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【十二の星の華】籠の中での狂歌演舞

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【十二の星の華】籠の中での狂歌演舞
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パッフェルちゃん!」
「姫さんっ!」
 駆け寄ろうとする2人の前に、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が立ち阻んだ。
「退け!!」
「そうはいかないよ、君たち、何をするか分からないもん」
「何かしたのは、そっちでしょう!
「何もしていないよぅ」
 リアトリス月夜の背後から、ノーム教諭は立ち上がりながらに。
「気を失っているだけだよ、力を使い果たしてね」
「ノーム…… キサマか!!」
「パッフェルちゃんに何をした!!」
「だから何もしてないって言っただろう?」
「黙−−−」
「イイのかい? 彼女の意志を踏みにじっても」
 跳びつこうとしていた2人が足を止めた。
「どういう事だ?」
「説明しようか?」
「当たり前だ!!」
「それなら…… 2人、それから、ジェニファとマークも居るね?」
 リアトリス月夜、そしてジェニファ・モルガン(じぇにふぁ・もるがん)マーク・モルガン(まーく・もるがん)に遣いを頼んだ。ミルザム側の生徒に「今すぐ戦うことを止めて、部屋を出てゆく」よう伝えるものだった。
 数分としない内に言伝は行き渡ったようだ。どちらの生徒たちも納得のいかない表情のまま、ミルザム側の生徒は退室を、パッフェル側の生徒は教諭の元に集まってきた。
 倒れているパッフェルを見れば、皆一様に跳びかかってきそうになり、それを押さえるのも大変だったのだが。
 顔ぶれが揃ったという事なので、教諭は始めた。
「まず、君たち全員を解放しよう」
「うるせぇよ、んな事されなくたって全員で帰んだよ、姫さんも一緒になぁ!」
「今後、パッフェルが起こした事件に関しての追求、処罰は一切に行わない、また尾行や追跡、調査も行わない。事になったんだよ」
「……………… 取引、したんだね?」
 の問いに、教諭は首を縦におろした。
「君たちの安全を保障する代わりに、女王候補様殿を蝕んでいた毒を完全に解毒すること
、これを受け入れたんだ」
「そんな……」
「君は知っているだろう?」
 教諭は同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)を見つけて言った。そう、ここに居る誰もが知っている、だからこそ皆、パッフェルを救い出すと決めてやってきたのだ。今なら−−−
「今なら私と女王候補様殿、樹月、月夜、閃崎の3人だけ。今ならパッフェルも青龍鱗も奪える、と?」
 場が一気に臨戦態勢に戻ったが、教諭がそれに被せた。
「もう一度、言おう。彼女の意志を踏みにじっても良いのかぃ?」
「どういう事?」
「抗がう事でも、耐える事でも、助けを待つでもなく。一刻も早く君たちを助けたい、そう思ったからこそ、水晶化の解除や解毒を受け入れた、プライドや意地を捨ててね」
 ミルザムまでも顔を伏せている。いつまでもパッフェルくんに触れていて欲しくは無かったが、は歯を食いしばるだけにした。
「君たちがここで彼女を力で奪ったとして、目覚めたとき彼女は、どう思うのかねぇ。助け出してくれた事には感謝するだろう、でも結果として彼女の決意も、取引に応じた事も青龍鱗を使った事も全て、ただの時間稼ぎだったという事になる」
 いや、それでも自由になれるなら、その方が良いに決まってる!
「彼女も解放するよ、解毒が完全に済んだらねぇ」
「完全に?」
「そう、実は女王候補様殿と、もう一人、同じ症例の娘が居るんだが、どちらの解毒も終わってないんだ」
「青龍鱗を使ったでしょう?」
「もちろん、それでも皮肉なことに彼女が思っていた以上に毒が強力でねぇ、解毒も何度かに分ける事にしたんだよ、こんな風に途中で倒れてしまうからねぇ」
 青龍鱗を使っても一度には解毒できない毒……。我を忘れたパッフェルが放ったのだと聞いている……なら、起こり得ない事ではないか……。
「また彼女は、こうも言ったんだ。自分は必ず解毒をする、だから、君たちを早く解放してくれと」
「そんなっ!」
「パッフェルちゃん!」
「私は彼女の言葉を信じます」
 顔を上げたミルザムが言った。その瞳が少しばかり揺れているようにも見えたが。
「最後まで解毒を諦めない、やり遂げると言った彼女の言葉を信じ、今回分の治療が済んだら、あなたたちを解放するつもりでした」
「だから、言っただろう? 君たち全員を解放しよう、と」
 彼女の決意。敵であるミルザムの治療をする事がどれだけ苦痛か、それを受け入れて尚、自分たちの身を案じ、その為の犠牲になっている。
「治療は、あとどの位かかるんだ?」
「それはやってみない事には分からないねぇ。でも、見れば分かるだろう? 女王候補様殿も良くなっている。かかっても、あと数回、大した時間はかからないだろうと考えている」
「終わったら本当に解放するんだね?」
「約束しよう」
 が振り向き、背を見せる。シャーロットも、トライブも唇を噛んで歩みを始めた。
「ちょっ、ちょっと、みんな?」
「行くよ」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)詩穂の肩に手を添えた。
「パッフェルは直に解放される。彼女の為にも、待つのよ」
「嫌っ! 詩穂はパッフェルちゃんと居る! 詩穂も一緒に拘束されるの!」
 祥子が力づくで詩穂を引き連れた。一行が去ってゆく中、詩穂だけが最後まで抵抗していたが、遂には皆に押さえられてしまった。詩穂が最後に投げたのだろう、一行の去った道の上に、ブルーローズブーケが静かに横たわっていた。