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【十二の星の華】双拳の誓い(第5回/全6回) 解放

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【十二の星の華】双拳の誓い(第5回/全6回) 解放

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1.葦原島
 
 
「お待たせした。まだ明倫館もバタバタしているようなのでな。そこそこ資料らしき物はあったが、短時間なのでおおよそしか調べられなかったが」
 葦原明倫館の資料庫に行っていた相馬 小次郎(そうま・こじろう)が、ゴチメイたちの待つ場所に戻ってきて言った。ナラカ道人の件で、葦原明倫館もまだ落ち着いてはいないという状況のようだ。時間も限られていたので、最低限の調べ物しかできなかったようだ。
 現在の場所は、葦原明倫館のある町からは幾分離れている。葦原島は、昨今急激に発展し始めたため、島全体としてはまだ未開の地が多く残されていた。そんな森林地帯の入り口にゴチメイたちは移動していたのだった。
輝睡蓮とは明記されてなかったけど、この森というか樹海の奥地に広い湿地帯が隠されているって言う記述はあったよ」
「まだ、調査はちゃんとされていないということであるな。もともと湿地では、居住するにも開墾するにも適した土地とは言い難いからな」
 茅野 菫(ちの・すみれ)の言葉に、相馬小次郎がつけ加えた。
「おおよそ、ジャワの話と一致してるね。後は、ここを進んで行くしかないというわけだ」
 ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)が、一所懸命ジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)に言われた場所を思い出しながら言った。
「なんか、道がなさそうで嫌だなあ」
 うっそうと木々が生い茂った深い森を見てリン・ダージ(りん・だーじ)がつぶやいた。
「睡蓮と言うからには、湿地帯に生息しているのだろうが、はたして、どの部分に薬効があるかだな」
 言いつつ、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)がほぼ無意識に掌の中の賽の目を確認する。
「正確には蓮とは別の植物であるし、黒蓮が花を精製していたことから考えると、こちらも花を精製するのが妥当というところか」
「ジャワさんの話ですとお、生花を食するのが一番効果が高いと言ってましたからあ、本来はエッセンシャルオイルにするのが妥当ですかねえ。乾燥よりも効果が高いのですから、揮発成分と言うことになるでしょう」
「香りが主体ということか?」
 本郷涼介が聞き返すと、チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)はうなずいた。
「黒蓮が、花粉や蜜にも含まれる花全体の含有物であるのと対照的だな。むこうは乾燥させて余分な水分を飛ばした方が高純度の物になる」
 薬学的には、固体である黒蓮の成分をどのように輝睡蓮の成分が分解中和していくのかに興味がわくが、それを今研究している暇はない。
「あまりのんびりとしてもいられないですよ。私のパートナーから入った情報によると、海賊の物らしい飛空挺が、明倫館近くの湖に下りたそうです。ここからは多少離れていますが、乗り物を使えばすぐでしょう」
 携帯電話に出ていたルシフェル・フレアロード(るしふぇる・ふれあろーど)が、地面に簡単な地図を書いて説明した。
「思ったよりも早いじゃないか。噂を広めるのが早すぎたんじゃないの」
「それでも、まだ予想の範囲内ですね。焦る必要はないですよ」
 ちょっと驚くマサラ・アッサム(まさら・あっさむ)に、ペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)が言った。珍しく、本気仕様の漆黒のフルアーマーにシールドを持ってきている。
 今回、ジャワに運んできてもらったわけではないので、ゴチメイたちは空京から出ている定期便の飛空挺を使って葦原島へやってきていた。イルミンスールから空京に辿り着くまでには、それなりの時間はかかっている。道々では、葦原島にいい洞窟があるらしいので、そこに宝探しに行くという噂を流しながら来た。勘のいい海賊たちならば、宝探しの逆で、宝である女王像の右手を隠しに来たというほのめかしに気づくことだろう。とはいえ、予想の中でも最速で行動を起こされたことには間違いはない。
「でも、こちらも、ゴチメイのみなさんと合流する機会を得られましたから、決して引けはとりませんよ」
 ゴチメイたちの流した噂を聞きつけてやってきた安芸宮 和輝(あきみや・かずき)が、安心して任せてくれと言いたげに胸を張った。
「いずれにしろ、アルディミアクとだけ対峙するには、海賊たちとは一戦交える必要があるのでしょう」
「そうですわね。こちらの都合よく進む方がおかしいですもの」
 警戒を怠らない安芸宮 稔(あきみや・みのる)に、やれやれと言いたげにクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)がつけ加えた。
 ココ・カンパーニュが用があるのはアルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)だけだ。海賊たちは、相変わらずの邪魔者ということになる。彼らの相手をしてくれるということでは、自然と集まってきた者たちは心強い仲間と言えた。
「そこでちょっと作戦があるんだよね。手を貸してくれるかなあ」
 そう切り出すと、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)がココ・カンパーニュに手紙を一通書いてくれるように頼み込んだ。はっきりいって、内容は果たし状だ。葦原明倫館で決着をつけたいからそこで待っていろという文面である。アルディミアク・ミトゥナたちが葦原明倫館で待っている間に輝睡蓮を探しだし、準備万端整えて対峙しようというのである。
「うまくいくかなあ」
 一応言われるままに手紙を書いてはみたものの、ココ・カンパーニュとしては半信半疑だった。
「最悪でも、多少の時間稼ぎにはなるよ」
「でも、危険じゃあ……」
「大丈夫である。いざとなれば、我が脱出路はこれで切り開くのだよ」
 愛用のレールガンをなでなでしながらジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が言った。最近は、すっかりこの武器がお気に入りらしい。
「じゃあ、うまくいくことを祈っててね」
 海賊たちがいるという場所を茅野菫やルシフェル・フレアロードたちによく確認して、カレン・クレスティアは出発していった。
「隠れている敵に襲われでもしたら危険だから、一応ねぇ」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)が、念のためにココ・カンパーニュに禁猟区をかける。守護の言葉とともに、瞬間ココ・カンパーニュの身体が淡い光につつまれた。
「血が騒ぐね。トレジャーセンスじゃ、確かにこっちの方向にお宝があるって感じるぜ」(V)
「ええ、間違いないよね」
 白銀 昶(しろがね・あきら)の言葉に、久世 沙幸(くぜ・さゆき)がうなずいた。
「注意は怠らないようにしませんとね。覚悟はよろしくて? 海賊たちもそうですけれど、他の十二星華、特に蛇遣い座のシャムシエルがいつ姿を現すとも限りませんし」(V)
 油断なく周囲に目を走らせながら、藍玉 美海(あいだま・みうみ)が言った。
「一応、海賊たちも手下の募集をしたらしいよ。友達の翡翠がそちらに潜入して足止めとかできるように頑張るって言ってたもん」
 久世沙幸が、事前に連絡をとりあった浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)の名をあげて言った。
「それは助かりますが、あまり危険なことはしない方が……」
 ありがたりながらも、ペコ・フラワリーがちょっと心配する。
「だったら、急ぐとしましょう。この森は深いですが、とりたてて危険はないはずですから」
 地元である紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が、森の奥へと続く小径を指して言った。
「安心するがよい。わらわと唯斗が全面的に力を貸すのだからな」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が保証した。
「さすがに、初めての地だからね。ある程度知ってる者がいるのは心強いよ。じゃあ、出発するか」
 ニッコリ微笑むと、ココ・カンパーニュは森に入っていこうとした。
「少し、待たれい」
 少しくぐもった声が、ココ・カンパーニュたちを呼び止めた。
 艶消しの暗いブルーグレイのボディに赤いラインの入ったパワードスーツが、追いかけるようにして近づいてくる。細長いノーズのパワードヘルムの形状からすると、中に入っているのはドラゴニュートのようだ。
「ココ殿にクイーン・ヴァンガードとして用がある」
 パワードスーツの中から、ガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)が堂々と言い放った。
「別に、こちらは今は用はないけど……」
 なんのことだと、ココ・カンパーニュが困惑の表情を浮かべた。
「言わずとも、分かっておるであろう。女王像の右手である。我らクイーン・ヴァンガードは、その回収を第一の命令として受けている。申し訳ないが、ココ殿の持っている女王像の右手をおとなしく渡してはもらえないか」
「そう言われてもなあ」
 生真面目なガイアス・ミスファーンの言葉とは裏腹に、ココ・カンパーニュはちょっと楽しむかのような瞳をペコ・フラワリーと交わしていた。
「無論、報酬は考えるが、それでもだめだというのであれば力ずくも辞さぬつもりだ」
「それは、乱暴ですね」
「面倒事は、嫌いなんだけどねぇ」(V)
 安芸宮和輝たちと清泉北都が、すかさず間に入る。
「言うほどには、殺気はないようですね。ここでもめている暇はありません。引いてはどうですか」
 道明寺 玲(どうみょうじ・れい)がココ・カンパーニュの前に立って言った。離れた場所から、イングリッド・スウィーニー(いんぐりっど・すうぃーにー)が密かに機関銃の狙いを定める。
「さあ、ココさんはこっちにー」
 清泉北都が、ココ・カンパーニュを後方へ移動させようとした。
「いや、やっつけるなら適当に気絶させとくけど?」
 必要ないと、ココ・カンパーニュが留まった。パワードスーツ相手なら、そんなに気を遣って手加減しなくてもすみそうだと、目が笑っている。
「何をもめているんだ?」
 結構散らばって移動を始めようとしていた者たちが、騒ぎに気づいて集まってくる。
「だめですよ、ガイアスさん!」
「ジーナ!?」
 聞き慣れた声とともに、いきなり後ろから身体を締めあげられて、ガイアス・ミスファーンが叫んだ。いつ忍びよったのか、ゴーレムのビスマルクが背後からガイアス・ミスファーンを押さえ込んでいる。
「最優先で確保するって、そんな必要はないんですよ」
 ジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)が、再度説得するようにガイアス・ミスファーンに呼びかけた。
「何を言うか。命令とは、個人の必要に照らし合わせるものではない」
 むんと両腕に力を込めてゴーレムを払いのけると、ガイアス・ミスファーンが振り返る。
「ガイアスさんは冷静にものごとを見れてません。騎士道のロマンに酔ってるだけです」
「邪魔をするのであれば、ジーナといえども……」
 すっと、ガイアス・ミスファーンがドラゴンアーツのファイティングポーズをとる。
「ええと、クイーン・ヴァンガードだからといって、人を脅すようなことしちゃいけないんだもん。女王像の右手がほしかったら、私のをあげるから、それで満足してほしいんだもん」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、持っていた女王像の右手をガイアス・ミスファーンに投げ渡した。
「そ、それは!?」
 予想外の展開に、ガイアス・ミスファーンが飛んできた右手をキャッチした。
「ほしければ、まだあるよー」
 リン・ダージが、自分が持っている女王像の右手を高々と上げた。それが合図であったかのように、ゴチメイの全員と何人かの学生が同じように女王像の右手を高く掲げた。
「なんなのだ、それは、いったいどれが本物……」
 あっけにとられたガイアス・ミスファーンが、戦意を失って叫んだ。
「きっついなーこれは。ええと、全部本物!?」(V)
 白銀昶が、トレジャーセンスで確認したが、どれが本物か分からずに目を丸くした。
「本物を少し削って、その粉を全部になすりつけておいた」
 自慢げに、ココ・カンパーニュが答えた。最近あちこちにある一刀彫りの女王像が大量に捨てられているのを見つけたので、右手だけを回収しておいたのだ。それだけではトレジャーセンスで見破られる恐れがあったので、本物の小さな破片を接着しておいて簡単には分からないようにしたのだった。
「なんてことをするのだあ!! 本物はどうした。まさか、全部削ってしまったのではあるまいな!!」
 あまりのことに、ガイアス・ミスファーンが大声をあげる。
「大丈夫ですよ、削ったのは根元の一センチ四方ほどですから。だいたい、割れたときに破片がかなり飛び散ってしまっているはずですから、今さら少しぐらい欠けても問題はないでしょう。どうせ、修復のときにはパテで埋めるのでしょうし」
 問題ないと、ペコ・フラワリーが言った。
「とにかく、これで敵を攪乱して時間を稼ぐ」
「そんなことをせずに、我に預ければ安全なのだ」
 自慢げなココ・カンパーニュに、ガイアス・ミスファーンが食い下がった。
「ガイアスさん、本気で私と戦うつもりですか。もし、どうしてもというのであれば、このかわいいティーカップパンダを握り潰してから言ってください。さあ、できますか、罪のないこのかわいいティーカップパンダを潰せますか」
 ジーナ・ユキノシタが、掌の上に載せたティーカップパンダをガイアス・ミスファーンに突きつけて言った。
「ううっ……」
 さすがに、ガイアス・ミスファーンが後退る。
「そんなにほしいんなら、後で全部持ってけばいいだろう。もともと、用がすんだらクイーン・ヴァンガードにやるって約束してたんだし。でも、あんまりごちゃごちゃ言うと……」
 ココ・カンパーニュが、自分が持っていた右手をその手の中で握り潰した。石で作られた右手が、あっけなく握り潰されて粉々に砕け散る。
「うわわあ。分かった、分かったから、それ以上はやめてくれ」
 勢いで本物の右手を破壊されてはたまらないと、ガイアス・ミスファーンが折れた。ジーナ・ユキノシタも、ほっと胸をなで下ろす。