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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ-ヨサークサイド-3/3

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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ-ヨサークサイド-3/3
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chapter.13 5010 


 気が遠くなるほど遠い昔。
 薄暗い研究施設に、ザクロはいた。周りには眼鏡をかけ白衣を着た、いかにも賢そうな男が数人で話している。
「十二星華も、これだけ完成度が高ければ女王のスペアとして申し分ない」
「巨大な剣を自在に扱う者に、両手の爪を武器に俊敏な動きを見せる者……他にも様々な特徴を皆持っていて、実に素晴らしい」
 彼らはどうやら技術者らしく、十二星華を知る数少ない存在のようだ。そんな彼らの会話を、ザクロはぼうっと見上げて聞いていた。
「……おい、お前も早く何か見せるんだ。失敗作が出来てしまったみたいじゃないか」
「何か、って……?」
「何でもいい、強大な武器を使えるとか、特殊な能力を持っているとか。何かあるだろう」
 ザクロが黙り込むと、男たちは蔑むような目で彼女を見た。
「なんだ、何も出来ないのか? 失敗作じゃないか」
「この役立たずめ」
 ザクロは怖さのあまり、懸命に扇を振ってみた。が、男たちもザクロも変化を見つけることは出来ない。ただ虚しく風の音がするだけである。男のひとりが、ザクロを後ろから蹴った。前につんのめったザクロが、顔から地面に落ち頬を擦る。
「技術者として失敗作なんて認められないんだよ、見ているだけでイライラする。壊される前に消えろ」
 地に伏したザクロを、男たちがよってたかって蹴り飛ばす。ザクロはあまりの痛みと悲しみ、無力感と存在意義を見出せない自分に涙を流した。
 なんで、あたしは他の十二星華と違って何も出来ないの?
 なんで、あたしの星剣はこんなに弱いの?
 何度も自分に問い掛けては、何度も泣く日々が続いた。それでもザクロは、どうにか自分を認めてもらおうと技術者たちの前では一切不満を漏らさず、いじらしいとすら思えるほど一心不乱に役に立つことをアピールした。他の十二星華の様子を報告したり、データのまとめを取ったり、雑用のような仕事も進んで行った。が、肝心の十二星華としての能力をいつまでも示すことが出来なかったザクロは、度々技術者たちのストレスのはけ口にされた。たとえはけ口でも、自分がいつか認めてもらえるなら。そんな思いで彼女は自分の存在を守るため彼らに尽くし続けた。

 数ヶ月が経った。
 ザクロの懸命なアピールがまるで徒労だと言わんばかりに、彼女への風当たりは強いままだった。
「おい役立たず、早くゴミ捨てておけ」
「なんなら、一緒にゴミ袋に入ったらどうだ? どうせゴミみたいなもんだろう」
 彼女は扇を扇ぐ。いつか能力が目覚めると祈って。しかし結果はいつもと同じ、何も起きないままだった。
 表面上は。
 彼女の扇に与えられた能力「潜在介入」及び「感情増幅」は、この時既に発芽していた。悲劇だったのは、それが目では見えない力だったこと、そして技術者たちの増幅させられた感情が「研究がうまく進まないことに対する苛立ち」だったことだ。皮肉にも、彼女が認めてもらおうと扇を振る度に周りの技術者はどんどん苛立ちを増していたのである。

 さらに数年が経つ。
 ザクロは、諦めかけていた。どれだけ頑張っても、周りの状況は変わらない。ザクロは他の生き物に対して次第にこう思うようになる。
「人は、変わらないものなんだ」
 何をしても、どう振る舞っても、自分を見る視線は冷たいままだ。人の心は、変えられないものなんだと。
 この後彼女はようやく自身の能力に気付くが、それでもその考えは変わらなかった。この扇にあるのは感情を増幅する能力であって、ベクトルを変える能力ではない。だから煽った結果人が変わったように思えても、それは元々その人が持っていた感情。変わったわけではない。
 ザクロは逆にありがたいとすら思った。
 自分の持論を証明してくれるような、この能力を。

 このさらに数年後、シャンバラ古王国が滅亡しザクロはシャンバラで戦死することとなる。
 長い時を経て復活した彼女がたまたま読んだ本が、日本の古い文学作品であった。
「数ならでなにはのこともかひなきに などみをつくし……ねえ。ずっと名前がなかったけれど、ぴったりかもねえ」
 ザクロの手にした扇が、彼女の言葉に応えるように心なしか赤さを増した気がした。
「いいだろう? あんたを、澪標と呼ぶことにするよ」