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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

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・考察――剣の花嫁について


 地下三階、リヴァルト・司城の一行。
「『研究所』のことといい、この前といい……眼鏡さんは真相を知る鍵みたいだから、狙われてるのかなぁ?」
「しかし、私はほとんどワーズワースの事を知りません。祖父が生きていれば、あるいは……」
 葵がふと疑問に思うも、リヴァルトがそれに応えられるわけではなかった。
「……アントウォールト氏、ね」
 司城が声を漏らした。
「何か事情を知っていたのは確かなんですが、それを知る前にあんな事になってしまいましたから。先生もご存じのように」
 二人は十一年前に起こった出来事について話している。
「『君にはまだやるべき事が残っている』って言ってたんだよね。だけど今、傀儡師が君を殺そうとしているって事は……」
 リアトリスが言う。
 その先は口に出し難いものだったのか。
「あの『研究所』を発見させるのが、リヴァルトさんのやるべき事だった、ということですか?」
 次いでリリエが口を開く。彼女はそれ以上を語るのは良しとしなかった。あまり表情に出さないが、リヴァルトに対して思うところがあるのだろう。
「そうなると、リヴァルトを狙ってまたやってくるかもしれないな」
 ジェラルド・レースヴィ(じぇらるど・れーすゔぃ)がリヴァルト、司城を凝視する。
 リヴァルトの事はこれまでにも近くで見てきたが、司城は別である。彼らは元々知り合いだからとはいえ、安全であるとは限らない。
 用心に越したことはない、のである。
「気になるのは前回なぜ傀儡師が紛れこめたのか、という事ですね」
 刀真の言う事はもっともだった。いくら外見年齢がそれほど意味をなさないパラミタとはいえ、あのような「少年」が先遣隊に都合よく紛れられるものだろうか。
「責任者のボクがここで言うのもなんだけど……」
 司城が言葉にする。
「先遣隊は全部隊長に指揮権を与えて任せてたんだよ。それと、一番若い隊員の死体があの調査の後、発見された。彼と入れ替わって侵入したってことだろうね。隊長からしたら十代の子はみんな子供に見えてたのかもしれないからね」
 冷静に応える司城を訝しむ刀真。
 唯一の生存者の話によれば、隊長は人徳のある人だったらしい。今となっては刀真自身がそれを確かめるのは不可能だが。
「そうですか。しかし、気掛かりな事は他にもあります」
 今度はリヴァルトの方を見る。
「『灰色の花嫁』は、本当に君の姉に似ていたのですか?」
『研究所』の一件を思い出す。リヴァルト自身、最深部にいた『灰色の花嫁』の姿に目を見開いていたからだ。
「……ええ、十一年前と変わらない姿でした。もちろん、別人だとは分かっていますが」
「使い手にとって大切な人」に似るという剣の花嫁。このことから考えれば、契約者はリヴァルトだが、それは異なっていた。
「それが分かりませんね。リヴァルトでないとすると、他に誰が……」
 リヴァルトにとって、現在家族と呼べる人間は付き合いの長い司城とエミカくらいのものだ。他は十一年前に他界しているのは、『研究所』での彼の話から明らかなことだった。
「さて、剣の花嫁についてだけど」
 唐突に司城が口を開いた。
「あくまでボクが導いた仮説に過ぎない。だけど、一つの可能性ではあると思う」
「どういう事ですか?」
「光条兵器はその名の通り、光を用いた武器だね。人の目は、光によって外界を認識する。ボクらが捉えているのは、網膜に投影された情報なんだ。それで網膜像は、外界の構造、光源の位置と性質、観察者と外界の位置関係によって変わってくる。それで、この場合の光源にあたるのが、剣の花嫁の守護する光条兵器だね。さて、ここからが本論になる」
 中性的な風貌の教員が話を続ける。
「剣の花嫁の意思と、光条兵器は一定以上シンクロしているとボクは考えている。近くに自らの武器の使い手が現れると、センサーとかではないにしても、直感的に反応する。その時、使い手――契約者だね、の潜在意識を読み取り、光条兵器の光が『その人にとって大切な人のイメージ』を投影する。あとはそれを契約者以外の他者も同じように見えるように、光の情報をコントロールする。こうすれば、人によって違う姿に見える事はなくなる」
 パラミタに降り立ち、司城なりに研究した結果なのだろう。
「つまり、ボクらが見ている剣の花嫁の姿は本来の姿とは異なるかもしれない、という事だよ。一部まだ証明し切れない事例があるけど、これなら概ね説明はつくんだ。だけどこれだけじゃリヴァルトが『灰色の花嫁』の契約者でないのに、自分の姉に似ていた事と矛盾するよね?」
「はい」
「ワーズワースが造ったのは普通の花嫁ではない。となれば潜在意識を読みとる対象を誤った可能性もゼロじゃない。本来の使い手ではなく、それと同じ『波長』を持ったリヴァルトの潜在意識から投影してしまった。そう考えれば辻褄がまるで合わない、という事はないよね」
 ワーズワースの子孫らしい彼だからこそあり得る話だ。
「男性の姿もよく見かけるのに、『剣の花嫁』なんて呼ばれてるのは、古代において光条兵器の使い手たる戦士の大部分が男だったからなんだろうね。まあ、学説として発表しても、今のままだと通らないとは思うけどさ」
 現在のシャンバラでは、まだ光条兵器と剣の花嫁については解明されていない。しかし司城の説というのは、さほど荒唐無稽なものではなかった。
「…………」
 刀真やリアトリスのように、契約者に剣の花嫁を持つ者は思うところがあるようだ。リヴァルトと『灰色の花嫁』、ジェネシス・ワーズワースの関係もだが、まさかここで種族に関する考察が入るとは思うまい。
「……刀真、どうしたの?」
「いや、何でもない」
 司城の話の後、刀真は月夜の姿を見つめていた。
「今の話は頭の片隅にでも置いといてくれればいいよ……おや?」
 司城が何かを感じ取った。
「揺れたな、汚染された魔力が」
 魔道書であるフォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)もまたそれを察知していた。
「……いる!」
 尋人が声を漏らす。彼の場合は魔力ではなく、通路の先からの物音を超感覚によって感じ取ったのだ。
「この音……戦ってる?」
 同じように超感覚を使用した葵やリアトリスもまたそれに気付く。
「行かなきゃ!」
 音のした方へ、一行は駆け出していった。