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灯台に光をともせ!

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灯台に光をともせ!

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第一章 灯台を目指せ 2

 航海は、順調だった。波も高くなく、天候も晴天。
 船こそ海賊船のようにでかくて、ゴツかったが、気分はクルージングといった感じだった。
 中には、釣りを始める生徒などもいる。
「ふむ。確かに灯台も大事だ。だが、もっと大事なことがある。それは……」
 四条 輪廻(しじょう・りんね)が、クイッと眼鏡を人差し指で上げる。キラリと眼鏡のフレームが光った。
「明日の飯の種だ!」
 高らかに宣言する輪廻。そして、輪廻は大海原を見渡して言葉を続ける。
「こんな機会は滅多にない。船に乗るという最大のチャンス。絶対にものにするぞ!」
「おーっ、釣るぞー、作るぞーっ、白飯反対ーっ!!」
 輪廻の隣で、仕掛けを海に向かって投げたのは、アリス・ミゼル(ありす・みぜる)だ。
「たんぱく質を補給できる最後の望みと言っても過言ではない」
「ふふー、おっサカナ、おっサカナ〜♪」
 甲板に座り、足をバタバタしながら竿を揺らすアリス。
「うむ。狙うは、マグロだ! 最低でも蛙くらいは釣って帰るぞ」
「はい! ボクに任せてください」

 そんな様子を遠くで見ている小さな人影。
 首をかしげながら、パートナーのとこにトコトコと向かっているのは、パラミタ 内海(ぱらみた・ないかい)だ。
「わしは、蛙は食べ物じゃないと思うのじゃよー」
 船の隅でうずくまっている、ウィルネストに言葉を投げかける。
「……突っ込むところが違うだろ。うぐっ……。海に蛙はいない。うぷっ」
 ウィルネストは、右頬を抑え、青ざめた顔で何とか立ち上がる。
「……おぬし、いつの間に虫歯になったのだ?」
「う、うるさいな。……うぷ」
 ウィルネストの右頬は思い切り、腫れあがっていた。
「ほうほう。リンネにヤキを入れられたんだにゃ〜?」
「くそ、船の上じゃなければ……。内海って……意外と、波、あるんだな……」
「これ以上ないってほど、凪じゃよー!」
「う、おうっ……」
「それより、ウィルネスト! わしは水場に来るとか、そんな話聞いておらんかったのじゃよー! 訴えて勝つにゃー?」
「ふ、ふん。内海の地祇のくせに何言ってるんだ。大体……。あ、ごめんさい。揺らさないで……」
「全く、情けないにゃー」
 腰に手を当て、プンプンと怒っているパラミタの横で、「お願いだから、早く着いてくれ」と涙目で思うウィルネストだった。

 船首の方で、ジッと灯台を見ているイーハブ。
 その目は鋭く、内に秘める獰猛な炎は、ハンターのものだった。
「……」
 その様子を後ろから見ている、大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)
 すぐに視線を手元に戻し、銃の手入れを再開した。

 甲板に端に立って、大空を見上げている、リネン・エルフト(りねん・えるふと)
「……」
 そんなリネンの肩をポンと叩いたのは、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)だった。
「どうしたの? ぼーっとしちゃってさ」
「良い天気……。こんな日に飛べたらって……」
「そうだね。翼騎狼を連れてこればよかったね」
 翼騎狼とは、その名の通り、翼が生えた狼である。とある、実験場で連れ帰ってきた騎獣だ。
「あ、そろそろ名前、つけてあげないとね」
 ヘイリーが微笑むと、リネンがコクリと頷く。
 一見、無表情のようだが、ヘイリーには笑みを浮かべていることが解っている。
「それにしても、ちょっと気になる依頼だよね」
 ヘイリーが腕を組んで、灯台の方に目を向ける。
「……うん」
「事前に調査したんだけどさ、灯台の光って、徐々に弱くなっていくらしいのよ」
「……?」
「変だと思わない? 魔物が出る前に、普通は手を打たない? それを今頃になって慌てて灯台に向かうなんてさ」
「……何か、あるのかもしれないわ」
「でも、考え過ぎかもしれないけどね」
「ううん。イーハブお爺さんに、何かあったら大変よ」
「ま、リネンなら、そういうと思ったわよ」
 ヘイリーは、リネンを見て、仕方ないなといったように笑みを浮かべた。

 船の中、壁際で小さく震えているセーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)
 不意にドアが開き、今度は大きく身体をビクつかせるセーフェル。
 船内に入って来たのは、和原 樹(なぎはら・いつき)だった。
「何だよ、セーフェル。船酔いか?」
「マスター……どうしてこんなところに私を連れてくるんです」
「ああ。そのことか」
 弱々しく問いかけるセーフェルに、樹はひょうひょうとした口調で答えた。
「海なんて、もし落ちて沈んだら絶対上がって来れないじゃないですか」
「大丈夫だって、セーフェル。お前の本体は学校に置いてきたから」
 セーフェルは魔術的な手段で権杖に記録された『ラジエルの書』の写しで、本体は魔道書なのである。
「……また置いてきたんですか」
 セーフェルは、肩を落とし長いため息をついた。
「でも、今回ばかりはその方がありがたいです。自分の本体が近くにないのも落ち着かないですけど、海の上はもっと落ち着かないですから……」
「そんなに心配するなって」
「しかし、マスター。どうして、今回の依頼に参加されたんですか? 怪獣がいるとかいう噂もありますし、早く大陸の上に帰りたいです」
「灯台の光が消えれば、近くを航行する漁船や商船にとっては死活問題だ。放っておけないだろ」
 樹の答えに、セーフェルは笑みを浮かべて、呟く。
「……そんなあなただからこそ、私も着いて行こうと思ったんですよね」
「ん? 何か、言ったか?」
「いえ、なにも……。そういえば、置いてきた本体はどこに?」
「ショコラちゃんに預けてきた」
 悪戯っぽい笑みを浮かべる樹。
「どうして毎回、私をショコラッテに預けるんですか……」
 抗議の声を上げるが、樹は悪びれも無く、二ヒヒと笑うだけだ。
「……私は着いていく人を間違えたかもしれません」
 船にゆられながら、セーフェルはそんなことを考えていた。

 規則的なリズムで波が船に当たり、水しぶきを上げる。
 そのしぶきが、リンネの頬を濡らす。
 船の最後尾で、リンネがデジカメを手に、港の方を寂しそうに眺めている。
「……」
「リンネちゃん、どうしたの?」
「あっ、るるちゃん」
 リンネが振り返ると、そこには立川 るる(たちかわ・るる)が立っていた。
「考えごと?」
「あ、ううん。なんでもない」
 いつもの笑顔に戻るリンネ。
「ねえ、見て見て、このハアピン可愛いでしょ?」
 るるがニコニコしながら、手を広げると、そこには3つほどのヘアピンがあった。
「わ、ホント。可愛い。この星のついたのって、センスいいよ」
「じゃあ、あげる」
 るるが、星のついたヘアピンをリンネの髪にさす。
「わわっ! リンネちゃんは、ヘアピンなんて似合わないって」
「ううん。そんなことないよ。良く似合ってる」
「……ううっ。そ、そうかな?」
 恥ずかしそうに頬を掻くリンネ。
「あ、るるちゃん、こんなところにいた!」
 トテトテっと歩いて来たのは、可愛らしい男の子、ラピス・ラズリ(らぴす・らずり)だった。
「もう、探したんだよぉ」
 頬をぷぅっと膨らませて、怒るラピス。
「ごめんねー」
 るるが微笑んで、ラピスの頭を撫でる。撫でられたラピスは照れくさそうに、顔をそむける。
 すぐに笑顔になり、腕に抱いていたスケッチブックをるるに見せる。
「僕、絵を描いたんだよ」
「……」
 絵を見た、るるとリンネが沈黙する。
「えっと、これは何かな?」
 リンネが首をかしげながら、ラピスに問いかける。
「ウミネコ!」
 ラピスが元気良く答える。
「……ほら、ウミネコなら、ヒゲとか爪も描かないと」
 るるがスケッチブックをパッと取って、ヒゲと爪を付け加える。
「ああっ、るるちゃん、イタズラ書きしないでよー」
「るるちゃん、ウミネコにヒゲは生えてないよ」
 アハハと笑う、るるとリンネ。
「ねえ、カメラで何とるの?」
 怒っていたラピスが、リンネの手にあるデジカメを指差す。
「ふっふっふ。それはねー」
 リンネはもったいぶった口調で、言葉を続ける。
「灯台の光も大切だけど、リンネちゃんの目的はパッシーなんだから……!」
「パッシー?」
 ラピスが小さい頭を傾けて、リンネを見る。
「パッシーはね、とっても珍しいパラミタ内海の怪獣なんだよ。いっぱい写真を撮って、リンネちゃん、有名になるんだもんっ!」
「あはは、リンネちゃんらしいね」
「よぉーし、じゃあ僕はパッシーの絵を描くよ! 写真もいいけど、絵には絵の「訴える力」ってのがあるんだよ」
「……」
 ラピスが小さい手を振り上げ、熱弁するのを、困ったように聞くるる。
「……あ、そうだ。お菓子持ってきたから、一緒に食べよ」
 瞬間、ラピスの情熱の炎は、期待のキラキラとした光に変化した。
「食べる、食べるー」
 るるとラピスが船内への扉の方に向かって歩き出す。
 リンネはふと、振り返り港の方を見る。
「来てくれると思ったんだけどなー」
「リンネちゃん、どうしたの?」
「ううん。何でもないよ」
 リンネはるるたちの方へ、歩き出した。