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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

リアクション


・資料室


 地下三階、外周エリア。
 こちらもまた、警備システムのようなものがあり、そこを通過すると警備システムが作動するようになっている。
 多くは先行する者によって解除されてはいるが、保管庫、制御室に至る道に至っていはその限りではない。
 あくまでも、最深部――五機精の眠っているとされるエリアまでの道沿いだ。
 そのため、地下四階から地上までの安全な導線は確保されていると言っていいだろう。
(ここは製造所……みたいですね)
 水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)がマッピングを進めながら、慎重に地下三階の通路を進んでいく。
 その傍らにはパートナーである鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)が控えている。
(機甲化兵……九頭切丸と何か関係があるのでしょうか?)
 睡蓮は考える。
 黒い装甲に身を包んだ機晶姫である彼の姿は、この遺跡内を徘徊する機甲化兵に酷似している。とはいえ、両者は全くの別物だ。機甲化兵の方が体躯は大であり、自律した思考を持たないからである。
 ただ、九頭切丸がこの技術に近いもので造られたのだとしたら、似ているのも頷ける。
 手掛かりを得るには、何らかの情報を得る必要があった。
 外周通路の一角、睡蓮はある部屋に入り込んだ。
「これは……?」
「たぶん、資料室だとおもいます」
 中には先客がいた。ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)である。
「いろいろむずかしいことが書かれたものがあるです」
 彼女はそこにある研究レポートのようなものをまとめていた。その一部を、睡蓮は見せてもらう。
 真っ先に目に飛び込んできたのは次のようなものだ。

『第三分所 研究概要』

 以前ツァンダでも同じようなものが見つかったが、そちらは第二分所となっていた。中に目を通すと、この遺跡の全貌が明らかになる。
「やはり……製造所、ですか」
 量産型機甲化兵と魔力融合型デバイスを造るための施設、それがここだ。
 地上部分では主に後者の研究がなされていたらしい。元々この施設はこの地下エリアが拠点であり、計画凍結後に地上部を増設し、第二次計画――魔力融合型デバイスの開発用にしたとある。
「機甲化兵については……あまり書かれていませんね」
 その理由は、ここがあくまでも生産拠点だったからだろう。ほとんどの資料は『研究所』か、第二分所に保管されていたのである。
「ここではつよい武器をつくってたみたいです」
 ヴァーナーがまとめてあった資料の中から、図面のようなものを睡蓮に手渡す。
「『機甲化兵と魔力融合型デバイスにおける構造比較』……ですか」
 内部の回路がどうなっているのか、そこには記されていた。
 端的に言えば、

・内部の配線系統は全て動力源である人工機晶石に繋がっており、人間の血管のような循環系統となっている。
・動力の起動と同時に、エネルギーが循環する。それによって退魔力フィールドによって機体がコーティングされる。
・それによりフィールドに直接影響する雷電属性以外の魔法による実ダメージを無効化する。
・魔力融合型デバイスも循環系統そのものは同じ。


 というものである。さらに、魔力融合型デバイスに至っては、別の資料に問題点が指摘されていた。

・ただし、極限までサイズを落としながらも威力は一切落としていないために、人工機晶石のエネルギー消費が激しくなっている。
・その問題を解決出来なかったために、不完全な技術である。
・人工機晶石を交換すれば再使用が可能だが、武器自体がある一定限度以上の負荷に耐えられない。三回ほどで再起不能に陥る。


 機晶石の交換は、電池を入れ替えるような簡単な作業ではない。実戦の中でエネルギー切れとなった時に即その場で交換出来るようなら実戦投入も有り得ただろう。
 機甲化兵が負荷に耐えられているのは、その機体の大きさと、人型をしている事の二点にあるようだ。
「人工機晶石とはいえ、これは機晶姫にも当てはまるような気がします……」
 構造自体はおそらく、機晶姫と変わらないかもしれない。機晶姫の内部構造はブラックボックスであり、未だに解明されてはいないが、少なくともここにヒントがあるような気がした。
 機晶石を心臓に例えるならば、それは人体の構造に酷似している。機晶石から発せられるエネルギーが体内を循環し、その機体を動かす。
 人型である事が機甲化兵を安定させている、というのはこれが所以だ。
「こっちのは日記みたいです」
 ヴァーナーが目を通しているのは、手記だ。

――元々、第一次計画である機甲化兵計画は中央からの意向でもあった。感情は一切ない、インプットされたプログラムにのみ従う機械の兵隊。中央においても、機晶石をコントロールする技術が研究されているらしい。もし、それとこの機甲化兵の二つが揃えば、一人の人間で数百体を容易に統率できるようになる事だろう。
 (中略)
 しかし、なぜここに来て製造、研究の中止命令が出されたのか。中央の幹部達によれば陛下の意向だという事だが、どうにも異なる気がしてならない。第二分所は閉鎖し、この第三分所も生産機構を停止する――


 その後は他の施設で見つかった資料から、第二次計画へと移行した事が分かっている。その際に生産機構を魔力融合デバイス用に改良した、ということだ。
 具体的な経緯についての資料がないのは、おそらく完全に崩壊した地上部にそれらがあったからだろう。一次と二次の間の出来事はまだ推測するほかない状況だ。
「……あの子たちとなかよくするのは、むりなんでしょうか」
 手記を読み、俯きながらヴァーナーが誰にも聞こえないほどの声で呟く。
 彼女は機甲化兵とも分かり合いたいと思っていたのだろう。だが、それはおそらく無理だ。それをどこかで感じつつも、そうあって欲しくないという葛藤。
 複雑な気持ちを抱いても無理はない。
 資料の一部を手にし、まだ辛うじて見える本隊に続くように彼女は最下層へと向かう。
「これらは共有した方がいいですね」
 睡蓮がここにあった情報を、無線で伝える。彼女と九頭切丸もまた、先へと歩み行く。