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リアクション
・新撰組 一
イルミンスールの遺跡、地下二階。
そこには二人の人影があった。日堂 真宵(にちどう・まよい)と、パートナーの土方 歳三(ひじかた・としぞう)である。
「魔法理論の研究、これを利用すれば大魔法も夢じゃないわ!」
入った一室で、彼女は資料を漁っていた。
「…………」
一方、土方は通路に目を向けている。
やってくるかもしれない、因縁の相手のために。
* * *
遺跡調査前。
「……兄さん達、この人を暗殺してたんだ」
椎名 真(しいな・まこと)は、ツァンダの遺跡で遭遇した芹沢 鴨を調べていた。パートナーの原田 左之助(はらだ・さのすけ)が彼を知っているようだったが、どうにも聞けるような雰囲気ではなかったために、自ら調べる事にしたのである。
そして二人の因縁を知った。
そこへ、左之助と共に二人の人物が現れた。歳三と、近藤 勇(こんどう・いさみ)である。新撰組の局長と副長として知られる者達だ。
「芹沢に会いにいく、多分また現れるはずだ。あの男の性格なら多分ヒラニプラだ」
神妙な面持ちで真に告げる。
「左之から話は聞いた。新撰組の局長として、俺は確かめなければならない」
勇の顔つきも同様に真剣なものだ。
「兄さん、俺も行くよ」
真が頷く。自分のパートナーの因縁に付き合うつもりだ。
一行は準備をし、遺跡へ向けて出発する事になる。
「マイト、悪いな」
勇がパートナーであるマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)を見遣った。
「今回は近藤さんのやりたいようにやってくれ……いつも振り回してるしな」
彼は勇の気持ちを汲んだようだった。
「近藤さん」
歳三が勇に声を掛ける。
「どうした、歳?」
「ちょいと妙な予感がするんでね。近藤さん、原田君、俺は向こうへ行かせて貰うぜ」
別行動を取ろうとする歳三。
「そういうわけだ、付き合ってくれ」
真宵へと視線を送る。
「わたくしこの話はあまり興味無いんだけど……あ、けど遺跡にお宝とか考えると興味沸くわね」
イルミンスール魔法学校の彼女としては、母校に近い方が自分の力に役立つものが見つかると考える。
「歳、気をつけろよ」
無理に自分達と行動させる理由もないので、勇、左之助は彼とそこで別れた。
* * *
迫りくる気配を感じ取る。
「へえ、ようやくお出ましか」
殺気はない。
だが、静かな威圧感を漂わせた男が彼の眼前に現れた。
抜刀。
その男に対し、いきなり斬りかかる土方。
「相変わらずですね、土方君」
黒いスーツに身を包んだ、理知的で端正な顔立ちの男だった。しかし、時代は違えどその顔を見た瞬間、土方は相手が誰なのかを見抜いた。
「まさかお前だったとはな、伊東さんよ」
伊東 甲子太郎。
元新撰組参謀であり、御陵衛士の盟主となった人物である。
「ええ、驚きですよ。お互いに英霊となって相見えるとはね」
「あれで腐れ縁は切れたと思っていたが。随分大した因縁だった訳だ」
一見、ただ会話をしているかのようである。
だがそれは違う。この瞬間も、お互いに殺気をぶつけ合っている。
「近藤さんはお前の事を高く買っていた。でもな、俺は――」
土方の抜刀。
「ずっとお前の存在が気に食わなかったんだ!!」
事実、生前の土方は伊東が策士として新撰組を乗っ取るのではないかと警戒し続けていた。
文武両道、人徳にも優れた伊東は当時の新撰組の一部にとっては、不穏分子でしかなかったのである。
「でしょうね」
それをあっさりとかわしてみせる伊東。
「そしてそんな君は決して間違ってはいませんよ。事実、そう考えていた時期もありましたからね」
伊東が抜刀し、正眼の構えから踏み込む。
「しかし、新撰組と私の攘夷に対する考えは最後まで相容れないままでした。だから私は新撰組を抜けだのですよ」
太刀筋が重くなる。
「相容れないならお互いの道を行けばいい。なのに――」
受太刀から刃を流すようにして、土方の刀を弾く。
「君達は志士としてあるまじき行為に出た」
自らが新撰組に嵌められ、命を落とした時の事を言っているのだろう。声音は穏やかだが、その剣撃には溢れんばかりの憎しみと殺意が込められていた。
「大義のためだ。そのくらい、理解してるはずだ」
だが土方も譲らない。
伊東暗殺を指示したのは近藤だと伝えられている。そして彼に対し伊東を警戒するように説いたのは土方であるとされてもいるが、諸説あり真相は定かではない。
どちらにせよ、この二人は決して交わることのない道の上を生きていたのだ。
伊東の太刀を弾き、そのまま袈裟斬りに刀を振りかざす。
「勿論ですよ」
土方の太刀を受け止める。
「思えば、山南君の一件が始まりだったのかもしれませんね」
「山南さんをそそのかしたのはお前だろうが!!」
今度は土方の剣圧が増す。
「あれは彼が君達に愛想を尽かしたからじゃなかったですか」
「あの人は、そんな人じゃなかった」
「人間、裏では何を考えてるか分からないものですよ」
伊東が土方の刀を受け流す。
「さて、どうやら話していても埒が空きませんね――終わりにしましょう」