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リアクション
・来客
「……分かりましたわ」
フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が白い少女――クリスタルが保護された時の状況を、学校側に確認した。
「倒れていたのはその少女一人、しかも無傷で、他には誰もいなかったとの事ですわ」
さらに少女が保護されたのは昨日の昼頃、謎の光が確認されたのはまだ陽が上る前の時間だったようだ。
「PASDからは、五機精の一人かもしれないと連絡が入りましたぁ」
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)はPASD情報管理部からの連絡を受け、少女が本当にそうか確かめに行く。
「それなら、無傷なのも納得がいくね」
セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が言う。
同じ五機精のガーネットやサファイアの力を、彼女達は知っているのだ。
病室に足を踏み入れる。
ちょうど、ヴァーナーとクリスタルが話している最中であった。
「目が覚めたんですね〜」
クリスタルに歩み寄るメイベル。
「今、いろいろおなはなししてたところです」
ヴァーナーから目覚めてからの経緯を説明してもらう。
――クリスタル・フィーア
改めて少女の名前を知り、確信する。彼女は五機精の最後の一人だと。その名前はPASDの四月度の調査報告にあったからだ。
「傀儡師がもしクリスタルさんの事を狙っていたら、警戒しなければいけませんね」
少女がヴァイシャリーまで連れて来られているのを、傀儡師の人形が目撃しているかもしれない。
あるいはどこかから情報を得て、ここに向かっているのかもしれないのだ。
「今のうちに警備体制を敷いた方がよさそうですわね。少女の姿を取る事もありますし、もう学校内に潜伏しているかもしれませんわ」
病室、校内ともに油断ならない状況だ。
「安心して下さい、皆さんと一緒に守りますから〜」
クリスタル自身も他の五機精と同じように何らかの特殊能力を持っているだろうが、機晶石を操る傀儡師の前では思うように力を発揮出来ないだろう。
少なくとも、これまでの情報からはそう判断するしかなかった。
ちょうどその時、病室に連絡が入る。
PASDから情報を聞きつけた、他校の生徒が様子を見にやってきたのだ。
* * *
PASDメンバーだからといって、不用意にクリスタルに近付けるのは危険だ。もし敵を警戒していたとしても、相手もまた目に映る者に注意を払っている事だろう。
だからこそ、レキのパートナー、チムチム・リー(ちむちむ・りー)は、誰にも気付かれないように光学迷彩で病院の隅に待機していた。
そこから少女と話している人物、一人一人に注意を払う。
(今のところは、大丈夫アルね)
少なくとも、今の時点では怪しい者はいない。ただ、ここからは他校生も混じる、より用心せねばならない。
「失礼する」
最初に入って来たのは、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)だ。少女の名前はここに来るまでに聞いている。
(クリスタル・フィーア、五機精の残る一人だったわけか)
データベースから、最低限の情報は得ている。
「む、どうしたです?」
クリスタルがクレアの顔を見上げる。
「いや、何でもない。意識は戻ったようだが、もう具合は大丈夫か?」
「ばっちりなのです。この通り、です」
徐にベッドの上に立ち上がる。
「ベッドは寝る場所だ。元気なのは分かったから、座ってくれ」
衛生科で医療に携わる者としては、注意せずにはいられなかった。とはいえ、彼女から見たら子供がはしゃごうとしているようなものである。
「むむ、分かったです」
案外素直だった。
「その状態なら、すぐに他の五機精とも会えるだろう。話に聞いた限りでは、まだ見つかってない二人の事を心配していたらしい。顔を見せれば、向こうも安心するだろう」
「アンはまだ見つかっていないのです?」
アンとは、アンバーの事である。ヴァーナーからエメラルドの事は聞いているので、もう一人についてはアンだと判断したらしい。
「ああ。だが、今探しに動いているから心配しなくていい」
「心配はしてないです。わたくし達はとっても強いのです」
誇らしげな顔をするクリスタル。
「だが、力が強いからといって、慢心するものではない。傀儡師のような能力の使い手だっているのだからな」
機晶石操作、それを使われればどんなに強くたって無力と化す。ガーネットもサファイアも、それに太刀打ち出来なかったのだ。もっとも、傀儡師はそれ以上に、実力も兼ね備えているのだが。
「むむ、そういえばわたくし達は本来の三割しか力を発揮出来ないのです。忘れていたのです」
それでも、他の五機精を見る限りでは、手に余るほどではある。
「ともかく、強さの話は置いておくとして……まだ、無理はしないでここで休んでいた方がいい」
彼女を守るのは、クレアやここにいる者達の役目である。そうクレアは考えた。
蛮族を消滅させるほどの力を傀儡師に渡さないようにする事。それが今、必要な事でもあるのだ。
続いて入って来たのは、月白 悠姫(つきしろ・ゆき)とパートナーのマルグリット・リベルタス(まるぐりっと・りべるたす)だ。もう一人のパートナー、日向 永久(ひゅうが・ながひさ)も来ているが、彼は男性なので中には入れない。
そのため、外で待機せざるを得なくなっている。
「その手に持ってるのは何です?」
悠姫は大きな袋を握っていた。どうやら差し入れのようだ。
「お菓子だ。甘いのは好きか?」
甘い、と聞いてクリスタルは目を輝かせる。
「それはもう、甘い物がなければ死んでしまうです! 早く、早くです!」
自分からねだろうと手を伸ばすクリスタル。その手に握れるだけの分を、悠姫は手渡す。
「頂きますです」
早速食らいつく。もうこの世の喜びを全て集めたかのような、満足げな顔で。
「むむ、これは……何という甘さです! これならいくらでも食べれるです。むぐぐぐ」
悠姫の好みが、通常よりもうんと甘い物だったらしく、大の甘党らしいクリスタルは大喜びだ。
「口に合ったようなら何よりだ」
一生懸命頬張るクリスタルと顔を合わせつつ、悠姫が話し始める。
「もう聞いているかもしれないが、お前の友達が空京にいる。だが、それ以外にも仲良くしたいと思ってる人は多い」
悠姫もその中の一人である。
「その証拠に、こうやって人が集まっている」
実際、PASDからの情報でここに来たのは、彼女達以外にもいる。ただ、男子禁制の百合園女学院には、男が足を踏み入れる事は出来ないのだが。
「むぐぐ、ほんはにいっはいぐむがんてぎっぐぎへす」
口にお菓子を含んだままなので何を言ってるか分からないが、「こんなに一杯来るなんてびっくりです」という事なのだろう。
それというのも、ここに至るまでの、他の五機精との交流による積み重ねがあったからである。
もし、最初にPASDの面々と遭遇した五機精――ガーネットを危険視する者が多かったら、こうはなっていないはずだ。
二人が話していると、今度はマルグリットがクリスタルに歩み寄る。
「マールのベルタだけど貸してあげる、すこしだけね!」
彼女が抱きかかえていたぬいぐるみをクリスタルに差し出す。友好の証のつもりらしい。
「可愛らしいのです」
もう口に食べ物はないのか、普通に喋れていた。ぬいぐるみを抱きかかえながら、会話を続けようとする。
「でも、不思議です。どうして皆わたくしの心配をしてくれるのです?」
ほとんどの人間にとってクリスタルは見ず知らずの他人だ。
「ガーナやサフィーの友達だからです? それとも、わたくしの力を知ってるからです?」
「どちらでもない」
悠姫がきっぱりと答える。
「ただ私は、一人の人間として仲良くなりたいと思っただけだ」
きっかけは『研究所』で目の当たりにした写真にあるわけだが。在りし日の五機精や守護者、有機型機晶姫の姿から、今の彼女達を知りたいと思ったのである。
例えクリスタルが兵器として造られたとしても、それはもはや些細な問題に過ぎなかった。
悠姫達に続いて入って来たのは、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)である。
(小娘と聞いてどんな者かと思ったが……)
あくまでも彼女は自分のパートナーの意向に従ったまでであり、最初はあまり少女に会う事に積極的ではなかった。
とはいえ、パートナーである紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が中に入れない以上、仲介をするのは彼女の役割だ。
しかも、少女を自分達で引き取れる事となれば、彼女の夢にも近づく事になる。それによって少しは乗り気になった。
「調子はどうだ? とはいえ、直接話があるのはわらわではないのだが」
「む、じゃあ誰なのです?」
クリスタルの疑問に応じ、エクスが携帯電話を彼女に手渡す。
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