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【2020年七夕】Precious Life

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【2020年七夕】Precious Life

リアクション


●第四章 着付けサロン内にて その1

「お誕生日おめでとう!電話もらって嬉しかったぜ」
 ふわふわのアリスロリータ服を着た泉 椿(いずみ・つばき)はルシェールに言った。
 長い赤髪の少女は、お人形のようだ。でも、口を開くと予想を裏切る口調。知らない人間ならビックリすることだろう。
 でも、ルシェールは気になんかしなかった。
「椿ちゃん、ありがとう!」
 ルシェールは笑う。
 椿の髪は花のように赤くて綺麗だったから、ルシェールは椿の髪が好きだった。
 でも、何より椿の笑顔が好きだった。
 遠く離れて暮らしていても、自分たちは友達。そんな繋がりが、ルシェールには心地良かった。
 今日は来てくれただけでも嬉しい。
 それだけでプレゼントもなにもいらなかった。
 三階の高さもある噴水の前で、二人は待ち合わせをしていた。ホテルの中は冷房が入っていて、とても涼しい。
 溢れる水音と揺れる笹の葉のそよぐ音がエントランスに満ちていた。

 平和。

 そんな言葉が心に満ちる。
 そこに、同じ学校の面々がやってきた。
 少し年上の上月 凛(こうづき・りん)とパートナーのハールイン・ジュナ(はーるいん・じゅな)
 城 紅月(じょう・こうげつ)レオン・ラーセレナ(れおん・らーせれな)。二人はは色違いのゴシック服に身を包んでいた。紅月は首に皮製の首輪型のチョーカー、レオンは細いリボンを結んでいる。
 ルシェールは紅月を見て、少し暑そうだなと思った。
 自分もこういった服を着るのでわかるが、夏はひじょうに暑い。
 紅月たちはよく食堂で見かける相手だ。他には、皆川 陽(みなかわ・よう)など歳の近い者とも会うことがあった。
 食堂やサロンは、銘々、自分の好きな場所に行って食事をしたりことができる。時々、ソルヴェーグはルシェールと離れ、サロンの方に行くこともあった。
 誰かと話しているようだが、大人の行く場所と感じてルシェールは近付いたことがなかった。
 ソルヴェーグが非協力的であったので、ルシェールは自分ではなしするしかなく、先に編入した者や入学した者に話しかけるのは緊張することであった。でも、そうやって人は成長していく。
 ルシェールは真心を込めてパーティーに皆を招待した。
 そんな時、紅月と出会ったのだ。
 話している輪の中に顔を出して、自分も招待して欲しいと言ってきたので、ルシェールは紅月を覚えていた。
 彼は制服を着ないので、一際、目立つ。ルシェールの目から見ても、彼はとても綺麗なので彼はそんなことを全く気にしていないらしい。
 夜の闇に染まる時間、銀座のクラブで働いていたらしいとの噂は聞いたことがある。本当のことはルシェールにはわからない。だが、ルシェールはそんな噂を聞いても紅月が嫌いではなかった。
 どっちかと言えば……かなり好きな方だ。
 滑らかな肌と整った指を持つ美貌の青年は、口を開くと少年のようだ。だが、かなりギャップの差を感じるそんな部分にルシェールは親しみを感じていた。
 どこか安心する、人好きのする笑顔を見ると側に居たくなるのだった。
 そして、制服を着ないくて目立つ人と言えば、久途 侘助(くず・わびすけ)もそうだ。
 清泉 北都(いずみ・ほくと)のパートナーであるソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)と一緒に、向こう側で話し込んでいる。侘助は今日は浴衣を着ていた。
 北都はタシガン入りする際、迷子になった自分を探してくれた一人だ。ソーマも自分を探してくれた。
 今日はもう一人のパートナー、クナイ・アヤシ(くない・あやし)と一緒のようだった。
 本当に薔薇の学舎は美形が多い。
 美形といえば、凛もはかなげで、おとなしくて、陶器の置物みたいだとルシェールは思う。
 各地から校長先生がスカウトしてくると聞いて内心驚きを隠せないが、自分だってスカウトされたし、そういうことってあるもんだと思う。
 ただ、どうして自分を選んでくれたのか、ルシェールにはわからなかった。
 ふと入り口の方を見れば、皆川 陽(みなかわ・よう)がパートナーのテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)とやってきたところだった。
 陽はおとなしくて、食堂でもひっそりとしていた。ただ、パートナーが元気すぎて目立っているのだが、本人は気が付いていないらしい。
 おとなしい陽を見ると、昼間のハムスターみたいだなとルシェールは思う。そっとやって来ては、もそもそっとしてる。そんな感じがしないでもなかった。
 ただ、触っちゃいけないかなと思って、ルシェールはいきなり話しかけないようにしていたのだ。
 辺りを見回しながら、自分を探しているような陽の様子に、ルシェールは嬉しくて目を細める。
 いろいろな人がやってきて、その中心に自分がいられることはなんと有り難いことだろう。
 ふくふくと幸せに包まれて、ルシェールは椿を見た。
「どうしたんだ、ルシェール?」
 椿は言った。
「うん。嬉しいなぁって思って」
「何で?」
「あのねぇ。誰かがお祝いしてくれるのって、幸せなことだよね」
「そりゃ、そうだぜ。みんな、ルシェールのこと心配だし」
「そお?」
「もう、泣く前に相談してくれなきゃだめだぜ」
「うん」
 ルシェールは頷いた。
「ルシェール、おばあちゃんに会いたくてこのホテルにしたんだろう? 会いたいんだったら、さっさと行こうぜ」
 凛は言った。 
「そうだね。じゃあ、行こっか」
 ルシェールは言った。
 それに紅月は手を振り、行かないとの仕草をする。
「行かないの?」
「ああ、俺はもう一張羅着てるしさ。再開を楽しんでこいよ」
 紅月は笑った。
 ルシェールは頷いて歩き始める。
 その後ろを椿、凛、ハールインが連れ立って歩く。
 四人は着付けサロンへと向かった。