う。あくまで可能性の問題だよ」
「そうね…可能性としてはありえるかもしれないわ」
「ボクも調べて判ったことは、円さん、キミに伝えるよ。だからボクにも教えて欲しい」
「判ったわ。パートナーの翡翠にも話をしておく」
「あくまで隠密裏にね」
 子供っぽい外見に比べて、内容を精査して話すことができる勇を、円は気に入った。

☆   ☆   ☆

 御凪 真人(みなぎ・まこと)は、ツァンダの街を歩いていた。
「藤野姉妹の家はっと…」
 以前に赫夜から聞いていた住所と地図を持って、真人は藤野家目指して歩く。ツァンダの街を歩くのは楽しい。真人は魔法を使わず、生身の体で夕暮れの街の雰囲気を楽しんでいた。
「真珠…喜んでくれると良いですけれどね」
 和風な佇まいの一軒家、藤野家の前に真人は立つと、インターホンを押した。