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リアクション
「さっきは恐かった……」
陽はしみじみと言った。
「サラ・リリはねぇ…怒ると恐いから。ごめんね、陽君。あとで言っとくから」
ルシェールは申し訳無さそうな声で言う。
(怒らなくても恐いよぅ〜)
陽は心の中でルシェールの言葉に異論を唱えた。
カラオケが終わり、皆は陽の部屋に集まっていた。
そこには陽、テディ、椿、凛、ハールイン、紅月、レオン、ルシェールの八人がいた。
貰ったお菓子や買出しに行ったものを一緒に広げている。
「なあなあ、ルシェ。好きな子っているか?」
いきなりテディは言った。
そんなことを言われてルシェールは目を瞬いた。
「ルシェの好きな子は誰なのかな? 好きな子がいるなら、誰かにとられる前にヨメにするんだっ!」
「え? え? ええええええ?」
「どうなんだよー。いるのか?」
「い、いないもん……だって、学舎には男の子しかいないし」
「ま、まあな……」
椿は横から顔を出して言った。
まだまだ、薔薇の学舎の奇妙な常識に気が付いていないルシェールは、至極真っ当な答えを言った。
お泊りが楽しくて仕方がないのか、テディの自慢は止まらない。
「僕はね、陽だよ。俺のヨメ! 最高さ♪」
テディはここぞとばかりにアピールし始めた。
「お嫁さんなの!?」
ルシェールはびっくりして聞き返す。
「そう!」
「またそんなこと言って……異世界の人は変わった冗談を言うよね」
「え…えっとお」
ルシェールは陽とテディを交互に見た。
「ヨメは絶対いたほうが良いぞ! なんてゆーか、毎日が楽しいっていうか、ココロがうきうきする!」
「楽しそうだなぁって思うけど。学舎にいたら、出会いとかそういうのなさそうじゃない?」
ルシェールは、どこでそんな恋人なんて探すのだろうと頭を悩ませる。
今のところ恋愛感情かどうかは別として、気になる人間はソルヴェーグと椿ちゃんぐらい。
他は出会いがなさ過ぎてトキメク暇もない。
ルシェールは他の人間に同じ質問をしてみた。
「陽くんはどうなの?」
「えっ? ボクなんかを好きになってくれる人なんて、どーせどーせいるワケないじゃないですか」
「そんなことないよ!」
ルシェールは言った。テディよりも早く。
「そうだっ! うちのヨメはだれよりも可愛いんだ!」
「陽くんはおとなしくって、可愛くっていい人だよっ」
「そうかなぁ…でも、可愛いってなに?」
「そのままのことだよ?」
「それって、女の子にいうことなんじゃないかなあ」
「うーん」
「ルシェール君の方が……可愛い」
「陽が僕にとって一番だよ!」
テディはめちゃめちゃアピールしはじめた。
「そうだよぅ〜、俺はね。いいの。みんなは大事にしてくれるし、嬉しいけど。顔の話じゃないと思うんだ」
「うーん……」
「テオドアが陽くんのこと大事ってしてくれるんだから、他の人なんかどーでもいいと思うんだけどなあ。陽くん、うらやましいよ」
ルシェールは言った。
「ルシェールくんもいろんな人がいてくれるじゃない」
「俺はね……どうなのかな。サラ・リリはソルヴェーグの友達だし。俺に何もなくても側に居てくれる人がいるか、俺にはわからない。いつも…」
「いつも?」
「なんでもない」
(だれもいない)
ルシェールは微笑んだ。
苦いものが落ちていく。
底なし沼に落ちていく言葉は秘密の毒。
彼が闇に侵されないように、ルシェールは微笑んだまま。
「だから、陽くんは彼と幸せにね」
「……ありがと」
陽は納得していないようだが、ルシェールの気持ちにお礼を言った。